・先々週、先週の本編『普通の敵』前・後編直後のお話です。
「怖かった…怖かったよ…」
部屋の中が暗いのは、彼女がそれを望んだから。
恐らくは、泣いているのであろうその顔を皆本に見られたくないのだろう。
ソファの上、皆本の胸に顔埋め、小さな身体を震わせる薫は余りに儚げで…
その姿、何時もの元気な彼女からは想像もつかないものだった。
あふたーけあ?
テロリスト集団『普通の人々』によるチルドレンの拉致監禁。
事件後すぐに家族のもとへ帰される事となった3人。そんな中…『部屋に来ないか?』とそう言って、皆本は薫を引きとめた。
今回の、事件が彼女の心へと及ぼしたであろう影響が、決して小さなものでは無いと、そう判断したからだ。
事件直後、気丈にも葵や紫穂たちの居る前では強気な何時もの彼女であろうと、無理に振舞っている事が、鈍い彼ですら理解できた。
ザ・チルドレンの少女達の精神的な面でのケア…それもまた、彼女等の担当官たる彼の務め。
ほんの僅かだっていい…自分が薫の心の為に出来る事があるならば…そう考えての事だった。
葵と紫穂には申し訳ないが、今回は遠慮してもらう。
気の強い薫の事だから、彼女等ふたりの居る前では虚勢を張ってその本心を見せようとはしないだろう。
…後々の、葵たちへのフォローの事を考えると頭が痛い。
「あ…電気つけないで…」
「…わかった…」
皆本宅…部屋の中へと入った途端そう言ってしがみ付く彼女。
皆本は、そのまま薫を抱え上げふたりでソファに座り込む。
「皆本…あたし怖かったんだ…」
「………」
あぁ、それはそうだろう…薫の言葉に皆本は、思わず顔をしかめてしまう。
超度7、最強レベルのサイコキネシス…何者だって敵わない、彼女の持つその“チカラ”は、ECMにより無効化された。
突然“チカラ”を失って、無力なコドモと化した薫。
殴られて、閉じ込められて、脅されて…でも反撃する事も出来なくて。
薫にとってはその全てが、初めて経験した事の筈。
「怖かった…怖かったよ…」
「…薫…」
どれだけ怖かった事だろう、どれだけ傷付いた事だろう…
震える身体をそっと抱きしめ皆本は、必死になって彼女にかける言葉を捜す…
…が…
「…ナニされるのかと思ってさ…
どんなエロいことされちまうんだって…ホント気が気じゃ無かったんだ」
「…は?」
…思わずフリーズする皆本。
薫がナニを言っているのか、一瞬理解できなかった。
「だってそーだろ?
こんな美少女が3人も揃っててさ?んでもってあたし等“チカラ”使えねーから抵抗も何もできないんだぜ?
もーヤツらからすりゃーヤりたいほーだいの状況じゃん?」
「…あ、ぁ~…それは」
「きっとさ、ゴーモンだなんだって、ハダカに剥かれて首輪に繋がれてクスリ漬けにされて…
○○とか、■■とかetcetc…(以下、過激かつ危ない単語が延々と)…徹底的に調教されちゃってさ?最後はどっかに売り飛ばされちゃうんだ!」
「………」(汗
想像力豊かとゆーより、妄想逞しいとゆーべきか。
聞いている皆本ですら赤面してしまう程、あまりにアレな発言の数々。上げられた薫の顔には、涙の跡など見えなくて…とゆーか何故か上気し興奮している。
その様は、灯りの無い薄暗がりの中でだって、ありありと感じるコトが出来る程。
…薫の内面のエロオヤジ化の進行は、思っていたより重度の様だ。
何か色々考えていた、慰めの言葉だとかそーゆーの全部ぶっ飛んでしまった皆本。
頭は完全に白紙状態。
「薫…お前オッサン雑誌の読みすぎだ!」
だがそんな状況だってツッコミはちゃんと忘れないのは流石とゆーか…それとも哀しいサガなのか。
「なんだよ!?じゅーぶんにありえる事だろー!?」
「…ぅ…それはまぁ…確かに…」
…『普通の人々』の連中は、薫達超能力者の事を人間扱いしていなかった。
例え同じ“普通人”でも超能力者の側に与する“敵”であるとみなしたならば、その扱いは酷いもの…それは皆本が我が身を持って嫌と言うほど実感した事。
寧ろ、閉じ込められただけで殆ど何もされなかった、今回が僥倖だったのではないか?
時間の問題かもしれなかったが。
(だとすれば、今後彼女等の身辺警護の見直しを…家族の方にも何か対策を…)
ぶつぶつと呟きながら、脳内で色々と検討を始める皆本だったが…
「そ、それにさ…あたし…は、“初めて”の相手は皆本って決めてたし…
あたしの“初物”は全部お前にやろーって決めてたからさ…
だから…その…貰って…くれるよな?」
「……はい?……」
もじもじと恥じ入った様子で、だがはっきりと薫が更なる爆弾発言。
皆本完全に思考停止。
そして、そんな絶対の好機を薫が逃すはずも無く…
「あのさ、今日みてーな事ってさ、これからもあるかもしれねーだろ?
だから、そんな事になって誰かに“奪われちまう”前に皆本に…って思ってあたしも覚悟決めたんだけど…
…でもまさかこんなに早く、皆本の方から『部屋に来ないか』だなんて…コレは皆本にも“その気”があるって事だよな?」
「ち、違ッ…
僕が部屋に誘ったのはそーゆー事ではなくてだな…」
「違わないの!オトコがオンナを部屋に誘うってのはそーゆー事なんだよ!!それ以外に無いの!!!
それともこのあたしに恥かかす気か!?」
「な…ちょ…待っ!」
無茶苦茶で、あまりに理不尽極まりない…そんな理屈を畳み掛けて彼の反論を許さない。
薫は“本気”の眼をしていた。
当然既に“チカラ”を発動、逃げられない様皆本の身体はがっちり捕まえている。
…ぎしぎしと嫌な音が聞こえているのは、興奮でチカラの加減を間違えてるのか。
「うるさい!うるさぁ~い!!
葵も紫穂も…姉ちゃんも母ちゃんも…全員出し抜けるなんてこんなチャンス滅多に無ぇんだよ!!
絶ッッ対逃がさねぇかんな!!」
「お、落ち着…お前やっぱりオッサン雑誌の読み過ぎだぁッ!?」
必死の叫び声も虚しく、ころりと余りに呆気なくソファの上に押し倒される。
幼い少女に襲われる、大の男という構図…あまりに情けの無い筈なのだが、その当事者が薫と皆本…このふたりだというのなら、何故だか納得できてしまう。
「へへへ…もー観念しろよ…覚悟はいいか?皆本。
あ、大丈夫だよ、心配すんなって…痛くしないからさ♪」
「ぼ、僕の意思はぁッ!?」
勿論そんなモノは無視。
所詮皆本は普通人、薫の“チカラ”に逆らうだなんてそんな真似など出来やしない…嬉々として迫る捕食者(薫)の前では、食べられるのを待つだけの哀れなエモノに過ぎないのだ。
最早皆本に出来る事等、何も残されていなかった。
合掌。
…終…
後書き…
皆本さんがナニされたのかは、ご想像にお任せしますw
40号、41号の『普通の敵』前後編直後のお話で、皆本さんによる薫嬢へのアフターケア…
って事で、シリアスなのとギャグモノと2通り考えて、どっちにしようか迷った挙句結局これが。
…薫嬢が皆本さんに迫る時ってこんな感じじゃないかなと思うのですが。
こんなのでも、ツッコミ、ご指摘など頂けると有りがたいです。