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▽レス始

「七夕の夜に(GS)」

柳野雫 (2005-07-07 05:08)


 七夕の夜。
 ──星に願いをと言うけれど。


 美神の事務所にて。
 七夕パーティという名目での、どんちゃん騒ぎ。
 結局の所、騒ぎたいだけのいつものメンバー・・というか、知り合い殆どがどこから聞いたんだか、わらわらと集まって。
 いつもは酔い潰れる連中が続出し、朝まで雑魚寝になったりするのだが、今回は未成年者も多かった為、美智恵の仕切りの元、早々に切り上げる事になり。
 未成年者は夜が更ける前にと、帰された。


 ──で。
 そうなると、横島は必然的にアパートの隣人である小鳩と一緒に帰る事になる。

 「いやはや・・相変わらずのどんちゃん騒ぎだったなー」
 「うふふ、そうですね。・・でも私、楽しかったです」
 「そっか・・良かった♪」
 優しく笑んで言う横島に、思わず頬を染める。
 それに、横島は気付かない。
 夜の闇のせいか、それとも己の鈍さのせいか。
 ・・多分、後者だろうが。
 ともあれ。
 二人で夜の街をゆっくりと歩いていく──帰り道。
 穏やかな空気の中。
 「・・あ、そーいえばさ、小鳩ちゃんは願い事、何て書いたの?短冊は皆で書いて飾ったけど、それぞれどんちゃん騒ぎに入っちゃって、皆見なかったし言わなかったし」
 「えっ、わ、私ですか?私は──・・」
 言葉が途切れる。
 ・・願い事。
 とても小さな、それでもとても、大切な。
 「よ、横島さんは何て書いたんですか?」
 顔を赤らめ、問い返す。
 「あ、俺?俺は──・・」
 小鳩の問いに、少し間を空けて。
 「・・うん、別に、大した事じゃないんだけど・・」
 空を、見上げる。
 穏やかに、静かに、ゆっくりと。
 言葉が、紡がれる。
 「・・幸せであるように」
 「・・え?」
 「幸せを全ての人に・・なんて、無理だとは思うんだけどね。まぁ、でも、取り敢えず、俺の知っている奴等はせめて、幸せであるようにって」
 星の瞬く夜空を見上げながら。
 星の輝く夜空を見詰めながら。
 「・・俺の知っている奴等が・・何処にいたとしても・・幸せであるように・・って」
 誰の事を想っているのか。
 少しだけ瞳を細めて、切なさを纏って。
 ──横島は、思う。
 (・・俺の中にいるのに、な・・)
 感傷的になってしまっている自分に苦笑しながら。
 (・・でも・・あいつが今、幸せか・・俺の中にいるのに、俺は解んねーから・・)
 蛍を、想う──
 「・・横島さん・・」
 小鳩が小さく、彼の名を呟く。その声は小さすぎて、横島の耳には届かない。
 ──知らない顔。
 こういう彼の表情は、何度か見た事がある。
 でも自分は、彼が何故こんな表情を浮かべるのかを知らない。
 その原因が何なのか・・詳しい事は、知らない。
 ・・想い人の顔。
 その内に抱えているものが少しだけ見える──それでも自分の知らない顔。
 ・・少しだけ、悔しくて。・・悲しくて。
 だけど。
 だから。
 「・・私も、大した事じゃありませんよ」
 そう言って、そっと、彼の手を取る。
 少し驚いた顔をして自分を見てくる彼に、にっこりと笑って。
 「・・大好きな人が、笑っていられますようにって」
 それは、たった一人。たった一人に向けての、願い。
 「・・俺と似てるね?」
 首を傾げて、笑う彼に。
 「ええ、似てますね♪」
 笑みと共に、返す。

 ──幸せであるように。

 笑っていられますように──

 ・・二人、笑い合って。
 「それじゃ、帰ろっか」
 「はい♪」
 歩き出す。
 手は、離す事無く、そのままに。
 それが自然であるかの様に。
 帰路に就く。
 手のぬくもりを感じながら。
 切ない想いに、笑みが崩れそうになるのを堪えながら。
 一緒に、帰っていく。

 ・・本当は、あと一つ。
 欲張って書いた願い事。

     ──私を選んでくれますように──

 ・・とても身勝手な、でも切実な願い。
 自分の力で頑張らなきゃいけない、けれど、最後は──・・。


 星に願いをとは言うけれど。
 その願いを叶える事が出来るのは──隣にいる、貴方だけ。


***
久々に投稿です。・・再録モノですが(爆)


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