第5話
今夜もまた、夢で見るのだ。
今まで自分が殺した者達が、地獄で手招きをしているのを。
【俺たちをここに堕としたお前も、すぐ、ここへ来る・・・・・・!】
それでも進む。進むしかない。
後戻りなど出来ないのだから。
『・・・・・・・お前は、俺みたいになるなよ。』
そう自分に言ったのは、誰だっただろうか?
突然だが、横島はバイクを買った。
一千万円という、膨大なお金が手に入ったためだ。
何に使おうか散々迷ったが、結局バイクの免許を取り、バイクを買うことに決めた。後々便利かも知れないと思ったからだ。
因みに、教習所ではなく試験場で取った。やはり金は大事にしたい。
一回目で見事合格し、試験管に太鼓判を押されたのは、九頭竜のバランス感覚によるものだろうか。
・・・・本当は、大型二輪免許が欲しかったのだが・・・・18歳以下ではダメだった。
買ったバイクはホンダの製品。排気量は400CCである。カラーリングはキャンディブレイジングレッド(ツートーン)である。
今日の仕事は、ある新築マンションの除霊だった。
もちろん横島は新品のバイク移動。なかなか様になっていた。
今日の除霊は共同作業だと言う。どうせなら美人がいいな、と、横島は思ったのだが
「初めまして〜、六道冥子です〜。」
・・・・・現実になった。
最初は気分がよかった横島だが、ふと、美神の顔色が優れない事に気が付いた。
「どうしたんスか?何か具合悪そうですけど。」
「・・・・・アンタが下手すると、これからもっと悪くなるわ・・・・・」
「俺が!?」
どうやらこのマンション、建物の相が悪かったらしく、周辺の霊が集まってしまい、中に人が住めないのだとか。
上に行くほど小さくなる複雑な多面構造の最上階が、霊を呼び寄せる『鬼門』になってっしまったのだ。
計画としては、最上階まで行った後、美神が結界を張り、冥子が『式神』を使って除霊を行う、と言った手はずだ。
そして、横島は冥子の『肉の盾』を命じられた。
「いい、横島くん?霊が冥子に傷ひとつ負わせたら、その時点で冥子を気絶させるか、出来ないなら逃げるのよ!?」
「な、何でですか!?」
名門・六道家に代々伝わる12神将・・・・・12匹の式神。
それらが、六道冥子には授けられている。
普段は彼女の影の中に潜んでいるのだ。
で、そいつらの力がどのくらいかとゆーと、
『ンモーッッ!!!』
と叫んで霊を一度に数十体吸い込んだり、
『シャーッ!!』
と言って電撃を放ったり、
『・・・・・・・・!』
しゅぴぴぴぴっ!っと、毛針攻撃を行ったり、実に微妙だ。
最上階にたどり着き、結界を張り始めた美神。
で、横島はいくらでも湧く霊を素手で殴り飛ばし続ける。
「フン!」
迷いは無い。油断もない。あってはいけない。それは、『死』に繋がってしまう。
だが、それでも隙は出来る。
冥子が、霊に頬を浅く切られてしまったのだ。
「ぁ・・・・血が・・・・」
「大丈夫っスか!?傷は浅いですっ!?」
安否を気遣った横島は、彼女に大事が無い事をホッとしたが、
「ふ・・・・ふぇ・・・・・」
泣きそうになっているのには驚愕した。
「ふえ〜〜〜〜っ!!!!」
と言うか、泣いた。
そして。
・・・・・・・・・・・・・爆発!!!
第5話
翌日。夕方、近所の商店街にて。
買い物帰りの横島は、昨日の除霊を思い出して溜息をついていた。
「・・・・・とんでもなかったなぁ、冥子ちゃん・・・・・」
まさか、傷一つで大泣きするような人間が、GSをやっている等とは信じられなかったのだ。
しかもあの後、凄まじい出来事があった。
冥子の影に潜む12匹の式神・・・・・それら全てが、一気に暴走し始めたのだ。
感情を抑えきれず、コントロールが利かなくなるのが原因らしいが・・・・・・
「いずれにせよ、あれじゃあまともに戦えないだろうに・・・・・・・」
横島は、必死に式神をかいくぐり、冥子を優しく気絶させ、暴走を鎮めたのだ。
流石に、背後から式神に襲われたときはビビった。
兎型の式神に、頸動脈を断ち切られる所だったのだ。
「いくら美人でも、アレは勘弁して欲しいよなぁ・・・」
夕暮れの街を、横島が歩く。
「・・・・・ん?」
ふと、電信柱に寄りかかっている赤毛の女性と目が合った。赤い目が、一瞬光ったような気がする。
「?」
どうも違和感がある。服装でもなければ、頭にアンテナのような棒が2本付いたカチュ−シャをしている所でもない。
「・・・・ああ!」
思い当たった。
この女性からは、肉体を持つ生物なら、必ず持っているはずの『気』を感じないのだ。
「・・・・・・・・・・・?」
それにしても気配が希薄だ。
『無い』訳ではない。何かの力を宿しているのは感じるのだが・・・・
ふと、女性が急に横島の前へと出た。顔からは、感情が感じられない。
「?どうかしましたかッッ!!?」
女性は突如、途轍もない万力で、横島の肩を掴んだ。
「ぐうっ・・・・・・!?」
洒落にならない力の持ち主だった。ヒトとして、限界まで鍛え上げられた自分の肉体が、悲鳴を上げている。
必死に状況を把握しようとする横島の背後に、近づくモノが居た。
「にやっ。」
ご丁寧に擬音を口で言って笑う人物。あからさまな害意を、横島に向けている。
「・・・・・・・っおらあっ!!」
横島は神気を体に纏うと、体を沈み込ませ、巴投げの要領で女性を背後へ投げる。
「ぬ!?ぼっはあっ!?」
背後で悲鳴が上がったが、気にせず横島は路地裏へ駆け込み、近くにマンションとマンションの狭間を見つけると、
「ふっ・・・・!」
すかさず『三角飛び』で屋上へ駆け上がった。
「・・・っと!いったいなんだったんだ、今の・・・・・?」
着地し、取り敢えず思考を纏めさせようとする横島。
すぐ下で、爆発音がした。
それに気付いたとき、彼女は足から炎を吹き上げて、空高く昇っていた。
「・・・・・はぁ?」
飛んで、いた。
ちょっと待てよ、とツッコむ暇すらなく、横島のいた空間を数十発の銃弾が穿った。
「おおおおおおおおっっ!!!??」
殆ど反射的にそれを回避する。
大抵のモノを見慣れていた横島だったが、いくら何でも空を飛ぶ・・・人間?を見るのは初めてだった。
しかも、腕からは銃のようなモノが生えており、そこから白い煙が出ている。
「ちょっと待てよ、オイ・・・・・・」
既に死闘になるという確信を抱きながら、横島は、夕日をバックに降り立つ女性を見て、苦笑いを浮かべた。
夢を見るのだ。
赤い、血に塗れた夢。
自分の手が、真っ赤に染まっている夢。
洗っても、洗っても、落ちない血の夢。
先手は、女性が取った。一気に距離を詰めると、恐るべき速さのミドルキックを放つ。
横島は神気を集束させ、両腕でガード。
・・・・・・・鈍い音とともに、横島の体が吹っ飛ばされた。
「ぐあっ!?」
そのまま一直線に吹っ飛んだ横島は、マンションから20メートルほど離れた民家の屋根に激突した。
瓦が吹っ飛び、屋根が凹み、横島の体が軋む。
「っ・・・・・!!」
だが、呆けている暇はなかった。女性が、足から炎を吹き上げながら飛来したからだ。
振り下ろされる拳を避ける。今度こそ、屋根に大穴が開いた。
後で弁償しなければ、と、随分余裕のあることを考えながら、横島はいつも修行をする河原へ向かった。
こんなところで戦い続けていれば、いつ他人を巻き込むか分かったものではない。
人の少ない河原の方が、まだ安心して戦える。
河原にたどり着くと、横島はすぐさま反撃の体勢を取った。
土手を飛び越え、着地する女性に神速で近づき、間髪入れず右の正拳。
女性は、叩き込まれた神気の貫通音を響かせながら、恐ろしい速度で土手に激突。
・・・・・・・爆発が、起きた。少なくとも、傍目にはそう見えたはずだ。
土手にクレーターが形成され、ヒビが入り、粉塵が舞う。
『九頭・右竜徹陣』・・・・・・・以前使用した『蓮華歩舟』のような仙術モドキの技ではなく、武術的な要素の強い、九頭竜の基本技だ。
単純に、『気』又は『神気』等を叩き込む右ストレートなのだが、その分、威力は凄まじいモノがある。
しかし・・・・・
「・・・・おいおい・・・・」
粉塵が晴れ、横島は顔を引きつらせた。
手加減しなかったはずだ。にもかかわらず、女性は平気で立っていた。
手応えもおかしかった。
硬すぎる。人間とは・・・・いや、生き物とは思えない。まるで金属だ。
(なんなんだ・・・・一体!?)
少なくとも人間でないことは解った。しかし、以前一度だけ、ロンドンで戦った『魔族』なる者達ともやはり違う。
彼らは人間を遥かに超えた力と肉体を持っており、下級のモノでも銃弾やバズーカでは歯すら立たない。
だが、彼らにも『魔力』と呼ばれる力が宿っていたし、目の前の女性と、雰囲気が違いすぎた。
女性は、拳を上げ、無造作に間合いを詰めてくる。横島は、構えたまま摺り足で後退。
唐突に、女性の腕が伸びた。
「んなっ!?」
飛んでくるアームを、紙一重で避ける横島。
しかし、やはり伸びてきた反対側の手に、右腕を掴まれてしまう。
腕は、女性の肘の所からケーブルで伸びている。
「ロ・・・・ロボット!!」
あまりにも非現実的な、しかしこれ以上当てはまるモノはないという答えに、横島はようやくたどり着いた。
思えば、自分や美神みたいな人間を筆頭に、『魔族』やら、『式神』やら、『恐竜』魔でいる世界である。もう、人間と見まごうほどのロボットがいてもおかしくなかった。
サイボーグという可能性もあったが、それなら若干『気』を感じるだろう。多分。
「うおっ!!」
右腕を掴んだままこちらに飛んでくる女性を、横島は、まだ自由な左手を胸の前に構えて迎え撃つ。
「・・・・・・・・・」
無言のまま、引き戻した右腕を横島に叩き付けようとする女性。
「おおおおっ!!」
その右腕を、横島は左掌で受け流すと、女性の胸部に叩き付けた。
白金の火花が、女性の全身から散った。
「ウ!?ア・*+&%#"`※>I:;@!!??!!?!?」
人間には発音不能な叫びとともに、女性の体が痙攣し、スパークが飛び散る。
『九頭・左竜雷掌』・・・・・・九頭竜は主に、攻撃を担当する右半身の『右竜』、防御、カウンター的な技を担う『左竜』に別れている。
この技はカウンターに使用する『仙術』系の技で、肉体の微弱な生体電流を掌に集め、『気』、『神気』で加圧し、叩き込む。
電撃は、基本的に物質破壊などには向かないため、効かない敵には全くと言っていいほど効果のない技だが、対象が肉体を持つ生命体や、精密機械等の類だと、これでもかと言うほどの威力を発揮する。
今回の大バクチは、どうやら功を奏したようだ。
女性は、暫く雷光と煙を放っていたが、やがて目から光が消え、沈黙した。
「・・・・・・・・・・」
安堵の溜息を吐き、一体彼女は何だったのか、考え込む横島。と、
「マ・・・・・・・マリアッ!!?」
土手の方から老人の悲痛な叫びが聞こえてきた。
見ると、身長が約180僂硫E腓茲蠅盥發ぁ■殴瓠璽肇覽蕕梁臺舛淵茵璽蹈奪儼呂力型佑世辰拭9いマントを着ている姿は、なんか魔術師っぽく見えなくもなかった。
「マリアッ、マリアァッッッ!!!!大丈夫かッッ!?返事をしろ、マリアッッ!」
「・・・・アンタ誰だ?」
取り敢えず、話を聞いてみる横島。
「わ、ワシか!?ワシは『ヨーロッパの魔王』ドクター・カオスだ!!貴様がマリアをこんな目にっ!?」
「・・・・・それ以前に、何でこの子は俺を襲ってきたんだ。」
横島の一番利きたかった質問だ。
「フン!言う訳が無かろう。まあ、ワシが若く、強い肉体を手に入れるために、この国のGSで最高と言われる美神令子を狙い、奴に近づくために君を狙ったぶほべあああっ!?」
・・・・・・・・・ボコボコにしておいた。
約30秒後。
「御免なさい。」
「2度とするな。」
血塗れのボロクズと化した『ヨーロッパの魔王』を見下ろしながら、横島は冷たく言い放った。
「それより・・・・ドクター・カオスって言うと、あの錬金術と魔術の奥義を究めて、不老不死になったって言う、あのドクター・カオスだよな?」
「・・・・それ以外の誰がいる。」
横島も、一応聞きかじったことはある。1000年近い時を生き、数々の発見・発明を成し遂げた大天才だと。
ここ100年ほど、行方知れずになっていたという話だが・・・・・・・・もしかしたら、使えるかも知れない。
「・・・なあ、ちょっといい話があるんだが。」
「・・・・・何だ。」
ぶっきらぼうに言うドクター・カオス。
プライドも傷ついたのだろうが、何より血が足りていないと思う。
「・・・・・一緒に、天才を育成して見ないか?」
ピクッ、と、カオスの体が動いた。
で、3日後。
美浜ちよは、師匠であり、愛する『お兄ちゃん』である横島忠夫に呼ばれて、彼のアパートへと赴いた。あまりのボロさに壊れないかとビクビクしたが。
2階の彼の部屋に入ったとき、見知らぬ赤毛の女性と大柄な老人がいるのを見てまたビックリした。
「お、来たな。」
横島が、初対面の2人をちよに紹介する。
「この2人は、じーさんの方はドクター・カオス。確か知ってるはずだよな。女の人はマリア。カオスの・・・・・助手だ。」
本当は、彼女はカオスが700年前に自らの魔術と錬金術の粋を尽くして作り上げた、正真正銘のロボットである。
彼女がいたからこそ、横島は、
「今日からこの2人が、お前に・・・・魔術の知識や錬金術を教えてくれる。」
・・・ドクター・カオスを、ちよの『教師』にすることを思い至ったのだ。
『条件がある。俺が、彼女の修理費を・・・・出来る限り負担するよ。今日、俺を襲ったこともチャラにする。だから、若い肉体で生き長らえようとするのはやめて、アンタが持ってる知識と技術の全てを、ちよに伝えろ。』
『・・・・・それは、構わないが・・・・・いくら天才と言え、ワシの知識を全て吸収するのは、不可能だぞ?』
『・・・・大丈夫だ。ちよには、神が宿ってるからな。』
『!?』
『あんたも、あの子を端から見てればすぐ解るよ・・・・・』
「・・・・・・・・・・」
実は横島、貯金の全てを屋根の弁償とマリアの修理費(こっちが8割以上)に使ってしまい、殆ど素寒貧になってしまったのだ。
おまけに、なし崩し的にドクター・カオスとマリアも養うことになってしまい、これからバイト時間を増やさねばならないことは、確定だった。
まあ、ちよが幸せになり、健やかで、強く賢く成長してくれるならば、この程度の出費、痛くも痒くもない。
・・・・・・・・・とまあ、現実逃避をしてみる横島。
「ふっふっふ、この私が教えるからには、君には第2のドクター・カオスになって貰えねばならない!!」
「は、はい!」
「そこで!私が基礎的な知識のテストを作成した!!解いてみたまえ。」
「はいっ!!」
因みに、出題範囲は今までちよが学んだモノばかりである。正直、彼女ならば易々クリアできるモノだ。
100点満点100問中、結果は・・・・・
「・・・99点ッ!!」
「・・・・ええっ!!」
「ば、馬鹿な!?」
間違えていた!!?ちよちゃんが!?
「ど、どこが間違ってるんですか!?」
青い顔をするちよ。と、言うより、彼女はこれまでの人生でテストの点数は3ケタ以下を取ったことがなかった。
「ふっ・・・・それは、第1問!『2×2=?』!答えを『4』だと間違えたッッ!!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「ん、どうした?」
「ドクター・カオス・・・・・・・それで・答えは・合って・いますが?」
途切れ途切れの言葉遣いは、他ならぬマリアである。
戦闘能力に反して情緒面が乏しいはずのマリアの表情が、引き攣っているような気がした。
「・・・・・・・・・へ?2×2は『5』では無かったかの?」
以後、横島の苦悩に『ドクターカオスを教師に雇ったのは正解だったのか!?』という悩みが追加され、長きに渡って彼を苦しめることになった
紐付けしたらレスも一緒に消してしまった(汗)
今晩は、奏です。
早速レス返しをば・・・・・
>皇 翠輝様
ですよね(汗)。ウチの横島は、いろいろあり過ぎて、迷走してるようなきらいがあります。できれば過去編とかやりたいな・・・・早くても、ブラドー編が終わった後くらいになりそうですが。
>たたたん様
あり得ますね(笑)。戦いもするだろうけど、どちらかというと識者や錬金術師とかになりそうですが。
>通りすがろうかと様
ご指摘有り難うございます。間違いでしたので、修正致しました。
>漆黒神龍様
『天』と『月』の神威って、2つあると普通に最強そうですよね。因みに、タイトルはここから来ております。
>なまけもの様
まあ、あれだけの馬鹿でも殺してよかったのか・・・・生きてれば、ずっと同じようなことを続けたでしょうが。
榊さんやかおりんの方は、もっと事態が深くて複雑です。一体どうなるのやら・・・・
>SLY様
ゲイツ閣下と違うのは、右手に『天』、左手に『月』みたいに同時に使えないことです。一緒に使うといつもの白金色になります。
取り敢えず、横島ファミリー(仮名)にドクターカオスとマリアが仲間になりました。2人には頑張って活躍して貰う予定です。カオスは裏方だけど(笑)。
では、この辺で失礼します・・・・・・