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▽レス始

「リレーSS「お花見をしようっ」(最終話)(GS)」

豪 (2005-05-26 02:31/2005-05-26 02:36)


舞い踊る桜吹雪。薄い紅色の雪景色。
その中に立つ漆黒の色を持つ彼女は、何処か場違いなようでいて
けれど、横島は目を奪われた。目を離すなんて事は出来なかった。
それは、心に生れた喜びのためばかりではなく
彼に向けられている微笑が、散り行く桜のように見えたから。


「ルシオラ・・・・・・・・・?」


半信半疑か、あるいは疑いの方が濃いであろう呟きが漏れる。
両の瞳は揺らぎ、焦点は落ち着かず。そんな彼の顔は、まるで泣き顔のよう。
どこか申し訳なさそうな、苦笑にも似た微笑みを返し
彼女は――――――――――ルシオラは、横島に向けて口を開いた。


「久しぶり、ヨコシマ」


優しい朝焼けに照らされながら、人知れず、少年と蛍は再会を果した。
ほんの一時のみ許された、別れの約束された再会を。


「あ、えーと、え? いやその・・・・・・・・何で?」


疑念は混乱へと移り、疑問へと変わって行く。
彼の百面相が楽しいのか、ルシオラはくすくすと口元を隠して笑っていた。
嬉しそうな彼女の様子が、更に混乱を深め
精神的に追い詰められた横島は、くわっ、と目を見開いて


「そうか夢かっ!?」

「いやいきなり否定されても」

「桜に包まれて眠っとる俺が見とる夢とかゆー、よくあるオチなんだなっ!?」

「いやいやそんなメタ発言されても」


ハテナマーク(?)をエクスクラメーションマーク(!)に換えながら
横島は己を納得させるための発言を吐き捲る。
呆れた様にルシオラは呟いているが、彼の耳に届いた様子は無い。


「そうこれは夢! ならば何の問題も無いっ!!!
 夢ならば何してもオッケェェェェェェェェィッ!!!」

「なわけないでしょうがぁっ!!!!!」


朝日に向けて漢の宣言をかます横島に、ええ加減に我慢が限界まで達したか
ルシオラは物理的説得力を用いて諌めた。具体的には拳。
殴り倒された横島は、よろよろと立ち上がりながら


「い、痛ひ・・・・・・・痛い? つまり痛みが在る?
 えーと、つまりこれは、その、要するに」

「そうよ。これは確かに現じ」

「リアルな夢なんだなっ!!?」


ルシオラによるワンツーブローが横島を捕らえた。
フィニッシュはアッパーカット。空へと届けこの思い。


「いい加減無理やりにボケるのは止めなさい。オーケィ?」

「お、おーけい・・・・・・・・・・・・」


襟首を掴みながらの要請に、横島は応ずるより他の術を持たない。
実際に、連続する痛みのおかげで夢ではない事は解ったのだから
この現実の否定に意味など無いのだが。


「だいたい狐のあの子とはいい雰囲気作っておきながら
 私相手だと、夢だって断定するのはどーいうわけ?
 ヒャクメやワルキューレやベスパは、どっちかと言うと一歩退いてたし
 美神さん、おキヌちゃん、小竜姫にパピリオとかはともかくとしても
 狐の女の子とか、犬の女の子とか、お下げの女の子とか
 ・・・・・・・・・・もう一発くらい殴っていい?」

「ちょ、ちょっとマテ! そろそろダメージが危険域に!
 じゃなくて、何でルシオラが知ってるんだ!?」


ルシオラが怒り気味である理由を特定出来た気もする横島だったが
それと同時に浮ぶのは疑問。彼女等との面識などある筈が無いのだから。
驚きを表情ばかりでなく、視線などの動きで表現した横島に対して
彼女から掛けられたのは、何処か悪戯っぽい笑み。


「当たり前でしょう。ずっと一緒にいたんだから」


微笑みながら紡がれた言葉に虚を突かれ、目を見張った。
珍しく頬を赤らめ、自分の胸に片手を当てる横島。
そんな彼を優しく見詰めるルシオラ。


「そっか・・・・・・・・・ずっと、一緒におったんか」


そっと目を閉じて、想いに耽る。
瞼の裏に映るのは、自分自身が生きた過去。
そんな彼を嬉しそうに見詰めるルシオラ。


「ずっと・・・・・・・・・・・・ずっと?


そこで思考が一時停止。顔面が面白いように引き攣ってゆく。
現在の彼の気持ちを例えて言うならば、そう
自家発電を偶然親に見られた中学生だろうか。余りに直接的過ぎるが。


「ずっと、という事は、つまり
 あーんな事や、こーんな事や、そーんな事や
 あまつさえこげな事まで知られいーやーーーーっ!!!
 帰ってきて俺のプライバシーーーーーーーーーッ!!!!」

「落ち着きなさいっ!!!」


叫ぶ以外に現実から逃げる術を持たない横島に対して
もう一度ルシオラは物理的説得力を使用した。具体的には蹴り。
呆れたような表情を浮べながら、顔の横で人差し指を立てつつ
出来の悪い生徒に教え込む教師のように、ルシオラは彼を諭し始めた。


「そんなに恐がらなくても、何もかも知ってるわけじゃないから安心しなさい。
 いくらずっと一緒に居たとはいえ、魂だと何が起こってるのか判らないもの。
 私が知ってるのは、妙神山に来て宴会を始めてからの事だけよ」

「そ、そーか。いや良かった、マジで」


ぶっ倒れたままで安堵の息を吐く。
そうでなければ、自決の一つや二つしていたろう。かなりガチで。
確かに、横島の記憶をそのままに知っていたならば
彼女らを称す時には名前で呼んでいただろうし
何よりシロを犬とは称すまい。いや、間違いではない気もするが。
立ち上がりつつ、横島は胸を撫で下ろす。しかし、最初の疑問がまだ解けていない。
まじまじとルシオラを見詰め、首を傾げつつ呟いた。


「夢じゃないってのは解った。
 でも、何で居るんだ? いや嬉しいんだけど」


喜び以上に驚きが先立ってしまい、肝心要の質問が後になってしまっていた。
それで、ようやく説明が出来ると同時に、どこから説明を始めるかという事で
ルシオラは唇に指を当てつつ、少々難しい顔をした。
ほんの少しの黙考の後、最初に口から漏れたのは


「そうね・・・・・・・・言ってみれば、時間制限の在る奇跡。
 もしくは神様の気まぐれかしらね、文字通り。
 一番簡単に言うと、簡易型コスモプロセッサって所ね」


只一人の聴衆である横島には、意味がさっぱり通じない。
いやコスモプロセッサは解るが、現状とどう関係があるのかが全然解らなかった。
ハニワが豆鉄砲を食らったような顔をする彼に苦笑をしつつ
辺りに視線をやりながらルシオラは語り始めた。


名立たる霊山である妙神山。
当然ながら、地脈を通して集まる霊力は他の霊的拠点に勝るとも劣らず。
其処に生えた桜は当然というか、霊的な面に優れた力を持つ。
とはいえ咲いて散るばかりならば、それらは何の変哲も無い只の桜。
酒の肴とし、目と心を楽しませる以外には役立たず、それで充分十二分。
其処に手を加えるなどとは無粋というもの。

だが、その無粋を成した者が居る。
防壁として働くのみならず、地脈から霊力を集め、それを蓄積する結界。
その結界内にて散り行く桜は、生贄の見立て、死の形代。
桜の花弁が舞う度に、限定空間において死は雪がれて行く。
逆に生を満たすのは、今を生きる者たちによる意思の力。
酒精にて高められ、道具を通して集められたそれは
ただ一時の奇跡を起こすためだけに使われた。
彼の中に残る魂の欠片を用いて、纏めた力に指向性を持たせる。
そして、最後の引き金は朝焼け。
闇を払い、夜の終わりと共に齎される新しい日の光。
それにて全ての理は完成する。

法則の後付けにより、宇宙の全てを改変するのではなく
この場この時間のみを別の宇宙、在らざる世へと置き換える。
それは、コスモプロセッサの一つの能力のみを抽出した術式


――――――――――死者の復活


だが、完全ではない。もしもそれが完全ならば、文字通りの不死すら可能。
夢幻の桜が舞い散る間のみ、夜と昼とに挟まれた朝という時間だけ。
制限時間の在る逢瀬。故に、未来にて訪れる別れは不可避。
それを聞いた横島は一瞬だけ沈んだ顔をしたが、すぐに立ち直った。
先に寂しい別れが待っていようとも、今この時を楽しんではいけない筈が無い。
だから笑う。横島も、ルシオラも、涙ではなく微笑みを交し合う。
今この場において二人は、確かに同じ時を過ごしているのだから。


「たぶん、やったのは土偶羅様と斉天大聖様ね。
 他にこれだけ大掛かりな術式を組める相手はいないでしょうし。
 ひょっとしたら、裏でカオスさんとかが暗躍してるかもしれないけど」

「はー、なるほど」


桜を背にして肩を並べ、二人は共に腰を下ろしていた。
聞くだけの横島は、アホな子のように口を半開きにするばかり。
その顔がツボにでも入ったかルシオラに笑われ、少々憮然とする。
別に説明が解らなかった、というわけではない。
誰の為にこれだけ大掛かりな事をやったのか。
それを思うと、何とも据わりが悪いというだけだった。
何処か拗ねた表情も、胸に生れた恥かしさを隠す為。
熱を帯びた頬を見られたくは無いのか、横島は顔ごと動かして周囲の光景を見た。

静かな雰囲気を持つ、早朝という時間帯。
柔らかな朝日に照らされる桜の木々。
優しい風が吹くと共に、薄紅の流れが空に浮ぶ。
地に落ちた花弁も風に惹かれ、再び空にて舞い踊る。
夢幻にも似た美しさ、けれどそれは暖かみを帯びて。
その故は、今もなお寝続けている彼らのためか。
だらしなくもあどけなく、幸せそうに緩やかな笑顔を浮べて。
酒精に包まれる皆は、桜の寝床で夢を見ていのだろう。
彼らの嬉しげな表情を見れば、きっと良い夢に違いない。
一人一人に目を向けて行く。そして、皆をルシオラに紹介していった。
彼女と出会う前、彼女と別れた後
どんな出会いが在ったのか、どんな風に過ごしてきたのか。
何かをするためには、余りにも時間が無さ過ぎるから
何もしないで居るには、余りにも想いが在り過ぎるから
だから、過去から今に掛けての時間を共有する。
彼自身の過ごした時間を、彼自身の人生を、一つ、また一つ。


美神との出会いが最初に在り、おキヌとの出会いから始まる三人の日々。
巡り巡って今の事務所メンバーは五人、人狼のシロと妖狐のタマモ。
働いて、怒られて、労われて、慕われて、無視されて
時折エミの仕事を邪魔して、たまには冥子の仕事を手伝い
疲れる事も楽しい事も目一杯。そんな感じの仕事模様。

ピートとは吸血鬼退治で知り合い、今ではお互いにクラスメートの仲。
そうそうクラスメートと言えば、タイガーも同じく。
それとお下げな少女、小鳩は学校の後輩で貧乏神持ち。
色々な事件が在ったけれど、何だかんだで解決してきて
馬鹿な事をやって馬鹿みたいに笑える。そんなこんなで過ごす学校生活。

唐巣神父からは、妙神山に来る便宜を図ってもらった。
初めて小竜姫と会った時には、斉天大聖の存在など露知らず。
ワルキューレやジークが居なければ、文珠に目覚める事も無かっただろう。
ヒャクメと会わなければ、自分の前世を知る事も無かっただろう。
出会いが今へと繋がっている、予想も叶わぬ人生計画。

最初は敵だった者も居る。
カオスは体を取り替えようと、美神の体を狙っていた。
その命を受けて動いていたマリアは言うまでもなく。
試合とはいえ、雪之丞とは直接に戦った事もある。
魔鈴は、今もなお美神にとっての商売敵。
オカルトGメンには、魂の敵である西条。
美神にとって、世界で唯一頭が上がらない相手である美智恵。
弓や魔理を彼女にした彼奴らは、二重の意味で敵。
途中で何かが違っている気もするが、こんな風味の人間関係。

そして土偶羅と、ベスパと、パピリオと
過ごした日々、重ねた時間、深めた思い、繋げた絆
たとえ別れが在ったのだとしても、その全ては消え去る事無く
時に寂しさが涙を流させても、かつてを思えば涙は微笑へと変わる
その思い出は、確かな楽しさに満ちているのだから。
しかし踊り続ける桜に酔いでもしたか、雄弁を重ねるうちに
宴の準備にて、パピリオに告白された事まで軽く漏らしてしまい
その浅慮を窘められたりもした。


少しずつ太陽は昇って行く。別れの時間は近付いてゆく。
上りきらぬうちに、後どれだけの言葉を交わせるだろうか。

止まらぬ時間から目を逸らすように、不意に顔を空に向けた。
木々の隙間から、薄紅の花弁に飾られた空が見える。
桜を通して見る空は、手など到底届かないように遠く見え。
その遠さが寂しくて目端に涙が滲む。それはきっと、彼女に流す最後の涙。

視線を戻すと、微笑みを掛けてくれる彼女の姿。
その優しさに胸が締め付けられるけれど、もう泣く事は無い。
その代わりに言葉を紡ぐ。


「なぁ、ルシオラ。
 一つ、思いついた事があるんやけど」


ふんふん、と頷きを見せるルシオラ。
それは何でもない会話。何でもない時間。
けれど彼らにとって、この一時は値千金。
すっ、と視線を再び辺りに向ける。つられて、ルシオラも同様に。
視界の中には、無数と言える桜の木々。
その下には酒の抜け切らぬ身で、赤ら顔をして寝る人々。
宙を舞う花弁は朝靄に映え、夢よりも夢に似た風情を成す。
そう、その風景はまるで――――――――――


「準備はどたばた、宴会は滅茶苦茶で無礼講もいいところ。
 その上、裏では知らんとこで色んな事が動いとる。
 でも、アホほど楽しくって嬉しい。皆、笑いながら寝れるくらい。
 こいつに、こんな花見に名前を付けるんなら――――――――――」


視線を止めた先には、未だ眠り続ける彼の上司。
意外に幼けない寝姿に苦笑しつつ、その言葉を口にした。


「――――――――――――極楽大作戦、ってな」


△記事頭

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