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▽レス始

「諸刃の誓い(GS)」

灯月 (2005-12-04 23:47/2005-12-04 23:51)

紅く紅く染まる朱い朱い塔。
ビルで埋まった街にそびえる象徴・東京タワー。
その鉄筋部。展望台の上。
常人ならば決して昇れない場所に彼女はいた。
艶やかな髪を遠慮なく吹き付ける風になぶらせたまま。
誰もが美少女だと断言する整った顔立ちをきつく歪め、溶けおちるような美しい夕陽を睨みつけている。
心の底、深いところから湧き上がる黒い焔が促すままに。
ぎりり…と、少女はその薄桃の唇を噛む。

(……許さない…)

胸中、吐き捨てるように。
まるで夕陽が憎い仇でもあるかのように。視線、険しさが増す。

「絶対に赦さない…。あんただけは。ルシオラ!」

少女の口から漏れるには相応しくない、強い憎しみ。

――ルシオラ。
最愛の恋人を庇って、儚く散った蛍の魔族。
かの大戦においての影の英雄。
横島忠夫が世界を救う決意をした原因。
どれほど綺麗な言葉で飾り立てても、彼女は少女にとっては到底受け入れられる存在ではない。
彼女は、ルシオラは彼に命を与えることによって。彼の命と引き換えに死ぬことによって。彼の中で永遠になったのだから。
魂に刻まれた存在。
ともに過ごした日々の短さが、最後の行為が彼の中で彼女を神聖化するものとなったのだから。
彼の中から彼女は消えない。
横島忠夫にとってルシオラは、まさしく永遠の恋人だ。

「絶対に渡さないわ。
あんたなんか消し去ってやる! 永遠に!!」

それでも、諦められるほど簡単なものではない。
だから――誓う。
愛しい人は必ず手に入れると。
だいたいが、赦せないのだ。
己の命を差し出して、ともに生きることを諦めるのが。
自分のせいで彼女が死んだ。
優しいあの人がどれほど悲しむのか、本当に考えていたのだろうか?
あなたさえ生きていれば幸せよ、なんてドラマの中、滑稽なシーン。素直に真似をしてどうなる?
本当に想うのならどうしたって、彼を一人にしないように策を練れ。
確かに時間も余裕もなかっただろう。
それでも何かあったはずだ。方法は。
自己犠牲の精神なんて、笑ってしまう。
それはただの自己満足だ。
結局残された彼は心に深い傷を負い、癒されるのに数年の時を要した。
いや、今でさえその傷は塞ぎきってはいないのに。

だから――赦せないし、赦さない。

「あんたなんか、認めてやらない!
絶対に、あたしが! あんたを忘れさせてやる!! いいえ、あんたよりもあたしを選ばせる!! ルシオラよりもあたしを愛してるって言わせるんだからっ!!」

夕陽に向かい、吼える。
なんて鬱陶しい女。いつまでその影をチラつかせれば気が済むのか。
なんて愚かしく浅ましく図々しく厚かましく。そしてなんて――嫉ましい。

心で燃え立つものは憎悪と嫌悪と憤怒と狂気と、嫉妬。

夕陽に照らされた少女は誰もが眼を見張るほど美しく。恐ろしかった。


「お、やっぱりここにいたな」

どれほどそうしていたのか、後ろから掛けられた声に彼女は弾かれた様に立ち上がった。
あわててそちらを振り返り、

「パパァッ!!」

歓喜の声を上げる。
父、三界唯一の文珠使いであり世界でも有名なGS横島忠夫。
その姿を認めた少女の顔からは、先ほどまで宿っていた暗いモノはすっかり抜けおちている。
軽やかに父の胸に飛び込んで幸せそうに笑う。

「迎えに来てくれたの、パパ!?」

「当然だろ、可愛い娘が夕飯時になっても帰ってこないんだ。
もう、パパは心配で心配で……」

そう言って腕の中、大事な娘を抱きしめた。

「えへへ、ごめんね。パパ」

弾んだ口調の娘を撫でながら、父親はもはやビルの海に沈み西の空に最後の名残を成す光を眺め、呟く。

「……ああ、もう沈んじまったな。
お前はホントにここが好きだな」

淡く笑いながらのセリフに少女はぎくりと体を震わせ、顔を伏せる。
好き? とんでもない。
自分がここに来るのは挑むため、戦うため、負けないため、誓うため、刻むため、消し去るため。
心に宿る焔を、父には見せられないこの感情を吐き出し。ルシオラからこの場所を奪うためだ。
きっと父は今とても切ない、何かを懐かしむ表情をしているだろう。
その眼は自分を見ているが、視てはいない。
もしも正面からそんな視線を見てしまったら、己の胸を掻き毟ってやりたくなってしまう。
だから何も言わずにただ、父の背に手をまわした。

「ね、パパ。あたし、来週の水曜日お休みなの。創立記念日で。
だから、お出かけしよう!」

「おお、そうだな! 最近は忙しくてあんまり一緒いられなかったもんぁ…」

言いつつ、父は少女のピンク色の頬に己の頬を擦り付ける。
少女もそれを嫌がらず、むしろ幸せそうに甘受する。
笑う少女を父は抱き上げ、その幼い顔を覗き込む。

「さて、じゃあどこに行きたい? どこに行こうか?」

「それは家に帰ってから考えよーよ、パパ。
あたしね、デートスポットとか穴場とかたくさん紹介されてる雑誌持ってるの。一緒に見よ♪」

子猫のように華奢な体をすり寄せて、その首に細い手を廻し。
天使のような笑顔。
娘の可愛らしい仕草に、父も微笑んで頷いた。

「そうだな。よし、じゃあ帰るか。ママが待ってるしな」

「うん! 今日のご飯なにかなぁ?」

少女を抱き上げたまま、西の空に背を向ける。
父にしがみついた少女はふとその肩越しからうっすらと残った緋色の雲を視界におさめ、忌々しそうに眉根を寄せた。

(さっさと、消えてしまえば良いのに…!)

そして、胸のうちに湧き上がる焔を誤魔化すようにぎゅうっと父に抱きつく腕に力をこめる。
それに気付いた父は何も言わず、優しく頭を撫でてくれた。
その手の暖かさに泣きそうになって、思わず父の肩に顔を埋める。
離したくないと思う。
離れたくないと思う。
傍にいて欲しいと、傍にいたいと。
何物にも代え難く愛おしいと――想う。

決意を秘めて、虚空を睨む。
空はもはや碧く、昏く。夕陽の余韻はどこにも無い。
父の腕の中、地上に向かって降りる風の中。誓う。
それは、何より硬き誓い。強き願い。
硬いがゆえ強いがゆえに己の心をさえ抉る――諸刃の誓い。


END


後書きという名の言い訳

…………てへ、やっちゃった☆(滅びとけ)
ルシオラファン・横島の娘ファンの皆様、ホントにごめんなさい(汗)。
原作で生まれかわりはイコール本人じゃないと言ってたので。出来心です…。
ルシオラの場合、事情は普通とは違っても「蛍魔ルシオラ」として創られ育ったのと、「横島の娘」として産まれ育てられたらやはり環境はまったく違うので…。
記憶を持ってても人格は成長過程で育つのもですし。
娘の名前とママはお好きなように。

どうしてこう薄暗い、人物が軽く病んでる話は書くのが早いのか…orz。たった数日で書けましたよ。
皆様、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!!


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