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▽レス始

「Great strides forward!!その1(GS)」

海(ry (2005-12-23 12:25/2005-12-23 12:31)

 時間移動。
それはあらゆる因果律を覆す、究極の超能力である。

 そして今。
それを可能とする力を手にした一人の男が、
時間を越えようとしていた。


「ルシオラ……待ってろ!今助けに行くからな!」

 横島忠夫。
現在18歳のGSである。
1年間の見習い期間を終え、つい最近ようやく師である
美神令子に認められた彼は一つのアイデアを思いついた。
それが。

「文珠を使えばひょっとしたら……!」

 という事である。
すなわち文珠を用いた時間移動。
文珠は複数を同時に扱う事でその応用範囲が劇的に広がる。
その事から、彼が単独での時間移動の可能性に気付いたのは
つい3日前の事であった。

「ふふふふふ……今まで文珠を使い切ってたから試せなかったが、
 今日!これで4個目ができた!これで過去に戻れば……」

 ふっと真面目な表情を浮かべる横島。
彼の命を助ける為に自分の命を散らした蛍の化身。
彼の人生の中で始めて出来た恋人と呼べる存在。
その彼女を、ルシオラを助ける事が出来たとしたら。
べスパと合い討ちになる前に、自分に霊基構造を与えて
死ななくてもいいように流れを変えられたとしたら。

にへら、と顔がだらしなく歪んだ。

「ふははははーーーっ!そう!美神さんとルシオラで両手に花!
 さらにおキヌちゃんにエミさん、冥子ちゃんに小鳩ちゃん!
 愛子にワルキューレに小龍姫様!ついでにあっちのねーちゃんや
 こっちのねーちゃんで両手に両足、前から後ろからど〜ぞってかぁ!?
 うははははーーっ!今行くぜルシオラーーーーーっ!」

 などと不謹慎な発言をしながらも彼の霊力は高まっていく。
彼は煩悩を霊力に換える男。
この妄想も力に換え、膨大な霊力が彼の周囲で渦巻く。
そして、文珠もそれに同調し、光を放ち始めた。

「いける……!ルシオラ……今助けにっ!」

『時』『間』『移』『動』

 4つの文珠に文字が浮かび上がり、それまでの台詞とは裏腹に真面目な顔をした
彼の周囲を取り囲むように浮き上がった。
そして。

閃光が周囲を包み込んだ。


Great strides forward!!
その1
「戦う理由はなんですか」


『オオオオオオォォォォォォォォォォン!!』

 巨大な髑髏のような姿をした悪霊が咆哮する。
と同時に、その声に誘われるように大量の雑霊がどこからともなく現れた。
その数、軽く100は超えている。
その日の仕事は東京近郊にある廃工場に巣食う悪霊の除霊であった。
今のように親玉の悪霊が周囲の雑霊を呼び込むので建て直しが出来ず、
依頼主である工場の親会社が泣きついたという訳だ。
依頼料は1億。悪い稼ぎではない。

「おキヌちゃん、お願い!」

「はいっ!」

 おキヌの吹くネクロマンサーの笛が雑霊たちの動きを止める。
力の弱い霊はそれだけで浄化されていくが、それでも半分以上の
雑霊はしぶとく残り、親玉の巨大な悪霊もわずかに動きが鈍くなった程度だ。

「それでも上出来よ!横島クン、いくわよ!」

「は、はいっス!」

 雑霊の群れに飛び込む美神。横島も霊波刀を出現させ、それに続く。
神通鞭、破魔札、霊体ボウガン、攻撃用の道具を使いこなす美神とは対照的に、
自分の霊力で生み出した武器だけを使う横島の戦い方はかなり経済的である。
美神が高価な除霊道具を横島に使わせないだけ、という噂もあるがそれはそれ、だ。
とにかく二人は順調に雑霊をなぎ倒し、親玉の悪霊に近付いていった。

「もう少しよ!おキヌちゃんはまだいける?」

「大丈夫です!」

「横島クンは?……聞かなくてもいいわね」

「聞いてくださいよっ……うぐっ!?」

 そっけない美神の態度に思わず突っ込んだ横島だが、その瞬間できたわずかな隙に
雑霊の体当たりを脇腹に受けてしまう。

「バカねぇ、油断してるから……っちょ、ちょっと!?」

「横島さん!?」

 雑霊の体当たり程度なら、彼の霊的防御力を考えればなんて事は無い。
そう思い軽口を叩いた美神だったが、その場に崩れ落ちた横島を見て声をあげた。
ほぼ同時におキヌもネクロマンサーの笛から口を離し、彼に駆け寄ろうとした。

「おキヌちゃん!ダメよ!」

「えっ……?キャーーーーーーーーーッ!?」

 ネクロマンサーの笛を吹くのをやめてしまったおキヌに雑霊が殺到する。
元々後方からの援護が主体の彼女に、近接した霊を攻撃する手段は……無い。

「くっ……精霊石よ、お願いっ!」

 精霊石をおキヌのいる方角へ投げ込む。
その直後、精霊石の閃光が辺りを包み込み、雑霊が一瞬姿を消す。
その隙に一気に距離を詰める美神。
親玉の悪霊も精霊石の光を浴びて目が眩んでいる。

「このGS美神令子が極楽にいかせてあげるわっ!」

『ウギャァーーーーーーーーーーーッ…………』

 鞭を神通棍へと戻し、霊力を込めて悪霊の霊的中枢を貫く美神。
悪霊は霊的中枢を破壊され、雲散霧消していった。


「この……バカタレーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 美神の怒声が響き渡り、マホガニーのデスクを壊しそうな勢いで拳が叩きつけられる。
その声量に俯いたままの横島はびくっと首を竦めた。

「す……すんません!」

「すみませんじゃすまないわよっ!1億の仕事に精霊石なんて使わせて……大赤字じゃない!」

「うぐっ……す、すんません……」

「だからそれじゃすまないって言ってるでしょ!?お金の事だけじゃなくて、
 あんたのミスでおキヌちゃんまで危ない所だったのよ!?あんた、おキヌちゃんに
 怪我させてもすいませんで済ませるつもりなの!?」

「っ……!……くっ」

「あの……美神さん、私なら大丈夫だったんですからそんなに怒らなくても……」

 おろおろしながら横島を弁護しようとするおキヌ。
だが、彼女の怒りは収まらない。

「おキヌちゃんは黙ってて!それに後先考えずに飛び出したおキヌちゃんも責任あるのよ!?」

「あう……」

 うなだれるおキヌ。
確かに横島の危機に考えなしに飛び出してしまったおキヌにも非はある。
そこを突かれると彼女は黙るしかなかった。

「大体、横島クン?なんで怪我の事、黙ってたのよ?
 そんな傷があれば治癒の為に霊力が割かれちゃって霊的防御が下がるのは当たり前でしょう!?
 それは教えたはずよ!?」

 そう、横島が雑霊程度の攻撃で倒れてしまったのは彼の体の傷のせいだった。
身体に深刻なダメージがあれば、体はそこに霊力を集中させ怪我を早く治そうとする。
その分に普段身体の保護に使っている分の霊力が割かれてしまい、彼の霊的防御力が
低下していた為、あの程度の攻撃で倒れてしまったのである。

「いや……もうだいぶ治ってたし、それにわざわざ言う程の事でもないかなーって……」

ぱんっ!

「……っ!?」

 横島の頬を美神の手が張った。
その音におキヌは目を瞑り、横島は思わず手を頬に当てる。
美神が彼を殴るのは珍しい事ではなかったが、こうして肩を震わせながら頬を張る事は稀である。
死津喪比女との戦いの最中、特攻に出たおキヌの事を知り泣き崩れる横島を叱咤激励した時など、
彼女は本気で怒っている時でなければこのような態度には出ないのだ。

「横島クン……あんたしばらく仕事に出なくていいわ」

 彼女は怒りに燃える瞳で睨みつけ、彼に背を向けるとそう言った。

「……!?」

「美神さん!?」

 おキヌが彼女に詰め寄り、その肩に手をかける。
が、彼女はその手を振り払い、二人に横顔を向けて吐き捨てるように叫ぶ。

「現場に出るって事は命の危険があるのよ!?それなのに大怪我してる事が
 わざわざ言うほどの事じゃないですって!?仲間の命を危険に曝しておいてふざけるんじゃないわよ!
 GSはそんな態度でこなせる仕事じゃないわ!なめるのもいいかげんにしなさいっ!」

 彼女が、彼女の母親が、祖父母が、そして彼女の友人たちが命を賭けたGSという職業。
彼がした事はそれを馬鹿にし、貶める事に他ならない。そう彼女の瞳に浮かんだかすかな涙が語っていた。

「……すいませんでした……失礼します!」

「横島さん……!?」

 やけになったような声色で大声を張り上げ、部屋を出て行こうとする横島。
それを引き止めようと振り向くおキヌの肩を美神が掴んだ。
美神の顔を見、その真剣な表情に思わず気圧されるおキヌ。
その背後で、部屋のドアが音を立てて閉じられた。


 その日の夜。
横島はアパートの自室で一人、布団に仰向けに寝ながらぼーっと煤けた天井を見つめていた。
天井だけではない。壁から襖、さらには室内に置かれたわずかな電化製品に至るまでなにもかもが
爆発にでも遭ったかのように焼け焦げ、煤けている。
それもこれも全て、彼が行った時間移動の失敗による物だった。


 2日前。
文珠による時間移動を思い立った彼が自室で行った時間移動。
しかし、彼の現在の実力では4文字の同時制御さえ難しく、制御を失った文珠は暴走し爆発してしまう。
部屋の惨状と、彼の怪我の原因はそこにあった。


 見上げた天井に美神の涙を浮かべた横顔が浮かび、昼間の彼女の台詞が頭をよぎる。

『現場に出るって事は命の危険があるのよ!?それなのに大怪我してる事が
 わざわざ言うほどの事じゃないですって!?仲間の命を危険に曝しておいてふざけるんじゃないわよ!
 GSはそんな態度でこなせる仕事じゃないわ!なめるのもいいかげんにしなさいっ!』

「ふん……美神さんだってしょっちゅう、しまった!とか言うてるやないか!
 それなのに俺の失敗だけいちいちあげつらって!」

 声を上げ、天井に浮かぶ顔を睨みつけて拳を握った。
が、その拳はすぐに力無く開かれ、布団の上に落ちる。

「そういう訳じゃないよな……。美神さんはああ見えて仕事には真面目に取り組んでる……」

 美神令子は普段あまり仕事に真面目に取り組む、といった姿勢を見せる事は少ない。
特に、横島やおキヌの前ではだらけて見せたり、昼寝をして見せたり。
傍から見れば仕事を舐めきっているとしか見えない態度を取る事がしばしばである。

 しかしそれは彼らの仕事前の緊張感をほぐす為であったり、
危機感を煽って依頼料を上乗せさせる為であったりと、
彼女が本当に不真面目に仕事に向かう事は決してない事を、彼は長い付き合いの中で学んでいた。

 事実、彼女は無類の酒好きでありながら、仕事の前日に深酒はおろか一滴も飲む事さえしない。
さらに、調子が少しでも悪く、横島たちに危険が及びそうな日にはたとえどんなに
依頼料が高かろうとも仕事を請け負いはしないのが彼女である。

 もっとも、単に仕事がしたくないだけの場合もあるのだが。

「それに……あの人には力がある……」

 彼女には失敗してもそれを取り返せるだけの知識、そして実力がある。
そして自分には無い。
それが彼には歯がゆかった。


 時間移動の失敗の結果判った事は、同時制御の難しさ、そして自分の実力の無さ。
ならば足りない実力を実戦で身に付ければいい、と安易に考え無理をおして
仕事に向かった事でさらに己の認識の甘さまで痛感する事となった今日のミス。


 その全てが口惜しかった。
右手に霊波刀、『栄光の手』と自分で名付けた霊気の刃を生み出し眺めてみる。
栄光を掴む手などと名付けておきながら、何も掴めていない自分自身にも。

「くっ……チックショオーーーっ!」

 怒りに任せて刃を振るう。
その矛先はいつかと同じ、玄関と部屋とを仕切る障子である。
と、その陰からこれもまたいつかと同じように、声が聞こえてきたのだった。


「さすがだな……気配を消したつもりだったが……」

「へ?」 


「ふーっ、ごっそさん」

 げぇーっぷ、と喉を鳴らし、男は食後のお茶を飲み干した。
彼と横島の目の前には汁まできれいに無くなったカップ麺が転がっている。
横島の買い置きの非常食、『ウルトラカップ1.52倍しょう油味』である。
それも2つ。

『ふぃーっ、食ったのねー』

 同じく男の横で食後の紅茶を飲み干した美少女が息を吐いた。

『でも合成着色料に合成甘味料がてんこ盛りで身体には悪そうなのねー』

「人の非常食食い散らかして言う事はそれだけかい、ヒャクメ!
 おまけに雪乃丞!勝手に戸棚漁るなっ!」

 そう。傷心の彼の下を訪れたのは悪友の雪乃丞、そしてなぜか
普段のコスプレ風の服ではなく、金髪のカツラに白のセーター、おまけに
どこから探してきたのか、ルーズソックスを装着した神族ヒャクメだった。

『へへー。どうなのねー、横島さん?完璧に人間に溶け込んでるのねー。
 さすがは情報分析官なのねー』

 と、大威張りで胸を張ってみせるヒャクメ。
その拍子にカツラがずるりと畳に落ちる。

「なんつーか……数年ほど時代の波に乗り遅れたお水のねーちゃんみてぇ……」

 がーん、と頭の上に大仰な書き文字を浮かべてショックを受けるヒャクメ。
プライドとかその他色々な物が砕け散ったようだ。

「ま、こいつは置いとくとしてだ。横島、最近寒いよなぁ?」

 戸棚に何も入っていない事を確認した雪乃丞が横島の目の前にどっかと
胡坐を掻いて座り込みながらそう尋ねた。確かに彼の言う通り、今年の冬は寒い。
おまけに彼は今心も寒い状態だ。

「そりゃ確かに寒いけど……いきなりなんなんだよ?」

「いやな?ようするに……へぶごっ!?」

『それは私が説明するのねー♪』

 にかっ、と笑った雪乃丞の頭の上から落下する巨大なトランク。
と同時に、いつのまにか立ち直ったヒャクメが横から割り込んだ。

「ヒャクメ……!てめぇ!」

『えいっ』

ぷしゅっ。

「あ、てめ……!ぐごぉ……ZZZZZ……」

「おいおい……」

 抗議しかけた雪乃丞に怪しげなガスを吹きかけるヒャクメ。
数少ない出番をなんとしても譲りたくないらしい。
あっという間に爆睡する雪乃丞を尻目に、ヒャクメは一枚のパンフレットを取り出した。
それを横島に渡すヒャクメ。
そこには極彩色の写真と共に『南国O県でリゾートを満喫!』などと書かれている。

「O県〜〜?なんだよ、これは?」

『フッフッフー♪横島さん、ずばりあなたたちにO県に行って欲しいのねー』

とんでもない事を言い出す神族が一人。
これが横島の中にちょっとした変化をもたらす事件に繋がるとは、
この時はまだ誰も……調子のいい下っぱ神族以外は知る者は無かったのであった。


                             つづく


あとがき

ども、海(ryでございます。
今回ちょっとした中編電波を受信して書いてみました。
たぶん10話ちょっとで終るはず……プロット通りに行けばですが……(笑)
ついでにGSキッズの方はもうちょっとお待ちを……(爆)
ってな訳で、その2もしくはGSキッズでまたお会いしましょーm(_ _)m  


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