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「日常を繰り返す為の帰還 〜第十二話〜 (GS)」

valy (2005-07-30 15:45/2005-07-30 17:02)
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第十二話


横島忠夫は目立つ。

本人も目立つが、それ以上にその周囲が異常に目立つのだ。

見た目は普通より上、だがその行動のおかげで三枚目として見られている。

運動神経も良く、頭も悪くないのだが、日常の行動のおかげで三枚目と言うか、ギャグキャラとして認識されているのだが、時折その周囲が異常な状況に陥るのだ。

どう言う状況かと言うと、美少年に美少女、さらに美女までもが揃う。

下は五歳前後の女の子、上は二十代半ばくらいの美女が横島を訪ねて“小学校”にやってくる。

具体的に誰が来ているのかと言えば、遊びに来た乙姫、ナミコと令子が遊びに来て、西条と鬼道とジーニの三人が唐巣神父関係で横島に会いに来ているのだが、当然の如く目立つ。

六年生にもなれば異性を意識するには十分過ぎる年齢だし、教師達大人だって居るんだから、当然だろう。

まぁ、そう言う目で見た連中は一人残らずジーニに説教されていたから、多少落ち着きを取り戻して騒ぎは収束を見せつつあるが。

「や〜、凄い事になっとるなぁ」

「そうですねぇ」

横島は顔を引きつらせながら、悠仁は我関せずと自分に言い聞かせながら無表情に、横島の教室の中を横目に見ている。

横島達が直視しないようにしている先には、四枚の横断幕が用意されている。

それに書かれている内容は、名前とそれに関連付けたらしい文章。

まぁ、簡単に言えば、アイドルのコンサートにファンが持ち込む横断幕そのまま、と言う事だ。

文章の内容や色使いのセンスは古い。

具体的にはキャンデ○ースとかピンク○ディーとか、そう言った数代前のアイドルのファンクラブの人達のセンス、と言っても間違いは無いだろう。

一部の、元アイドルファンクラブ会員だった教師陣がファンクラブを密かに結成。

その情報を何処からか入手した横島のクラスメイトその他が、その横断幕その他を原型にして自分達でファンクラブを作り上げたのだ。

センスが古いのも仕方がない。

それぞれに書かれている名前は、『令子』、『乙姫』、『ジーニ』、『ナミコ』の四つ。

ちなみに、『悠仁』と書かれている横断幕もあったのだが、それは横島と悠仁の手により処分済みだ。

残りの四枚がそのままな理由は、“手遅れ”だからだ。

「さて、説明していただきましょうか」

「ええ、私としてもとても興味ある話題だし」

横島と悠仁が何気なく現実逃避しているそこには、トラウマになりかねないほどにこやかな笑顔で妖気やら神気やらを振りまいて霊力の無い人間達を金縛り状態にして止め、説教を始めようとしている精霊と竜神が並び立っている。

幸いにもトラウマにはならず、一部の男連中が年上の女性に怒られる事に快感を見出す程度で事態は収拾を向かえる事に成功した。

……新たな性癖に目覚めたのはちょっと問題かもしれないが、それはさほど関係のない別の話。

「こう言う時はアレだな、タバコが吸いたい」

「身体に悪いですよ、おにぃさま」

横島と悠仁は二人、説教を聞き流しながらそんな会話を続けていたと言う。

ちなみに、令子とナミコの二人は亀込みで女子の玩具になっている。

「ね、ね、ナミコちゃんって人魚なんでしょ?」

「うん、そーだよ」

「じゃあ、知り合いにクトゥルフ神話に出てくるダゴンとかって居る!?」

「だごんおじさん?」

まぁ、とにかく、盛り上がっている。

一部マニアックな方向に突っ走っている女子生徒が明らかに間違えた質問をして、それにナミコが応えていたりするが、楽しそうなのでよしとしておく。

「ッ、じゃ、じゃあ、紹介して、紹介してよッ!!」

「退場!!」

テンションが上がり過ぎ、ナミコに詰め寄っていたその女生徒が『ピーッ!!』と言うホイッスルの音共に何処かに連行されて行ったのも問題ない。

気にしていても仕方がないのだから。

ちなみに、令子はその横でお菓子で釣ろうとする女生徒と攻防戦を繰り広げている。

内容は

「さぁ、これをあげるから頭を撫でさせて!!」

「二個じゃダメ!!」

「ッ、この間はそれで良かったじゃない!!」

「れーこはせいちょーしてるんだから!!」

等と言う、何か間違えている会話に聞こえるのは気のせいだろう。

平行世界の美神令子の姿が見え隠れしていたり、その相手をしている子が将来株で儲けたりする可能性が濃厚だったりするのも気のせいだ。

「じゃあ、五十円つけるから、抱きしめさせて」

「……おーけー」

サムズアップと共に不適に微笑む令子を力一杯抱きしめる少女。

交渉が成立したらしい。

問題以外ない様にも見えるが、気にするだけ無駄なのだろう。

横島と悠仁は諦めの境地に到達しつつある。

あ、ついでに言えば西条と鬼道も居るのだが、西条は笑顔であしらい、鬼道は夜叉丸を呼び出してその瀬にしがみついて逃げ回っている。

数十人に及ぶ有象無象から相手を一切傷付けずに逃げ回ると言うのは、修行になるからと西条も横島も口出ししないで生暖かい目で見守っている。

いや、色々と諦めているだけと言えなくもないが。

とりあえず、横島忠夫の周囲に居る人間は、色々と歪む事があると言うのは確実らしい。


「ジーニはん、乙姫はん、ありがとう!!」

鬼道、本気で感謝。

状況が一切進展しないし、泣きながら逃げている鬼道を哀れに思った乙姫とジーニの霊力と竜気を込めた一喝によって、脱出に成功したのだ。

泣いていたのは多少情けないが、あの状況を考えればそれも仕方がない。

何処から現れたのか、女子高生とか中学生とか教師とかも鬼道捕縛に参加していたのだから。

ちなみに、一度だけ捕縛された事があるのだが、直後に横島達の手により救出された鬼道は、何やら可愛らしいドレスを着せられて、リボンを付けられたりもしていて、号泣していた。

助けてくれた横島にしがみついて、横島が『俺はホモやない、ドキドキなんてしてないんやッ!!』とか叫んで壁に頭を打ち付けたりしていたのは別の話。

同様に、西条が虚空を睨み小声で『違う、僕は違うんだッ!!』等と呟いていたのも別の話と、しておこう。

しておかなければイ果菜肉と話の頭につけなければいけなくなってしまうから。

「で、ガッコの連中が壊れるくらいのメンバー総出で何か用があんのか?」

「ん、ああ、唐巣神父からの伝言と、それに関する打ち合わせの必要があってね」

「打ち合わせが必要な事、しかもこのメンバーでか」

「何となく、予測はつくんじゃないかい?」

「……六道家」

「まぁ、そう言う事だね」

「今回は、なんだろうなぁ」

「死なないように、女の子達に怪我をさせないように、最善を尽くすしかないよ」

「ま、そうだけどな」

横島を中心としたこのメンバー、たまに六道家に呼ばれるのだ。

目的は冥子の修行相手。

本来ならば断りたいと男達は思っている。

思っているが、断れない。

理由は簡単。

修行のついでに六道家で極上の紅茶を傾けながら美味しいケーキが振舞われるから。

それを女の子達が楽しみにしているから。

だから、男達はついて行かざるを得ない。

いや、別に女の子達しか集まらなかったら集まらなかったで冥華を交えて少し特殊な知識に関する話になったりするだけで別段問題は無いのだが、借りがある上に何時暴発するかわからない銃の前に身を差し出す女の子達を見捨てられないのだ。

……実の事を言えば、乙姫とジーニの力があれば、無傷のままぷっつんで暴走した式神達を取り押さえる事も可能だったりするのだが、修行になるからと表面上親切心で言っていますと宣言しているような冥華に止められているのでそれをしたりはしない。

実際、冥華は

『うちの子のぷっつんに耐えられるようになれば立派な跡取りになってくれるわよね〜』

等と考えつつ男の子達を見ているのは誰も知らない事実である。

まぁ、横島に関しては周囲の状況が状況なだけに友達か世話のかかる妹みたいなポジションを冥子が取れれば良いかなぁとか思っていて、本命は同じ式神使いの鬼道、次点が式神使いではなくとも優秀な西条だ。

その冥華の企みが成功するかどうかは、将来の話なので割愛する。

とりあえず、最有力候補の少年が乗り気だと言う事だけは確実だが。

「そろそろ、本気で冥子ちゃんに式神の修行をさせなきゃ俺らが死ぬぞ、西条、鬼道」

「せ、せやね、忠夫にーちゃん達はたまにで良いから平気かもしれんけど、ボクはあの家でお世話になっとるから、ね」

「修行になるし、何処で見てるのか冥華さんが干渉してるらしいから死にはしないけど、さすがに入院期間を考えると止めるべきだろうね、アレは」

自分達の命……の安全は確保されているとは言っても、修行の妨げになるのは避けたいと、男達は本気で対応策を考え始める。

「今日のケーキはなんだと思います?」

「私としてはこの間のオペラって言うケーキをまた食べたいわね」

「れーこはショートケーキ!!」

「んと、ナミコはね、クレームブリュレ!!」

「あの家で出るショコラは美味しいんですよねぇ」

等と、女の子達は男達の覚悟なんて無視してにこやかに会話を交わしている。

男の子達が、正確には横島が護ってくれるから、自分の身は間違いなく安全だと理解しているだけに余裕があるのだ。

令子とナミコはさすがにぷっつんを直に見ると泣き出すのだが、それはそれ、ケーキはケーキ、と言う事だ。

「問題は精神面の弱さだけど、どうするよ?」

「式神である以上は封印も可能だろう、とりあえず封印技術を我々が身につけるのはどうだろう?」

「せやけど、必死で修行しとるのがバカらしくなるくらいに霊力差があるから、上手く行くかどうかわからへんよ?」

「ば〜か、力の差があるからって対処出来なかったら歴史よりももっと早くに平安京だのが潰れてるだろ」

「どう言う事や?」

「菅原道真は悪意を捨てて神になったけどその残りは悪霊になって平安の京を襲ったと言う記述や、金毛白面九尾の狐に纏わる話、それ以外にも世界各国人間以上の力を持った悪霊や神族、魔族の手によって街が滅びたとか、そんな話はたくさんあるだろう?」

「それは知っとるけど、それがどう繋がるん?」

「簡単な話、力が弱ければ勝てないと言うのなら人間達はもう既に滅びていないとおかしいって事だよ」

「あ、そか」

「だから、人間は技術を磨き、戦術を磨き、弱い力で力の強い敵をどうにかする手段を学び、研鑽し、継承しているんだ、夜叉丸の存在がその証明だと思わないかい?」

「そうや、そうやったんやな!!」

「……ま、時間の流れやら戦争やらのせいで結構な量の知識とか技術が失伝したり、資料が灰になってたりして闇に消えちまってるから、妙神山にでも行かない限りは自分で一から磨き上げたり作り上げたりしなきゃなんねぇんだけどな」

小声での横島の呟きは誰にも聞こえていない。

聞こえていたら、おそらく何故ここで妙神山の名が出てくるのか尋問を受けていただろう。

主に数少ない精神面での味方である男二人から。

「とりあえず、GS協会の資料室貸してもらって、ついでに六道の蔵書見せてもらえるように交渉か」

「協会の方には僕が行くとして、六道家の方は二人で頼めるかい?」

「って、なんでまた俺が貸りを作らなきゃなんねぇんだよ!?」

「だがね、僕の年齢なら多少危険と分類される書物でも見せてもらえるだろうけど、君等じゃあ協会のそう言った資料に目を通す事は出来ないだろう?」

「それは、そうだけどよ」

「それに、だ」

「まだなんかあるんか?」

「協会の方は既に万人が目を通す資料として纏められているから一人で調べる事も出来るけどね、六道家の資料は六道家の人間が使い易い様に纏められているから、調べ難いだろう?」

「ぐぅ、しゃぁない、か」

鬼道&横島、西条の理論武装に敗退。

幾らでも突き崩せる部分のある理論武装だが、気付かないのだから仕方がない。

「でもな、そっちが早く終ったらこっちも手伝いに来いよ!!」

「それは約束しよう」

「せやけど、それはそれとして冥子はん本人にしてもらう修行も考えな」

「修行、ねぇ」

「何故だろうね、その結果暴走の威力が激しくなっている場面しか想像出来ないのは?」

「まぁ、普通に修行したらそう言う結果しか待ってないって事だろ」

「……ホントに、どうしようかね」

男達が溜息を吐かなくなる日が、何時か来るのだろうか?

そんな日が来たら来たで何か別の問題が何処からか湧いて出てきそうな気がするのは、おそらくどこぞの最高指導者達が原因だろう。

まぁ、仮にあの二人の干渉がなかったとしても、横島忠夫は波乱万丈の人生を歩む事になるのは平行世界での結末を見ていればわかる事なのだから。

巻き込まれている鬼道と西条、それに唐巣神父は哀れだが、美神家と六道家に関わった己を恨んでもらうしかない。

鬼道に関しては、同じ様な修行漬けの日々とは言っても学校に通えるし、生活自体も向上している。

更に言えば好きな子の家で暮らしているのだ、ある意味言う事はないだろう。

コレで文句を言ったら、横島が怒る。

……いや、ぷっつんとか色々と加味して考えたら涙ながらに肩を抱いてくれるかもしれないが。

「ま、対策が見つかるまでは何時も通りに霊力のコントロール教えて、霊波の放出量の調整の練習で良いんじゃねぇか?」

「そうだね、それにそろそろ行かないと、お姫様が泣き出してしまう」

「あ〜、せやね、予定よりも少し遅れ気味やし、六道家に到着と同時にぷっつん、なんて事になってまうやろうからなぁ」

「それにナミコちゃん達も待ち遠しいみたいだし、な」

「そうだね」

現在、某式神使いの御姫様がぷっつんする確立、80%超。


「お、おい、鬼道、なんで今日はしなかったんだ?」

「いや、その、そないな事ボクに言われてもわからんのやけど」

「今日のお菓子は冥子ちゃんの好みじゃなかったはず、なのに何故だ?」

「そ、そうか、好みが変わったんだ、そうなんだよ、きっと!!」

「せやけど、いや、そうなんか?」

男三人錯乱中。

修行、修行後のお茶会、横島達が帰宅する時間、普段なら全てか、最低でも何処かで発動するぷっつんが発動しなかったから。

それが、普通。

六道冥子の起こすぷっつん。

それはある意味六道家と言うか、六道冥子の周辺における日常とも言える情景だ。

十七歳当時の横島忠夫を知る人間が、月の事件で記憶喪失になった横島忠夫に対して示した反応を思い返せば良くわかるだろう。

もしこれが、修行の成果だとかそう言う事ならば誰も驚いたりはしないだろう。

と、言うか、毎日一緒に居る鬼道が一番混乱しているんだから修行の成果では無い事だけは確かなのだが。

「そ、そうだよ、俺達の苦労が報われたんだよ、きっと!!」

「そ、そうなのかい?」

「そうやったら、ええなぁ」

男達にはその現実が耐えられなかったのか、現実逃避としてそんなあり得ない事を夢想し出している。

修行の内容を考えればそんな結果になる訳がないのに。

「……で、なんで今日は落ち着いてるんですか、冥子さんは?」

「あのね〜、百合子小母様と大樹小父様がお仕事の関係で泊りがけの仕事に行くから〜、悠仁ちゃんと忠夫おにーちゃんは今日お泊りする事になってるんだって〜」

「今日はナミコたちもお泊りするの!!」

悠仁の問いであっさりと原因判明。

と、言うか、問題が先送りになっただけだったと言う事実が判明した。

「へ、へ〜、それじゃあ、僕はこれで失礼するよ、令子ちゃんもそろそろ帰らないと、美智恵先生が心配するよ?」

西条、原因が判明したので逃げを打つ気になったらしい。

これだけ一緒に居る仲の良い友達が居れば、自分と令子の二人が帰っても泣き出しはしないだろうと言う計算から。

ただ、西条は一つの事を忘れていた。

いや、正確には二つになるのだろうが、とにかく忘れていたのだ。

まず、一つ目。

「やぁっ、れーこ、タダオと一緒に居る!!」

叫び、令子が叫んで横島の服の袖にしがみつく。

その瞳にじわりと涙が浮かび上がり、今にも泣き出しそうなその令子の表情にもう一人、同じ様に表情が歪んで行く。

それが、二つ目。

幼い子供は、近くで誰かが泣いていると影響を受けたかのように号泣しだすと言う事実を忘れていた。

……ただ、西条の周囲に居る子供のほとんどが大人びていたりするから、そんな当たり前の事実を失念していても仕方がないのかもしれないが。

西条は安堵からか油断からかはわからないが、とにかく地雷を踏んでしまったのだ、それはもう力一杯。

横島も、鬼道も、悠仁の質問で今日は何とか静かに過ごせると━事態の先送りになっただけと言っても━思っていた矢先のこの出来事に、無言で、ただ厳しい目を西条に向ける。

少なくとも今日一日は回避出来そう━運が良ければ横島達に関わりのない場所でぷっつんして被害にあわずに済むのだが━だったのに、それが潰され様としているのだ、怒るのも当然だろう。

二人、静かに西条に対して何かを決意する。

具体的には、二人がかりで瀕死の一歩手前ぐらいまで追い込んでヒーリングの練習台にするとか、そんな感じだ。

「冥子さん、令子さんも、輝彦さんも今日はここに泊まると言う話になっていたの、忘れたんですか?」

「ふぇ?」

「えっと、どう言う事なんですか、ジーニさん」

「忠夫君達が泊まるなら令子さんも泣いてしまうだろうし、輝彦君の修行にもなるからと美智恵さんが決めたらしいですよ」

「ッ、ちょ、ちょっと確認してきます!!」

恐怖の六道家合宿、決定。

「ま、まぁ、アレだ、資料を調べる時間が増えたとでも思えば、な?」

「せ、せや、ね」

後日訪れるであろう破壊の嵐を思い、顔を引きつらせる男二人は笑いながら静かに泣いていたと言う。


『せやけど、最近修羅場が発生せんから物足りんなぁ』

『そうは言いますが今はあの状況を受け入れるだけでもキツイでしょうから、下手な事をしたらこちらの用意が終る前に彼が倒れてしまいますよ?』

『それはわかってるんやけど、どうもなぁ』

『なんだかんだ言っても主演の八割がまだ子供ですし、彼自身も十歳の身体に入って十歳の精神と完璧に融合してしまったものだから『二十五歳の彼』が前面に出る場面以外では精神面がかなり幼くなってしまっているんですから、仕方がないでしょう?』

『そこなんやけどなぁ、魔族の霊基構造を受け入れられるからこっちの魂と融合してもどうにかなるやろうとは思っとったけど、まさかあそこまで完璧に融合してまうとは予想外やったな』

『ええ、幾らなんでもあの親和性の高さは異常ですよ、色々な意味で』

『ホンマ、いろんな意味で規格外品っちゅうやっちゃな』

『だからこそ、彼を見ているのは私達の楽しみになっているんですけどね』

『あぁ、はようあの子等が大人になってくれんかなぁ?』

『後……十年ほどの辛抱ですよ』

『十年の辛抱って、何万年も生きてきたのにその辛抱が辛いっちゅうんやから不思議なもんやなぁ』

その言葉と共に楽しげな、本当に楽しげな笑い声があがり、それに同意するようにもう一人も同じ様に笑みを零す。

長き時の中で清濁合わせて人を、魔族を、神族を見続けた二人が、笑みを交わす。

どうと言う事のない、世界を見渡せばそこかしこで似た様な事が見られるはずの事が、酷く楽しくて仕方がないらしい。

それだけ、二人も横島忠夫に惹かれていると言う事の、証明なのだが。

『それはそうと、そちらのスルトの方はどんな具合ですか?』

『ん〜、早う横っちの側に行かせろ言うかと思ってたんやけどな』

『ああ、やはり静かにしていますか』

『せやけど、キーやんは理由を知っとるんか?』

『ん、なんとなくですけど、わかりますよ』

『どう言う事なんや?』

『いえ、別れ際に夏子嬢が「良い女になってアンタから好きだって言わせたる」と、言っていたでしょう?』

『あ〜、アレやな、今すぐ会いに行っても変わってない以上はその誓いを破る事になる、それにライバルの一人が隣に居る以上は抜け駆けする訳にもいかん、そう言う事やったんか』

『それにしても、我々が彼女達に与えた指令は【人間・横島忠夫の守護】だったんですけどねぇ』

『まぁ、ある意味狙い通りの結果になったんやから、そこら辺は問題は無いんやないか?』

『確かにそうですね』

『それはそうと』

『ん、なんですか?』

『今更やけど、キーやんとこは重婚認めとらんけど、ええんか?』

『別に構いませんよ、彼は無神教ですから』

『どっかから文句言われたらアーちゃんか誰かに任したらええか』

『そう言う事です』

やる気ゼロな二柱の最高指導者の後で、最近自分達の気持ちが恋愛感情だと気付き、戸惑い互いの顔を見れなくなっていたりする初々しい秘書達の存在があったりするが別の話。

ついでに、その魔族の青年がその天使の女性の部下に色目を使ったとか言う話になって口論になったのは数日前の出来事だったりする。

その結果、互いの気持ちに気付いたり気付かなかったりと言う、恋愛のプロセスを順当に踏んで言っている魔族と天使の恋の物語は、静かに進行している。

当然の如く、横島忠夫にとっては欠片ほども関係のない話だったりするが。


「いや〜、そんなつもりはなかったんが、六道家を見くびってたかもしれんな」

「せやね、まさかここでうちの秘伝書を見る事になるとは予想もしとらんかったわ」

「おいおい、この古文書、どうやらうちに代々伝わっていたモノのようだよ?」

結局、全員が泊まる事になったのだが、横島・西条・鬼道の三人は女性陣の姦しい会話の輪から抜け出して冥華から許可を得て六道家の蔵書を読み漁っている。

目的は冥子のぷっつん対策だったのだが、三人はまったく別の書物を発見していた。

鬼道は本来は鬼道家に秘蔵されているべきはずの秘伝書を。

西条は本来は西条家の本家筋に当たる西郷家に伝えられていたはずの秘伝書を。

横島は無名の陰陽師、『高島』と言う姓の男が書き記した陰陽術の秘術が書き連ねられた書物をそれぞれ発見し、読み耽っていた。

ただ、その読むペースは鬼道一人がゆっくりと文字を解読しながら読み進めているから遅く、何故か横島と西条の二人は現代の文章を読んでいるかのようなペースで淡々と読み進めている。

三人は、書庫に入るなり無造作に選んだ一冊。

式神に関する書物を読み解こうと言う事で、陰陽術関係の書籍を無造作に選んだのだが、それぞれが選んだのがこの三冊だ。

因果に引かれた、と言うのもあるのかもしれないが、それぞれに関係のある書物が並んでいると言う事実が凄い。

「……それにしても、二人はなんでそないにはよう読めるんや、古文書レベルの書物を?」

「さぁな、なんてーのか、解るんだよ、とにかく」

「そうだね、なんと言うのかな、“読む”と言うよりも“思い出す”と言った方が正しい感じかな、これは?」

鬼道の疑問に答えながらも、二人は書から目を離さず、淡々と読み進めていく。

現代では解読不能もしくは解読するのに数年単位の時間が必要とされ、誰も目を通す事無く書棚の一角に納められていただけの書が、失われたはずの知識が、二人の少年の手により息を吹き返しつつあるのだ、この現状を大人が見れば、躊躇う事無く『異常』と断言するだろう。

ちなみに、西郷の手による書は一応の解読は行われているが、それでも平安の世に書き上げられた書だ、紙の劣化による文字の薄れや虫食い、そもそも西郷の家に伝えられる為だけに書き上げられた書だ、その内容も身内以外の他者に情報が漏れないようにと暗号化されたりもしているので酷く難解な内容になっている。

それはもちろん高島の書もそうなのだが、こちらはもう一つ別の理由で読み解くのが困難と言うか、常人には読み解く事すら不可能だろう。

まずそもそもの理由は、帳面の様な扱いでもしていたのか殴り書きされておりそもそもの文字が読みづらいのだ、こちらは。

さらに、伝えるべき身内が居なかったからかその書も自分“だけ”が解る様に書かれているので、例え古文書を読み解く術を持ち、それを中心に研究を行っている人間でも読み解く事は困難な、そんな書物なのだから。

「でもこれに書かれてる術、霊力不足で使えるのが限られるぞ」

「ん、そっちはそうかもしれんが、こっちはどちらかと言うと少ない霊力で最大限の効果をもたらせるモノが中心だな」

「あ〜、って事は、そっちはテクニックでカバー、精密ではあってもどっちかと言うと圧倒的な霊力で圧倒って感じなんだな」

「陰陽師は使う術式から信奉する神まで多種多様だからね、そう言う事もあるんだろう」

一人必死に辞書片手に秘伝書と戦っている鬼道を横目に、西条と横島は書を読み解いていく。

「にしても、弱弱しい術ばっかって、西郷ってのは情けねぇなぁ」

「ふん、力業で何事も済ませようとする高島と言う人間の術に比べれば有用さ」

二人、静かに言葉を交わしながらゆっくりとスイッチが入る。

ちなみに、今の発言、まったく同時に発せられている。

早い話が、何となく互いにイチャモンをつけたくなったのだ、何故か。

前世の自分が書いた書物に目を通しているからか、前世での繋がりの深かった人間の転生体が揃っているからか、とにかく影響されてか触発されているらしい。

「よし、表出ろ、西郷」

「前での決着、付けてやろうじゃないか、高島」

西条輝彦、横島忠夫、前世の記憶に飲み込まれる。

因縁の深さ、前世の残した書物、霊力、そして二つ融合された魂、影響を与えるには十二分だったらしい。

それだけ、二人の因縁は根深く、絡まっているのだろう。

簡単に言えばただの腐れ縁だったりするんだが、そこはどうでも良いだろう。

「……霊力強い人は前世の事を多少なりとも覚えとる場合がある言う話やったけど、ホンマやったんやなぁ」

一人残った鬼道が、“昔”を思い返しながらそんな事を呟きつつ、秘伝書に目を通して行る。

前世では、割と普通に起きている事態だったらしい。

どうでも良い事だが、二人の決闘の結末は両者共に自分の使える最大級の攻撃を放とうとして、前世の時点、しかも最盛時の霊力があるつもりで放ったからそのまま気絶して両者KOで終った。

ちなみに、二人の放つ予定だった業が一撃必殺だったのは余談だ。

その話を聞いた鬼道が、二人に

「殺し合いなんてせんでもええやんか」

と言った言葉に対して二人は

「「アイツ(彼)がこの程度で死ぬ訳がねぇ(ない)だろ」」

と仲良く答え、真似するなとかなんとか言って再び喧嘩を始めたのは何時もの事。

ちなみに、三人の研究の成果が出るまで半年。

結局は平行世界での鬼道がやっていたようにぷっつんして制御が甘くなった所で制御権を一時的にに強奪し、平行世界での冥華がしていたように符に封じると言うモノだった。

それでも、三人の霊力が足りないので十二鬼中六鬼が限界で、残りの六鬼に叩きのめされたりするので、ぷっつん対策が成功したのか失敗したのかは微妙な所だろう。

……符に封じる為に多少の精神集中が必要になるから、どちらかと言うと失敗かもしれないが。


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あとがき

学校での日常を書きたかったはずが、何がどうなってか前世の知識を得ると言う話に落ち着いてしまいました

とりあえず、れーことのやりとりは、私としては美神令子は「お金」に執着しているんじゃなく、「自分の価値」に執着しているんじゃないのかなぁとかなんとなく思ったので、おかしがどうこうって話を書いてました

……結局五十円の追加で落ちたんだからそれはお金に執着してるって印象与えてますかね、これ

まぁ、五十円あれば五歳児が満足出来る駄菓子の類が買えるからと言う事で納得をしてください

美智恵さん、経済観念とかも結構しっかりと教えてそうですから、そう言う知識もありそうな気がしますので納得しておいてください

男達の実力底上げは考えているんですが、女性陣はどうしましょうか

まぁ、登場人物の大半が女性ですからそちらを放置すると登場回数の激減する人が増えたりしそうなので色々と考えなきゃいけません

考えなきゃなぁ

さて、続きも頑張りますか

最後に、

柳野雫さん、感想ありがとうございました

鬼道は、幸せになってもらう予定です

原作では情けないシーンか背景の一部みたいな扱いしか受けていない上に不憫な人生送っていましたから、出ずっぱりとまではいかないまでも、結構幸せな目にはあってもらいます

……たぶん

まぁ、それで言ったら美神除霊事務所のメンバーを除いたほとんど全員がそんな感じなので、それぞれにそれぞれの幸せとやらを用意出来れば良いなぁとか思っていますが

それでは、また次回

でわ


asさんの指摘箇所:最有料区候補=最有力候補 一維持的に強奪し=一時的に強奪しに訂正
感謝ですよ

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