七夕の夜。
──星に願いをと言うけれど。
美神の事務所にて。
七夕パーティという名目での、どんちゃん騒ぎ。
結局の所、騒ぎたいだけのいつものメンバー・・というか、知り合い殆どがどこから聞いたんだか、わらわらと集まって。
いつもは酔い潰れる連中が続出し、朝まで雑魚寝になったりするのだが、今回は未成年者も多かった為、美智恵の仕切りの元、早々に切り上げる事になり。
未成年者は夜が更ける前にと、帰された。
──で。
そうなると、横島は必然的にアパートの隣人である小鳩と一緒に帰る事になる。
「いやはや・・相変わらずのどんちゃん騒ぎだったなー」
「うふふ、そうですね。・・でも私、楽しかったです」
「そっか・・良かった♪」
優しく笑んで言う横島に、思わず頬を染める。
それに、横島は気付かない。
夜の闇のせいか、それとも己の鈍さのせいか。
・・多分、後者だろうが。
ともあれ。
二人で夜の街をゆっくりと歩いていく──帰り道。
穏やかな空気の中。
「・・あ、そーいえばさ、小鳩ちゃんは願い事、何て書いたの?短冊は皆で書いて飾ったけど、それぞれどんちゃん騒ぎに入っちゃって、皆見なかったし言わなかったし」
「えっ、わ、私ですか?私は──・・」
言葉が途切れる。
・・願い事。
とても小さな、それでもとても、大切な。
「よ、横島さんは何て書いたんですか?」
顔を赤らめ、問い返す。
「あ、俺?俺は──・・」
小鳩の問いに、少し間を空けて。
「・・うん、別に、大した事じゃないんだけど・・」
空を、見上げる。
穏やかに、静かに、ゆっくりと。
言葉が、紡がれる。
「・・幸せであるように」
「・・え?」
「幸せを全ての人に・・なんて、無理だとは思うんだけどね。まぁ、でも、取り敢えず、俺の知っている奴等はせめて、幸せであるようにって」
星の瞬く夜空を見上げながら。
星の輝く夜空を見詰めながら。
「・・俺の知っている奴等が・・何処にいたとしても・・幸せであるように・・って」
誰の事を想っているのか。
少しだけ瞳を細めて、切なさを纏って。
──横島は、思う。
(・・俺の中にいるのに、な・・)
感傷的になってしまっている自分に苦笑しながら。
(・・でも・・あいつが今、幸せか・・俺の中にいるのに、俺は解んねーから・・)
蛍を、想う──
「・・横島さん・・」
小鳩が小さく、彼の名を呟く。その声は小さすぎて、横島の耳には届かない。
──知らない顔。
こういう彼の表情は、何度か見た事がある。
でも自分は、彼が何故こんな表情を浮かべるのかを知らない。
その原因が何なのか・・詳しい事は、知らない。
・・想い人の顔。
その内に抱えているものが少しだけ見える──それでも自分の知らない顔。
・・少しだけ、悔しくて。・・悲しくて。
だけど。
だから。
「・・私も、大した事じゃありませんよ」
そう言って、そっと、彼の手を取る。
少し驚いた顔をして自分を見てくる彼に、にっこりと笑って。
「・・大好きな人が、笑っていられますようにって」
それは、たった一人。たった一人に向けての、願い。
「・・俺と似てるね?」
首を傾げて、笑う彼に。
「ええ、似てますね♪」
笑みと共に、返す。
──幸せであるように。
笑っていられますように──
・・二人、笑い合って。
「それじゃ、帰ろっか」
「はい♪」
歩き出す。
手は、離す事無く、そのままに。
それが自然であるかの様に。
帰路に就く。
手のぬくもりを感じながら。
切ない想いに、笑みが崩れそうになるのを堪えながら。
一緒に、帰っていく。
・・本当は、あと一つ。
欲張って書いた願い事。
──私を選んでくれますように──
・・とても身勝手な、でも切実な願い。
自分の力で頑張らなきゃいけない、けれど、最後は──・・。
星に願いをとは言うけれど。
その願いを叶える事が出来るのは──隣にいる、貴方だけ。
***
久々に投稿です。・・再録モノですが(爆)