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▽レス始

「幻想夜曲(GS+六条一馬さんのイラスト[116])」

S (2005-07-01 19:11/2005-07-02 19:39)

六条一馬さんのイラスト『私見たんです・・・見えるはずのないモノを・・・』
を見て書かせていただきました。


カップ麺を掻き込んでさぁ後は寝るだけだとジーンズを脱いだところで部屋の隅で電話が鳴りだした。
ったく誰だこんな時間に
「はい横島っす」
『横島くん? そっちにおキヌちゃん行ってない?』
「は? いえ、来てないっすけど」
『そう……分かったわ、ありがとう』
それじゃと切られそうになって
「ちょっ 待ってください おキヌちゃんがいないって、いつもの夜の散歩じゃないんですか?」
『だったらいいんだけど……あんたも昼間厄珍のところに行ったんでしょう? さっき向こうから電話があったのよ』
厄珍の店?
記憶を引っ張り出す。
美神さんの注文の品を受け取りに俺とおキヌちゃんとで――俺一人で行くと、厄珍と一緒になってろくな事しないからって、お目付け役だとついてきたのだ。
と言ってもおキヌちゃんと二人で歩くのは悪くないむしろ楽しかったからそれはいいんだが。
俺がバカを言うと素直にわぁすごいですねーって喜んでくれるからな。
「ええと……海外のオークションで蔵買いしたって色んなガラクタ並べてましたね」
俺がお札やら何やらをリュックに詰め込んでる間、おキヌちゃんは厄珍と二人してそっちを見てたはずだ。
『そう それでその中の一つが消えてたんだそうよ』
「まさかおキヌちゃんが盗んだとでも言うんですか! そんなわけないでしょうが!」
ああもう電話じゃ埒が明かない
「俺今から事務所に行きますから!」
『待ちなさい 最後まで話をちゃんと――』
受話器を叩きつけて、ジーンズのジッパーを上げるのももどかしく俺はアパートを飛び出した。


ぜいぜいと膝に手を付いて荒い息をつく俺を、美神さんが苦い顔で見下ろしている。
「だからはっきりそうと決まったわけじゃないし、本当にただの散歩かもしれないんだから」
せめて水を一杯……でも美神さんがそんな気を使ってくれるわけもなく。
「結界は内側から破られていたそうだから、少なくともおキヌちゃんが盗んだとかそういうことはないわ。ただ、オカルトアイテムじゃなくて纏め買いした方だったから特に封印はしてなかったそうなんだけど……何かのきっかけで目覚めたということなのかしら?」
「結局、何がなくなったんですか?」
やっと呼吸が収まってきた。
「レスポール」
は?
「エレキギターよ。特に曰くがあるわけじゃない。もう亡くなった無名の女性シンガーの愛用の品だったそうよ」
ギターとおキヌちゃん……どうにも頭の中で結びつかない。
ああ、だから美神さんも割りと落ち着いてるのか。
「あんたが慌ててるの見たら、逆に冷めちゃったわ。ま、散歩だったらあと小一時間もすれば帰って来るでしょ
あんたも早く帰りなさい。仕事じゃないんだからここにいても時給出さないわよ」
がくと足から力が抜けた。


満月には少し欠けた、でも綺麗な月を見上げながら。
まったく、厄珍も人騒がせだよなぁ。
ふと思い立って、時々おキヌちゃんが散歩に行っているという公園(隣が墓地)に足を伸ばして見る気になった。
いなきゃいないでいい。もしもいたら、一緒にちょっと月を見てみるのもいいんじゃないかって。
「……?」
何だ今の?
足を止めて、耳を澄ます。
……♪…………♪……
これって……まさか


それは、ひどく幻想的な光景だった。
しどけなく足を崩した少女が、月の光を浴びながら 緩やかな音を紡いでいる。
どこかで聞いた事のあるような 切なくて でも甘く痺れる旋律
……よこしまさん
まるですぐ耳元で囁かれてるみたいに
今までに感じたことのない熱を体の内に抱えながら、俺はただ立ちすくむことしかできなかった。


「……よこしまさん?」
とろんとした眼差し 今初めて俺がここにいることに気がついたみたいに。
もしかしたらまだ半分夢の中にいるのかもしれない。
だって、いつもの彼女ならこんな胸が見えそうになっていたら真っ赤になるはずだから。
「おキヌちゃん……どうして……」
「……この子が、どうしても最後に唄いたいって……」
寂しげに、細い指を滑らかなボディにすべらせる。
震える弦が キュゥ……ンと啼いた。
「おキヌちゃんは大丈夫なの?」
「わたしは平気です ちょっと疲れただけ」
はらり
風に流れる髪 後れ毛が どきどきするほど色っぽい
「どうしたんですか? よこしまさん?」
まずい このままだと何だかとっても拙い気がする俺の中の何かがしきりとそう訴えかけてくる。
……あふ
そんな俺に少しも気づかずに、小さくあくびを零した
「ちょっと ねむくなっちゃいました……この子ももうお腹一杯って……」
慌てて支えて……柔らかい?……抱き上げると本当に羽みたいに軽いけど、でも確かに腕に感じる。
……もしかして、このギターのせいか?
すぅ すぅ
可愛い寝息とあどけない寝顔に、さっきまでの妖艶さはなかった。
ほっとすると同時に、何だか勿体無いような……でも流石に寝てる女の子に悪戯しちゃだめだよな。
肌蹴かけた胸元を掻き合せて、もう一度しっかりと抱き上げる。ギターは肩に引っ掛けて。
事務所に向かって歩き出した。


結局、厄珍の管理不行き届きということで美神さんは何がしかのアイテムを手に入れたらしい。
おキヌちゃんも次の日には何事もなく元気に飛びまわっていたし。
もしかしたら、おキヌちゃんは霊的楽器に適性があるのかもしれないって美神さんは言っていた。
ただ、ギターを弾いたこと俺に迎えに来てもらったことは覚えていても、どんな風だったかは全く覚えていないらしい……それは俺だけの秘密だ。


あれ以来、夢の中におキヌちゃんが出てくることが妙に多いような気がする。


Fin


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