簡単な仕事のはずだった
初めてのターゲットは、ただの女のはずだった
共に行動していた男達は完全に行動不能
切り札すらあっけなく破られた
ただの女のゲンコツひとつで…
横島居候物語 そしてベリアルは星になった
ベッドの上では一人の少年が眠っている。
一人で眠るには大きすぎるベッドの上で、安らかに眠る少年。
彼の名は横島忠夫。
本編と同様に…いや、それ以上に特殊な環境にいる高校生である。連日のアルバイトの疲れもあってか、彼の眠りは深い。そんな彼の部屋の前に、一人の人影があった。褐色の肌、長い癖のある黒髪、抜群のプロポーション。家主であり、義姉でもある彼女は名を、小笠原エミといった。
スッ
『たっだおくん~貴方のおねえちゃんですよ~』
音も立てずに部屋の中に忍び込んだエミは、満面の笑みを浮かべてベッドの少年に抱きつく。
「ん~~~~♪」
どこか身体に違和感を感じて、目を覚ます横島。
「……ん?」
右半身にしがみつく義姉発見。
「…ん?ん?」
穏やかな寝顔で、幸せそうに自分の腕を抱いている義姉に横島困惑。
「ん~、むにゃ。」 ギュ
「ぎゅって!む、胸が…エミねえ…ってチガ~ウ、違う、違う」
「ん~~ただおくん…うるさいの…」 ギュ
『あぁ…夢か…そうだよな…ピートの事が好きなエミねえが俺に抱きつくわけがねえもんな…でもいい夢だ』
なにやら自己完結した横島。この幸せな夢が終わらないことを祈りながら、彼は再び瞳を閉じる。
「おやすみ、エミねえ」
「…おやすみなさい」
大事な家族、義姉と義弟の二人だけの空間…
出会った頃は考えもしなかった、幸せな時間…
始めはお金のためだった
彼の面倒を見るのはお金のため
いつからだろうか
自分がもう独りじゃないことに気がついたのは
いつからだろうか
彼が傍にいないと不安になる自分に気づいたのは
いつからだったろうか
大事な大事な弟に悪い虫が寄ってくるようになったのは…
窓の外からはすずめの声が聞こえてくる。エミと横島が住む、高級マンションの寝室にも朝の光が差し込んでいた。
「…横島クンが来るのが遅いから迎えにきてみれば」
彼女の名は、美神令子。横島のアルバイト先の所長であり、彼にとってはもう一人の姉と呼べる女性である。
バチッバチバチッ
「エミ…フフフ…ずいぶんと舐めたマネしてくれたわね…」
発する莫大な霊力に負けて、鞭のようにしなる神通棍は、とてもとても綺麗だった。