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!警告!ダーク有り

「人造天使(絶チル)」

こーめい (2005-11-01 01:24)

※ダークというよりダメダメです。勢いで書き上げたので勢いを付けて読んでください


瓦礫の街。
倒壊して横倒しになったビル。
斜めに傾くその上で、皆本と薫は相対していた。

「何でだ! 何でこんなことを!」

強い風にもかき消されず、その声は余さず耳に届く。

「しょうがなかったのさ。他にどうしようもなかった」

(嘘だ。他にもやりようはいくらでもあった。自分は単に、簡単で、楽な道を選んだだけ)

内心の欺瞞を侮蔑する心をすら笑みに変えて見せる。そして、そんな毎日に終わりを告げる目の前の相手が愛おしくてたまらない。

二人の間には何も遮るものはない。観客も居ない。ただ、砂埃が横切るだけ。

「そんなはずは無い! もっと何か…!」

しつこく食い下がる言葉は、しかし、首を横に振る仕草で遮られる。

「例えそうでも、もう、遅いんだ。やり直すには、何もかも」

その言葉は、相手の口をつぐませるに十分な重みを持っていた。
いまや世界の人口は激減している。文明レベルもかなり戻らざるを得ないだろう。
今更、それを引き起こした当事者が何を言っても取り返しは付かない。

「じゃあ…何が目的で、こんなことを」

その言葉も、正確には意味が無い。
理由がどうあれ、もはや犯した罪はぬぐえないのだ。
しかし、残る人類の誰も、その破壊の元凶が何を考えて行動を起こしたのか知らない。
それを知る権利は、自分には無いのか。そんな意思も込めて。

「彼女」は再度、叫ぶ。


「答えろ、皆本! …いや、破壊の魔王!」


絶叫する薫の前にいるのは、世界を無差別に襲い、人類の最大の敵、破壊の魔王としてその名をとどろかせた、元バベル職員、皆本光一。
悲痛なその言葉に、皆本はただ、微笑を向けるだけだった…。




その歯車の狂いは、何が元だったのか。
兵部に対抗するために、彼の超能力を研究したことが原因だったかもしれない。
ECM、ECCMと続くいたちごっこに、別の観点から解決を図ったのが元凶かもしれない。
あるいは、あの未来の予知を見せられたときからすでに兆候は始まっていたのかもしれない。

燻っていた気持ちが、形を与えられ、現実を変えるだけの力を持ち始めたのは、ほんの数年前だ。
皆本は、バベルにもデータを渡さずに完全に自分で作り上げた機械を使って、世界を破壊し始めた。

その装置の名は、ESP発生装置。


超能力には、超能力者に固有の波がある。
ECMはこの波を打ち消す位相の波を発生し、相殺するものだ。
一般的なものは複数のランダム位相、ランダム波長を滅茶苦茶に混ぜてジャミングする。個人相手に調整されたものは、それを打ち消す逆位相の波のみ流す。
負の超能力を発生しているともいえるこの装置だが、実際には超能力を打ち消す効果しかない。
ESP波だけでは影響は表面化せず、人間の意志が介在する必要があるとの推論はあったが、それ以上研究するものはいなかった。
エスパーとノーマルの間にある差を埋めるには、ECMがあれば十分だからだ。

だが、皆本は超能力を発生させることを可能にした。
その元となったのは兵部だ。
彼はECMも効かない、複数の能力が使える超能力者だ、と言われていたが、実際は違った。
彼は、固有のはずの自分の波を変化させられる能力者だったのだ。

ECMと全然違う波長に自分を調整すれば、その効果はほとんど無くなる。
ジャミング波がランダム変化しても、それに対応して自分を変化させることが可能だ。
さらに、波長や波形を変える事で、発揮される超能力の種類を変化させていることも突き止めた。超能力に波があるのではなく、波の形状から発生する現象が超能力だったのだ。
そしてさらに元となる、ESP波変化能力自体を生み出している隠れた波を発見し、打ち消すことで、兵部は能力を封印されたのである。

皆はただ皆本のこの研究成果を純粋に賞賛し、喝采を浴びせた。
だが、皆本はこの能力に深く着目していた。
兵部を対象に調整されたECMで発生する波の位相を逆にする。これは兵部の能力、波長変化能力の逆の逆の位相。同じ能力を持つ波だ。
…理論上、対象の超能力を変化させられる。

結果、彼はECMを改造し、「対象のESP波を好きに変化させる能力を持つ波」を発生する装置を生み出した。

そしてまた別の研究で、皆本はエスパーとノーマルの本質的な違いを理解した。
ノーマルというのはESP波が静寂の状態なのだ。波の元となるものが無いわけではない。
生まれつきこの波を励起できる者がエスパーとなる。機械ではこの波の元が無いため、超能力は発現しないのだ。

ちなみに、ECMの波をぶつけただけではノーマルはエスパーになれない。
位相が逆なだけの同一ESP波であるはずだが、それは外部から観察した場合。波が外部から脳内に入る際に変化させられるのだ。

それを、先のESP波変換波なら乗り越えることが可能なのである。
この時点で、ESP波変化装置はESP発生装置となりうることが判った。

その装置で、彼は自分自身をエスパーに変えることができた。
そして波の強さは、調整した別のECMで同じ位相の波を合わせることで増幅できる。上限は無い。
生粋のエスパーと違って波の原動力が外部依存のため装置は必携だが、この時点で彼はエスパーとノーマルの壁を飛び越えたのである。


これならエスパーとノーマルの差はなくなる!


歓喜した皆本だが、そこで彼は気付いた。
当然ながらこの装置は、兵器に転用されうる。
ECMで打ち消すことは可能だが、それがない場所では大きな脅威だ。
現状、ECMで守られているのは政府など重要な場所だけだ。
今のエスパー犯罪者が数百倍数千倍に増えたとして、世間は対応できるか?

民間人全てがエスパーになることは無理だ。この装置はいくら安価にしても各家庭に配れる値段ではない。
また、超能力を悪用することの全面禁止を、全人類が受け入れられるはずも無い。必ず悪用する奴は今より沢山出る。
そして、悪用する奴が増えれば超能者への批判は厳しくなるだろう。

自分は、破滅の未来を自ら切り開いてしまったのではないか?
皆本は恐怖し、その打開策を必死で考え…ある結論に達した。

それが、今の彼の姿、破壊の魔王なのである。




「手当たり次第に世界中で人を殺して…!」

ノーマルもエスパーも、等しくその対象として。彼ら共通の敵であることを知らしめて。

「世界中の政府は完全に麻痺している! あんたの破壊した地域に、食料を送ることもままならない!」

人類の総数を減らし、かつ、超能力の悪用の恐怖を強く印象付けて。

「何であんたがいきなり超能力を使えるようになったのか、何でECMも効かないのか、もう研究する者だっていない!」

バベルは真っ先に破壊された。他国の超能力研究機関も同様だ。…この装置が現状で生まれる可能性は潰された。

「そこまで沢山の命を奪って、あんたは何がしたかったんだ! 答えろ! 皆本!」

かつての皆本を知る薫は涙と共に絶叫する。
もはや、皆本が今からその罪を悔いても、死刑は免れない。
例え自首したとして、ろくに政府が活動していない現在、彼を待つのは壮絶なリンチだろう。
彼の運命は、自分、または自分以外全員の、どちらかの死しかありえなかった。

「まだ、僕の希望は実現していないんだ」
「何!?」
「だけど、もう少しで実現する。理想とした世界がね」
「…おまえ…!」

少しは嫌らしい笑みが出来ただろうか。皆本はそんなことを危惧する。

「…させない。おまえに、そんなことさせない」

案の定、薫は、彼の望みが世界征服のようなものだと思ってくれたようだ。
いや、実際そうかもしれない。自らが統治するのでないとはいえ、世界を統合させたいのは確かだ。

「だって。知ってたか? 皆本。あたし、あんたの事…」

僅かに口の端を笑みに変えた薫の震えるような声が、皆本にはかつて見た予知を思い起こさせる。


破壊の女王。世界がエスパーとノーマルに分かれ、殺しあう世界。相対する自分達。薫を射殺しようとする自分…。


「好きだったんだよ?」
「…知ってたさ」
「…え?」

そう返されるとは思っていなかったのだろう。薫のきょとんとした顔が、皆本にはたまらなくおかしかった。

「わ、笑うな!」

手のひらを向けられて脅される。ノーマルなど一瞬で殺せるテレキネシスを放てるその手が、僅かに震えているのが見て取れた。
当然だ。この辺り一帯にはジャミングが掛かっている。ここに来るまでにそれを実感してきたはずだ。
例え超能力が使えても、今の彼には通じないだろう。どんな超能力も好きな強さで発現させられるのだから。

「いや、悪い。…僕も、お前が好きだったよ。三人で一番手がかかったけど、その分思い入れも強かった」
「え…あ、あれ? その…どういたしまして…」

またも意外だったのだろう。薫は顔を真っ赤にしてしまう。
その言葉の最後は、ごにょごにょと呟きになって風にかき消される。

だが、そんな場合ではないと気を取り直してキッと皆本をにらむと、彼女は叫んだ。

「だ、だから、そんなあんたを、ただの悪者になんてさせない! ひっ捕まえて、紫穂にスキャンしてもらって…真実を探り出す!」

まだ、これが皆本の本心からの行動で無いと信じてくれている。そのことが嬉しくて、また皆本は微笑む。そして。

「そうはいかない。もう後一歩で完成するんだ。お前といえども…邪魔させない」

その言葉に表情を凍りつかせる薫を見て、心が痛む。
同時に、これが絶好の機会だと理解する。

「じゃあな。薫」
「えっ…」

皆本は不意を付くように、無造作に腕を伸ばし薫に向けた。
攻撃される! 反射的に薫は、体を覆うようにテレキネシスを発現させようとして…


「あっ!?」


…ぐしゃっ…


その力が、自分の制御を離れて暴走し、皆本を押し潰すのを、呆然と眺めていた。




(これで、完成か)

バベルで過ごした日々。あの三人との、騒々しくも楽しかった毎日。
もはや僕にとっては、あの三人以外のエスパーもノーマルも無価値になっていた。
だから僕は、あの三人が幸せに暮らせる世界を望んだ。

薫には本当に悪いことをした。
最後の超能力の暴走、あれはわざと引き起こしたものだ。
周囲のジャミングは直前に切って、ESP発生装置で、薫の波を増幅する方向に僕の波長を合わせてやる。
他人の超能力をキャンセルでなくブーストでき得るなんて、今は想像もつかないだろう。
あの心理状態では暴走してもおかしくない。だから、僕がこうやって自殺したとは思うまい。

これからの世界で。
復興に追われ、エスパーとノーマルはいがみ合うことを避けるだろう。
人口を減らしたことで、その意思が隅々まで伝わる。

全人類の敵、破壊の魔王。
これを倒したことで、彼女、明石薫は、英雄として敬われるだろう。
激減した人類は、世界の復興のため、彼女を排除するよりも祭り上げる方を選ぶはずだ。
おそらく彼女やその仲間は、今後その身を脅かされることは無い。

ESP発生装置は、その理論を隠れ家に残しておいた。
いくら発明を阻止しようとも、おそらくいずれ誰かが発明してしまう。
しかし、破壊の魔王がそれを使っていたとなれば、その技術は最高レベルの封印がなされるはずだ。第一、今やあれを開発できる工場は無い。
いずれ技術は世界に漏れてしまうだろうが、そんなものが広まるのは破壊の魔王の恐怖が薄れた頃だ。
彼女らの人生がそれにより左右されることは無い。


そして、これらの思考を誰かに読まれてはならないから。
僕は、テレパスが居ない場所で、テレポーターが輸送できない場所で。
薫に殺されなければならなかった。




消えていく意識の中で、最後に浮かんだのは、泣き叫ぶ幼い頃の薫の顔。

(彼女が僕を殺したことを、罪悪に感じる必要は無いんだ)

だって、僕は、彼女を殺す未来が嫌でたまらなくて、彼女に殺される未来を選んだ。
彼女に、好きな人を殺す嫌な思いを味あわせることを選んだ。
彼女の心の中に、ずっと残ることを望んだ。
自分が嫌な思いをしたくないだけの、卑怯者だ。

(疲れたな…)

いくら僕にとって価値がないとはいえ、無関係の人々を殺し続けたことは、僕に心労を強いていた。
発狂する前に薫を英雄にすることが出来たのは、僥倖だ。

(いや、英雄は違うな。僕が、作り上げたのは…)

思い出す。かつて、バベルが健在だった頃。
予知能力者らが、彼女らの未来を二通りに予知して見せたそれは。
悪魔と、そして。


天使。


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