帰ってきた。
「ふはーははははは!!」
ヤツが、帰ってきた。
「はーはははははははは!!」
3千世界の唐巣を殺し。
「恨みは無いが、死ねい神父っ!」
「何故わたしがっ!?」
お前と朝寝がしてみたい。
「と、いうわけだよマイスイート横島」
「断固断る!!」
ある朝横島が目覚めると、そこは雪国でも某北の国でもなく、しかし自分の部屋でもなく。
どことも知れない高い高い塔の中だったそうな。
そこで寝起きと同時にわけの解らない事を言ってきた、青いマッチョな魔神の提案を断ったわけだが――
「なんでテメェが生きてやがるアシュタロス」
「ふ、確かに現在の時系列は連載終了直後。私は既に滅びたはずだったね」
バラを咥えてポージング。どこからともなく差し込むスポットライトに歯と筋肉を光らせて、自己陶酔気味に語る魔神さま。
「だが、横島くん。君は知っているかね?下っ端魔族は惚れやすいのだよ!」
「テメェは下っ端じゃねぇだろ!!!」
魂からのツッコミを入れる横島。なにやら大事な思い出を一部とはいえ汚されたような気がしたらしい。
が、そんな精一杯のツッコミも彼には通じない。
「細かいことは気にするな!一番上と下はよく似ているものだよ!」
何やら一端の真実を含んでるっぽいけど、それはここでは違うだろう、てな切り替えしですり抜ける魔王さま。
ここに至り、コイツは相手にするだけ無駄だと早くも悟った横島くん。冷静に本題に戻って質問します。ちゃっちゃと片付けて仕事か学校に行こう。彼の胸のうちは今、そんな想いで一杯です。
「で、なんで生き返ったんだ?」
「だから、下っ端魔族は、ね?」
「で、なんで生き返ったんだ?」
「いや、その、だから」
「で、なんで生き返ったんだ?」
もはや相手が腕ずくで勝てない魔神だという事をすっかり忘れて、表情の消えた顔で凄む横島くん。
これには魔神もまいったか、こんな事を言い出しました。
「ええい、話を聞けい!!惚れたからだと言っているだろうがっ!!」
「…で、なんで生き返ったんだ?」
よりによって今の魔神さまに話を聞け、などと言われてしまったのと、そんな存在に惚れられたらしいという推測に、若干ひるみかけながらも即座に思考から外して問い詰める横島くん。なかなかツワモノです。
しかし、彼はもう一度問うてしまったがゆえに、よりディープな回答を引き出してしまう結果となってしまいました。
「まだ解らないのかい?マイスウィ〜ト」
「解らんから、なんでだって聞いてんだろ」
「ふ〜〜、やれやれ。これだから童貞は」
「童貞関係ないやんっ!!」
肩をすくめ、両手の平を上に向けてやれやれだぜ、のポーズを取ってまでバカにする魔神さまに、今までの人生で最も早かったろうツッコミを入れる横島くん。その点で攻められるのは、煩悩少年としてはかなり恥かしかったらしい。
「いいかい?ヒントは2つ。惚れた存在があり、そしてそれゆえ生き延びた。となれば答えはいつも一つだろう?じっちゃんの名に賭けて!」
「そ、そんな…まさか…」
魔神さまの学園名探偵事件簿なヒントで真相を悟るワトソン横島。そう、その答えは…
「愛だよ。これは愛の奇跡なのさ…」
「ウソだぁぁぁぁ!!」
「ウソなもんか。その証拠にそーらルシオラだってこの通り」
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
アシュタロスがただ普通に、例えばマントとか空中からルシオラを取り出していたら――それが普通かどうかは置いておいて――横島もここまでうろたえなかっただろう。
だがアシュタロスがルシオラを取り出したのは、口からだった。
そう。口。
こう、あんぐりと開けた魔神さまの口からしゅるる〜っと。
感動も何も無い復活だった。
「あ、あう…ル…ルシ、オラ…?」
恐る恐る手を伸ばして、確認しようとするも触れられない横島くん。だって、何か粘液にまみれてるんだもん。
だが意を決したのか、その透明な粘り気のある液体をも恐れず、ルシオラの肩に伸ばされた横島の手を魔神さまが横から掴んだ。
「おっと、そこまでだ」
「邪魔すんのか!?」
怒る横島くんにニヤリと笑い、魔神さまは余裕たっぷりに悪魔の契約を持ちかけます。
「ルシオラはこうして復活した。私と君の愛ゆえに。だがまだ魂が足らない」
「な……そ、そうだ!そんならルシオラの霊気片がある!あれを足せば!」
「それは、このルシオラの体を創るのに使った。もう欠片も残っていない」
「そ、そんな……じゃあ、ルシオラは…ルシオラはこのままじゃ目覚めないのか?」
目に見えて落ち込む横島くん。しかしそれは、魔神さまの思う壺で。
「ふふふ。だから最初から言っているだろう、まいすうぃ〜と。君と朝寝がしてみたい、と」
「…今、そんなギャグの相手する気分じゃねぇんだが」
「ふむ、私とした事が気がはやっていたようだね。ではまず横島忠夫。汝はこの私を妻とし、永遠の愛を」
「誓わねぇ」
「いやいや、またはやまった。マイダーリン。君はルシオラ復活のためなら、何でもするかね?」
「ああ」
即答でした。ここまでの流れからして、禄でもないことになった挙句に復活できないと予想するのが普通だというのに、ノータイムでの即答でした。先ほどの「誓わねぇ」すら越える早さです。
魔神さまも不思議に思ったのか、聞きました。
「私がウソを言って、君をハメるとは思わなかったのか?」
「思ったさ。だが、ルシオラの復活の可能性があるんなら、それでもいい。そう思ったんだ」
またもや即答でした。そう断言した彼の顔はキリリと引き締まり、今なら事務所の某ツンデレ系女王様だってデレ状態に持っていけそうなほどです。
魔神さまもこれには感動し、素直にルシオラ復活の方法を教えました。
「くぅぅっ…我輩、感動!!私は……私は……感動と感涙の中、たとえる言葉を見つけることが出来ないっ!!」
ぶわっ!!
「感無量であります、指揮官殿!一命に代え神聖なる義務を遂行いたします!!」
どばっ!!
シリアスモードだったというのに、アシュタロスの繰り出したボケに一瞬にして対応し、魔神さま同様蛇口を捻ったかのように涙まで流して見せる横島くん。彼もしょせん、ギャグ畑でとれた人間だったようだ。
そしてヘンなノリのまま進む魔神さまと横島くん。どうやら、高まったテンションを下げるのが勿体無かったらしい。
「うむ。では任務を説明する!」
「イエス、サー!!」
「目的はルシオラの復活だ!」
「サー、イエス、サー!!」
「手段は愛!愛の奇跡!これ以外には存在しないっ!!」
「イ、イエス、サー!」
ちょっとおかしいぞ?と思いながらも、他に手段も思いつかないため、コントを続行する横島くん。
それと対照的に、ますますノリノリで進行する魔神さま。
「声が小さいぃ!」
「さ、さーいえすさー!!」
「よし!では確認する!横島一等兵!お前の愛だけでルシオラは復活したか!?」
「ノー、サー!!不可能でした!」
「よろしい、その通りだ!そしてこの私の愛でもこの通り、肉体だけの復活が限界だった。ここまではいいなっ!?」
「イエス、サー!!」
「よろしい。大変によろしい。では、結論は一つだ。そうだな!?」
「ノー、サー!理解できません!!」
「そうかそうか理解できんか。だが安心しろ!今わたしが教えてやる!一人の愛で足らなければ、二人の愛をそそげばいい!!具体的には……」
ダッ!!
そこまで聞いて、嫌な予感が極限に達したようで、横島くんは無言でドアに向かって全力でダッシュ。
しかし、回り込まれてしまった!
アシュタロスの攻撃!
「おやおや、ルシオラ復活のためなら、何でもすると言ったのはウソだったのかい?」
効果はばつぐんだ!
「し、しかしそれとこれとは…」
横島は身を守っている!
「私と君が愛を交わし、ルシオラにそそげば彼女は間違いなく復活する。私の名に賭けて保証しよう」
しかし、効果が無かった!クリティカルヒット!横島は弱っている!
アシュタロスの追撃!
「さぁ……どうするんだい?マイダーリン…」
そして…
その後、横島はルシオラと共に傷心の旅に出たそうな。だが、何があったのか……それを話す事は、その生涯でついに無かったと言う。
めでたしめでたし。
余談だが…
横島くんの関係者には、人の手によるとは思えないほど高レベルの出来のや○い同人誌が出回り、それを知った横島くんがそれ以降、旅の行き先を海外に限定したらしい。
だが、そっとしておくのが人情というものだろう。多分、きっと。