変わった逆行物?
現代のドクターカオスによって作られたものにろくなものは無い。
これはまさしく正しかった。
過去の若い頃に作られたマリアは、魔法科学の最高傑作といえる。
しかし、しかしだ。
今のところてん状態の脳みそを持つカオスによって作られるもののほとんど
は失敗作といって良い。
これはそんなカオスの失敗作の一つ『時空消滅内服液』の話である。
強い霊能力者を求めて日本にやってきたカオスは美神令子に目を付けた。
しかし悪運強い彼女相手に手ひどい目に合わされたのが数日前。
カオスは復讐を誓って、古代よりつたわる暗殺用魔法薬『時空消滅内服液』を作り出した。
この世の過去から未来にかけて、美神令子という存在を消滅させようというのだ。
「なかなかいい出来だ、マリア。直ぐに包装して美神令子の事務所に届けたまえ」
「イエス、ドクター・カオス」
マリアに薬を混ぜ込んだケーキを作らせたのだ。
後は結果待ちである。
もっとも消えてしまえば記憶すらなくなってしまうのだが。
「くっくっくっく、このわしに恥をかかせたこと、死をもっても償えん!
完全にこの世から消え去るがいい!」
わっはっはと馬鹿笑いするカオスだが、一つだけ忘れていた事があった。
それは自分がボケていて、時に正確な計量すらミスをしてしまう事があるということを。
「じ、時空消滅内服液?」
「そうよ、効能は今言ったとおり、過去から未来、要するにこの世から横島
忠夫が消えると言う事」
横島は初仕事以来の快挙、令子の唇をほっぺに感じるという嬉しいハプニングを受けて思考能力がほとんどそっちに行っていた。
そのため令子のとっさの忠告など聞いておらず、カオスの薬入りのケーキを食べてしまっていた。
何かが体の中でうごめくような感触を感じながらも、令子の助けを待っていた。
「は、早く解毒剤を…!!」
「――そんなものこの世に無いわ」
しかしその答えは無情なものだった。
「解毒剤が? 無い?」
「ええ、けど助かる方法が無いわけじゃないわ。
さっきの中和剤が効いているから、徐々に逆行するその間に手を打つの」
「ど、どうやって?」
「いい?二十四時間以内に強烈に印象に残っている事は無い?」
「あ、あります…!」
「ならば過去の世界でもう一度それを再現しなさい。
そうしてこの世と横島君のつながりを強くしなさい」
もはや時間が無いと令子は急いで横島に伝えるべきことを伝える。
しかしそれは横島にとって正に難関であり、そう簡単に成し遂げられるものではなかった。
そうこうしているうちに横島の体が次第に透け始め、ついに消え去ってしまった。
後に残ったのは何故か二つ出されたケーキと紅茶に首を傾げる令子とキヌだった。
令子の言ったとおり横島は徐々に過去へと遡っていた。
しかし、おキヌと最初に会った人骨温泉、中学の教室、その二度をキスしてもらうことが出来ず通り過ぎてしまった。
どんどんと過去に遡り、そしてついに横島は赤ん坊になっていた。
こうなるともはやどうしようもない、死を待つのみかと横島は泣き喚いていた。
「あらあら、どうしたの」
突然泣き出した横島を母百合子が抱きかかえるが、一向に泣き止む気配が無い。
そんなときである、一人の少女が近づいてきた。
「赤ちゃんに、さやってもいい?」
そういって横島を触る少女こそ美神令子の子供の頃だった。
横島はよく見えないため鳴き続けていた。
そんな横島に泣いてたらめーでしょと頬にキスをしたのだ。
あまり視界のはっきりしない横島だったが、瞬間その少女が令子に見えた。
しかし、そのまま一向に何も起きないのだ。
(あー! 一瞬美神さんだと思ったんだけど、このままじゃ死んでしまうっ!!
どこぞの少女にキスをされても美神さんじゃなきゃ意味がねーのに!!)
これで助かったと確信して泣き止んだ横島だったが、一向に元に戻る気配が感じられず、再び泣きそうになっていた。
そして結局そのまま家につれて帰られてしまっていた。
(ああ、もう駄目だ、美神さん、おキヌちゃん)
過去二回からそろそろ時間だと考えていた。
かすかに記憶があるような無いような家の天井をぼやけた視界で見続けながら横島は呆然としていた。
もはや次は無いだろうと。
呆然と、呆然と、呆然と……していたが、一向に時間が来ない。
(何でだ? もう確実に過ぎてると思うんだけど)
いくら待っても過去に戻る様子が無い。
そして結局その日横島は過去に遡って死ぬ事は無かった。
翌日も、そのまた翌日も、横島は生きていた。
(まさか、此処で時間が止まったってことか?)
考える時間はたくさんあった。
知識のあるわけで無い横島だが考えられる事は一つだけだった。
あのキスは確かに美神さんのもので、それによって薬の効果は途切れた。
しかし途切れただけで、自分は此処にとどまってしまったと。
(まぁ死んでないなら若返ったと思えば…まぁ)
横島は若干効果の違う時空消滅内服液の結果として逆行してしまっていた。
この後横島は以前と同じ生活を送るだろう、美神と会えることを楽しみにして。
なぜならこの横島は霊能力に目覚めているわけでも、悲しい別れをしたわけでも無い煩悩小僧に過ぎないのだから。
終わり
おまけのGTYっぽい思いつき
コスモプロセッサ内の魂の結晶が設置されている心臓部。
そこに魂のほとんど破壊された令子と、ルシオラを何とか蘇らせようとする横島の二人が侵入していた。
「これで…奴の首根っこを捕まえたってわけよ!」
「エネルギー結晶…!!」
六角形の迷宮への入り口が無数にある部屋の中央に二人は近づいていく。
「さーて、私の指先一本で…あんな奴でんぐり返してやる!」
そして人差し指を結晶に近付けるが、何故かそこで止まってしまった。
「美神さん? 急がないと…!」
「待って、いや、そうね…」
いつアシュタロスが来るか分からないことに当然焦る横島に、なにやら令子は考え付くと、
「アシュタロスを…消去せよ!」
ニヤリと笑いながらそう強く願ったのだ。
「き、貴様らっ!!」
次の瞬間アシュタロスが現れたが、その姿は既に薄れかかっていた。
「ほほほ、そんな所にいたの?
どうせ私くらい復活しても大丈夫とか考えてたんでしょう!
先にあんたの方を排除してやるわ!!」
「な!? ば、ばか…な!」
此処は土偶羅の意思の及ばない場所であり、敵である美神の願いですら単純
なものはかなってしまうのだ。
あっという間にアシュタロスの存在が消去されてしまった。
「え、えっと、美神さん?」
「…何よ?」
「これで、終わり?」
横島がそう言ってしまうほどあっけない終わりだった。
こうしてアシュタロスの居ない今敵はおらず、令子は復活し、横島はルシオラと仲良く暮らしたそうだ。
そんな可能性の話。
あとがき
どうも千手必勝です。
なんと言いますか、初めての方ははじめまして、そうでない方はお久しぶりです。
実は私の半生を共にしたわんこがお亡くなりになってしまって、執筆意欲が沸いてこなかったんです。
出てきても暗い話ばかり。
だいぶましになってきたんでそろそろ再び投稿を始めようかと。
とまぁ、そんな個人的な言い訳でした。
今回の話ですがリハビリを兼ねて最初から読んでたらこんな話が出来ました。
まあ、要するにカオスの薬が成功するなんて、何でよ?ということです。
未来は、枝分かれになるのかな?
おまけの方は読んでいた当時からこうしてれば良かったんで無いのと思ってたものです。
どっかで誰かが考えてそう、というかもしかしたらGTYにある?そんな話でした。
それでは〜。