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▽レス始

「月に吼える 第参拾八話(GS)」

maisen (2005-08-17 02:13/2005-08-17 03:12)
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「チッ!雑魚がうようよと、うっとおしい!」

 カオスと芦は今、ヌルの手下と思われる兵士達に囲まれた家の、その包囲網から目と鼻の先の馬小屋の影で密談を交わしている。

 その兵士達の数、およそ20人と言った所か。

「まあ、数くらいしか頼みが無いようなものだ。さっさと片付けるぞ」

「分かっている。ほれ、お前はこれとこれを持って行け。私が囮だから、しくじるんじゃないぞ?」

 それでも余裕を崩そうとしない芦に、落ち着かされたカオスはマントの中に隠された袋から、1枚の大きな、体を覆ってしまえるほどの真っ黒なマントと、奇妙な光を放つ小さな緑の玉を幾つか取り出すと芦に向かって投げつけた。

 ―――どう見てもその袋よりも出てきたものの方が体積が大きいように見えるのは気のせいだと思いたい。

「・・・また面倒くさい物を持ってきたな」

「作ったからには使いたくなるのが錬金術師――いや、研究者だろうが」

「違いない」

 そして、笑みを交わすとカオスはそのまま堂々と歩み出る。行き先は、包囲網の真っ只中にある家。芦は渡された外套を纏うと、そのカオスの陰に隠れるようにして付いて行く。
 二人とも、いや、芦の顔を覗き見ることはできないがそれでも自信と信頼で溢れんばかりと不敵な笑みを浮かべているであろう事は簡単に予想がつく。

「さーて。まずは小手調べと行こうか」

 カオスの言葉は、こちらに向かって来る集団を見ても小揺るぎもしない。彼が、カオスである限り。


「隊長っ!ドクター・カオスが単身でこちらにやってきます!」

「なにっ!もうヌル様の事を嗅ぎ付けたのか!・・・いや、ちょうど良い。捕らえてヌル様の所に連行しろ!」

 カオスの姿はいともあっさりと発見され、慌てて駆けつけてきた兵士達に包囲される。―――カオスだけが。

「『捕えろ』?この私を、お前ら雑兵が?!面白い、やれるもんならやってみたまえ!!」

 周りを完全に包囲されながら、それでも全く動じた様子さえなく吼えるカオス。包囲網は、じりじりとその輪を狭めていく。その先陣がカオスにあと一足で届こうかと言う瞬間に。


「―――ただし、私「達」は少々手強いぞっ!」

 カオスのマントから零れ出した幾つもの球体が、豪快に煙幕を吐き出しながら転げまわる。


 視界を奪われた兵士達は当然の事ながら、隊長の指示を待って動こうとするが。

「ええいっ!退がれ!一端距離を取って―――うおっ?!」

 その隊長のいた所から豪快にすっ転ぶ音が響く。


「―――鎧姿で後ろ向きに下がる等、転ばせてくれと言っているような物だ」

 そして、仰向けに転がる隊長の頭の方から聞こえる声。慌ててそちらに目線をやるも、誰も居ない。誰も居ないが、確かに声だけは其処から聞こえてくる。

 何とか立ち上がろうともがくも、下半身が完全に拘束されているように動かない。そちらに目をやれば、其処には奇妙な緑色の玉から生まれでた、暗緑色の触手が蠢き、その動きを完全に縛っている。

「何だこれはっ?!」

「―――試作品の、一寸した植物の改良版とでも言おうか。それでは、ご退場願おうか」

 そして、声の聞こえる虚空から、湧き出るように出現した拳銃は、その銃口を黒い鎧を着た隊長の頭部に押し当てられ。


―――迷う事無くその役目を全うする。

パンッ!


 響いたのは、軽い、まるで手を打ち合わせたような、そんな音が一度きり。
 それでも、その劣化精霊石の弾頭は確実に黒い鎧の隊長を、この世の現象から切り離していった。

「隊長っ?!」

「余所見をしている場合か?」

 そして、隊長が居なくなった事と未だに煙幕で視界がふさがれる事に慌てる兵士達の前に現れる、カオス。

「なっ?!このっ!」

 慌てて振り下ろされた剣は、

「ぐわっ?!」

 先程までカオスであった筈の、仲間の兵士の肩に食い込み、火花を散らす。

「何をするっ?!」

「いや!さっきまで確かにドクター・カオス―――がっ?!」

 その事に慌てて手を振り、説明し様とした兵士の頭部に振り下ろされる―――仲間の剣。

「おまえっ?!そいつは味方だ―――ぎゃあっ?!」

 そして、自分のやった事を理解できずに立ちすくむ兵士に、切りかかられた方を庇いながらも掴みかかろうとした兵士の、鎧の隙間を縫って突き刺さる、また煙幕の向こうから現れた―――兵士。

「な、何がどうなってんだっ?!」

「畜生っ!味方同士でやりあってどうするっ?!」

 そう叫ぶも、恐慌に陥った集団がそうそう冷静になれるはずも無く。

―――しばらく後に、その場に残っているのはたった一人になった、仲間の血に塗れた剣を持ち、がたがたと震える膝を突いたボロボロの兵士。辺りには、惨劇の幕が下りていた。


「ふむ。脆いな」

 その兵士の視界に映る影。見上げてみれば、先程確かに切った筈のカオスがいる。彼は、一通り辺りを見渡し、戦力が居ない事を確認すると兵士に告げる。

「ヌルとやらに伝言だ。これが、宣戦布告だ、と」

 最早切りかかるだけの気力も持たない兵士は、振り返ることさえできずによろよろと城の方角へと歩き去って行く事しかできなかった。


「統率者の居なくなった集団なぞ、容易く崩せるよ。自立型の投影装置と煙幕の組み合わせは中々に効果的だな。だが、カオス」

 カオスの隣に、マントを脱ぎながら現れる芦。そのマントの表面には、辺りの景色が映し出された、迷彩としての機能がもたされていた事を知っているのは二人のみ。

「なんだ?」

「・・・ちょっとやりすぎと思う」

「・・・・・・子供には見せられん。とっとと片付けるぞ」

 とりあえず、先程まで囲まれていた家に行く前に、村人たちを呼んで片付ける手伝いをしてもらう事を決めた二人であった。


「うわひゃぁっ?!」

ゴウッ!

 忠夫は、逃げていた。

「何で俺がこんな目にぃぃっ?!」

 きらきらと光る涙を流しながら。

 その後を追いかけてくるのは、巨大な石でできた出来損ないの恐竜のような、ガーゴイルの一種。しかも口から火を吐く素敵な機能付き。
 何故こんな状況になっているかと言えば。

 端的に言って、目が合った。

 ―――もうちょっと詳しく言うと、カオス達が進んでいった方から反対側に回り込もうとした美神達は、其処に伏せていた恐竜のようなガーゴイルと、繁みを掻き分けた瞬間に目が合ったのだ。

 先頭を行くマリアと美神は慌てて左右に散り、その後を歩いてきていた忠夫が突っ込んできたガーゴイルと鉢合わせ。慌てて後ろに向かって全力で駆け出したものの。

「ついてくるなぁぁぁっ!!」

「ガァァァッ!!」

 何処までも追いかけてくる。邪魔な木々を薙ぎ倒し、かなりの速度で迫るそれは、忠夫を見失う事も無くひたすらにしつこく追いまわす。火を吐きながら。

「こんなんばっかりやー!」

「横島君!思いっきりジャンプしなさいっ!」

「え?」

 逃げる忠夫に横合いから掛けられた声は、確かに美神の物だった。どうやら、何時の間にか元の場所に近いところまで戻ってきていたらしい。
 と、忠夫が考えられたのは其処までだった。

 忠夫が、美神の指示を理解する前に、その一歩を踏みおろす。

―――カチ、と音がしたような気がした。

―――次に視界に入ったのは、連鎖的に広がる閃光であり。感じたのは、幾つもの衝撃と、何時も吹っ飛ぶ時に感じる重力からの開放感であり。耳は、爆音で何も聞こえず。最後に意識したのは、ガーゴイルの首の部分「だけ」と一緒に空を舞う自分であった。

「・・・たーま・やー・と、言うの・でしょうか?」

「・・・花火にしてはちょっと風情が無いわねー」

 空飛ぶ忠夫を見ながら呆然と呟くマリアと、呆れた様に頭を押さえながら返す美神。何があったのか、分かりすぎるくらいだが何時もの事だ。


「いーかげんあんたもじょーぶよねー」

「そう言う位ならもうちょっと早く指示をくださいよっ?!」

 ガーゴイルが吹っ飛ぶほどの爆発であったにもかかわらず。何故か少し煤けただけで何時ものように会話する2人。彼らは、とりあえずの作戦会議を村の中でも少し大きめの家で行なっていた。

「で、そっちはこれからどうするの?」

「聞くまでも無い。とっとと城に乗り込んで、ヌルとか言う二流を叩き出す」

「多少準備した後に、な」

 美神に話し掛けられたカオスと芦は、事も無げにそう告げた後、マリア姫の方に向かって話し始めた。

「―――成る程。やはり、そのヌルとか言うやつは」

「ええ。父上を操り、碌でもないことを考えているようです。城を飛び出す前に妙な物を作っている所を見ました。此処です」

 マリア姫が指差した地図―――城を出る際にちょろまかしてきた物―――を見て、考え込むカオス。そして、姫からその「奇妙な物」の話を聞くにつれ、その眉間の皺が深くなっていった。

「・・・とんでもない物を作りおる」

「・・・地獄炉、か。しかし、あれは制御が難しい上に特殊な材料がいる筈ではなかったか?だからこそ設置を諦めたのだろう?」

 そう会話を交わすカオスと芦を、なんとなく胡乱な目つきで眺めるマリア姫と美神。マリアのほうは製作者の事を理解している為何でもないように見えるが、実際は隣に立つ忠夫の視線を受けて少し目が泳いでいたりする。

「ヌルは魔族よ、おそらくね」

「・・・成る程、それならば説明はつく、か。あれはそもそも地獄から直接パイプラインを引いてエネルギー源とする物。魔族ならばお家芸だろう」

「・・・それに、エネルギーとしては少々使い方が限定されすぎる。引いてくる場所が地獄。故に、そこから溢れ出す物はあくまでも純然たる魔力。その分、魔力を使ったモンスター、つまりガーゴイル辺りを作り出すのにはもってこいだがな」

 其処まで話して、何かに気付いたように顔を見合わせるカオスと芦。

「と言う事は、だ」

「・・・ヌルが魔族なら、地獄炉をモンスター製作に利用するだけで終わる筈が無いな」

 カオスと芦のその会話に、頭を抱えるのは美神と忠夫。

「まさか、そのヌルって魔族、地獄炉の魔力を使えるって言うんじゃないわよね?」

「・・・何時でもエネルギー満タンで、元気一杯な敵なんてきついっすよ」

 だがしかし。カオスはにやり、と笑うと美神達に向かって声をかける。

「ならば、纏めて叩くとするか」


「うっひょー!」

「騒ぐな馬鹿っ!狭いんだから暴れないのっ!」

「バウンッ!」

 美神と忠夫はバロンを引き連れ、現在城に向かって飛行中。足は絨毯に魔法の空飛ぶ箒をつけた、簡易な空飛ぶ絨毯だ。

「いや、跳ねるんじゃなくて飛ぶって言うのは初体験ですからっ!」

「・・・・飛行機は記憶から消すくせに、こーゆうのは平気なのね・・・」

 いつになくはしゃぐ忠夫を呆れた視線で眺めながら、美神は合図を待っている。問題は、それまで――

「・・・さ、寒い」

 此処に居る事に我慢できるかどうかだが。


――― 一方その頃。

「で、貴様がヌルか」

「ほう、もう私の名前を知って頂いているとは光栄ですな」

「戯けた事を。宣戦布告を受け取っていない訳では無いだろうが」

 美神達の下、城の中では今まさにカオスとヌルが対面していた所であった。二人の間にはかなりの温度差があるようで、ひたすらに冷たい目でヌルを見るカオスと、その視線を受けながらも余裕ぶった笑みを崩さないヌル。

 外見が禿げていてしかも目つきが悪く、人相も悪い、と言うか貧相なだけに全く持って大物に見えないが。

「此処にいらっしゃったと言う事は、この私に協力していただけると言う事ですかな?」

「ふん。自分より劣る者と手を組んだ所で、得る物など全く無い。それに、協力者なら充分なのが一人居るのでな」

 その言葉を聞いて、こめかみの辺りが引き攣るのを感じながらも笑顔を崩さず話しつづける。

 とは言え、聞いた時から腕を背中で組み、カオスがこの城の正門から堂々と入ってきた時から囲ませている部下達に、準備の合図を送る事は忘れていないが。

「ほ、ほう?私よりも有能な者が居るとでも?」

「ああ。私の作り出した不老不死の薬の欠陥をあっさりと見抜き、改良版を手土産に持ってくるくらいには、な」

 カオスの視線には、「貴様にそれができるのか?」といった言葉が篭められている。

 しかし、二流と呼ばれたヌル―――それでも、充分に天才と呼べるだけの能力は持っているのだが―――には、そんな事は出来はしない。と言うか、欠陥があることにさえ気付かなかっただろう。そもそも、その不老不死の薬さえ作り出せなかったのだから。

「しかしっ!私には貴方に無い物が「地獄炉か?」―――何故それをっ?!」

 切り札のつもりか、勝ち誇ったように地獄炉のことを―――おそらく、その正確な正体は隠すつもりであったのだろうが――告げようとするも、相手は既にそのことを知っており、しかも鼻で笑われる始末。

「そんな物を作って、自分が魔族であることを声高に言い立てる馬鹿に用は無い、と言いたかったのだがな?」

 最早、交渉の余地は無いようだ。彼の顔には、嘲笑と不遜の感情しか表れていない。そして、天才と呼ばれたヌルがそんな物を見て猶交渉を続けるとも思えない。

「く・・・くっくっく。それならば、貴方には死んでもらうしかありませんな」

「ふむ。やはり無能だな」

 そして、徐々にその正体を現しつつ、姿の変わりつつあるヌルから聞こえるその声に、カオスは冷静に罵声を浴びせる。

「・・・このドクター・カオスを攻め手に回して、何時までその余裕が保てるかな?」

「少なくとも、貴方が命乞いをするまではっ!」

「―――ならば、始めよう」

パチンッ

 カオスがその指を鳴らす。その音に答えて、その両横から現れる芦とマリア。

「やれやれ。過分な評価、いたみいる」

「謙遜は・過ぎると・美徳ではありません」

 そう言いながら、芦はその手に銃を構え、マリアは霊力を纏わせながらロケットブーツの火を灯す。

「・・・未来のカオスも、とんでもない事をやる物だ」

「お褒めに預かり・光栄です」

 そのマリアをちら、と見て。呆れた様に呟く芦とその呟きに視線をヌルから逸らさずにあっさりと答えるマリア。

「こいっ!ゲソバルスキー達っ!」

 完全に元の姿、タコの化物としか言い様が無いが、その姿を取り戻したヌルと、カオス達を囲むように現れるゲソバルスキーと呼ばれた黒い鎧の兵士と、白い鎧の兵士達。

「コロセェェェッ!」

「――そんな陳腐な台詞しか吐けんから、二流だと言うのだ」

 なだれ込む兵士達の足音と共に、激しい戦いの幕が、いま、開かれていった。


ずぅ・・・・ぅん

「ようやく始まったわね。行くわよ、横島君!」

「うっす!」

「バウッ!」

 そして、城の上空で待機していた美神達が動き出す。目標は、マリア姫が脱出に使った城を囲む城壁から、少し離れた所にある地下通路。

 其処を抜ければ地獄炉のある地下室が、直ぐ目の前に広がっている筈である。

「さぁて。いっちょ一暴れと行きますか!若かりし頃の『ヨーロッパの魔王』謹製の道具の数々っ!ちょっと位派手に暴れたって良いわよね!!」

 現代では手に入れることさえ不可能な、強力な破魔札やカオス流の改造が施された霊媒道具の数々。
美神が身に付けているのは必要最低限であるが、それでも忠夫には大量の予備が括りつけてある。

「ほーっほっほっほ!報酬も貰えてストレス解消にもなるなんて、結構ラッキーよねっ!!」

「あんまり無茶せんでほしいなぁ」

 忠夫の呟きに、帰る答えがあるでなし。
 彼女達の乗った絨毯は、一路隠し通路へと向かうのであった。


「そりゃあっ!」

 爆音を立てて吹っ飛ぶ兵士達。美神の振るう神通棍は、何時もにも増してその威力を高めている。

「喰らいなさいっ!」

 美神の手から放たれた何枚もの破魔札は、何時もの奴とは桁違いの爆風を巻き起こしながら有象無象を蹴散らし連爆。後には、物理的な効果さえも及ぼした証拠に出来たクレータが幾つも幾つも残るのみ。

「バウッ!」

バロンもその影でサポートしながら、辺りを縦横無尽に駆け回っている。おかげで兵士達も連携が取れずに駆逐される一方である。

「ええいっ!あの犬から先に何とかしろぉぉっ!」

「隊長から作戦を預かっている!食らえぇぇぇっ!」

 そう叫ぶ兵士の手から投げられたのは―――骨。只の骨。

「バウーン!」

 しかし、効果は抜群だった。思わず飛びつこうとするバロン。

「今だー!」

「それは俺んじゃぁぁぁっ!」

 其処に斬り付けようとした兵士は、しかしそれを果たせない。突如飛び出てきた忠夫が、その兵士を踏み台に一気にその骨を掻っ攫ったからである。

「グルルルルルッ!!」

「ウーーーーーッ!!」

「馬鹿な事やってるんじゃないっ!!!」

「「キャインキャイン!」」

美神の一喝で、慌てて逃げるバロンと忠夫。同レベルにしか見えない辺り、忠夫も結構本能に負けやすいところがあるのだろうか。

―――ありすぎであろう。

「次っ!・・・って、もう居ないじゃない」

「・・・ノリノリっすねー。美神さん」

 それでも絶好調と言った感じで美神があらかたの敵をしばき倒し、満足げな息をつく美神に何もしていない忠夫が呟く。
美神は、きらきらと輝く目を向けると。

「だって、これで現代に帰ってからの報酬が楽しみってもんじゃない!これだけの上等な破魔札なんて、そうそう手に入らないわよ?カオス謹製のお宝、ああっ!ゾクゾクしてくるわっ!」

 そう言いながら自分の体を抱きしめる美神。忠夫は、そんな雇い主を見ながらちょっと引いていたりする。バロンは尻尾を丸めて忠夫の影に隠れているが。

「上ではまだまだ派手にやってるみたいだし、こっちもドンドン行くわよっ!」

「・・・ういーっす」
「バウ」

 確かに、天井の方からは遠く爆音が響き渡り、おそらく地下の騒ぎも伝わらないほどの激戦になっている事が予想できた。
 あちらにはマリア、しかもカオスから色々と受け取っていた重武装の彼女がいる限りそう心配する事はないだろう。
 こちらはこちらで目的を果たせばそれで良い。さっさと地獄炉まで辿り着いて、後は仕掛けをごろうじろ、と言った所である。

「・・・無理するなよ、マリア」

 呟く声も、遠雷のような音にかき消されてしまったが。


「あやつ等はまだ目的地に辿り着いておらんのか」

「イエス。ドクター・カオス。いまだ・連絡・ありません」

 カオスとマリアは背中合わせになりながら、城の中を駈けていた。曲がり角や部屋の扉から突然飛び出てくる雑魚兵士を蹴散らしながら、ヌルとゲソバルスキーの追撃をかわしつつ引きつけている。

「しかし、お前もそんな物を何に使うつもりだ?」

「これは・必要な・物です」

 彼女の手には、鈍く光る円筒形の筒がある。カオスの研究所によった際に、マリアの試作ボディから借り受けた物である。

「おっと!」

 カーテンを突き破って繰り出された剣をかわし、そのカオスの横をすり抜けるようにしてマリアがカウンターの回し蹴りを叩き込む。喰らった兵士は、後方のヌル達に無か会って吹っ飛んでいった。

「・・・まあ、無茶はするな」

「イエス。ドクター・カオス」

 奇しくも忠夫と同じその言葉は、本当にマリアに届いたのだろうか。


「うわー」

「こりゃまた悪趣味だ事」

 美神達が姫から聞いた目的地と思わしき場所に辿り着いてみれば、其処にあるのは巨大な円筒形の物体と、其処から伸びた無数の管。そして、円筒の中心に張り付いたガラスから見えるもがき苦しむ魂たちの怨嗟の表情。

「ほら、横島君「アレ」だして」

「ええっと、これっすね」

 ごそごそと懐をあさった忠夫の手には、先程芦がゲソバルスキーを拘束した時に使った触手の入った玉である。勿論、美神達はその正体は知らないし、芦が使った物よりも緑が深く、既に黒に近い色である事など思いもよらない。

「これをこいつにくっ付けて、爆薬を一緒にセットする、と」

「逃げましょーか!」

「まだよ」

 既に逃げ腰な忠夫を余所に、美神は更に幾つか同じ物を取り付ける。

「良し。横島君、カオスたちに連絡して!終わったらとっとと離れるわよっ!」


―――ピッ

「連絡・きました!」

「よしっ!場所はっ?!」

「この先・左に曲がって・100M。階段を・下りた所・です!」


―――ピッ

「ふむ、中々のタイミングだな。流石は―――」


そして、舞台は整った。


「おや、もう逃走劇は終わりですか?」

「ああ。こちらの準備が整ったのでな」

 場所は、ちょうど美神が地獄炉を発見した所の真上にあたる。先程までマントを被って姿を消し、城内を駆け回っていた芦もその姿を見せていた。

 3人の前には、ようやく追いついてきたヌル達がいる。

 余裕綽々のその表情が、ついにカオスたちが諦めた物と思っている事を告げていた。

「マリア」

「リンク・正常。何時でも・行けます」

「芦」

「準備は完了している」

 カオスは、両隣の二人に短く問いかけ、二人もまた最低限の答えを返す。

「・・・何のつもりですか?」

 事此処に至り、ようやくヌルもその様子を妙だと感じたようだ。しかし―――

「仕上げだ」
「何をっ?!」

―――もう遅い。


カオスが何かを投げつける。それは、眩いばかりの閃光を放ち、ヌルたちの動きを一瞬止める。
そして、その一瞬の硬直が命取りとなった。

ゴゥンッ!!
ゴゥンッ!!!
ゴゥンッ!!!!

 城を貫き響く爆音。
 地下からマリアたちのいる場所の一つ二つ上のフロアまで一直線に巻き起こる爆発は、ヌルたちの頭上に大量の瓦礫を降り注がせながら彼らを地下の地獄炉へと運んでいく。

 芸術的なまでに計算されたその爆発は、城の基幹部分を全く損なう事無く

―――彼らを奈落へと突き落とした。


「うおおおおおっ?!!」

「ヌ、ヌル様っ?!」

そして、地下には地獄炉が破壊された事により撒き散らされる魔力と、それを引きずり込む地獄への直通路からの強烈な吸引。


―――後、なんだか緑色した巨大な植物の蔓。

「な、なんだこれはぁぁぁっ?!!」

「改良前の物でな。魔力を餌に際限なく育つ食肉植物と言う奴だ。使い道が無くて困っていた」

 響くヌルの悲鳴も遠くなっていく。どうやらきっちりと魔力を纏ったヌルを餌として認識してくれたようである。芦の答えも届く訳が無いが、それでも説明している辺り、芦の満足げな表情が全てを物語っていると言えなくも無い。

「じょ、冗談じゃないぞぉぉぉぉっ?!」

 慌ててヌルがあたり一面に雷やら火やら氷の槍やらを振りまくも、傷付けられる端から再生しているので意味が無い。とは言え、その植物自体もどんどんと地獄炉が空けた穴に引きずり込まれている為、そう大きくなる前に完全に飲み込まれてしまうだろうが。

「カオスッ!上手くいったの?!」

「マリア、元気かー?!」

「バウッ!」

 いまだ間欠的に火やら氷やらを吐き出す穴の向こうから、駈けて来るのは美神達。

 マリアは、忠夫を見つけると、少し寂しそうに笑った後、手に持った筒を胸元に当て、そのまま忠夫に向かって投げる。

「―――横島さん・私の心・お預けします」

 その一言だけを聞いた。

「へっ?うおっと!!」

 忠夫は、少し離れた、走る美神の進行方向に投げられたそれを、なんとか受け止める。しかし、美神は美神で助手の突然の動きと、マリアの笑みに目をとられ、忠夫と一緒にスッ転ぶ。

「きゃあっ?!」

不意にバランスを崩した美神達は、開いた穴へと落ちかかり。そこから突如穴から飛び出てきた雷の直撃を受け。


―――ヴュン!

 美神達は、この時代から消えてしまった。

 後に残るは、あっけに取られた表情のカオスと芦と、目を瞑って動きを止めたマリアだけ。


---アトガキッポイナニカ---
はいすいませんmaisenでございます^^
というわけで第参拾八話、此処にお送りいたします。

ノリが良かったので書き上げれました。そして、とんでもない所で切ってます。
・・・次、早くしますね。

レス返しー。

八尺瓊の鴉様>ああ、そういう意味でしたかwそれならば確かに初披露ですな。 タイムパラドックス云々かんぬんは、次回、エピローグにて。・・・期待しちゃいけません。どっかで破綻しそうですしw

ヒロヒロ様>ま、原作では反応してませんでしたしねー。美神さんですから。 前世?それはこれから先のお話ですなw

k82様>日本名なのは・・・気にしちゃ駄目です(爆 そっちの方が面白いかな、と。何が?それも気にしちゃ駄目ですってば(黙れ 前世編は前世編で、ですね。ってよりによってバロンですかいw

KAZZ様>謎が謎呼び謎を呼ぶ(意味不明 まぁ、それはともかく色々と答えはありますが。前世編も何時の日かw

桜葉様>さてさて、彼は一体何者なのでしょうね? 現代のカオス、次回エピローグで再登場。

法師陰陽師様>カオスが彼の事を知っているのか。それもまぁわかりませんがw とりあえず、活躍しすぎて困るくらいには只者じゃないというか何と言うか(爆

偽バルタン様>謎のジーさん。いい響きですなぁ(マテ それはともかく。カオスがカオスたる理由は、一体なんなのでしょうかね?

casa様>あぁ・・・懐かしいなぁあのトンデモ企画w は、非常識ですからw そうですねー。カオスが呆けていないのは、芦が彼の薬を改良したから、と。まぁ、理由やらなんやらは何時か明かせるといいなぁ(マテ

柳野雫様>彼女らしいといっていただけるとうれしいですなぁw 色々と交錯しておりますが、次回で明かせるのはそのうち一体どの程度やらw

ヴァイゼ様>予想を面白い方向に裏切れた、と言うのは嬉しいお言葉ですなw まぁ、ソレはお約束と言う奴ですからしてw は、Okですかw

良介様>近所迷惑にならないようにお気をつけくださいなw マリア、良いですかな?〈爆

D,様>カオスはカオスですとも。どこまでもw マリアは・・・まぁ、今回の彼女はほんのちょっと違う方向で動いて居たりします。

なまけもの様>カオスが呆けていないのはともかく。人狼なのは月に吼えるのデフォルトで?(マテ とはいえ、芦さんも色々と思惑がありますからねぇw

MAGIふぁ様>美神さん、今回はなんの説明も無く現代に飛んじゃいました。その辺りの説明も次回でw 利用されていても、がっちり自分の利益を確保するのが美神さんですからw

しゅーりょー。

さてさて、次も頑張りますので、見捨てないでいただけると―――とても喜びます^^ノシ

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