箱から煙草を取り出す。どうやら、これが最後の一本らしい。
狙ったかと思うほどちょうど良く、ラジオから「LAST CIGARETTE」という曲が流れてくる。
俺は煙草をくわえながら、ラジオから流れてくるその曲に耳を傾ける。
「愛は最後の煙草のよう」
その歌詞を聴いて、まったくその通りだと俺は思った。
最後の一本をもたいなく思って、ゆっくりゆっくり吸い込むけど、結局はなくなっちまう。
もうちょっと、もうちょっと楽しませてくれって思うけど、結局は燃え尽きて、灰になって落ちていく。
彼女との時間もそうだった。
一年という限られた時間。
それを俺と彼女は一生懸命に楽しんだ。
彼女の時間を延ばすために、勝てないとわかっていた相手にも戦った。
でも、結局は延ばせなくて、俺のために彼女は消えていった。
もっと一緒にいたかった。もっと二人で楽しみたかった。もっと二人で夕日を見たかった。
もっと、もっと、もっと……。
でも、結局二人でいた時間は短かった。
しかも、思っているよりも早く彼女は消えてしまったんだから……。
気がつくと、くわえていた煙草は半分近くが灰になっていた。
俺はあわてて灰皿に灰に落とす。
灰皿の向こう側にある写真立てを見る。
二人でとった写真が飾ってある。彼女が微笑んで写る最初で最後の写真。
彼女が写真の中から語りかけている気がする。
「もうそろそろ変わる時よ?あなたがいくら私を求めても、私はあなたに何もできない。だから、早く新しい人を……ね?」
そう……そろそろ変わらなきゃいけない。
俺は、数日前に好きだといわれた。
ずっと前から、俺のことを色々世話してくれていたし、彼女の気持ちにも薄々気づいていた。俺だって、彼女のことが好きだ。
でも……今の俺では写真の、ルシオラの代わりにしてしまう気がしていた……。
ルシオラはルシオラ、彼女は彼女なんだ。だから、俺は彼女の告白に真剣に答えよう。
いつまでも、昔を引きずっている俺なんか、お前が好きだった俺じゃないよな?
俺は最後の煙草をもみ消す。
もうすぐ、彼女が来るはずだ。彼女は煙草の臭いが嫌いだったな。
俺は、まだ灰皿でくすぶっている最後の煙草を眺める。
所有者に似て、お前も結構後を引くんだな。
ノックが響き、
「横島さん、晩御飯つくりにきました」
という彼女の声が聞こえた。
「あいてるよ」
俺がそういうと、彼女はドアを開け、おじゃましますというと台所へ向かう。
くすぶっていた煙草が完全に消えるのを見届けて、彼女の背中に声をかけた。
「ねぇ、この前の告白の返事なんだけど……」
あとがき
初めまして、J.Bと申します。
BON JOVIの「LAST CIGARETTE」という曲を聴いていたら、上のようなイメージがふつふつと沸いてきて、思わず書いてしまいました。
GSどころか、小説自体を投稿するのが初めてなのですが、お楽しみいただけたら幸いです。