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▽レス始

「宣戦布告!(GS)」

とおり (2005-11-27 03:20)

「また明日」

「ええ、また明日」

「明日な!」


まだまだ寒さが身に染み入る季節、お互いを確認するように挨拶をして、弓さんと魔理さんと分かれた。
うす曇の寒空の下、一人家路につく。
彼女達とこうして挨拶を交わすのも、あと少し。
六道学園での学生生活にも終わりが近づいてきている。
そう、私たちもいよいよ卒業の時期。

考えると寂しさが胸を締め付ける。
心から楽しかった、いつまでもいつまでも
この暮らしが続くと思っていた。
単純な事実、でも避けようが無い未来
それが、切なかった。

学園祭での打ち上げ、体育祭、修学旅行、対抗試合
春の日の窓辺、夏の日のうだるようなグラウンド、秋の落ち葉掃き、冬の体育館。
大きな祭事も、何気ない日常の出来事も
とても懐かしくて輝くように、今ある。

冬の川辺、草木も薄い茶色しかなくて
華やかな春が待ち遠しいのだけれど、でも来てほしくないっていう気持ちもあって。
まとまりなく考えながら歩いていると、突然後ろから明るい声がかかった。


「あら、おキヌちゃん」

「おキヌおねーちゃん!」


美知恵さんとひのめちゃん。
よちよちと歩くひのめちゃんが、手をぶんぶんと元気良く振っている。
ダウンコートがこんもりとして、着ているというよりは着られている風情でとても可愛らしい。


「偶然ね、学校の帰り?」

「ええ」

「おねーちゃん、だっこ、だっこー」


今にも飛びついてきそうなひのめちゃんが、美知恵さんに引っ張られるような形になって美知恵さんはもう、と困り顔。
赤ん坊の頃からずっとお世話をしてきているせいか、ひのめちゃんは私にはとても甘えん坊。
でも、そんなひのめちゃんを大好きなのも私だけれど。


「あら、赤ちゃんみたいな事言うのね。
 もうお姉さんじゃなかったの?」


くすくすと笑ってそう言うと、ひのめちゃんはぷっくと顔を赤く膨らませる。
手をじたばたと振り回して、赤ちゃんでいいもん、だっこしてーと足にしがみ付く。
上目遣いでねえお願いと、顔を擦り付ける。
そんな仕草がますます可愛らしくて、結局だっこをしてあげる。
最近は大きくなって、手にかかる重さが以前よりもずっと重い。
元気が詰まった、心地いい重さ。


「ごめんなさいね、おキヌちゃん。この子、本当に甘えん坊に育っちゃって」


そう言いつつも、美知恵さんはひのめちゃんにいいわねー、おねえちゃんに抱っこしてもらってと
ひのめちゃんの小さい鼻の頭をつつきながら、笑いかけている。


「うん!おキヌおねーちゃん大好き!」


ひのめちゃんは大きな声で、私と美知恵さんの間を振り返りながら答える。
この活発さは美神さんに似たのだろうか。
あの意地っ張りな性格までは似ないで欲しいな、でも可愛げがあって実はだれよりも女性らしいんだけどなんて
美神さんに聞かれたら折檻されそうな事をちょっとだけ考えた。


腕の中でふんふんふんと何かの音楽だろうか、鼻歌を歌うひのめちゃん。
時折美知恵さんと目を合わせて嬉しそうに微笑む。
ひのめちゃんは、まだお母さんと離れるなんて事を考えた事はないだろう。
隣にお母さんがいて、大きいおねえちゃんがいて。よく遊んでくれるおにいちゃんがいて。
もしかすると私もちょっと小さい、大きなお姉さんと思ってくれているかもしれないけど。

そんな日々が当たり前で、疑った事なんか、きっと一度も。
無垢な彼女の甘くやわらかい香りが愛しくて、思わず頭をなでた。
髪の毛を整えるように、優しく、ゆっくりと。


「どうしたの、おキヌちゃん?」


美知恵さんは私を見て、不思議そうに言う。


「いえ、実はその・・・」

「なに?」

「私、もうすぐ卒業なんです」

「あら、もうそんな季節?
 そうかあ、おキヌちゃんがもう卒業か。
 …ひのめも大きくなるはずだわ」

「ええ。でも、それでちょっと考えてしまって」

「どんな?」

「学校生活、とても楽しかったんです。
 お互いに競い合って、技を磨いたり、勉強したり。いろんな除霊作業もやりました。
 仲のいい友達もいっぱい出来て。
 こんな生活がいつまでも続くと思っていたんですけど、もうすぐに終わってしまう。
 それがとても寂しいし、なんていうか、後1ヶ月くらいしかないのに、現実感がなくて…」

「そう…いつまでも、か」

「はい。いつまでも、皆一緒でって。
 離れる時が来るなんて、考えもしなかったです…」

「そか。
 …ね、おキヌちゃん」

「はい」

「あたし、思うんだけどね。
 そういうのって、今は楽しい、楽しかったじゃ無いって。
 きっと、今も楽しかった、じゃないかしら?
 私も若いとき、公彦や神父と出会って、楽しかったわ。でも、今だって。十分に楽しいもの」

「…」

「今を大切に思って。
 そうしたら。
 お互いが離れていても、ずっといい関係が続くんじゃないかしら」

「今を大切に…」

「そ。この先どんな事があるかなんて、それこそ神様にだってわからないじゃない。
 だったら、楽しみなさいな。
 今を、おもいっきりね」

「…はい!」

「良いお返事。
 その調子で令子から横島君かっさらっちゃいなさいよ」

「えっ…。あの、そのあの。
 えと、ですね!」

「…っぷ、あはははは」


あらどうしたの、そんなに慌ててと意地悪く笑う美知恵さんに、私はやられたと気付いた。
全く、美知恵さんはこれだから
つい、隊長なんて呼んでしまう。

でも、美知恵さんの言葉。
まるで宝物のような、冬の寂しさを吹き飛ばすきらめきが嬉しくて、胸にすうっと入り込んだ。
ぽかぽかと、暖かい。


「だめー!」

「「えっ?」」


二人して、口をそろえる。


「横島おにいちゃんは、あたしんのー!」

「「っは」」


数瞬、お互いに目をぱちくりとして。


「「…あはははははははは」」


思わぬところからの反撃に、私たちは大笑いした。


「んもう!笑っちゃやー!」


ひのめちゃんは胸の中で、精一杯の抗議をした。
それがいじましくて、本当の妹の様で
ひのめちゃんはまたぷっくりとしているのだけれど、私には笑顔しか浮かばない。


「…おキヌちゃんも、大変だわ」

「はい、大変です!」


美知恵さんに私も元気良く、答える。
あたしんだけど、おキヌおねえちゃんにもちょっとだけ分けてあげるなんて言うひのめちゃんに
そうねえきっと分けてねって返事をしながら
美知恵さんと二人、肩を並べて歩いていた。

いつのまにか空は晴れて、雲の合間から暖かい日の光が差し込んでいた。


美神事務所に帰って。
居間では、美神さんや横島さん、シロちゃん、タマモちゃんが揃っていた。


「あ、おキヌちゃん、いいところに帰ってきたわね。これから頂き物のクッキーでお茶しようと思ってたの」

「あ、そうなんですか?なら私、紅茶入れますね」


紅茶を入れて帰ってくると。
何が原因か、皆して大騒ぎの漫才をしていた。
私は紅茶を入れたお盆を手近かなテーブルにおいて、その漫才を眺めていた。

さっき、美知恵さんに言われた言葉を思い返しながら。
私たちの今や未来に想いを起こしながら。


「ずっと、きっと。
 …うん、そうなんだよね」


歩き出す事は怖くない。
横島さんに折檻している美神さんに、指で狙いを定めてつぶやくように。
でもはっきりと、私は言った。


「宣戦布告!」


そしてばあんと、打ち抜いた。


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