『妙神山の人たち』
神が住まう地、妙神山。
そこはGSを目指す者、GSになった者もめったと修行することが事ができぬ、地上世界最大の修行場である。
そこには三人の武術の達人がいた。
音に聞こえた神剣の使い手、武神兼管理人こと小竜姫。
神界でも名の知れた斉天大聖老師ことハヌマン。
小さな身体に大きな魔力を秘めた魔族の少女、パピリオ。
彼らに修行をつけてもらおうと今まで何人もの人間が妙神山を訪れたが、ある者は鬼門に門前払いされ、またある者はその地の修行に耐え切れず逃げ出した。
多大な霊力を得たは良いが、一生涯身体を満足に動かす事も出来ぬようになった者もいた。
妙神山から帰って来た者は皆口を揃えてこう言った。
「もうあそこには戻りたくない」と。
しかしその辛い修行場で既に二年もの間、そこに住み込み修行している一人の若者がいた。
彼の名前は横島忠夫。
この物語の主人公である。
「横島さぁぁぁん。でてきなさぁぁぁぁぁい!!」
その日も小竜姫は激怒していた。
朝、まだ日が昇って間もない時間に彼女は目を覚ます。
簡単に顔を洗い、彼女は朝食を作るために台所に立つ。
そして今日の朝食は何にしようかと頬に手を当てて考える。
(今日は昨日の残りの混ぜ御飯とわかめの味噌汁、焼き鮭と、後は…あぁ、卵が残ってましたっけ。それを玉子焼きにしてっと、それと沢庵でいいですね。)
手早く四人分の朝食を作り茶碗を出すと同時に斉天大聖ことハヌマンが起きて来る。
「ほう、いつもながら手際が良いのう。」
「おはようございます、老師。もう少しでできますのでつまみ食いせずにおとなしく待ってて下さいね。」
切り分けた玉子焼きに手を伸ばそうとしていたハヌマンにぴしゃりと釘を刺しながら手際良く御飯を茶碗に盛っていく。
わかったわかったと手を振りながら、パピリオを起こしてくると言い残しハヌマンは行ってしまった。
「これで、よしっと。さて、横島さんを起こしに行きますか。」
少し嬉しそうな顔をして、それにしてもなんで師匠の私が弟子の横島さんを起こしに行くんだろうと考えながら歩く小竜姫。
眩しい太陽の光が当たる長い廊下を歩きながら、改めて今日一日頑張りますかと気合を入れているうちに横島の部屋の前まで辿り着く。
部屋のふすまを開ける前に軽く身だしなみをチェックする。
(寝癖は…ついてないわね。服も…いつもどうりだし、うん。大丈夫ね。)
手早くチェックを終えると軽く深呼吸。
そして息をゆっくり吐き、ふすま越しに横島に声をかける。
「横島さん、朝ですよ。もう五時ですから御飯できてますから早く起きてください。」
返事は無い、というよりもとより期待していなかったが。
「横島さ〜ん、入りますよ〜。」
静かにふすまを開け薄暗い部屋に光を入れる。
そこには幸せそうに眠る横島の姿があった。
知らずに顔が微笑む。ずるいですよ、そんなに幸せそうな顔をしてるなんて。起こしたくなくなるじゃないですか。
しかし心を鬼にして起こさなければならない。
そう思いながら再度声をかける。
「横島さん、朝ですよ。起きてください。」
「んー…あと、五分…。」
なんともお約束的な言葉に苦笑しながらもせっかく作った御飯が冷めてしまっては元も子もない。
あなたに一番食べてもらいたいのに。
今度は身体を揺らしながら声をかける。
「ほ〜ら〜、お〜き〜て〜」
「ん〜〜、起きる〜、起きますから〜〜。」
流石に揺らされては寝苦しいらしく、上半身をゆっくり上げて小竜姫の方を見る。
「おはようございます。横島さん。」
「あ〜、おはようございます。小竜姫様。」
少し顔を赤くしながら、朝の挨拶をする。
流石に寝起きを好意を持っている女性に見られるのは恥ずかしいらしく、目が泳いでいる。
先に言っておくとこの二人はお互いに好意を持っているが恋人同士というわけではない。
どちらかが一歩踏み出せば良いのだが、二人とも恋愛ごとにはかなり奥手である。
小竜姫は700年間、妙神山に老師と二人でいたため恋をしたこともなかったために、どうしても後一歩が踏み出せない。
拒絶されたら彼はここを去ってしまう。
それだけは嫌だった。
横島は最初小竜姫と会った瞬間いつもの様に
「生まれたときから愛してました!!」
と叫びながら、小竜姫に飛び掛かった。
…無論、その場で小竜姫に叩き伏せられたが。
その日から半年間、毎日の様に小竜姫の着替えや風呂を覗き見しようとするたびに張り倒された横島はある日、ふっと気がつく。
(街に出たらもっとかわいい女の子がいる。もしかするとあんなことやこんなこともやらせてくれるかもしれん。取り戻せ、俺の青春。)
考えは最低だったが、横島は本気だった。
その日のうちにハヌマンと小竜姫に外に出て行く事を伝え街に下りていった。
小竜姫の寂しそうな顔を見ない振りして半年前と同じようにナンパをしまくったがどうも楽しくない。
女の子に声をかけようとするたびに小竜姫の寂しそうな顔が目に浮かびどうしても躊躇ってしまう。
そんな時一人の少女が道路に飛び出してくる。
何人かは気づいたようだが皆身体は動いていない。
信号は赤、車は迫ってきている。
躊躇っている暇は無かった。
横島はすぐさま少女に駆け寄り、左腕を腰に、右手で少女の頭を守るようにして胸に抱いた。
間髪を容れず飛び出した歩道に転がり込む。
小竜姫とハヌマンによって鍛えられていた運動神経と刹那の判断能力。
その時、改めて皆何が起こったか理解する。
「おおおぉぉ、兄ちゃんすげぇ!」
「お手柄だぜ、坊主。」
「すごいね、あの子。」
「うん。すごいすごい。」
沸きあがる歓声。泣きじゃくる女の子。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。」
何が起こったのかよくわからないのだろう。
知らない人間に話しかけられた事も原因かもしれない。
しきりにごめんなさいと謝り続ける少女を宥めつつ、どうして一人で道路にでたのか訊ねる。
どうやらお母さんとはぐれたらしく探しているうちに赤信号に気づかず道路に出てしまったようだ。
「大丈夫だったか、怪我は無かったか?」
と尋ねると、うんと泣きながら答えた。
その時一人の女性が飛び出してきた。
「玲子!」
「お母さん!」
玲子と呼ばれた少女はばっと横島から離れ、駆けつけてきた母親に抱きつく。
「ごめんね…玲子…、危険な目に会わせてごめんね…、一人にしてごめんね…。」
「お母さぁぁん。」
泣きじゃくりながら二人は抱きしめ合う。
(この子も怪我が無くてよかった。)
そう思いながら横島は黙って立ち去ろうとする。
「ありがとうございました!!」
驚くほど大きな声で謝辞の言葉が聞こえてくる。
首だけを少し後ろに向けると、
「ありがとうございました!!」
と頭を下げる母親と女の子。
そして笑顔の衆人観衆。
気恥ずかしくなって少し俯きながら顔を真っ赤にして笑いをこらえていた。
なぜだかすごく小竜姫に会いたかった。
(ああ、そっか。)
俺は小竜姫様に恋してるんだな。
横島は駆け出していた。
妙神山に戻った横島はすぐさま小竜姫に剣の修行を頼んだ。
突然帰ってきた横島に剣の修行を頼まれ驚きを隠せない小竜姫だったがすぐににっこりと笑って快諾した。
訓練をしている横島の顔を見て小竜姫は少し驚いた。
竜神みたいに角が生え変わったわけじゃないのに半日前と違ってすっかり男の人の顔をしちゃって。
その日から彼は覗きをしなくなった。
そして現在に至る。
あからさまに目を合わせようとしないそんな彼に苦笑しながらゆっくり立ち上がる。
「さあ、茶の間に集まってください。」
「すぐ行きますって。」
苦笑いをしながらそう言うが横島は布団から出る気配が無い。
「横島さん、布団から出ないと動けませんよ?」
「大丈夫です、二度寝はしません。先に行っててもらえますか?」
おかしい、何か隠している。
そう直感する小竜姫だったが、まあいいかと思い早く来てくださいねと言い残し部屋から出て行こうとする。
その時、
「ふむ、おかしいのう…。小竜姫、パピリオは部屋におらんかったぞ。」
「!」
(じじい!!)
ハヌマンが突然現れ地雷を落とした。
そして小竜姫がつかつかと引き返し横島の布団をばっと剥ぎ取る。
そこにはすやすやと横島のパジャマを握り気持ちよさそうに眠るパピリオの姿があった。
「う〜ん…横島〜。もうたべられないでちゅ…。」
夜中に自分の部屋を抜け出して横島の布団に潜り込んだのであろう。
まあその言い訳が通じる相手ではないのだが。
すぐさま横島はパピリオを引き離し、脱兎のごとく逃げ出した。
それを超加速で横島を追いかける小竜姫。
幸せそうに眠りこけるパピリオ。
まあいいか、と無責任な顔をしながら朝食を食べに茶の間にむかうハヌマン。
「なんでパピリオが横島さんと一緒に寝てるんですか〜!!」
「知らん。本当に何も知らないんです。信じて小竜姫さま〜〜」
700年恋をしたことの無い嫉妬深い竜神の少女と、
「なんで、超加速でも捕まえられないんですか!」
「修行してますからーー!」
17年間振られ続けて来た人間の少年は、
「やっと捕まえましたよ。」
「もっと別の方法で俺を捕まえてくださいよ。」
どのような恋物語を描くのだろう。
「小竜姫様、朝御飯冷めちゃいますって。」
「う…、後でちゃんと説明してもらいますからね。」
今日も平和な妙神山だった。
はじめまして、さすらいまんぼうという者です。
今回初めてSSという物を書かせていただきました。
妙神山の人たち。デビュー作です。
正直すごくドキドキしています。かなり反応が不安です。
でも文を書くのが想像以上に楽しかったです。
ええと、簡単な作品紹介させてもらうと
主人公 横島
高校にも進学せずに妙神山で修行していたら。
というコンセプトで書かせていただきました。
2年間の修行を行っているので人間では最強です。
文珠も使えます。
ヒロイン 小竜姫
原作どおりです。生真面目なお姉さん。
恋愛ごとには疎いです。
700年恋をしたことがありませんでしたからはっきり恋を自覚している横島君がほかの女の子と話しているのを見るとかなり不機嫌になります。
サブキャラ ハヌマン
猿です。爺さんです。偉いです。強いです。
サブキャラ パピリオ
幼女です。作品には武術の達人とありますがそれほど武術は強くありません。ちなみに寿命もありません。永遠の幼女です。
ある理由で妙神山にいます。
極力オリキャラはつかわないようにします。玲子ちゃん?まあ本筋に関係なくレギュラーじゃなかったら自分的にオッケーということで。
それでは、失礼しました。