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▽レス始

「だからこの手は離さない(GS)」

おびわん (2005-10-02 04:17/2005-10-02 04:46)


まるで世界の全てが燃えている様に見える。

そんな夕暮れ。

いつもはみすぼらしい姿を晒しているその廃墟も、
今はそのくすんだ体を往時の如く鮮やかな朱に染め、どこか誇らしげであった。

廃墟を構成する外壁であった残骸に背を預け、
地に腰を降ろした老人は、独り静かに夕日を見つめていた。


街外れに位置する此処に足を運ぶ者は少ない。
暫く前、ここに悪霊が住み着いたと噂され始めてからは尚更である。

しかし老人は此処にいた。

この場所にまつわる噂話を知らないかの如く、ゆったりと。
それもお気に入りの映画でも観ているかの様な、薄っすらとした微笑まで浮べて。


彼は沈み行く太陽から、そのまま己の身へと視線を移した。

苦笑。

この場所へ来る前とは随分変わってしまった己の体に対し、
老人は如何するでもなく、ただ・・・苦笑した。

左肩から先は無い。
多分、この廃墟のどこかに転がっているのだろう。

右足の膝から先も同じ様な物である。

腹部にはまるで漫画の様な、丸くて大きな穴が開いていた。
メロンでも楽々通せそうだ。

(でもま、良いか・・・。)

人の身では決して在りえない、永き年月を生きた者の心の軽さだろうか。

夕日のそれよりも更に赤い、原始の紅に染まった老人。
しかし項垂れた彼のその顔には、紛れも無く微笑みがあった。

その時。

地に広がる紅い海の中心に力無く座り込んだ彼の傍ら。
近くは無く、さりとて離れてもいない場所に。


彼女はゆっくりと降り立った。


「・・・まさかアンタが来るとはな。」


気配に気付いた老人が、垂れていた首を大儀そうに持ち上げ、
無言で自分を見下ろす彼女へと声をかけた。

「随分久しぶりだというのにこんなカッコ。・・・すまんな、ワルキューレ。」

「・・・余計な気遣いだな、横島。」

いつかと変わりなく冷静な、それでいて珍しく穏やかな声で。
ワルキューレは静かに応えた。


               だからこの手は離さない


「お前は死ぬ。」

あっさりと、至極簡潔に。
ワルキューレは老いたる横島に宣告した。

「お前の中に在る『彼女』の欠片。そのおかげでまだこうして話はできるがな。
だがそれも限界だ。もう既に文珠の一つすら・・・作れんのだろう?」

「ああ。」

老人の態度は変わらない。
迫る死に対してすらうろたえず、気安く返す。

まるで夕食の献立はカレーで良いかとの問いに返事を返す程度の。

「俺は、さ。もう充分生きた。生きすぎた。」

「・・・・・。」

『あの頃』、懐かしき黄金時代。
あの時代に共に生きた人間達は彼を残し、もう居ない。

「皆、満足して逝ったのに、俺だけってのは駄目だろうがよ。」

口の周りを赤く汚す血を拭おうともせず、老人はニッと笑った。

「・・・嫌では、無いのか?」

先程と打って変わり、むしろ優しいとさえ言える声でワルキューレは問い掛ける。
死が、恐ろしくないのか。生に対しての拘りは無いのか、と。

解っている。
彼女自身、解っているのだ。

この男は、この期に及んでどうこう言うような、そんな男では無いと言うことを。

しかしそれでも、ワルキューレは尋ねたかったのだ。

だが。

「・・・なぁワルキューレ。あの子、どうなった。」

「無事だ。街の方へ走って行ったぞ。助けを呼ぶつもりなのか、
ただ単に逃げただけなのかは知らんがな。」

これだ。

ワルキューレは心の中で微かに笑った。
やはりこの男は死ぬまで、いや死んでも横島忠夫なのだな、と知らされたから。

「そっか。・・・良かった。」

「・・・ああ。」

この自分が認めた戦士なのだから。

己が傷つく事で、あの少女がまた、変わらぬ明日を生きる事ができる。
そう信じ、全力で戦い、血を流しながらも守りきったのだから。

だから老人は笑って死ねるのだ。

「ジジイは死に、少女は生きる。それで良いじゃねぇか。」

「・・・そうだな。」

二人、目を合わせて笑いあう。
この男らしい。ワルキューレは心底そう思った。

「それに、最近朝○ちもせんようなってきてなぁ〜。」

「・・・とことん貴様らしいなっ! 全くっ。」

ワルキューレは呆れたように溜息を吐き、
赤々と燃え盛る夕日へと振り返った。

魂が吸い込まれそうな程に赤い。
こうして見るのは初めてだが、心に何がしかの躍動を与えられた。

魔族の、その先鋭たる軍人の私が、夕日を見て少なからず感動するとはな。

奇妙な物だ。彼女はそう思う。

あの時、この男やあの女に出会わなければ、
自分は今でもただの魔族でしかなかっただろうから。

当然、夕日を前に感傷的になる事も無かったに違い無い。

彼女は女である前に、軍人であり戦士だった。
故に、ある意味では限りなく純粋で、正直な毎日を送っていた。

そのため、彼らとの出会いは、人生を変えるといっても良い程に衝撃的なものだったのだ。

(・・・解るか? 横島。貴様は私にとって、初めて・・・。)

ワルキューレは背後の老人を意識しつつ、沈む行く夕日を眺めつづけた。
太陽はその身を大分地平に沈め、今日の役目を終えようとしている。

そろそろ夕焼けもお終いのようだ。

「・・・なぁ、ワルキューレ。」

「なんだ。」

その赤い輝きに気を取られていたワルキューレ。
背後からかけられた声に、彼女は振り返る事無く応じた。

「・・・俺は、生きたか? もし何処かでアイツに逢えた時、
胸を張って逢える位、ちゃんと生きたか?」

「・・・・・。」

言葉の節々にゴボゴボという水音が混じっている事に気付きながらも、
ワルキューレは振り向けない。

「世界は、人間は、綺麗で、醜くて。・・・だからこそ、俺はアイツに感謝したい。明日を、未来をありがとうって・・・、生きさせて・・・。」

もう既に自分でも何を言っているのか解っていないのだろう。
老人の言葉は低く、高く、掠れるようになっていく。

「なぁ、ワルキューレ・・・?」

「ああ・・・。」

矢張り振り向けず、代わりにきつく拳を握り、ワルキューレは応えた。

「お前は、生きたよ。この世界の誰よりも、この世界を、人間達を愛した。」

俯き、僅かに震える声で彼女は話し続ける。
爪が肉を破り、その拳から流れ落ちる血も気にしないまま。

「お前ほど世界を愛し、そして憎んだ者はそうはいないだろう。」

グッと何かを堪えるように、彼女は呟く。

「お前は・・・・・生きた。」

老人は応えない。

代わりに、彼はワルキューレでも、そしてこの世界に生きる
誰に宛ててでもなく。彼の思い出の中で微笑む『誰か』に向けて。


「・・・ああ。・・・太陽が、沈む・・・。」


「・・・横島?」

『誰か』への言葉を最後に黙してしまった老人へ、
ワルキューレはゆっくりと振り返った。

「・・・横島。」

そこには薄っすらとした、しかし満足げな笑みを浮べ、
もう肉体の痛みに苦しめられる必要の無くなった老人の姿があった。

「・・・・・。」

ワルキューレは握り締めた拳を解き、掌の汚れも気にせず己の顔を覆った。

解っていた。納得済みの、これまで幾度となく繰り返してきた事だ。

自分は魔族で彼は人間。
種としての寿命も違えば個体の強度も違う。

・・・なにより自分は『ワルキューレ』なのだから。


だが、それでも。


彼女は少しだけ。


ほんの・・・少しだけ。


泣いた。


しかし、何時までもこうしてはいられない。
横島の魂が迷わぬよう、彼女は導かねばならないのだ。

顔の汚れを拭い取り、ワルキューレは老人へ歩み寄る。
後は彼の魂が肉体から出てくるのを待つだけ。

なのだが。

「・・・・・?」

どうした事か、何時まで待っても彼の魂は抜け出てこない。

「一体・・・これは?」

在り得ない事態に、ワルキューレの眉がみゅっと寄る。
首を傾げながら、彼女は微かな不安をおぼえた。

もしや、既に魂は抜け出でて、何処かを彷徨っているのでは、と。

それは『刈り取る者』として在ってはならない事。

故に、焦り気味に辺りを見回す彼女は気付かなかった。
己の背後から手を伸ばす不埒者の存在に、彼女は気付けなかった。

モミュッ♪

その手は躊躇無く、彼女の豊かに実った二房の果実を揉みしだいた。

「きゃわあぁぁっっ!!?」

普段であれば絶対に発しない、まさしく『乙女の悲鳴』をあげ、
ワルキューレは背後の不埒者を突き飛ばした。

「おのれぇっ、何をするか貴様ぁっ!!」

そう肩を怒らせて拳銃を抜き放ったワルキューレ。
しかしその怒りは瞬時に霧散、困惑に変わった。

何故なら、彼女の燃える視線の先には。

「お、お姉ぇちゃん・・・怖いよぅ。」

半ズボン姿の少年が蹲っていたからである。

「な・・・なっ・・・!?」

思いも寄らない展開に、ワルキューレの思考は停止した。
とは言え、その眼は確りと少年の細い太腿に吸い寄せられているのだが。

「痛く・・・しないで?」

「うばはぁっ!!」

瞳を潤ませ、涙混じりに呟く少年の幼い媚態を、
ワルキューレは鼻から吹き出る赤き噴水をもって歓迎した。

ぷっしゃぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!

宙に舞い、夕日に煌めくアカイモノ。

「なっ、お、お前は・・・!?」

ブシュリブシュリと吹き出で続けるソレに塗れながら、
信じられないといった表情のワルキューレ。

「数百年ぶりに触った乳の味っ! あのワルQに叫ばせた、
この手が嬉しいっ、この手が嬉しいぃっ!!」

一瞬前まで愛らしい姿をしていた少年が、
両手を高々と掲げながら変身していく。

「みなぎる性欲、吹き出るエロスッ! 横島忠夫、大・復・活っ!!

唖然とするワルキューレの眼前で、まるでスライムの様に形を変え、
横島忠夫が若々しい十代の姿で現れた。

「・・・ひ、ひ、非常識。」

「失礼だなぁワルキューレ。」

完全に『あの時』の姿になった横島は、
ワナワナと震えるワルキューレに対し、事も無げに言った。

「こんな事もあろうかと、密かに幽体での変身を練習してたんだ。
・・・だからこんな事もできる。」

そう言うと、横島の幽体はウニョリと形を変え、
先程の少年の姿になった。

・・・体操服姿の。

「・・・ね? お姉ぇちゃん♪」

「たわばっ!?」

少年のうわ目遣いに再び大噴水。
ワルキューレは震える手で何とか鼻にティッシュを詰め込んだ。

「し、しかし、何故またそんな事を・・・?」

両の鼻の穴より咲いた白い花。
ジークあたりが見れば卒倒しそうな戦乙女の姿である。

「決まっとるやろっ、ガキの姿やったら女風呂への侵入もOK!
さらに優しいオネーサマ方と知り合うチャンスっ。あああ、忠ちゃんカンゲキィ〜!!」

この男ときたら・・・っ。

ワルキューレは心中、大いに苦笑した。

(死して尚、貴様が『横島忠夫』として在ろうというのなら、この私も・・・。)

「こっのバカモノがぁっ!!」

そう叫びつつ、彼女は横島の眉間に照準を定め、
容赦なく引き金を引きまくった。

「あ、あ、あぶ、あぶ、危ねぇだろうがワルキューレっ!!」

「危ないのは貴様の脳のほうだろうがっ!!」

生前以上の動きで、横島はその弾丸の全てを避けきったのだが、
一動作で弾丸を装填し終えたワルキューレは、聞く耳持たず再び拳銃を撃ち始めた。

「貴様の様な奴は、この私自ら戦士として一から鍛えなおしてやるっ!!」

「堪忍やぁ〜っ、もうずっと勃たへん体でたまってたんやぁ〜っ!!」

逃げる横島を、ワルキューレは拳銃を乱射しながら追いかける。


なあ、横島。お前は、私が認めた・・・戦士だ。


「少しはソレ以外の事を考えられんのかっ!!」


あの女が居ない以上、お前の面倒をみるのは・・・私しかおらんだろう?


「怖い事しないで、お姉ぇちゃん・・・。」


魔族はな、一度興味を持ったものにはしつこいんだ。


「おぶらばっ!?」


だから・・・な? 横島。


とうとう横島は追いつかれ、その身を大地に引き倒された。
少しばかり調子に乗りすぎたかと、彼は目を硬く瞑り、来る衝撃に備えた。

だがしかし。

「っ!?」

それは銃弾の硬質な衝撃ではなく、もっと柔らかい物。
恐る恐る目を開いた横島の眼前には、眉間に皺を寄せたワルキューレの顔が在った。

「ワ、ワルキュ・・・。」

頭上に掲げられた彼の両腕は、彼女に確りとその腕で拘束され、
胴体の方は彼女の太腿に固定されている。

「ワルキューレ?」

「・・・貴様の、貴様の様な奴は。」


そうだ。貴様の様な奴は、ずっとずっと、未来永劫。


「ワルキューレ・・・。」

「黙れっ! 貴様など、何度転生しようが・・・っ。」


そうだ。貴様が何度転生しようとも・・・この私が、ずっと・・・傍に・・・。


触れ合う程に唇を近づけ、何かを囁いたワルキューレの顔を、
夕日の最後の一燃えが赤く照らす。


だから・・・この手は離さない。


                  END


あとがき。

皆様こんにちわ。おびわんでございます。

不意に思いついたネタをひとつ。
これは・・・、ワル×横なの、か?

死にかけでも、死んだ後でも、横島君らしさが出ていれば本望っス。


では、レス返しをば。

>節操なし様。

いやん。フタ○リだなんて・・・。
もちろん私も犬っころです。ゆあ〜んゆお〜ん。

>朧霞様。

私もどうやってばらそうかと無い頭を振り絞りました。
それにしてもイマイチ・・・だなぁ。

>義王様。

壊れてますな。西条さん。
タイガーは・・・ええ、今回貧乏くじ引いて貰いましたw

>梶木まぐ郎様。

考えれば、横島君はいつもこんなカンジなのでしょうか?
そのうちセブンセンシズに目覚めたりとか・・・。

>月野葉クマ様。

レス有難うございます。
美神さん、好きっスから。自分。

>柳野雫様。

そう言えば何で手渡しなんでしょうねぇ。
何かへの対策!?

>偽バルタン様。

困った時にはタイガー君。ああ、なんて便利なw

>まさのりん様。

幽霊時代のおキヌちゃんはおぽんち娘で、
人間のおキヌさんは腐女子キャラで行こうかと・・・。

>Yu-san様。

輝美さんですかw
なんとも言えない三人組になりそうですねぇ。

>なまけもの様。

完全なギャグというのは初めてで、正直投稿を迷ったのですが。
喜んで頂けたのでしたら頑張った甲斐、あります。

>琉翠様。

始めまして、レス有難うございます。
続き・・・ですか? 腐女子おキヌさんで良ければ、ええ、ぜひw

『雨宿り』。実はあの話、某緑林寮の主二人の過去話が元ネタです。
全然違うやないかっ、とお叱りを受けそうですが・・・。


それでは次回も宜しくお願いしますね。


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