蜘蛛の習性として最も特徴的なことは、その獲物を捕らえる手法にある。あの、霞のように透き通った糸で作られた芸術は、ひとたび獲物がかかるととたんに獰猛な罠となる。精気を吸い取られた獲物は、からからに干からびて網にしばらくぶら下がっている。風に揺られているさまをみていると、田舎の田んぼや畑に見られるあの粗末な風見鶏を思い浮かべる。ペットボトルを半分に切断して、蓋の部分に模型飛行機のプロペラを取り付ける。そして、風が吹くたびにコロコロカラカラと無機質な音をたてて鳴りながら回るのだ。
百舌鳥という鳥も、特徴的な獲物の捕らえ方をする。早贄えと言って、季節の変わりめ、秋から冬頃にかけて捕らえた獲物を木の尖った枝に突き刺しておくのだ。処刑された罪人のように枝に深々と突き刺さった獲物は、吹きさらしの風で彫刻のように堅くなってピクリともしない。だが、弾力のあるゴム質を持った彫刻だ。風に吹かれると、重くなった枝先の獲物は隣の枝に当たってポンポン跳ね返り、スーパーボールのような弾力感を思わせる。
一人の少女が夕暮れが迫る帰り道を、急ぎ足で歩いていた。学生カバンにつけられたキーホルダーがゆれる様子からすると、かなり急いでいるのが理解できる。少女はこの田舎にある寺の住職の一人娘だ。今日はお客があるので早く帰宅するように言われていたのだが、クラブ活動が長引いてしまい予定の時間にギリギリ間に合うか微妙だった。小学校のころだったら問題ないのだが、中学生となった今では勉学とクラブ、両方に時間を取られる。
少女が寺の階段の最下部にたどり着いたのは、約束の時間まであと15分のところだった。ここまでくればあとは一段飛ばしで駆け上がり、自室に入って5分で着替えをすればいい。少女は勢いをつけて階段を駆け上がりだした。このまま駆け上がっていれば何の問題もなかった。だが、彼女はふと視界の先に入った少年を見て足を止めてしまった。
「こんちは。なあ、君ここのお寺の子?」
妙な訛りの標準語でしゃべるその人物に、少女は首だけで返事をした。
「ふ~ん。ほな、君が弓かおりかぁ・・・・。俺、横島忠夫いうんや、夏休みでここの寺に遊びに来てんけど誰もおらへんから困ってたんや」
「へ?誰もいない?!」
「ああ、早めについたんかと思って30分ぐらい待ってたんやけどなぁ。んで、戸口のところに張り紙がしてあったで。んで・・・」
かおりは忠夫の話も聞かずに駆け出し、玄関の前に一陣の風のごとく到着した。忠夫の言うとおり玄関には張り紙がしてあり、こう書かれていた。
『かおりへ
母さんの親戚が亡くなり、急なお通夜に出なければならなくなりました。
夕ごはんはカレーライスとサラダを用意してありますので、忠夫くんと一緒に食べてください。
お風呂は炊けばすぐに入れます。
明日の昼には帰ってくるので、仲良くしてください』
忠夫が追いかけて玄関まで来て見ると、かおりが張り紙を握り締め全身から殺意の波動を放出しながら立っていた。
「お~~い・・・・」
「・・・・何か。」
「あ・・いや・・・・大丈夫か?」
「大丈夫なはずがないでしょう!!あの馬鹿親がぁぁぁぁ!!」
かおりはしばらく怒りくるっていたが、気を取り直すと忠夫を家の中に上がらせた。全木造一戸建ての平屋だが、家族で暮らすには広すぎるほどだった。かおりは忠夫に本堂から道場までを案内すると、夕食の準備に取り掛かった。カレーライスはすぐに用意できそうだったが、問題はサラダだった。用意してあるというからドレッシングをかければ終わりかと思いきや、まるごとまな板に乗っているではないか!!
「ん?なんや、キャベツがそのまんまになってるやんか?」
「うちの母、いがいと抜けてるんです・・・・」
「ええよ、これはこれで利用のしがいがある。冷蔵庫の中、見てもええか?」
「は?!ええ・・・」
忠夫は承諾をもらうと、冷蔵庫の中をあさりそこから開けていないベーコンのパックを取り出した。
「おしっ!!これなら十分なおかずになる!!なあ、今夜はカレーライスだけでええから。はよう夕飯にしようや、君もお腹へってるやろ?」
「あ・・はい・・・」
忠夫のあっけらかんとした笑顔と雰囲気になんだかほっとしてしまい、かおりは二人分用意してすぐに食べることにした。
「うんっ!!うまい!!君のお母さんって料理うまいんやなぁ」
「はい。あの、ところで今日はどうしてここに?」
「うん?あっ!!そういえば何にも話してへんかったな。俺はな君の従兄弟にあたるんや」
「へぇ?!私の従兄弟!!初耳ですが・・・・・」
「まあな、俺もおかんに話聞くまで知らんかったわ。何でも、俺の家と君の寺は“早贄え”ちゅう関係になっとってな、そのつながりで平安時代からの付き合いらしいんや」
「そんなに古い時代から・・・?想像もつきませんが」
「俺も♪でも、事実らしいし文献にも残ってるんだと」
それで話はおしまいになり、あとは二人してカレーライス制覇に取り掛かった。なべに作ってあったカレーライスは二人のがんばりでキレイになくなり、ふくれたお腹をさすりながら畳にねっころがっていた。かおりも両親が厳しいので普段はこんなことはしないが、今日は二親がいないので好きなことをし放題だった。男づきあいのないかおりだったが、忠夫とはなぜかすぐに打ち解けられた。そうしているうちに夜中の10時を回り、かおりは風呂の準備をするのを忘れていたことに気が付いた。
「いけませんわ!!私、お風呂の準備を忘れていましたわ」
「風呂?俺はべつにかまへんけど、女の子は気になるもんな。でも、今から炊いたら11時過ぎるで。明日の朝にしたらええんやないか?」
「・・・・・そうですわね。じゃあ、お床の準備をしてきますわ」
「ああ・・・・待ってるで」
かおりはそう言った瞬間、身体がおかしな気配を感じたことを気づかなかった。もし、気がついていたらどうなっていたかわからないが、少なくとも今夜のようなことは避けられたはずだ。
いや、どうやら気がついたらしい。かおりは急にめまいに襲われ、畳にひざをついた。奥から熱い何かがこみ上げてきて、身体中を駆け巡り心臓の鼓動を激しくする。同時に今まで感じたことのない疼きが襲い掛かり、動機が激しくなる。
「お、おいっ!!大丈夫か、しっかりせぇ!!」
「あ・・・・忠夫さん」
気が付くと、かおりは忠夫の膝を枕にして眠っていた。何が起こったのか一瞬わからなかったが、気を取り直してお床の準備をしに部屋を出た。
「・・・・・・やっぱりか。何で、急ぐ必要があるんかなぁ・・・」
お床の準備が終わると、かおりは忠夫を呼びに行った。忠夫は縁側に足を放り出して、夕涼みをしながら何かを見ていた。視線を追ってみると、そこには月明かりにかすかに光る蜘蛛の巣があった。忠夫は飛んでいる羽虫を器用に捕まえると、巣に引っ掛けて蜘蛛に食べさせようとした。腹が減っていたのかその蜘蛛は羽虫を一瞬で糸で絡めとると、牙を突き刺して精気を吸い取ってしまった。
「あの、お床の準備ができました」
「おう、早かったな。ここ、座りぃ。風が冷たくて気持ちいいで」
「はい。あの、さっきは申し訳ありませんでした」
「いや・・・・君が悪いんやない。強いて悪いというなら、そりゃ“血の業”や」
「何です・・そ・・・れ・・・・?」
とたんにさっきの疼きが身体を襲った。倒れかけたかおりを、忠夫は優しく抱きとめると膝に乗せた。
「夕方に言った“早贄え”な。あれは、横島と弓の一族が取り交わす契りの儀のことを指すんや」
自分の身体ではないようだった。手が勝手に忠夫の股間をまさぐり、引き締まった肉棒を引っ張り出して両手でしごきあげる。亀頭の割れ目から透明なカウパー液が溢れ出し、舌で舐めとっていく。
「その昔、横島の屋敷に旅の女が一夜の宿を頼んだそうや。女は西国の没落した公家の生き残りで、地方の豪族に借金の方に売り飛ばされたところを逃げ出してきたと」
肉棒を咽の奥まで導くように首と舌を動かし、淫靡な音を立ててさらにしごきあげる。しばらくすると、忠夫の腰が震え割れ目から熱い精液が口から溢れ出した。かおりはそれを丁寧に舐めとり、まだ残っている分もキレイに吸い上げた。
「で、話を聞いたご先祖さんはその豪族と話をつけ女を屋敷に住まわせることにした」
かおりは愛液に濡れた膣の下に亀頭を押し付け、一気に腰を落として膣内に引き込んだ。強烈な痛みが全身を襲い、悲鳴が外まで聞こえるかと思われた。
だが、それに伴って感じたことのない悦楽の波が全身を駆け巡り、かおりは激しく腰を振った。
「いざ、住まわせる時分になってから女は時分のことを話し出した。聞けば、その女の家が没落したのは父親が生き物の命を粗末に扱い、その罰が当たって屋敷には蜘蛛が徘徊し百舌鳥が死んだ獣の屍を持ってくるようになったんだと。しかも、その呪いっちゅうのがやっかいで、その年に生まれた女子を淫魔に変えてしまう恐ろしいものだったそうや」
強烈な悦楽がかおりを支配し、彼女の口から獣のような鳴き声が屋敷じゅうに響きわたった。それは達した証拠だったが、それでも腰の動きは止まらない。さっきよりも激しさを増し、肉棒を奥まで引き込もうと忠夫にまで動いてほしいと要求する。
「それを聞いたご先祖さんは、さっそく呪いを解くことにした。女と身体を重ねることで呪いの邪気を己の身体に引き込み、浄化する。それによって女の一族は以前の繁栄を取り戻した」
忠夫の動きが加算されて、かおりは呂律が回らなくなるほどに壊れていた。奥まで突き上げられるたびに強烈な快楽が身体を突き抜け、何度も達しながらそれでも忠夫を求める。人間であることを捨てて、かおりは一匹の雌へと変わり果てていた。
「でも、呪いは完全に消えたわけやなかった。それを抑えるために横島と弓は、毎年14歳になったそれぞれの男子と女子を二人きりにして契りを交わさせ、呪いを浄化することになったとさ。それが、百舌鳥の早贄えと蜘蛛が精気を吸い取るのと同じようにかんじたから“早贄え”というそうや」
話が終わるころ、かおりは身体中の力が抜けて忠夫の胸に抱かれていた。膣の割れ目からは奥に導ききれなかった精液が流れ出し、畳に水溜りを作った。
「もっと・・・・もっと・・・したいです」
「そうか・・・ほな、四つん這いになって腰あげて」
かおりは言われたとおりにすると、忠夫が来るのを待った。忠夫はさっきまでの行為でもまだ萎えない肉棒を膣に押し付けると、また奥まで突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・ああ・・あああ・・・」
「ん?達してしもうたんか?」
「は・・はあぁ・・・つ、突いてくださいませ!!かおりがいやいやしても、やめないでくださいませ!!」
「わかった・・・それっ!!」
くちゅん・・・・くちゅん・・・・
くちゅ・・・・くちゅ・・・・
くっ・・・くっ・・・!!
勢いが増すたびにかおりの腰も動きが速くなり、雌に堕ちていく・・・・・
そのまま二人どれだけつながったかわからない。次にかおりが目を覚ましたときは日は高く上っていて、12時近くなっていた。かおりは慌てて布団を飛び出すと、台所に駆け込んだ。すると、そこには忠夫が朝ご飯の準備をしている姿があった。
「おはよ。ご飯は炊けとるから、あとは味噌汁と十文字キャベツだけや。おっ!!できた、できた!!」
忠夫は鍋からとろとろに溶けたキャベツとベーコンをさらに取り分け、出し汁をマグカップに移し変えた。味噌汁も若布だしが利いて、味噌とマッチしている。以外にも、十文字キャベツはおいしいおかずだ。コンソメとベーコンの味がキャベツに浸され、ベーコンをキャベツと一緒に食べるとなおおいしい。残った出し汁はtyっとしたスープになってこれもおいしい。
遅い朝食のあと、かおりは別れを惜しんでまた契りを交わした。二度と会えないというわけではなかったが、やっぱり寂しかった。
あれから2年。かおりは東京の名門六道学園高等部に進学し、そこの霊能科でGSを目指して修行の日々を送っていた。忠夫とはその後連絡が取れなくなり、身体の疼きをもてあましていた。毎晩のように自慰に恥じ、忠夫のことを考える。
そんな日々が続いていたある日、かおりのクラスに転校生がやってきた。氷室キヌという元幽霊で、美神令子の助手だという。委員長という立場で一派を作っていたかおりはキヌを引き入れようとするが、あっさりと断られてしまった。忠夫に会えなくなって修行に明け暮れ、ガチガチの石頭になっていたかおりは彼女をつぶしてやろうと画策していた。
計画が整ったので仲間を集めて実行を支持しようとしたとき、ふと木のそばに立つ青年が眼に入った。青年は誰かと同じように羽虫を捕まえると、蜘蛛の巣に引っ掛けた。
「な~に、あいつ気味が悪いんだけど」
「ていうか、女子校に男がいるっておかしいわよね!!委員長、こらしめてやりましょうよ!!」
「忠夫さん・・・?」
「へ?どうしたの、委員長?」
かおりは取り巻きの声に気がつかないかのように、青年のところへ歩いていく。その背中に手を伸ばそうとしたとき、青年が振り向かずに言った。
「なんや、かおりは委員長なんか?えらいんやなぁ」
「・・・・・別に。私が優秀だからですわ!!あなたこそ、いったいどういうつもりでここに?」
「お前の顔見に来た・・・・・あかんかったか?」
振り向いた青年の笑顔は、昔と変わらぬ明るさだった。自分を抱いたあの夜と変わらぬ笑顔のまま、そこに立っていた。
かおりは忠夫の胸に顔をうずめて、泣きじゃくった。忠夫は自分よりも小さいかおりの頭を、やさしく撫でてやるのだった。
煙のないところにはなんとやら。かおりは理事長である六道母に呼び出され、すべての顛末を語った。忠夫も美神に問い立たされて、同じようなことを話した。やがて、かおりは学園を自主退学、忠夫も美神の事務所をやめかおりと二人横島の実家へ帰った。数年後、かおりと忠夫は結婚し夫婦霊媒師になった。忠夫にひそかな思いを抱いていた者たちは、いろいろ呪いやたたりで脅かしたが、すべてはじかれて散々な目にあったという。
あとがきのようなもの
えー、勝手なイメージで作り上げたお話です。こんな話もありかなと思ったのですが、いかがだったでしょうか?感想などお待ちしています。