短いです。
百目
8月2日火曜日。
この日も朝から暑く、都内某所の貧乏学生はクーラーも無い部屋の中で死んでいたが、標高の高い妙神山では周囲が自然に囲まれている事もあってかさほどでもない。風情を出すために風鈴を飾って、後は扇風機程度で十分である。
人間界の時期で言えば夏休み。妙神山預かりのパピリオは、暇だからと遊びに来た挙句かき氷の一気食いをして今現在悶えているヒャクメをそれはそれは邪魔な物を見る目で眺めながら、小竜姫に与えられた宿題をこなしていた。
宿題、といっても実年齢はまだ幼いパピリオの事。学校で習うようなものではなく、どちらかと云えば情操教育の面が強い。
その一環として、小竜姫はパピリオに新聞を読ませていた。といっても外見年齢に見合った内容の物をチョイスをしてあるが。
なおこれはれっきとした人間界発行の代物であり、普通の新聞屋さんが配達しているものである。と云ってもわざわざ妙神山まで配りに来ているわけではない。そんな事をしていたら読めるのは翌日以降になってしまう。
実は横島の部屋の新聞受けを妙神山に繋げてあるのだ。元々新聞は取っていないし、それ以外では光熱費など請求書やチラシぐらいのもの。必要なものがあれば、それこそまた送り返せばすむ事である。
こうして妙神山に配達される新聞に彼らは日々目を通していた。昨今の人間界のめまぐるしい進歩においていかれないようにするためである。
ただし複数の新聞を同時に取っているため、内容によっては混乱するらしい。
閑話休題
いつもの通り、まず4コマ漫画から見て、それから適当に中身を物色して興味を持ったのを読んで、また一面に視線を戻す。
「…………」
一面の柱の部分を見、それから扇風機の前でだれているヒャクメに視線をやって、もう一度紙面に視線を落とす。
「ねえベス?」
「ヒャクメなのね〜」
「ベスはベスでちゅ」
「あうう〜」
何度訂正しても直らない呼び方に滂沱の涙を流しつつ、先を促す。
「ベスは神族だけど、元はヒャクメという妖怪なんでちゅよね?」
「西洋系はキリスト系の一人勝ちで、魔族に対して神族の勢力が不足したから、その措置の一環なのね〜」
「…………小竜姫は竜神族。竜の姿が本来の姿なんでちゅよね?」
「? そうだけど?」
「パピリオは蝶。ベスパちゃんは蜂の姿が本来の姿なんでちゅ」
「それは知ってるのね〜」
「神魔というのは、あくまで人に近い姿をとっているだけであって、その本質は人とは関係ない姿の場合も多いでちゅ」
「え、ええ……」
いよいよ本気で何が云いたいのか理解できず、ヒャクメは寝転がったまま首を傾げた。
そんなヒャクメに、パピリオは生温い同情に満ち満ちた視線を向けた。
さすがに、引く。
「例えベスの本体がどんな姿だろうとどんな駄目神族だろうとパピだけはベスを見捨てたりはしまちぇんからね」
「ど、どういう意味なのね〜?」
びしびしと感じる嫌な予感に大量の冷や汗を流しながらヒャクメは問う。
それに答えず、パピリオはつい先ほどまで読んでいた新聞を手渡した。
……
…………
……………………
「うわ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
ドタタタッ!! と泣きながら廊下を駆けていくヒャクメ。
その後姿を不思議そうな表情をして見送った小竜姫は、何があったのかとパピリオに尋ねた。
「これを見せただけでちゅ」
そう云って渡された朝日小学生新聞に載っていたのは。
妖怪大図鑑
百目(ひゃくめ)
青カビが生えた肉の塊のような妖怪。
身体中に百の目玉が付いている。
夜、ばったり出あうと百の目で見つめながらどこまでもついてくる。
「ヒャクメ……」
思わずホロリと涙する小竜姫。
「うっ、うっ。違うもん違うもん。私あんな姿してないもん。
見た目どおりのピッチピッチの美少女なのね〜ッ、えうう〜〜〜〜」
ただただ枕を濡らし続けるヒャクメであった。
おまけ・別の話
「くたばりやがーーーーーれっ!?」
エネルギー結晶を破壊され、どこか壊れた笑いをするアシュタロス。
魔神ともう一度対峙する為駆け出した横島は、西条の放った銃弾が容易く額を穿った事に驚き、思わず立ち止まってしまう。
そんな彼らの感情かまう事無く、壊れた魔神は言葉を放つ。
「ふふふ……エネルギー結晶が砕けた今、俺の野望はもはや潰えた。
だが、俺一人ではくたばらん!!
神界・魔界の事はあきらめても――――せめて貴様らだけは道連れにしてくれる!!
くくく。理性も知性も無い本能だけのおぞましい姿だが、もはや何の遠慮もいらん……!!
残るエネルギーすべてを使い、貴様らを根絶やしにしてくれる。
戦闘用に特化した、わが究極の魔体をもってしてな!!」
「究極の……? あっ!!」
意味がわからず考え込んだ美神だったが、不意に前世の記憶の一部が目覚め、青ざめる。
かっての自分であったメフィストが、エネルギー結晶を奪った工場で見かけた巨大な物体。
アレがもし、その究極の魔体なのだとしたら……!!
戦慄する美神達の前で――――
アシュタロスの肉体が、額の銃痕から割れ、崩れていく。
まるで脱皮するかのようにはがれていく外身。
その下から出てくるのは、より一層筋肉質となった身体。
ボディービルダーのごとく、黒光りする日に焼けた筋肉。
その肉を包む袖無しの黒のレザースーツと、黒いカットパンツ。
黒い帽子とサングラスを装着して――――
「ハードゲイ! ふおおおおおおお〜〜〜!!」
美神「あたしの驚きを帰せこの野郎!!」 ドグシャ!!
パピリオ「お前なんかアシュ様じゃないでちゅ!!」 ドムドムドムドム!!
ベスパ「あたしの想いを汚しやがってーーー!!」 めぎょ!!
ルシオラ「最後ぐらいシリアスにしめろーーー!!」 グチャ! ベチャ! ヌチャ!!
生みの親の思わぬ惨状に、復活途中のベスパや霊基構造がほとんど存在しないルシオラすら復活して思わず一撃を与える。
あまりの攻撃にあっけなく倒れふすヤバゲなブツ。
サングラス越しの視線は、横島の、主にお尻に熱い視線を送っていた。
四人娘「死ね! 死んでしまえ!!」
四人による容赦ないスタンピングに、究極の魔体は爆発消滅。
四人娘はもちろんアフロ化。
あの悲壮な覚悟はなんだったんだろうと、突っ込みで復活した恋人の薄い胸の(骨の)感触を感じながら、横島の魂は遠い所へ飛んでいくのであった。
なお、究極の魔体は最高指導者の二人を(笑い死にによる)消滅寸前まで追い込んだという事で、神界・魔界の両界において伝説になったという。
おわれ!!
後書き
次世代の壊れアシュタロスにはレイザーラモンをやってほしいかもと思ってみたり。そんだけ。