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「それは行き着く一つの未来(GS)」

灯月 (2005-11-14 23:28/2005-11-15 18:59)

やあ、よく来たね。
この厳めしくも退屈な牢獄に。
この前知魔ラプラスのもとに。

君がここに来ることはわかっていたよ。百年前から。
お隣さんのときもそうだったが、ずいぶんと楽しみにしていたんだ。
ここにきた用件。それは『美神令子』のことだね。
おや、驚かないね。
まぁ、予測されていることも知っていたよ。言ったろう? 百年前からわかっていたと。
なに? 無駄なおしゃべりは止めろ、さっさと本題に入れって?
つれないことを言わないでくれ。確かに君がここに来るまでに多大なコネと人脈を駆使したことは知っているよ。
本来なら今この時この場所に、君はいないことになっているのも。
ただこっちだって百年も待っていたんだ。少し位おしゃべりに付き合ってくれてもいいと思わないか?
なに、そう時間はとらせないさ。

さてさてなんだったか。
ああ、『美神令子』のことだったな。
世界でも有数の超一流のGS。道具を使うことに特化した万能型。そして時間移動能力者。
プライドが高く意地っ張りで高ビーで傲慢。金に汚く守銭奴で…。
おっと、そんな顔をしないでくれ。だが、否定も出来ないだろう?
そうとも本当は優しい人間だ。そして弱い自分を見せないために必要以上に強気に振舞う。
素直になれないタイプだね。もっとも、ひねくれた部分が濃すぎはするが。
『美神令子』とは概ねそういった人間だ。
だからどうしたって? そう言わずに話は最後まで聞きたまえ。
その彼女だが、今大変なことになっているね。
――訴えられて。

敏腕弁護士と今までばら撒いた金。そして築いた人脈によって何とかなってはいるがね。
TVや安っぽい週刊誌は連日彼女を追い、ブラウン管に彼女の映らない日はない。
何せ彼女は知る人ぞ知る超一流のGS。
過去の些細なことまで調べ上げられ、世間に流される。
彼女を知る者――友人、仲間の証言すら面白おかしく曲解される。
六道家やGS協会も裏から手を回しているようだが、報道の自由という都合のいい言葉があるからねぇ。

とはいえ、騒がれるのは何も彼女のネームバリューのせいだけではないね。
その訴えの内容にもある。
脱税、器物破損、公共物の破壊。それに人権侵害、労働基準法違反。
自分にとって都合の悪い書類の偽造や捏造、証拠隠滅も日常茶飯事。
ああ、日常といえばあの文珠使いの彼に行われていた折檻も立派に暴力行為。
彼のセクハラ分を差し引いても明らかにやりすぎだ。
それもまた非難される一因になっている。
「丁稚だから何をしてもいい」という、お得意のセリフも真っ当な人権保護を唱える団体の前では時代錯誤な戯言にしか過ぎない。

彼女は連日押しかけるマスコミにも、時折彼女を案じ訪ねてくる仲間にも何も話さず。ただひたすら事務所の中で沈黙を通している。
一人でね。
そうたった一人だ。
彼女の事務所にメンバーは誰もいない。
いる、と言えるのは唯一建物そのものである人工幽霊だけ。
一人になったときから彼女の崩壊は始まったのさ。
……急かさないでくれ。
慌てても事態は好転しない。そうそう、落ち着いて。

さて、どこからか……。
そうだな。
あの大戦が終って一年半ほどたった頃か。
いつもと同じように見える日々。
瑣末な違いはあっても大きくは変わらないだろうと思っていた日常。
だがその時からすでに亀裂は走っていたんだよ。
『美神令子』本人も君も周りの人間も、気付かなかっただけで。

はじめに去ったのは文珠使いの青年。
次に去ったのは九尾の少女。
そして青年を慕う人狼の少女も去り。
最後に残った死霊使いの少女もやがて去り、彼女は一人になった。
そうなっても彼女はGSを続けた。
新しく雇った荷物持ちや助手は、彼女に言わせれば「根性なし」ですぐに辞めていったけどね。
実際はロクな防具も与えず必要な知識も教えず。
悪霊の対処法は襲われてから。
そして雇い主による理不尽な暴力。
これでは辞めない方がどうかしている。
そして最後の荷物持ち…で、いいかね? この場合。
悲劇が起こったのさ。
いや、起こるべくして起こった喜劇とでも言うかね。
なにせただの素人を最前線に出した挙句、自分が危ないからと言って盾にしたのだから。
結果は――わかるだろう?
大怪我。即入院だ。
『美神令子』はベッドで唸るそのアルバイトに向かって何と言ったと思う?

「怪我をしたのはそっちのミス。
おかげでこっちは除霊に失敗した。
だから、入院費は払わない」

とね。
相手はもちろん反論した。

「自分はただの荷物持ち。
戦いに加わるなんて聞いていない、ふざけるな」

それからどうなったのか。
わかりきっている。
彼女は訴えられた。
はじめは些細な契約違反。
だが、家宅捜索が入って状況は一変した。
くくく。そう、色々見付かって、ね。
それから後のことは君も良く知っているだろう。

これまでの行い。金でもみ消した全てが明るみに出た。
そう、たとえば過去から来た幼い自分を守るため他人がいるのを承知でデパートに逃げ込んだこと。
たとえば、死霊使いの少女がその身を狙う霊団から逃れるために引き起こした被害。
たとえばとある神の呪いで体重がありえないほど増加し、街を破壊したこと。
他にも色々あるがキリがないのでこの辺にしておこう。
もちろん全てが全て彼女の仕業というわけではない。
だが何の関係も無いのに巻き込まれた人間にしてみれば、たまったものじゃないだろうね。
そして何より彼女は目立つ。
たとえ金で無かったことにしても、そういった人間の口までは塞げない。
少しつつけば証言は山のように出てくるし、騒動をビデオに収めたものもいる。
小さな積み重ねがついに爆発したのが今の状態だよ。

ここで一つ質問だ。
ああ、そんな嫌そうな顔をしないでくれ。傷付くだろう?
簡単なことだよ。そして『美神令子』にも関係あることだ。
『美神令子』の行いはあの大戦前と後でもほとんど変わっていない。
なのになぜ今になって文珠使いたちは離れ、行いは明るみに出たのか?
君はどうしてだと思う?

解らないかい?
いや、薄々は気付いているだろう。
確証がないだけで。
ならば答えよう、このラプラスが!

全ての答えはあの大戦にある。
彼女は必要だった。
彼女は鍵だ。あの大戦において。
何せ、件の魔神が欲していた世紀の大反則装置コスモ・プロセッサのためのエネルギー結晶を、その魂に持っているのだから。
魔神に取られるわけにはいかない。
そんなことになれば世界の終わりだ。まさしく、ね。
だからこそ彼女は守られた。
あらゆるものに! あらゆるものから!
魔神が彼女を狙ったとき、彼女が成す術も無くその手に堕ちない様に。
守ったものは…君もあの大戦で散々世話になったろう。
そう、宇宙意思。
あの究極のご都合主義さ!

そして彼女の周りには重要な戦力が集まっている。
日本が狭い島国だからと言っても一箇所に集中しすぎている。これはどうしたって出来すぎだろう。
宇宙意思はこの時代で魔神を倒すつもりだったのさ。
だからこそ! 彼女は死ななかったし、捕まりもしなかった。
解るかい?
彼女はあまりに守れ過ぎて、恵まれ過ぎていたんだよ。
……そんな青い顔をしないでくれ。このラプラス何一つ嘘は語っていない。真実は時として何より残酷だということは、君も熟知しているはずだよ。
おお、立ち直ったかい。君が強い人間で嬉しいよ。さぁ、続きを語ろうか?
彼女が守られ、恵まれていた理由。それは先に言ったように必要だったから。でももう一つ。役目があったんだよ。
彼女は鍵だといっただろう。
確かにエネルギー結晶もそうだが、それとは別に、あったのさ。
それは宇宙意思が選んだワイルドカード――横島忠夫を戦いに導くこと。
そう、ワイルドカード。
まさしく彼こそがあの大戦において真の英雄。
『美神令子』は前世の縁を持って彼と出会い、彼はそれにより霊能力に目覚め、コスモプロセッサと同じく世界の因果律にすら働きかける万能霊具文珠を手に入れ、そして運命の舞台――アシュタロス大戦に至ったという訳さ。
全ては宇宙意思の思惑通りにね。
だが、ここで一つ思わぬことが起こった。
横島君の戦う理由さ。
彼は今まで『美神令子』の戦いに巻き込まれ強制され、引きずられて無理やり参加させられてきた。
彼自身は戦い嫌いの気弱な青年だ。
そう、本質的な部分では決して逃げない強さを持っていたとしても。
とにかく、彼のこれまでの理由はそのほとんどが『美神令子』だった。
だからあの大戦でもそうだろうと考えていた。
だが、違った。
彼はあの大戦でとある魔族に出会った。
――蛍の化身。魔神の娘。世界の敵。
本来なら噛み合わないはずの歯車。それがどういう訳か噛み合った。
そして彼は彼自身の意思で戦う理由を得た。
それにより『美神令子』の持っていた彼を戦いに導くという役目は、彼女に引き継がれた。
少なくともその時、その戦いにおいて彼の理由の半分以上は彼女だった。

おや? どうしたんだい、そんな顔をして?
ああ、これから先の私の言葉の予測がついたんだね。やはり君は頭の回転が速い。
お堅い聖職者たちではこうはいかないからねぇ。
くくく。褒めているんだよ。
さて、話を続けようか。 

『美神令子』の役目は、その魂が持つエネルギー結晶を奪われた時点でほぼ終ったのさ。
そして世界の敵たる魔神はかの英雄が見事打ち倒した!
愛しい人の犠牲を持って、ね。
そして……もう解るだろう。
彼女には何の役割も無くなったのさ。
エネルギー結晶も抜き取られ、魔神も滅んだ。
危機は去った。
宇宙意思が彼女を守る理由はどこにも無くなった。
よって彼女は特別でもなんでもなくただ霊能力に秀でた、人界においては有名な人間。『美神令子』になったのさ。
その大戦より後は、運も天も全て己だけで味方につけなければならず、前のような奇跡の大逆転、起死回生の一撃、都合の良すぎる展開もありえない。
もちろん、何もしなくても人の心を繋ぎ止めておけるなどと言うことも無い。
ああ、彼女に魅力が無いと言っているわけではないよ。誤解しないでくれ。
ただ、今までのようには行かないと言っただけで。

回りくどい言い方をするなって?
物事には順序や手順が必要だ。私はそれに従っているだけだよ。
前置きというものはどんなものにも…長すぎる?
結論を急いでは大事なことを見逃すよ。
くくくくくぅ、本当に君は頭が回る。確かに私は娯楽の一環として相手をしているよ。
だが、それがどうしたと言うんだい?
…その通り、最後まで心行くまで語らせてくれ。このラプラスに。
なに、君の知りたい答えもちゃんと教えるさ。
ならば――続きを。

彼女は変わらなかった。
あの大戦を経験しても。何一つ。
それは何も学んでいないと言うこと。それは何も反省していないと言うこと。
大きな翼で守られていたヒナにも巣立ちの時はくる。
己を守る翼はいつまでもあるわけではないし、それは決して己自身の力ではない。
彼女は気付かなかったのさ。
宇宙意思の加護があったことにも、それが無くなったことにも。
今まで通り自分に自信を持ち過ぎて、何が起こっても平気と思い込んで。
そう、好き放題やったのさ。
傍で見ている、巻き込まれる者のことなど考えもせず。
だから去っていったのさ。ついて行けなくなってね。
君は気付いていたかい?
文珠使いの心の傷に。
彼はずっと苦しんでいた。恋人を犠牲にしたことについて。
『美神令子』は気付か無かった。
気付かないまま、彼の前で暴言と失言を繰り返した。
いくら彼が寛大でも、限度というものはある。
それにより『美神令子』に持っていた好意は失われ、代わりにあの蛍魔に対する執着心が増した。
コレが彼の出て行った理由。
彼が戻ることはもうないよ。別の時節の未来であれば彼と『美神令子』が結ばれもしたがね。
少なくともこの世界ではありえない。
なぜなら彼はこれから三年後に狂気に近しい愛を持って、かの蛍魔を蘇らせるのだから。
なんとも素晴らしいことじゃないか? くっくっく……。
そして九尾の少女。彼女が出て行った理由も至極単純。
九尾はもともと、権力者などその時代その時代の力ある者の元にいて庇護を求める。
大人しく『美神令子』の元にいたのもそれが理由だ。
九尾は敏感だ。己の安全について。
彼女は感じ取っていた。「もはやココは安全ではない」とね。
見限られたのさ、早い話。
残りの二人が出ていった理由はわざわざ言わなくても解るだろう。
そして他の仲間たちとも以前のように頻繁に顔を合わすことも無くなった。
自分は一人でも平気だと意地を張り続け、そうして結局本当に独りになった。

彼女の未来。
それは明るいものではないよ。決してね。
裁判ではなんとか勝ったが、GSとしても人間としても信用を失った。
当然GSのライセンスは取り上げられ、営業停止。
あの大戦の輝かしいヒロインでもどうにもならない。
むしろ本当に活躍したのかとしつこいマスコミに疑われる始末。
彼女に好意を寄せ、彼女が兄のように慕っていた彼も後輩の魔女とめでたく結ばれていて、彼女によって来る男は金目当てばかり。
確かに彼女にも人に愛される美点はあるが、それはとにかく解りづらい。長く付き合わねば見えてこない。表に出ない美点がなんの役に立つかね?
『美神令子』はそれ以降他人を寄せ付けず金で雇った人間だけに囲まれて、寂しい一生を過ごす。
これが、私の見た彼女のこれから。

おやおや。ずいぶんとひどい顔色だね。まさかここまでとは思わなかったんだねぇ。
だが真実だ。これから訪れる絶対なる悲劇さ。
君も絶望する覚悟があってここを訪れたのだろう?
違うかい――美神美智恵君?
彼女がああいった人間になったのは君の育て方にも原因があるんだよ。
来るべき時のために、やがて自分がいなくなっても一人で立てるように。戦えるように。強い意志を持つ人間に育ってほしい。そう願って…失敗したねぇ。くくくくく。
確かに強くはなったよ。だが同レベルで意地も育った。
君の望みの結果がコレさ。彼女はあの大戦では生き残ったが結局その人生は終ったも同然。
まったくもって傑作だ。

どうすれば良かったのか?
簡単なことだ。
控えればよかったのさ。ほんの少し我慢すればよかった。自分の行いを、ね。
そうすれば彼らは去らず、『美神令子』も孤独にはならなかった。
だが今更だ。もはや彼女を救う術は無い。
まぁ、君のお得意の時間移動で過去に戻って過去の自分に注意を促せば……。
おや、せっかちだね。もう行ってしまった。

くっくっくっ。
慌てても事態は好転しないと言ったのに。くくくくくくっ。
時間移動は禁止されている。
神族に許可を取りに行ったところで、無駄だ。
いくらあの大戦で活躍した『美神令子』のためとは言え、時間移動は認められない。
それでも無理に行えば――。
雷のエネルギーを時間移動に廻せず命を落とすか、時間移動にはならず次元移動になってしまう。もしくは時間の狭間に落ちて永遠にさ迷うか、消滅する。
美神美智恵はその可能性に気付かない。
なぜなら、今まで成功してきたから。その力に目覚めてから一度の失敗も経験していないから。
時間移動などと言う危険極まりない能力が何のリスクも無しで制御できる。それは本来ありえないこと。
そう、美神美智恵もまた宇宙意思の手の平で踊っていたに過ぎない。
まったくとんだ茶番劇!
これが自分を甘やかして、甘やかされ続けたものの末路。
彼女たちは反省も無く、学習も無く、成長も無く。
傲慢に育ったプライドで全てがうまくゆくと信じきる。
なんと哀れで滑稽か。
そんな風にした宇宙意思にも責任はあるのだろうけどねぇ。
だがやはり自分自身の思い上がりが原因だ。
彼女たちにもう少し周りを思いやる心があれば、自分を省みることが出来れば――結果は違ったのだろうがね。
ああ! けれどこの世界においてはもう……。
最後に残った『美神』たる小さな少女に期待するとしようか?

さあさあ、これで前知魔ラプラスの話はおしまいだ!
最後まで話しを聞くべきだった愚かな観客よ! もう二度と会うことの無い客人よ!!
参考になったかね?
……くく、くくくくく! はぁっ〜はっはっはっ!!


END

後書きという名の言い訳

…頭の悪い人間が無理して書いた話。法律? 何それ?(大バカ)
目標・誤字脱字無しで修正しない文章! 志、低っ!!(でも、修正しろ!と言う方、教えて下さると嬉しいです)
この世界の美神さんは一言で表すと「やっちゃった人」。覆水盆に還らずとかこぼれたミルクは戻らないとか後悔先に立たずとか。そんな人。
そして横島は微妙に狂ってます…。ルシオラ関係で完璧に。それ以外はまともなので仲間は何も言いませんがタチ悪い。
六道とGS協会が裏で手を回したのは一応自分たちがたたかれないための打算も有です。
書きながらオチに困ってこうなりました。ホントにダメだな、自分。
どこかで見たような設定で稚拙な文ですが、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!


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