宇宙にはさまざまな可能性がある。
「事態はほとんど泥沼っすよ! 早いとこなんとかしないと!」
あの時もしもこうしていたら? あの時もしもああなっていたら?
「弱気になるんじゃにないの。千年もかけた計画がつまずきの連続……! 見方を変えれば泥沼は奴の方じゃない!」
それだけで世界は大きく変容してしまう。
「!? ここは!?」
これはそんな、一つの可能性の話。
「亜空間迷宮の心臓部…! これで、奴の首根っこを抑えたってわけよ!」
無限にある可能性の内の
「! ……エネルギー結晶!」
一つの可能性。
強者
「OK! 魂が再生されながら外へ出て行く! 逆操作成功よ、身体に戻れる!」
美神がエネルギー結晶を指先で触れながら念じると、彼女の壊れかけた魂が徐々に再生されながら外にある身体へと戻っていく。美神の魂はもはやそれだけでは復活できないほど傷ついていたが、宇宙からあらゆる可能性を抽出できるコスモプロセッサの中心部であるこの場所では、単純で強い思いならば十分に現実化できる。美神の「身体に戻りたい」という願いをコスモプロセッサは即座に叶え、彼女の魂はあるべき場所へと戻っていった。
「ルシオラを復活して……可能ならこの装置も破壊……」
「りょ、了解!」
外へ出て行き薄れていく美神の声に横島は少し緊張して応える。
ルシオラは美神と合流する前に死んだ。ルシオラが自身の妹であるベスパと戦っている最中、横島はルシオラを助けるためにその身を盾にした。そしてベスパの隙を突いたルシオラの攻撃によってベスパを撃退することには成功したが、横島は自分を盾にした時の攻撃によって死に掛けてしまった。
いくら横島が人間離れした生命力を誇るといっても、所詮は人間。魔族の、それも上位による攻撃を防御もせずまともに食らった横島は当然、瀕死の重傷となった。それだけならまだよかったかもしれないが、ベスパの攻撃には余計なものまで付いていた。
蜂の化身たる彼女の本領、妖毒である。
その妖毒は横島の身体を蝕んでいき、彼の霊基構造を容易く破壊していく。しかもそのスピードは連鎖反応を起こしていてルシオラでも手のつけようがなかった。
そしてルシオラは彼を助けるために自分の霊基構造を与えるという行為に出る。いくら上位の魔族とはいえ、そんなことをすれば当然彼女の身体も持たなくなり、彼女は消滅した。
だがこのコスモプロセッサなら彼女を復活させることは可能だ。なぜならここにはあらゆる可能性が詰まっているのだから。
「よーしルシオラ! 今……」
横島も美神に続いてエネルギー結晶にアクセスし、逆操作を試みようとする。願いはルシオラの復活。
だが、それをこころよく思わないものもいる。
「えっ!? ……ぐわっ!」
横島の後ろから新しい次元の扉が開かれると、そこからプログラム・ワームが現れ彼の身体の自由を奪う。
「調子に乗るな。今のを見逃してやったのは、私にはもはやあの女の生死などどうでもいいからだ!」
そしてアシュタロスもまた現れる。
この時、世界は分岐点を迎えることになる。
もう一つの世界と違って、彼はこの時わずかだけエネルギー結晶に触れることができた。
もう一つの世界と違って、彼はこの時強く思った。
強さが欲しい、と。自分が強ければルシオラは死なずに済んだ。自分が強ければ今ここでルシオラを復活できた。
なのに自分はこうも弱い。
だから横島は無意識に、だがとても強く心から願った。
強さが欲しい、と。
そして世界は分岐する。
強烈な光がエネルギー結晶から放たれると、横島もアシュタロスもその光に思わず目を瞑った。
「うおっ!?」
「むっ、これは!?」
モクモクと煙が立ち昇っているエネルギー結晶がある方を向くと、そこには人影が一つ。アシュタロスはそれが一瞬横島かと思ったが、彼は自分の隣で腰をプログラム・ワームに捕らえられている。何よりその影は横島よりも明らかに筋肉質だった。
アシュタロスはここで頭を巡らした。恐らくこの人影は横島が一瞬だけ願った思いをエネルギー結晶が具現化、呼び出したものなのだろう。自分がメドーサやデミアンたちを無限の可能性の中から拾ってきたように。
助っ人を想像したのなら、恐らくこの人影は彼が考える中で最強の人物のはずだ。小竜姫か? だがメドーサごときに遅れをとる小竜姫がどうこうできる自分ではない。では自分以外で彼の戦ったことのある中では最強の、孫悟空こと斉天大聖だろうか? 彼は確かに強力な神であるし武術も自分以上のものがあるがそれでも魔力の圧倒的な差で負けることはない。
結局誰を呼び出そうが自分の勝利は揺るがない。アシュタロスはその人影に問いかけた。
「何者だ、貴様!?」
やがて煙が晴れると、その影が姿を現す。
「おっす、オラ悟空!」
そこには山吹色の胴着を着て髪がやや逆立った筋肉質の青年がいた。それは横島の思い描いた最強の男。仮に負けても修行するたび、死に掛けるたびに強くなる少年たちの憧れ、宇宙最強のニート、サイヤ人孫悟空だった。
「……誰だ?」
「お! おめえスゲエ気だな。オラわくわくしてきたぞ!」
そのサイヤ人はアシュタロスを見ていきなりそんなことを言い出すと、戦闘体制をとった。
「いや、待て。だからお前は一体……」
「はああああああああ!」
そのサイヤ人がいきなり絶叫し出すと大気が振動し、周りの破片がなぜか浮いたりし始めた。しかしアシュタロスが驚いたのはそんなことではない。彼はなんと魔神である自分にすら匹敵しそうな力を放っているではないか!
「ど、土偶羅! 奴の霊力は一体いくつだ!」
「10億マイト、15億マイト、20億マイト……がぴっ!」
ぼん!
「ど、土偶羅ぁぁぁぁ!?」
どうやらあまりに計った相手の力が高すぎて土偶羅では計りきれなかったらしい。そしてお約束のごとく彼は爆発し砕け散ってしまった。南無。
「へへっ、そんな機械じゃオラの力を計りきれなかったみたいだな」
「くっ、貴様!」
アシュタロスは魔力砲をそのサイヤ人に向かって放った。彼にしては少々焦りすぎであったが、まあ仕方ないだろう。大抵の者は未知のものに出会うとパニックに陥るものだ。
「へっ!」
だがサイヤ人は軽く手を振るうとその魔力砲を弾いてどこか遠くへ飛ばしてしまった。
「いきなり攻撃してくるなんて、おめえ悪い奴だな! オラがやっつけてやる!」
シュンッとかそんな音がしそうな感じで彼がアシュタロスに迫ると、パンチを繰り出す。
「ぐえっ!」
ドカッ、とかバキッ、とか普通に戦ったらありえない音が辺りに響く。アシュタロスはほとんど一方的にやられていた。元々彼は武道派ではない。パワーでは劣らなくても戦闘技術では彼にまったく手が出せなかった。
「くっ、調子に乗るなぁぁぁぁ!」
「何!」
アシュタロスが魔力を全開にするとサイヤ人はたまらず吹っ飛んだ。さすがは魔神。力だけなら彼を上回っていた。
「死ぬがいい!」
そしてサイヤ人が立ち上がる前に特大の、自身が放てる最大の魔力砲を放ってやった。吹っ飛ばされていたサイヤ人がそれを防げるわけもなく、その魔力砲は彼を飲み込んでいった。
「はあはあ、わけのわからん奴め……だが今ので確実に死んだだろう。さて、横島忠夫、だったかな。ずいぶんと手こずらせてくれたな。だが貴様の助っ人はもういない。やっかいな君はあの時の君の前世の人間のように頭をふっ飛ばしてやろうか?」
「う……」
サイヤ人を倒したと思ったアシュタロスは、横でその戦いを傍観していた横島の方を向いた。横島にはアシュタロスと戦う力などない。全霊力を込めた一撃でさえアシュタロスの皮膚の薄皮を削る程度しかダメージを与えられなかったのだから。そして彼の創造した呼び出したサイヤ人がやられてしまった以上、横島側に勝ち目などない。アシュタロスはそう思った。
だが、彼は甘かったとしかいいようがない。
なぜなら……
「おー、いちー。、今のはやばかったなー」
そこには上半身は傷だらけで、だがなぜか下半身の服は全く破れていないサイヤ人がいたからだ。傷だらけのわりにはまったく応えてなさそうだ。まあ、お約束だ。
「くっ、馬鹿な。あれほどの魔力砲を食らって……。ならば貴様もあの時の人間のように頭を打ち抜いてくれる!」
そこでそのサイヤ人の空気が変わった。今まで戦っていても陽気だった彼の雰囲気が、厳しいものへと変わる。
「あの時の人間のようにだと……
クリリンのことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「クリリンって誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
アシュタロスが知らないのも無理はない。彼はサンデー派だった。
絶叫と共に、サイヤ人の力が更に上がっていく。そしていつの間にやら髪が更に逆立ち、目つきがキツクなり、なんかオーラが金色になったりしていた。
その力は明らかに魔神であるアシュタロスを上回っていた。
「馬鹿な……貴様は一体何者なのだ!? 本当に人間なのか!?」
だが彼はとっても不敵に笑ってみせる。
「とっくにご存知なんだろう? 穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた……超サイヤ人、孫悟空だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「とっくもなにも、初めて聞いたぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」
何度も言うが、彼はサンデー派だった。
「オレは怒ったぞぉぉぉぉ! アシュタロスゥゥゥゥゥ!」
「私が何をしたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ドカドカバキバキズギュンズギュン! まったくありえない音を出しながらぼこられていくアシュタロス。
「これはチャオズの分、これはヤムチャの分、これは天津飯の分!」
一発一発に彼の怒りが篭っているが、アシュタロスにはまったく身の覚えのない話だ。
「か〜め〜は〜め〜……」
サイヤ人の力が更に高まっていく。もう、なんか究極の魔体の断末魔砲を越えちゃってるんじゃないのってぐらいに。
「そしてこれが、神様とピッコロの分だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だからそいつら誰だよぉぉぉぉぉ!?」
彼が両手を突き出すと、謎の光が手の平から放射されていき、アシュタロスをぶっ飛ばし、消滅させた。こうしてアシュタロスがもっとも望んでいた自身の消滅はまったく望まない方法で叶われてしまったのであった。
ちなみに横島はその間にちゃっかりルシオラを蘇らしていた。そして呼び出されたサイヤ人は「オラもっと強ええ奴を探しにいく」とか言い出すと、どこかへ飛んでいったしまった。その後、そのサイヤ人が神族であるもう一人の孫悟空と闘ったり、その上勝っちゃったり、ついには神魔の最高指導者に戦いを挑んだり、その上やっぱり勝っちゃったり、なんか地球に次々と異星人が現れて地球を支配しようとしたり、地球そのものが二、三回破壊されちゃったり、そのたびに地球が治されたりしたが……、横島とルシオラの二人には関係がなかった……と思う。
お、終わるしかねえ……
あとがき、つーか言い訳
どう見ても電波です。昨日眠たいのを目を擦りながら書いていたらこんなものができていました。どうやら私は疲れているようです。こんなアホなものを読んでくださって本当にありがとうございます。
ちなみによろずの方がいいかなあとも思いましたが、まあ基本はGSですし一発ネタなのでこっちでいいかなあと思ったのでこっちに投稿しました。
ではこの辺で。