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▽レス始

「お姫様抱っこと彼女の話(GS)」

rids (2005-11-13 18:46)

これは、その、なんと言うか不味いと思う。

布団に潜り込み、朝だと起こす横島の声に耳を塞ぐ。

何でこんなことになったのだろう?

元はといえば、昨日の出来事が原因だった。


何のことは無い、普段通りの除霊だ。そう思っていた自分の手落ちである事は、間違いないと思う。

全滅させたと思い、油断した瞬間、不意を突かれた。

場所は廃工場、だから置かれている重機には当然無警戒だった。

それが突然動き出し、自分に向かって先に巨大なショベルの付いたアームを振り下ろしたのだ。

―――後で聞いた話だが、稀に機械に取り付きこちらの目をごまかす悪霊というものも存在するらしい。

死んだ。間違いなく死んだと思った。

おキヌちゃんが悲鳴を上げているのが見えた。そんな暇があるのなら助けて欲しい、と思った。


刹那、横抱きに掻っ攫われた。

嗅ぎなれた匂い。これだけで、もう何も心配要らないと理解できてしまう匂い。

「よ。大丈夫か?」

こちらを気遣う横島。だが、その口調はあくまでも軽い。

あまりにも気安いため、たった今自分が死に掛けていた事が何かの冗談だったのかと思ってしまう程だ。


そこで気付いた。自分は横島に抱っこされている。左手は自分の背中、右手は自分の膝裏に回されている。

これは、俗に言うオヒメサマダッコと言うのではないだろうか?以前本で見たことがある。

・・・・・なんだろう、胸の奥がこうほわほわとするようなこの感じは。ずっとこうしていたいと思わせる、途方も無い幸福感。

だが、鉄塊が床に落ちる轟音に水を差される。おのれ無粋な、無機物の分際で。

見れば、先ほど自分へと振り下ろされたアームが根元から真っ二つにされ、滑らかな断面が覗いている。

自分を助けた時、横島によって切り落とされたらしい。恐ろしく鮮やかな手口。

霊波刀を使用したことは間違いないが、発現から対象の切断、解除までのプロセスがとんでもなく速い。

向こうで美神が複雑そうな顔をしている。安堵が二割、全く動けなかった自分への自責が二割、何となく気に入らないが六割といったところか。

「待ってろ、すぐ片付けっから」

言って床にひょい、と降ろされる。残念、もう少し続けて欲しかったのだが。


横島は本当にあっという間に片付けてしまった。美神達が加勢する暇すらなかった。


最近横島は何と言うか、安定してきたと思う。

平均的に一定以上の実力が出せるようになってきているのだ。

以前はどうにもムラがあり、ポテンシャルだけなら中級魔族すら相手に出来るであろう力を持ってはいたが、その実力が発揮されることは稀だった。

確かに文殊は非常に強力な能力ではあったが、どうにもそれに頼ってしまい文殊が切れた途端に追い込まれてしまう事も少なくなかった。

さらに生来のそそっかしさが加わり、お世辞にもGSとしてはとても褒められたものではなかったのだ。

美神に「だからアンタは半人前なのよ!」などと言われてしょげているのを見たことも一度や二度ではない。

だが、最近の横島はそういう“甘さ”のような物が無くなって来ている。

敵が消えても油断しない。緩め過ぎず、張り詰め過ぎず。

常に最悪の事態を想定し、誰に何が起こっても助けられる体制を崩さない。

あくまで文殊は切り札。使うならば最も効果を発揮できる局面で。

普段は相変わらずのバカでスケベだが、総合的なGSとしての実力は美神令子に決して劣るものでは無いと思う。

事実、最近では彼女が重要な局面で横島に頼ってしまっている事も多い。本人は認めないだろうが。

しかし、このような合理的思考に至るまでの下積みがいつの間に横島の中に形成されたのかは全くの謎である。

自分は恐らくこれは先天的なものではないかと見ている。以前会った横島の母親は、横島の親であることが信じがたいほど聡明な人物だった。

そして父親の方は横島と同じくバカでスケベだった。少し鬱陶しかった。

とにかく、横島は既にGSとして一流を名乗れるだけの力を持っている、という事だ。


と、理屈っぽい事を延々と考えて気を逸らしてきたが、正直もう限界だった。

何しろ自分は横島の事など何とも思っておらず、あしげしく彼の部屋へ通っているのは食事をたかる為である。

表向きはそういう事になっている。

だから、彼女らの前ではあくまで自分は横島自身に関しては無関心を装わねばならない。でなければ美神は自分が横島の家を訪れる事を許しはしないだろう。

いっその事何もかも打ち明けてしまおうと思わないでも無いが、自分達の生活が狼に引っ掻き回されるのは困るし、元幽霊少女は意外とゴリ押しに出そうで怖いし、美神は何をどうするのか全く想像が付かないのが殊更恐ろしい。

第一、横島がボコにされるのは嫌だし。いや、確かにすぐに再生するけど。

とにかく、もう我慢できない、そう思った。何しろさっきあんなに格好良く助けて貰ったというのに、それから手の一つも握っていないのだ。

なんというか一人で舞い上がってしまっているようでどうしたものかとも思うが、お姫様抱っこをしてもらってから胸の奥がほわほわしっぱなしだった。

これを抑えることなど出来るものか。これはもう何としても横島に責任を取ってもらわなければ。


横島は重機をバラしてしまった件で少々絞られたが、美神もあの場は仕方が無かった事は理解していたのだろう、多少の説教で開放された。

帰宅した横島に遅れる事十分、横島の家に行ってくる、と出来る限りそっけなさそうな声を装って美神に告げた。本当は一緒に帰りたかったのだが、不信を買う事は少しでも避けたい。

美神はあまりいい顔はしなかったが、渋々許可を出す。

これも自分の信用の賜物である。ここで言う信用とは美神から見た『横島クンとどうにかなっちゃわない確率』を指す。

自分の場合、普段の行動は勿論の事、この何と言うか非常に未成熟な自分の肢体も、高い『信用』を得る一助になっている事は疑いようも無い。

それにしても、デカい。同じ女だってのにこの差は一体何なんだ。シリコンか。シリコンなのか。

ちなみに、現在もっとも信用が無いのはおキヌちゃんである。なるほど、確かに目ざとい。

かつてはよく言えば清楚、悪く言えば地味であった服装が随分と華やかになったのは彼女の友人の手によるものだそうだ。

ですが美神令子さん、あなたが最近買ったまるで人類の限界に挑戦するかのような形状の下着。まさか日用品だなんて言いませんよね?


事務所を出て、全力で走り出す。どうせ家に着けば必ず会えるのだが、少しでも早く会いたかった。

こちらを呼び止める横島の声を無視して走る。悪いが後にして欲しい、今は一刻も早く横島に追いつかねばならない。

・・・・・・あれ?


どうやら事務所を出たところで待っていてくれたらしい横島と夜の道を二人で歩く。

事務所が見えなくなった辺りでこちらから手を繋いだ。

あまり横島の部屋以外でこういった接触をした事は無かった為か、横島は少し驚いていたようだが何も言わずに握り返してくれた。

自分の気持ちに誰かが応えてくれる。たったそれだけの事で、舞い上がるような幸せを感じる。今までの自分の中で、これほどの幸せを感じたものがいただろうか?


ようやく家にたどり着く。普段ならこのまま歩き続けていたい、と考えるところだが、今日は事情が違っていた。率直に言えば、もう我慢の限界だった。


だから、玄関を閉めたところで有無を言わさず押し倒した。

ここじゃ嫌ーーッ!等と言って悲鳴を上げる横島。始めてしまえばどこだって同じだ。嫌よ嫌よも好きのうち、という訳で。

いただきます。


そして、今に至る。

まともに横島の顔が見られない。普段はとてもしてやらないような『あんな事』や『こんな事』までしてしまった。もうお嫁に行けない。横島に貰ってもらうからいいけど。

いや、違う。のろけている場合ではない。大体何だこの様は、ちょっと助けてもらったくらいでのぼせ上がってしまうとは。

昨日自分が彼を守ろうと誓ったばかりだというのに。でもあんな風に助けられたら女の子なら舞い上がってしまうのも当然だと思う。えへへ。


・・・ダメだ。思考が支離滅裂になり、全く働かない。大体何なんだ、このキャラは。明らかに別人ではないか。ピンク色に染まった脳ミソに辟易する。満足させてやっただろう、しっかり働け。


実は昨日のアレはごく稀に表に表れるもう一つの人格の仕業だという事にしようか。いや、横島のことだ、本気にしかねない。却下。

悪霊に取り憑かれていたというのはどうだろうか?霊能者相手にそんな嘘が通じるものか。却下。

・・・・・・殴ったら記憶を失くしてはくれないだろうか?って美神じゃあるまいし。却下。


などと愚案が浮かんでは消え、浮かんでは消え、妙案が浮かぶ事も無く十五分が経過。

横島が部屋を出て行こうとする気配がする。今日は平日だ。ならば、当然学校へ行くのだろう。彼は出席日数というものが足りていないらしく、遅刻すらも厳禁であるそうだ。

帰ってくるのは早くても午後四時前後。ならば、これから八時間以上は会えないという事になる。

何時も通りの事だというのに、何故か酷く動揺する。

何か、何か言わなければ。

「―――ヨコシマ」

横島が足を止める気配。恐る恐る布団から顔を出す。

「その・・・」

恥ずかしい。多分自分の顔は耳まで真っ赤だ。

「・・・・・いってらっしゃい」


後書き


今回は彼女に何かあったようです。
前回と同じく出来る限りセリフを使わずに書いてみました。相変わらずバレバレですが。
『何も無い日の彼女の話』と同じ要領でお楽しみください


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