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▽レス始

「チルドレン アンド ア ベイビー(絶対可憐チルドレン×GS)」

zokuto (2005-08-03 16:26/2005-08-03 20:13)


 ザ・チルドレンの教育係、皆本は今日も苦悩していた。
 親馬鹿と称すべきかどうか判断に困る局長と、性格に難がある、というか皆本をいじめることに快感を見いだしているに違いない子ども達とを相手にする日々は、彼の胃に何個の穴を開けただろうか。

 そして今日も新たな苦労を背負い込み、しょぼくれつつもチルドレン達の教育をしなければならなかったのだ。

「今日から新しいメンバーが参加します」

 小学校の先生が転校生を紹介するような口調で言う。
 相手の年も考慮するならばそれもぴったりなのだが、それでも普段よりぐっと力ない言葉だった。

「サイコキノ、テレポーター、サイコメトラーと三拍子そろったメンバーに、新たな超度7のチャイルドが加わるんだ。 僕の胃は、もう蜂の巣みたいに穴だらけだろうな」

 ハハ、と小さく笑う。
 そして空しく体を縮め、咳払いを二度する。

「紹介しよう……美神 ひのめ君、超度7のパイロキネシストだ。 ちなみに、満……一歳だ……」
「あーぶー」

 ダメダメ局長こと桐壺に手渡され、皆本の胸に抱かれている元気な赤ちゃん。
 親も姉もオールバックで、勿論本人もオールバックな赤ちゃん。

 薫も葵も紫穂も、みんなぽかんと口を開け小さな体で躍動する物体を凝視した。
 そして皆本は、どこか他の世界に飛び立って、薄ら笑いを浮かべていた。

「何か、質問は?」
「はいはいはいッ! なんで一歳なんですか!」
「産まれてから一年しか経ってないからだ。 ハイ、次」
「なんでこんな赤ん坊が私たちのチームに?」
「……詳しいことは言えないが、圧力がかかった……この子の母親から」
「で、私たちに何をさせようとしてるんや」
「せ、せめて、暴走するのもさせるのもやめてくれ……それだけだ」

 まるで策略の化身みたいな母親の恐ろしさを心底知り尽くした皆本だった。
 本来ならばこういうときの局長ということで、桐壺がこの赤ん坊がチルドレンチームにいれさせようとする圧力に対抗すべきなのだが、やっぱりバベルの局長はダメダメのダメで二つ返事で了承してしまったからさあ大変。
 こんな子どもの教育なんて出来やしないと反論するも、却下却下の大盤振る舞い。

「この子の超能力は、超度7と呼ぶのすら少々強すぎる。 下手したら街一つ吹き飛ばすのも楽々とやってみせるだろう。 まあ、これからも皆本が頑張ってくれるから、何も心配しなくてもいいんだぞ」

 と、桐壺帝三。
 このときばかりは皆本も殺意を覚えたそうだ。

「あー、えー。 これからはお前らもお姉ちゃんなんだからな、頼むから大人しくしてくれよ。 さもないと胃に穴が……」

 そんな皆本をよそに、三人組は肩寄せ合ってひそひそ話を始めた。
 今までの皆本が養ってきた勘によると、良くないことを相談しているのであり、別に勘を使わなくとも良くないことの前兆だということが自ずと知れるものだった。

「すげー、赤ん坊だぞ、赤ん坊! 今のうちに調教しておけば……」
「おねーさま、おねーさま、といいながら従順に従う……」
「パシリっちゅー……」

 やはり3人固まったところから溢れ出る言葉は、とんでもないものばかり。
 世間から隔離された子ども達の顔に張り付く十歳とは思えぬ暗い笑みが皆本の背筋を凍らせた。

 とは言え、皆本もこの小悪魔のような子ども達とずっと渡りあい、時には心に触れあいそうなところまでいった猛者である。
 また、このチルドレン馬鹿とも言える桐壺が局長を務めるBABELの中で唯一チルドレンを叱咤できる権限と度胸を持った貴重な人物でもあった。

「馬鹿なことをするな! そんなことをしたら僕の首が飛ぶどころの騒ぎじゃ……」

 皆本が言う。
 もっとも、叱咤する権限と度胸を持っているのと、性格がねじまがっていると当の本人達も自負しているチルドレン達の意思を変えることとはまた別であり。

「まあまあ、そんな固いこと言うなよ。 どうせ一つや二つ首が飛んだってそんなに困らないだろ」

 案の定、薫に鼻で笑われた。
 チルドレン達のあしらいを皆本が上手くなっているのと同じように、チルドレン達も皆本のかわしかたを理解しうまくやっていた。

「でも物好きな親だなぁ。 俺たちみたいに幼稚園や学校に行けないような場所に押しつけるなんてな」
「いや、そういうわけでもないんだ。 君達には今度学校に行って貰うって話はこの前したし、この子も普通の子とかわらないような教育を受けるんだ。 ここにつれてきたのは……まあ、この子の親はこの娘の教育によさそうだから、と笑って言っていたよ。 なんだか、この子の姉はとんでもない育ち方をしてしまったとか。 おっと失言、聞かなかったことにしてくれ」

 美神ひのめの親、美神美智恵はそれはもう変幻自在な人物であった。
 娘を谷に笑いながら落とすこともいとわない……と思わせつつも、その反面常人の親よりも情愛の溢れているようにも見せることができる、策士であるがゆえの苦悶を味わいながら、それらをお首にも見せない演技力も持っていた。
 もちろんそれは生き抜くために必要不可欠だったからなのだが。

 またその彼女が自分の娘をこの機関に預けたのはいくつかの目論見があった。
 もちろん、彼女は自分の娘をダシに使っただけというわけではない。
 むしろその他のメリットはおまけであり、頭が回りすぎる人物が故にさらなる利を考えてしまう一種の癖でもあった。
 産まれながら超強力なパイロキネシストであるひのめを、同じ環境の子どもと一緒に活動させることは本人にとってもまた周りにとっても最良の選択だったのだ。
 美智恵には立場上色々な権限があり、またその権限を上手く使いこなせる手腕があるので、ひのめに会いに行く事は可能。
 私用に訪れることも、誰にも止められることはない。
 内情を探るためにBABELに行くことに関しても自然なこととなる。

 更には皆本との接触も可能。

 美智恵は人を見る目が普通の人よりかはある。
 やはり美智恵も人であり、人の表情から感情その他を読み取る能力も極めて秀逸であるが彼の夫のようにテレパスではないので、必ずしも勘があたるわけではないが、皆本は美智恵から見ても確信をえるほどの有能な人物であったのだ。

 美智恵の娘が雇うアルバイト横島忠夫なる青年がいる。
 美智恵の直属の部下に西条輝彦なる青年がいる。

 ややちゃらんぽらんなところがありつつも芯がしっかりしている横島が万能な柔ならば、真面目で有能な西条は信念のはっきりしている剛。
 皆本はその両面を持ち、また彼のみしか持たぬものがあった。
 そして超度7のチルドレンの念動力を受けて尚生きているタフネス。
 不死者と影で噂されている横島ほどではないが、それでも常人の回復力とは逸脱しているものがある。

 霊能力も超能力も無い上、極めて重要な立場にいる皆本である。
 そう易々と引き抜くことはできないし、美智恵も引き抜こうとは思っていない。
 ただ、何かしらの接点があればそれにこしたことはないともくろんでいた。
 結果、皆本の胃にいくつかの穴をこしらえることになったのだが。

「あーぶー」

 ひのめの目が怪しく輝くとともに、薫の髪の毛が燃え上がった。
 あまりにも幼すぎるが故の力の暴走。
 図ったようなタイミングでの出来事だったがあくまで偶然だった。

 薫はすぐに自分のサイコキネシスで炎を消し止めた。
 リミッターがついている状態ならば、薫は超度4のサイコキノと同じ力しか出せないのだが、幸い火も小さくすぐに消し止めることができた。

「大丈夫か!」
「大丈夫じゃねーよ! 髪が少し焼けちまった」
「いや、お前じゃない。 赤ん坊の方だ」

 皆本としては薫のタフさを知りつくしての言い分だった。
 でもやっぱり皆本は壁の中にめり込まされた。
 理不尽といえば理不尽であるが、男性に大して感心をもたれていないというのは、その当人に好意にしていようがいまいがあまり気持ち良いものではないという女心を察することができなかった皆本が原因か。

「局長に言いつけるぞ、この」

 本来は皆本が言うべき台詞を薫が言った。
 チルドレンひいきな局長を持てば、立場すら逆転するものらしい。
 外面では桐壺局長はかなりのヤリ手と称されているものの、内面ではその逆であった。

 壁にめり込んでいた皆本も、最近では慣れてしまったのかさほど驚いた表情もせず壁から這い出してくる。
 このタフさこそ、美智恵が注目する点であった。

「お、お前はちょっとやそっとの怪我はいつもしているだろう。 それに僕が心配しても普段は聞かないじゃないか」
「う、うるせーな。 皆本は黙ってろ」

 ついつい皆本に自分が一番に考えられていなかったことに腹を立て、サイコキネシスを発動させてしまったことに戸惑いつつも、なんとかごまかした。
 人を殺すのに超度の大きい念動力はいらない。
 ほんの少し脳や心臓に直接ダメージを与えてしまえば、簡単に殺せる。
 しかも証拠は見つかりにくい。
 もっとも、薫レベルのサイコキノであれば小細工無しで様々な手段が考えられるのだが。

 ……皆本はとにかく強靱だったのだ。

「超度7のパイロキネシストとは言えまだこの子は赤ん坊だ。 ほんのちょっとでも怪我をしたらその……色々ともめ事が。 具体的に言えば僕が無理矢理辞めさせられることも……」

 皆本は同時に賢かった。
 美智恵と何度か会い、何かを感じていた。
 皆本の推測は事実より少し踏み込んだものであったが、美智恵の本心のありどころを察知していたのである。

「まあそれはそれとして、この子……ひのめは更に珍しい超能力も持っているんだ。 代々彼女の家は優れた霊能力者を多く出しており……」

 気を取り直し、ひのめを抱きかかえて皆本は続けた。
 そして、皆本の培ってきた危機関知能力が警笛を鳴らした。

「ふせろ! お前ら!」

 後ろ右斜め上方に嫌な予感。
 皆本は決してプレコグ(予知能力者)ではない。
 が、いつも現場の第一線で指示を下してきた勘は一人のプレコグの能力よりも遙かに信頼できるものだった。

 爆発音と共に、BABEL内に女性の声の警報音が鳴り響く。

「あーっはっはっは! 四代目メドーサ姐さん推参だよ! 美神家の血を引く娘はここにいるのかぁ」

 そして一人の女魔族が部屋に突入してきた。
 名はメドーサ。
 かつてひのめの姉である美神令子とその部下である横島忠夫の手によって五度も人間界への攻撃を退けられ、三度葬られてきている。
 もとよりプライドの高い彼女が募らせた美神の血へと恨みは計り知れなく、また、直接相手を討とうとしても困難なことを学習していた。

 美神令子を倒すためには、人質を取らねばならない。
 が、全くの他人であればメドーサよりも悪どい性格であると言われている美神令子は気にもとめず攻撃してくるだろう。
 ならば、その肉親を狙えば、と考えが行き着いたのだった。
 しかし、父親も母親もとてつもなく手強い。

 父親はそれこそ超度を目安にして考えるのが馬鹿らしいほどの精神感応能力の持ち主であるし、母親は産まれたときから備わった霊能力を持つ敏腕GSであるし、絶望的力の差があったアシュタロスを相手に勝ったほどの策士。
 ならば、超度7のパイロキネシストとは言えまだ赤ん坊であるひのめが一番妥当。
 というわけで、母親も父親も姉もいない、ひのめが一人っきりでいるBABELに潜入をしたのである。

「うひょー! 見たか皆本。 あのねーちゃん、すげぇでけぇ乳してるぞ」
「お、お前な……今が一体どういう状況か分かっててそんなことを言ってるのか?」

 メドーサは紫色の髪の毛を振り回し、コギャル風な態度で悠々と空に浮かんでいた。
 親父臭いというキャラクターの薫が言うとおり、メドーサの胸は一見の価値があるほど大きかった。
 しかし、片手にはそんなことを考えさせないほど長く太く頑丈な刺叉が握られており、得も言わせぬ威圧感を放っていた。

「おい、そこのメガネ西条。 その娘を大人しく渡しな! あたしは今機嫌がいいんでねえ。 素直に渡してくれたら殺さないでやるよ」
「ば、馬鹿なこと言うな! 薫もお前もみんなみんな僕のことを、あの女妖怪のようなところに陥れようって考えて! そんなことは許さないぞ! 今のままでも胃が壊れそうだというのに僕に更にストレスをかけようったって無駄だ! ええい、この、リミッター解除! 薫、葵、紫穂、あいつを倒すぞ!」
「お、おう……皆本。 なんか知らんが、悪かった……」

 さっと携帯を取り出した皆本は、乱暴な手際でボタンを押す。
 彼がしているのは、ザ・チルドレンのリミッターの解除。
 本来の力にかけた枷を外しているのだ。

「ふふん。 馬鹿な男だね。 気まぐれにゴミクズな人間を助けてやろうって言うのに。 ……そんなに死にたいのなら、とっとと死んじまいなぁ!」

 メドーサは刺叉をぶん投げた。
 それはものすごいスピードで、轟々と空気を揺らし……。

「エア・ポインティング!」

 しかし、それは皆本とメドーサとの中間の地点で突如止まった。
 一気に加速度が失われ、その場で停止。
 だが、重力に準じて地面に落ちることもしなかった。

「回転! 突貫!」

 そのまま何かに動かされるかのようにくるりと方向を変え、そのままメドーサ目掛け飛んでいく。

「な、なんだい! ゴミクズの癖に何をした!」

 最初のときと同じくらいのスピードで飛んできた刺叉を易々と掴むメドーサ。
 人間相手に渡り合って、相手を侮り辛酸を味わった経験からか、また同じ過ちをしてしまうのかと焦り始めた。
 言いようのない不安感がメドーサを襲った。

 あのしたたかな美神令子に負けたのは認めよう。
 百歩譲ってあのちゃらんぽらんでいい加減で下品でスケベで馬鹿で間抜けな横島忠夫に負けたことも、不本意ながら認めよう。
 だが、無能な一般人に大して本気で挑むことは、経験を積んできたメドーサでもまだためらわれた。

 その葛藤が命取りになった。

「喰らえッ!」

 皆本の放った銃弾がメドーサの肩に命中した。
 もちろん、銀で作られているわけでも鉛ですらもない銃弾だったが、特殊な力を持つ者に有効な麻酔薬が入っていたのだった。

「くっ……舐めるなぁ!」

 そこで敗北を認めるメドーサではなかった。
 鋭い爪で命中箇所の肌を掻きむしり、体全身に麻酔が行き渡らないように処置をした。
 魔族であるから再生も速い。
 皆本の放った銃弾は、麻酔が効かなければ相手を倒すことができない。
 ただただ、怒りを増幅させただけにとどまった。

「絶対に殺す!」

 遠慮なく殺意を剥き出しにして、刺叉を皆本に向け、今度は放り投げるのではなく突きを放った。
 自分の腕力があれば、あの奇妙なワザは使えまい、と。
 周りの時間を遅らせることのできる超加速を使わずとも人間如きがかわすことができないスピードがあるので、これで終わるだろう、と思った。
 だがやはりメドーサは人間を侮っていたツケを支払う羽目になった。

「葵!」
「あいさ」

 確かにあのメガネ西条がいたところの地面を抉った。
 メガネ西条だってあの場から逃げようともせず、その瞬間まではそこに立っていた。
 だが、刺叉が突き刺さったのはBABELの地面だった。

「何ぃ!」

 狼狽しているその隙に、メドーサは大質量に突進を喰らったかのように横に吹っ飛んだ。
 瓦礫の中に無理矢理押し込まれ、さらなる瓦礫がメドーサを覆った。

「へっへー。 あのでっけぇ胸のねえちゃんも大したことないね」

 葵のテレポーテーションで既に安全地帯に飛んでいた薫が余裕の笑みを見せた。
 だが、メドーサがそこで終わるわけはない。
 超能力といえどそれは霊能力ではなく、魔族に致命的なダメージを与えることができるわけではないのだ。

「……油断するな、薫。 あいつがあれで倒れたとは思えん。 葵。 戦闘向きじゃない紫穂と赤ん坊のひのめを安全なところへ連れてってくれ」
「はいな、皆本はん。 ……死んだらあかんよ」
「ああ、分かってる」
「心配すんなって。 何度出てきてもあたしが倒してやんよ」

 葵と紫穂とひのめが消えたちょうどその瞬間。
 メドーサが瓦礫の中から這い出してきた。
 どうやら本気でプッツンしてしまったようで、後頭部からだくだくと紫色の血を流しながら、皆本と薫を見下ろしていた。

「なるほどねぇ。 念動力者に瞬間移動能力者……どおりで派手さに大してダメージがないと思ったら、霊能力じゃなくて超能力だったわけかい」
「お、おい……一体どういうことなんだよ皆本……フルパワーで喰らわせたんだぜ。 あれを耐えられるのは皆本くらいしか居なかったっていうのに」
「くっ、あれは魔族らしい。 ひのめの母親から少し言われていたが……なんてヤツだ。 ……て、ちょっと待て。 いつもあれと同じくらいの念動力を僕に向けていたって言うのか! 人だったら死ぬに決まってるだろ!」
「そうか。 人だったら死ぬよな……じゃあ皆本は人じゃねぇのか?」
「うっ……順応能力が高いだけだ。 僕は人だ……と思う」

 一瞬流れた気まずい雰囲気を消し飛ばすようにメドーサが飛びかかった。
 手には刺叉、目指すは薫。

「先にガキをやって後でゆっくり殺してやるぞ、メガネ西条ぉぉぉぉぉ!」
「エア・ポインティング!」

 薫の念動力がメドーサに圧力を掛ける。

 だが……。

「無駄さ! 種がわかればどうってこたないよ!」

 メドーサはスピードは落としたが、しかし進行を止めることはできなかった。
 わずか数メートルの距離のみが二人を隔て、およそ数秒後には二つの物体は接触しようというときに。

「危ないッ!」

 皆本が飛び出した。
 薫を弾き、刺叉からの攻撃を身を挺して。

「皆本ーーーッ!」

 肌を突き破り、筋肉を裂き、刺叉の先端は皆本の肩を貫通した。

「グッ……薫。 逃げろ!」
「ちっ、またこのシチュエーションかい。 つくづく人間ってのは大層なもんだね」
「仕事のためだからな……」
「……あいつと同じ台詞を……まあいい、死ね!」

 あと救援がほんの数秒遅れたのならば、もしかしたら皆本は死んでいたかも知れなかった。
 メドーサが手に力を込め、押すか引っ張るかをしていれば、皆本の肩がちぎれ、そこから大量の血が出て助からなかったのは誰から見てもわかった。

 BABELの管理する大型コンピューターから大量の放電が無かったのならば。

「皆本ーーーッ! おお、若いッ、若いぞ、皆本ーーーッ!」

 そんな陽気な声がしたと思ったら、メドーサが横に吹っ飛んだ。
 強力なサイコキネシス。
 超度7の薫でさえも出せない出力を持ったサイコキネシスが皆本の命を救ったのだった。

「なっ!?」
「ほな、次行くで〜」

 皆本の思考の外で事態はどんどんすすんでいく。
 再び瓦礫の中に沈んだメドーサの頭上に舞い上がった埃の中に、人影が現れた。

「元々テレポーターはそんなに戦闘能力持っとるもんやないけど、この瞬間移動清塩攻撃は効くやろ」

 聞き慣れた関西弁が響き、大量の白い粉が瓦礫に降り注いだ。

「じゃ、最後のとりは私が締めるわね。 お姉様達」
「おう、行ってこい」
「がんばりや〜」
「頑張ってね〜」

 はぁ!? と皆本が頭を傾けていると。

「このクイーンズ オブ カタストロフィの一人、美神ひのめが……極楽に逝かせてあげるわッ!」

 塩と瓦礫とメドーサを燃やし尽くす聖なる炎。
 まるで生きているかのように炎は渦巻き、竜巻を形成し、瞬く間に辺りを火の海へと変貌させた。
 舞い上がる熱風はあたりの埃を一掃し人影の姿を、一瞬だけ皆本は見た。

「ああ、そうか。 そうなのか……」

 全てが終わると炎は消え、あの人影も、影も形も無くなっていた。
 夢を見ていたかのようにたたずむ薫と、肩にでかい刺叉を突き刺している皆本だけがその部屋に残っていた。

「……やれやれ……あんな子をこれから僕が面倒を見るのか。 先が思いやられるな」

 だが、彼女らが自分達を助けに来てくれたということは、それはきっと……。

 

「お、おい。 大丈夫かよ、皆本。 顔が真っ青だぞ」
「ん? ……す、少し血を流し過ぎたかな……は、あはははは……」

 実際、皆本の受けたダメージは大きかった。
 肩に突き刺さった刺叉が、重量に負け少し抜けてしまったのだ。
 刺叉と肩に開いた穴との隙間から大量の血が溢れ、非常に危険な状態になっていた。

「お、おい! 今止血するからな。 死ぬなよ皆本!」
「た、頼む……ちょっと目がかすんできた……」

「いくぞ……サイキック……心臓停止!」

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 
 数週間後、皆本は大けがを負ったというのに驚異的な回復力を見せて現場に復帰した。
 もちろん薫をその後何時間も部屋で説教したのは言うまでもない。

 そして、その事件を通し美神美智恵が優れた指揮能力とやっぱりタフネスに注目して皆本を更にほしがったのも……もしかしたら言うまでもないことなのかもしれない。

 

 

 
  終わり

 

 

 

 


   後書き

 メドーサ姐さんが西条と面識がないのに皆本のことを「メガネ西条」と言っているのは大宇宙の神秘です。

 まあそんな苦しい言い訳はほっておいて、GS×絶対可憐チルドレンでした。
 まだ絶対可憐チルドレンは連載四回っていうことで、ネタばれしないように慎重に書いてみました。
 今度は打ち切りしないように、そして絶チルのSSがGSばりに活躍するようにみんなで応援しまっしょい。


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