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▽レス始

「魔法のディナー(GS)」

さみい (2005-06-05 02:00/2005-06-05 16:02)

「横島クンの様子が変だわ」
美神令子は戸惑っていた。

アシュタロス戦後、私達は今まで通りの生活に戻った。戦争直後のせいか仕事が少ないのには閉口だけど、かつての美神除霊事務所らしくなってきた。相変わらず私に飛びかかるセクハラ丁稚の横島クン、ちょっとボケたところが可愛いおキヌちゃん、そして事務所を守る人口幽霊一号。ママも戻ってきて(しかもお腹を膨らまして)、来週には妹(弟?)も生まれる。

でも私とおキヌちゃんは知っている。横島クンの慟哭を。ルシオラを亡くし、自分の非力を悔いる横島クンを・・・。その横島クンは無理して戦争前の自分を演じている。元のように生活すれば、いつかルシオラと再会できると思っているかのように。


今晩の仕事は、失恋して中武百貨店のトイレで手首を切って自殺し、悪霊となった傍迷惑な女の子の除霊。激戦の百貨店業界ではこの種の噂は致命的だ。今日の夕方に事件が起きてスグに百貨店は内密に依頼してきた。迅速・極秘理に除霊する代わりに代金はボレる。7時頃まで別の除霊をこなした後、夜9時頃に百貨店に入った。


場所は百貨店3階。照明が消え、非常灯以外の灯りはない。不気味なほど静まりかえったデパートの婦人服売り場。おキヌちゃんがネクロの笛を吹き霊を鎮めている間に私達は近付く。先頭が私。その後におキヌちゃん・横島クン。真っ暗な売場の中を私達は洋服の陰に隠れるようにして進む。
ギャシャ〜ン
横島クンが何かにぶつかって倒れた。悪霊にバレる。悪霊は一番弱そうなおキヌちゃんに攻撃する。おキヌちゃんは頑張ってネクロの笛を吹いているがあまり効いていない。おキヌちゃんに悪霊が襲いかかる。横島クンは倒れたままだ。慌てて神通棍を振るい、危ないところで悪霊を止める。
「この丁稚!何ボ〜ッとしてるの!」
我に帰った横島クンが霊波刀を出して悪霊に攻め入る。私も神通棍で一気に攻め立てる。
バシュ!
「吸引完了っと」
私が悪霊をお札に吸引するとおキヌちゃんがその場に座り込む。
「ビックリしましたね〜。まだ心臓ドキドキしてます」
「横島クン、除霊の最中にボ〜ッとしてんじゃないわよ!GSの仕事は命かけてんだからね。一瞬が命取りになるわ。今日のアンタはどうかして」
ここまで言った時、私は横島クンの涙に気が付いた。横島クンの目線の先にはかつてルシオラが保護観察になっていた時に着ていたのと同じ服・・・。
(そう、これが原因だったの・・・。)
「と、とにかくこれからは一瞬たりとも油断するんじゃないわよ。さあ、撤収よ。おなか空いちゃった。ちょっと遅いけど、ディナーよ」
おキヌちゃんの手を引いてデパートを後にする。慌てて横島クンが追いかけてくる。コブラのトランクに横島クンが入ったのを確認してから私はコブラを急発進させた。


魔法料理店・魔鈴。西条お兄ちゃんの留学時代の後輩とかいうイケスカナイ女が経営しているけど、美味しく滋養があることには変わりはない。私達は一般客で混雑した店内を抜けて、奥の特別室に入る。6畳程の小部屋では店内の喧噪も聴こえない。4人がけのテーブルにおキヌちゃんと私、対面に横島クンが座る。
黒猫が注文を取りにきた。
「今日は何を頼むのニャ?」
私はメニューから適当に選ぶ。おキヌちゃんはどれを選んでいいか迷っているようだ。黒猫がお薦めメニューを紹介する。
「じゃあ、それでお願いします」
「俺もそれお願いしま「これなんかどう?」」
横島クンが慌ててオーダーしようとするのを抑えて、私はあるメニューを黒猫に告げる。
「・・・判ったニャ。魔鈴ちゃんの腕の振るいドコロだニャ」
黒猫はメニューを咥えて出て行った。


私は前菜を食べながら横島クンに言った。
「横島クン、泣きたいのだったら泣いていいのよ。今ここには私とおキヌちゃんだけ。ルシオラの事をよく知っていて、一緒にアシュタロスと戦った仲間なんだから。ねぇ、おキヌちゃん」
「そうですよ、横島さん」
横島クンは俯いたままだ。いつも欠食児童のような横島クンなのに前菜にも殆ど手を着けていない。

その時魔鈴がメインディッシュを載せたワゴンを押して入ってきた。テーブルの上にキャンドルを置き、てきぱきとそれぞれのメインディッシュを配膳していく。メインディッシュはなぜか4皿あった。魔鈴とも思えないミスにおキヌちゃんは不思議がっている。最後にキャンドルに火を灯し電気を消して出て行った。
私は二人に告げる。
「横島クン、おキヌちゃん。これから主賓が来るわよ」
その時キャンドルの上に美しい蛍が舞い降りた。


「ル、ルシオラ・・・」
「ヨコシマ・・・。それに美神さん・おキヌちゃん。お久し振りね」
横島クンは泣きながらルシオラに抱きつく。おキヌちゃんも目に涙を溜めている。

「このキャンドルが消えるまで、私はヨコシマと一緒に食事ができる・・・。さあ、楽しくお食事しましょう!」
ルシオラは魔界の白身魚の香草焼き。魔力を高めるのに一番のメニューだ。
「ルシオラ」
横島クンは泣きながら前菜を食べ始めた。


楽しい時間はあっと言う間に経つ。長かったキャンドルも残り僅かとなった。
ルシオラは横島クンの耳を引っ張って膝の上に頭を載せさせる。
「ヨコシマ・・・」
横島クンはルシオラの膝で思いっきり泣いている。そんな二人を私とおキヌちゃんは黙って見守る。
「ヨコシマ、私はあなたといつも一緒なのよ!あなたの霊基構造の半分は私のなんだから・・・。だから私は死んだわけじゃないの。あなたの中で生きているのよ。こうやって姿を現わすには召喚キャンドルや結界の助けが必要だけど・・・。さあ、ヨコシマ。デザートもいただきましょう」
いつの間にかテーブルの上にはデザートのシャーベット。魔界の果物から作られたこのシャーベットは甘さも程よく私も好物だ。
「ヨコシマ、あ〜ん」
ルシオラはシャーベットを載せたスプーンを横島クンの口に運ぶ。横島クンは真っ赤になりながら大きく口を開ける。私とおキヌちゃんもシャーベットを食べた。今日のは甘すぎよ、魔鈴。


「じゃあね、ヨコシマ」
キャンドルが消える。ルシオラは横島クンにお別れの言葉を言って頬にキスすると徐々に消えていった。真っ暗になった室内を静寂が支配する。


パッ
電気が点いた。黒猫が電気を点けてくれたようだ。
「横島クン、おキヌちゃん、そろそろ行きましょう」
私はそう言って席を立った。横島クンはどこか落ち着いた顔になっていた。
「美神さん、ありがとうございます!」
「気にしなくていいわ。ウチの事務所は『食事支給』だしね・・・」
そう。バイト募集のポスターを貼っている最中に横島クンが飛びついたから有耶無耶になったけど、ウチの事務所は食事支給なんだから。父は海外勤務・母は多忙なGSだった私が鍵っ子だったってこともあるケドね・・・。食事はみんなで食べれば、より美味しいし、栄養にだってなるんだから。今日の食事は横島クンにとって何よりの糧になっただろう。
「さあ、明日も頑張ってボロ儲けしましょう!」
「「おー!(はい!)」」


その後の横島クンは皆の知るところだ。タマモを保護し、ユニコーンの退治では見事な乙女に化けたものの自分にナルって失敗し、ラプラスの言葉に引っ掛かって私の髪の毛を取ろうとしたり。今まで通りの横島クン。その姿に無理は見られない。だってあの娘がついているんだから・・・。ちょっと妬けるけどね。でも元気な横島クンが一番。少しくらい我慢しなきゃ。そしてボロ儲けするのよ。召喚キャンドル込みで3百万円のディナーを回収するために・・・。


(完結)
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さみいです。忙しかった仕事も落ち着いてきて、漸くSSを書く時間も出来ました。
横島くんは「賢者の贈り物」でキャンドルのことを知っていたみたいな口ぶりだったので、これでルシオラと再会していたら?、と「長いお別れ」と「ファイヤースターター」の間を想像してみました。如何でしたでしょうか。


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