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▽レス始

「裏・ファミリーエンド (GS)」

zokuto (2005-06-12 18:17)


 オカルトGメンは解体。
 一般GSも職を失った。
 バチカンなどの宗教関係は流石に生き残っているが、その他のオカルト関係はほぼ無くなってしまった。

 この世界から、心霊現象が消えた。

 それもこれもアシュタロスのせいだ。

 究極の魔体を滅ぼしてもなお、そこに残留していたアシュタロスの魂が集結そして形を作った。
 神族の人界拠点を破壊し、チャンネルを閉じ……究極の魔体を再び極秘裏に完成させた。
 平和が訪れ、安逸に身を任せていた人間のGS達にはそのことを少しも気づくことができなかった。

 完成させた究極の魔体を、さらに分解。
 分解過程に出た膨大なエネルギーを使用して、宇宙改変装置『コスモプロセッサー』を起動。
 そしてこの世界から全ての心霊現象を消し去ってしまったのだ。
 心霊現象は、妖怪、幽霊、霊能力、神や悪魔のことだ。
 魔神であるアシュタロスは俺たちの目の前で俺たちをあざけりながらコスモプロセッサーの力によって完全な死に到着した。

 俺ももう、文珠も霊波刀も出せない。
 この世界で、もう誰一人として霊能力を使うことはできない。

 美神さんはとりわけ狂い死にしそうなほど取り乱したけれど、今では落ち着いて、今までためておいた財産やコネを使い他の仕事をばりばりこなしている。
 おキヌちゃんも、もう悪霊の群れに襲われることがないので実家に帰った。
 シロもタマモも、狼と狐に戻ってどこかへ行ってしまった。
 人工幽霊は、今では黙したまま動かない。
 妖精の鈴女は、その巣のみ残し、消えてしまった。
 ピートは普通の人間になり島へ戻り、アンちゃんとエミさんは後を追っかけていった。
 タイガーと魔理さんは二人仲良く、他の仕事をして過ごしているらしい。
 雪之丞は……弓さんのとこの婿養子になったって話だ。
 ドクターカオスは不老不死でなくなったので残り少ない人生を、虚ろな目をしたマリアと過ごすと言っている。
 西条は普通の刑事になり、隊長は強すぎる精神感応能力を持っていた夫と一緒に堂々と街を歩いてラブラブしているらしい。
 小鳩ちゃんはあの貧乏神が居なくなって少し寂しそうにしていたが、挫けないで明日を生きます、と言っていた。
 愛子はただの机になり、先生やクラスメイト達が学校で大切に安置している。


 みんな変わってしまった。
 この世界に、たくさんの同居人がいたことを忘れてしまったかのようにみんなは変わってしまった。
 むしろ、忘れるために変わっていってしまったかのように俺は見えた。

 俺だって変わった。
 今では小竜姫様やワルキューレ、ジークにヒャクメ、ベスパ、パピリオ、猿神などの神や魔族の顔を忘れかけている。
 スリルとアクション、そしてロマンに美女に囲まれたGSの横島忠夫は、ただの横島忠夫になってしまったのだ。
 ただ一つの取り柄を失った、役立たずの横島忠夫。

「にゃぁ……」

 しとしとと降る雨の中、コンビニのバイトを終えた俺がアパートの階段を登っているときに、それに気づいた。

「にゃあ、にゃあ」

 濡れて、怪我だらけの二匹の三毛猫。
 俺のアパートの前で暖めあうように丸くなっていた。
 金属の階段のコンコンと響く音を聞きつけ、首だけちょこっと上げて目線を上げた。

「…………」

 二匹の猫は、俺の姿を確認すると突然動きだし、じゃれるように足下でにゃあにゃあ鳴き始めた。
 どこか懐かしさを感じる。
 よくよく見てみると、二匹は親猫、子猫らしい。

 ふと、昔の記憶がよみがえる。

「よしよし……寒いか、腹が減ったか……」

 そっと頭を撫でてやり、二匹を持ち上げ、俺の体温で暖めてやろうとジージャンの中にすっぽり入れた。
 猫はにゃあ、と元気よく声をあげ、首を服からちょこんと出し、俺の顔を舐めた。

「かわいそうに、美衣さん、ケイ……」

 俺の呟きを聞いたか聞いてないのか、二匹はにゃあにゃあと鳴いた。

 確か冷蔵庫の中には牛乳があったはずだ。
 それに、にぼしか何かも……。

 もちろん、俺の住んでいるのはアパートなのだから動物類を飼うのはNGだ。
 だけど、せめて……雨が降り止むまでは、昔の知り合いを家に入れても許してくれるだろう。

 そう思って、俺はアパートのドアを開いた。

「…………」

 やっぱりドアを閉めた。

「……ここ、俺の部屋だよな?」

 確かに俺の部屋だった。
 だが、ドアを開けた瞬間、何か俺の知らない物があったような気がする。
 褐色だったり、白かったり……なんだかたくさん居た。

「…………確か、亜人系の妖怪は人間になったんだよな? 噂によれば神族や魔族も一部、人間に……」

 勇気を持ってドアを少し開けた。
 隙間から中を覗こうとしたんだ。

 だが、いきなり内側から強い力が来てドアは大きく開かれた。

「おかえりなさい!」
「うわぁあああああ!?」

 バランスを崩し、もんどりを打って部屋の中に飛び込んでしまう俺。
 うつむせに倒れそうだったのだが、ジージャンに猫二匹がいるのを思い出しすんでのところで体の位置を転換させた。

「こら! グーラー! 何している!」

 俺の部屋に蠢いていた物達が段々と姿を見せていく。
 誰も彼もが雨に濡れ、長かったり短かったりする髪の毛が水滴を浮かばせている。

「大丈夫ですか、横島さん。 もう、グーラーさん、もう少し配慮をしてください」
「そうでちゅよ。 よこちまが怪我したらただじゃおかないでちゅからね」

 どれもこれも見たことがある。
 次の瞬間には、目の前がぐにゃぐにゃと歪んだ。

「久しぶりだな、横島。 それにしても地球というものは難儀なものだ。 重力が月の六倍はあるそうだな」
「そうよね〜。 神無ちゃんなんて、体重計を乗ったときに重力の違いを忘れてて、すっごい落ち込んだんだから」
「こ、こらッ。 朧! 余計なことを言うな!」

 懐から猫が這い出してきて、俺の頬を舐める。
 親猫の方は優しく微笑み、子猫は俺にじゃれてくる。
 その二匹の顔は、俺の記憶のかつての親子のものそのものだった。

「困ったのね〜。 人間になっちゃってなんにも見えない、ひ〜ん」
「ヒャクメさん。 感じるんじゃなくて、考えるんです。 力を無くした我らに必要なのは、人間のような順応する能力を上げることですよ」

 夢じゃなかった。
 夢じゃなかったんだ。

 今までやってきたことは。
 何度も何度も、考え、悩んできたことは。

 全部……夢じゃなかったんだ。

 眠るときには恐怖した。
 今まで辛かったことも楽しかったことも全てが夢だったんじゃないか、夢の中で眠ったら目が覚めてしまうんじゃないか、と考えて、眠れなかった夜が何度あったことだっただろうか。

 でも、全部夢じゃなかった。

 この世界に、かつて霊能力があったっていうことは、誰にも否定しようがない事実だったんだ。

 あいつのことも、全部……全部。

「うわっ」
「きゃ!?」
「わわっ!?」
「でちゅッ!?」
「きゃー」
「何をする、横島」
「あ〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜おやめください、お代官様ぁ〜〜〜ん」
「いや〜ん、なのね〜」
「にゃあ」
「にゃあ」

 両手一杯に、みんなを抱きかかえる。
 確かに手に感触を感じる。
 みんな、暖かく、血が通った体を持っている。

 ……ジークはとりあえず放っておいた。

「……良かった……本当に良かった……」

 狭い部屋に十人と二匹(ジークはノーカウント)。
 ぎゅうぎゅう詰めだったけれど、心の距離はもっと近く感じた。

「ちょ、ちょ、ちょ……横島さん。 放してください、苦しいです」
「顔が赤いのは苦しいだけだからなの? 小竜姫」
「こ、こら、ヒャクメ! からかわないでください」
「なんのことなのね〜」

 ヒャクメ様と小竜姫様の懐かしいずっこけコンビ。

「あらあらあら、神無ちゃんもお茶が沸かせるくらい顔が真っ赤ねぇ〜」
「何を言う、朧。 お前だって」
「あら〜ん、だって私、乙女ですもん。 男の人にこんなに強く抱きかかえられたら顔くらいは赤くしますよ」
「…………」

 朧ちゃんが神無をおちょくり。

「あん、あんたも好きねぇ」

 余裕のグーラーの声。

「せ、戦士ヨコシマ……少し強く締めすぎだ。 私たちは力を失っているから、お前をふりほどくほどの力はないんだ……」

 ワルキューレの声にはっと我に返り、手を放した。
 俺の懐にいたままの猫二匹がきゅぅとうなって地面にへたりこむ。

 俺の手は大量の汗でじっとり濡れていた。

「……良かった……みんな、どうなったのかなって心配だったんだ。 美神さんとか、みんな変わっちゃって、力を失った妖怪とか、神族とか魔族とか、あの、その……死んじゃったのかな、とかも思って……でも、良かった。 生きてたんだ」

 喉で言葉が詰まって上手く声を出せなかった。
 頭で考えがこんがらがって、上手く言葉に表せなかった。
 涙が目から溢れてきて、前が見えない。

 だけど、夢じゃない……!

「横島さん……」

 小竜姫様がハンカチで俺の顔をそっとぬぐってくれた。
 もう角はなく、その体から溢れるような霊波を感じることはない。
 だけど、確実に生きている。

「……す、すみません。 こんな恥ずかしい姿見せちゃって……お詫びに、元神様と人間のようやく許された恋をーーー!!」

 最後まで言い切る前に、女性陣にぶん殴られて止められた。

「馬鹿だねぇ。 それさえ無ければばっちり決まってたっていうのに……」
「う……それが無かったら、俺は俺じゃねぇだろ」

 リンチまがいの女性陣の暴行で、一番苛烈だったのがワルキューレだった。
 拳銃の柄の部分でおもいっきり頭をぶん殴られた。

 ……俺じゃなかったら死んでたぞ。

「フン。 だらしなく鼻の下を伸ばして……」
「あれ〜、神無ちゃん焼き餅?」
「……フン」
「否定しないんだ〜。 横島君、ここに焼き餅している女の子が二人いるわよ。 神無ちゃんと、わ・た・し」

 月神族の神無と朧が二人で顔を赤くしていた。
 神無はそっぽ向いて、朧ちゃんは俺に向かって小悪魔みたいな顔で。
 それを見たらいとおしくてしょうがなくなった。

「じゃあ、お詫びに3人で月でも見ながら同じベッドで!」

 飛びかかろうとする前に他の女性陣にめたくそに殴られた。
 小竜姫様なんて鞘に入ったままの神剣を俺の脳天に何度も何度も打ち付けてきた。

 何度も言うが、俺じゃなかったら確実に死んでる。

「痛い……頭が割れるように痛い……助けて、ヒャクメ……」

 ずたぼろになった体でヒャクメの方へ這い寄ろうとした、またリンチされた。
 今回は完全に助けを求めただけなのに……。

「……グーラー」

 声を出しただけでスタンピングの嵐。

「ぱ……ぴりお……」

 このペド野郎! 死ね、死にやがれ! どうして大人な私がいるのにこんな幼女に!
 等々、言葉の暴力 アンド 拳の暴力 アンド 数の暴力。

 タマモやシロだってダメな俺がなんでそれより年下の外見のパピリオに手を出すと思って居るんだろうか? 謎だ。

「じぃ……く」

 ホモめ! ……でも……いや、ダメよ!! そんなベジタブルは、ちょっと見てみたい気がないでもないけど、でも……!
 等々、俺の精神を深く抉る言葉が俺を悩ませた。

 俺だって男なんて嫌に決まっとるわい!

「……ごめんなさい……もうしませんから、何でもいうこと聞きますから、殴らないで……」

 半べそかいて言った。
 みんな容赦無くて、俺、もう死にそうだ。

 猫二匹が血まみれ頭を舐めてくれる。

「あ、ありがと……美衣さん、ケイ……」
「にゃうん」
「にゃあん」

 どう致しまして、と泣き声を上げる猫二匹。

「横島さん!? 大丈夫ですか!! こんな怪我……酷い! 私が優しくいやしてあげますね」
「酷いことするな、お前ら! 戦士ヨコシマといえどもはや不死身ではないのだぞ! ……私が戦場仕込みの救急を施してやろう、ヨコシマ」
「大丈夫かい? ヨコシマ」
「にゃあにゃあ」
「わ、わたしは……」
「神無ちゃんはいいわ。 私がヨコシマさんをいやしてあげるから……大丈夫よ。 ヨコシマさんには神無ちゃんもかわいがってあげて、って私から言ってあげるから」
「……いや、朧。 私も……」
「た〜いへんな〜のね〜」

 優しく看護してくれた邪気のない二匹を俺が褒めると、俺をぶちのめしていた女性陣の顔色がイキナリ変わった。
 何かにとりつかれたかのように、かいがいしく動き、俺の体を優しく……いや、やや乱暴にさする。

 おいおい、お前らがやったんだろーが。
 なんて口が裂けても言えない。

 でも……。

「あ、あはははっ、ははは……あははははははははっ」

 笑いが堰を切ったようにこみ上げてきた。
 みんながきょとんとこちらを見下ろしている。
 リンチしすぎて壊れちゃったか? と思ってるんだろう、きっと。

「あはははは、あーっはっはっはっは、ひひひ……」

 とめどのない懐かしさ。
 ドツかれるのは久しぶりだ。
 煩悩を出すのは久方ぶりだ。
 こんなに楽しかったのは……ずいぶんの間、無かった。

「みんな……一緒に生きよう」

 でもなんでだろう。

「もしよかったら……その……変な意味じゃないんだけど……みんな一緒に暮らさないか?」

 なんでなんだろう?

「……正直困ってました。 私達は力を無くし、神族としての仕事も無くし、人間社会にとけ込む方法もわからない。 私がこんなに無知だったなんて、人間になって初めて気づきました。 ……厚かましいと思ったんですけど、私達がここを訪ねてきたのは……実は……」

 なんで……なんで……。

「まったくだな。 人間は平和に生きている。 魔界では考えられないほどに、な。 こんなに平和だったら、元魔族の軍人なんて要らぬだろう。 魔力が高かったからという理由で高い階級につき、今では普通の人間より遙かに劣った力しかもたぬ魔族なら、尚更にな」

 …………。

「そういうわけなのね〜。 答えは勿論YES。 というか、私たちはそれを頼みに来たのね〜。 断られるのを覚悟で」

 ……。

「にゃあにゃあにゃあ」

 涙が止まらないんだろう?

「でちゅでちゅでちゅ」

 

 

 

 

「……夢か」

 もう梅雨入りした東京では、夜は蒸し暑くて安眠できない。
 寝苦しさに耐えきれなくなって体を起こすと、布団が汗でぐっしょりになっていた。

 何か幸せな夢を見ていたような気がする。

 ……。

「暑い……」

 俺の狭い部屋は熱気でむんむんだ。
 いくら梅雨といえど、はっきり言って異常なまで湿気が高い。

 まあ、それもそうか。

「狭い部屋に、十一人と二匹が一緒に居るんだからな……」

 片方には小竜姫様、もう片方にはワルキューレがいる布団に、俺は再び潜り込んだ。
 たくさんの同居人に囲まれたまま、俺は再び浅い眠りへと沈んでいったのだった。

 今度もう少し広い部屋に引っ越そう。

 

 

  

 
      終わり


    後書き

 zokutoです、しゃらんら〜♪
 東京も梅雨入りしたというニュースを耳に挟み、そろそろ夏が本格的に始まるな〜、と思いました。
 暑いのは苦手ですが、夏には色々とありますから楽しみです。

 時間があれば海もいきたいです……時間があれば……

 ともあれ、久しぶりに最後まで書き終えることの出来たSSでした。 
 ほんのわずかでも暇をつぶせたら幸いかと。

 尚、「表・ファミリーエンド」はありません。

 ちなみに、帰ってきたメンバーに狐と狼がいなかったのは信仰の結果です。
 あしからず。


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