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▽レス始

「デミアン君のお仕事(GS)」

moru (2005-05-22 15:53)


都心の中央部。

そこは人々の足並みが途切れることのない、眠らない世界。

しかし、路地裏に足を運んでみれば、世界は急に寂れていたりするものだ。

そう。表通りは華やかにネオン彩色されているのに、

その裏では、壊れた電灯が取り替えられることなく、今も姿をさらしている。


そんな裏通りの一角に、あるゲームセンターがあった。

その名前は『ゲームセンター・YAMAMURA』

その地下一階には、贅沢なまでにゲーム台が置かれている。

数年前まで、このゲーム台は様々な色を発し、人々の目を引いていたのだろう。

だが、その店も時代の流れか……都合により閉店しますという張り紙一枚で、店を閉じた。


今、この店を利用するものは、ほんの僅かだ。

しかも、それは人間ではなく、強大なる力を持つ魔族。


今も、一人の少年が、このゲームセンターを訪れていた。

彼の名前はデミアン。裏の仕事を請け負う、魔族の暗殺者である。

その名前はあまり知られてはいない。

知られていているはずがないのだ。

彼は人前には姿を現さず、仮に現した場合でも、姿を見たものは殺しつくすのだから。


そう、絶対に。

彼は、根本から魔族なのである。

殺すと宣言した以上、必ず目標の息の根を止める……。


様々な文献を読めば、彼の名前を見つけることは出来る。

だが、そのほとんどは彼の本質を突いてはいない。

そもそもにして、彼は自由に姿を変えることも出来るのだから、当然だろう。


そんな強大な力を持つ少年。

いや、少年の姿をした魔族・デミアン。

彼はあるゲーム台のモニターの前に跪いて、主人の登場を待った。

今、彼を雇い使っているもの……魔界でも、有数の実力者である。


『デミアン。火急の用だ……』

「はい。何なりと、ボス」


『今後使用するために作成した駒。その素体が流出した。

 ドグラの物品管理に問題があったようだ。こちらの不手際だな。

 すまないが、その素体を回収してもらいたい。素体は、人界に流出している』


デミアンは胸中で『ふむ?』と考える。

今後使用するための駒の素体。

ボスは今後、何をするつもりなのだろうか?

メドーサを使い、GS協会乗っ取りをもくろんだり、

原始風水盤の発動を行おうとしているが、それが最終目標でないことは明らかだ。


今回の素体……。

人造魔族の生産に、関係するのだろうか?

あの件は、メドーサが何処かの企業と折衝しているらしいが……。

大量生産の駒は人間の企業を利用して作るとしても、

自分の本当の手足となるものは、自分で作るということか?

確かに、そのほうが裏切りに対する不安感は、かなり払拭される。


そこまで一瞬で考え抜いたデミアンは、とりあえず思考を通常のそれに戻した。

まぁ、裏の仕事とは、そういうものだ。

主人がすべて、自分の思惑を部下に話すはずがない。

それに、まだ逃げ道はある。塞がれていない。

もし面倒なことになりそうならば、さっさと姿をくらませばいいだけのことだ。

今回の任務は、まぁ、受けてもいいだろう。


「分かりました。素体の回収任務に当たります」

『頼むぞ。これを使うがいい』


そう主人が言うと、モニターの中から、数枚の紙切れが落ちてくる。

それはこの国で使用されている、通貨だった。

一万円札が、数枚……正確には、五万円が、ヒラヒラとデミアンの足元に舞い降りる。


『極力、ばれぬようにな。不自然な行動は避けろ。

 こちらの任務の資料書は、ドグラが作成したものだ』


お札以外に、もう一枚の紙があった。

それにはびっしりと文字が書かれており、

確かに任務の資料と言うか、任務書の雰囲気をかもし出していた。

ドグラが作成したと言うことは、

ボスが管理の不行き届きを罰して、わざわざ書かせたものかも知れない。


「分かっていますよ、ボス」


まぁ、とにもかくにも、

人間界で神族に目を付けられるなぞ、堪ったものではない。

それが分かっているから、このように少年の姿をしているのだ。

いまさら、言われるまでもなかった。


『そうだな。では、その任務書の通りに行動しろ。くれぐれもに内密に』

「はっ!」


こうして、デミアンの素体回収任務がスタートした。


            デミアン君のお仕事


《ミッション1:本番の任務に最適な、特殊装備を確保せよ》


一枚の紙と、数枚の1万円札を手に、街を歩くデミアン。

切りそろえられた黒髪、トレーナーと短パン。

どこからどう見ても、普通の小学生である。

そんな彼は、まず任務に必要な装備を整えるため、デパートへと足を向けた。


彼はエキスパートである。

本来の自身の身体能力は、多少の装備など、全く必要としないほど強靭な存在である。

だが、ここは人間界。そして今は少年の姿をしているのだ。

郷に入れは郷に従う。繰り返すが、彼はエキスパートなのだ。

だから、内心必要ないだろうと思いつつも、

任務所の通り、わざわざこうして、デパートへとやってきたのだ。

上が使えと言うなら、指定された道具を使って、任務をクリアする。

それがプロだ。


「ここか」


嘆息交じりに、デミアンは視線を上げる。

そこは夏場ならば賑わっているであろう、アウトドア用品売り場だ。

彼はそこできょろきょろと視線をはわし、目的の装備を探す。


「…………本気でこれを使えと言うのか?」


その言葉の後、沈黙したまま、装備を探すデミアン。

色々言いたいことがあるのだが、それを言う気力も失われたようだ。

なお、彼の手にしている任務書には、こう書かれている。


頭部保護装備《麦わら帽子》
目標捕獲用具《虫網》
目標保護用特殊網《虫かご》


本当に必要なのだろうか。

そう内心で思うものの、命令とあらば仕方がない。

デミアンは三種の神器……いや、この場合は魔器だろうか。

それを持ち、カウンターへと向かう。

途中、任務書にもう一度目を落とし、何か忘れていないかを確認する。


「?」


ふと、確保すべき装備の下に、但し書きがあるのを見つけた。

なんだろう? 何か重要なことだろうか?

今まで気づかなかった己のうかつさを呪つつ、

デミアンそれを小さく声に出して読んでみた。


「お買い物をするときは、ちゃんと元気な声で店員さんに言おう! BYドグラ……」


……なんなんだろう、これは。

まさか、この魔界の殺し屋デミアンに、子供よろしくな発言をしろと?

本気で言っているのだろうか?

というか、自分はドグラの物品管理の尻拭い的な任務を受けているのに、

何故ドグラにこのような嫌がらせを受けねばならない?

管理についてボスに咎められ、その腹いせを自分にするつもりなのか?


…………はっ!?


不意にデミアンは、背後に何か異質な気配を感じた。

人間ではない。何だ、この感じは?

そう自問しつつ、周囲を見回す。


(あのハエ野郎!)


デミアンの視線の先にいたのは、小さなハエだった。

しかし、その正体は魔界の奥底にいる蝿の王の欠片……の、さらに欠片。

いわば、デミアンの仕事仲間……そう、同僚だった。

そのハエが、まるでこちらを監視するがごとく、付きまとっている。

まさに、比喩表現ではなく、小うるさい蝿だ。


(私に何の用だ!)

(俺はお前を監視しているだけだ)

(この私を監視だと?)

(ああ。今回の任務は、重要度が高い)

(私がしっかりと、素体回収できるか、ボスは生中継で見るとでも?)

(見ているのはドグラだがな。その報告が、ボスに行く)


念話で、ハエと交信するデミアン。

傍目から見れば、ハエを鬱陶しそうに睨む少年なので、今のところ不審さはない。


それはそうと…………デミアンは泣きたくなった。

色々な意味で、泣きたくなった。

尻拭い的な任務。その査定をするのは、ミスをした本人。

そしてミスをした本人は、腹を立てていて、

少しばかりちょっかいを出す気があるらしい。

ボスから直接命を受けた以上、いまさら任務を放り出すわけにも行かないし……。


この私の名は、何だと思っている? デミアンだぞ?

いくらドグラとか言う存在がボスの片腕で、長く使えているとは言え、

直接戦えば、間違いなく私が勝つのだぞ?

にもかかわらず、何だ、この不愉快な力関係は!


(ボスも、何故メドーサにやらせなかったんだ……)

(メドーサは、GS試験の最終調整中だからだろう)

(くそ、メドーサめ……。うまいこと逃げたな)


八つ当たり的な台詞をはきつつ、デミアンは『お会計』まで歩く。

こんなアウトドア用品の一角で立ち止まっていても、仕方がない。

早く買い物を済ませ、さっさと素体を回収する。

いやなことは、可及的速やかに終わらすのが、一番なのだ。


「これを……」

(おいおい、デミアン? それでいいのか?)


虫網や虫かごを、カウンターのお姉さんに渡そうとしたとき、強い念が飛ばされた。

背後で控えている、ハエ野郎である。

どうやら、ハエもデミアンに日頃から思うところはあるらしく、

これを機会に、少し鬱憤を晴らそうというらしい。


(人間の子供だぞ? もっとスマイルが必要だ! 邪気を消すのだ、邪気を!)

(こ、この私に! このデミアンにニコニコ笑えというのか!?)

(任務だろう?)


こんのぉ…………。

いつか殺す。絶対殺す。

この任務が終わり、今のボスとの契約が切れた後、

すぐに魔界に帰り、貴様の本体をどこからともなく狙撃してやる。

そこで弱まったお前の腹を、これでもかとブチマケテヤル!


(す、スマイル……こ、こうか?)


そんなことを考えつつ、デミアンは必死に表情を作るよう、努めた。

スマイル、スマイル。

ニヤリ……という嘲笑ではなく、満面の笑み……。

買い物時の台詞は、ご丁寧に任務書の端に小さく書かれていた。

デミアンはそれに目を通しつつ、言った。


「あ、あのぅ〜。こ、これください……♪」


はにかみ、少し怯えつつ、初めてのお使いという感じで。

語尾は少し上げて、可愛らしさを表現して。


デミアンは生まれて始めて、自分の口から出た言葉で、悪寒を感じたと言う。


だがしかし! そう、デミアンは今、

自身のプライドを押し伏せて、何とか任務の一つを達成したのだ!


まぁ、まったく意味のない第1段階だが。


店員のオネエさんは、そのデミアンの笑みを受け、ニコニコと応対した。

なお、デミアンはそのオネエさんの前で、任務書に書かれた台詞を確認したのだが、

買い物のリストだとでも思ったのか、特に不審には思われなかったらしい。

それどころか、今の笑顔と台詞がクリティカルだったのか、

オネエさんは、やたらと親切に、デミアンに話しかけてきた。


『僕、虫取りに行くの?』『元気ね』『取れるといいね』


その言葉を受け、一つ一つ、丁寧に返事を返すデミアン。

そう、彼は今、普通の人間の少年なのだ。

カウンターのお姉さんとの会話も、

フレンドリーにこなさなければならないのだ。


(いつか、この近辺は徹底的に、阿鼻叫喚の地獄絵図を見せてやる!)


胃が擦り切れそうなストレスを感じつつ、デミアンはそう誓った。


《ミッション2:任務の目標地点まで、速やかに移動せよ》


麦わら帽子をかぶり、虫かごをさげ、虫網を持ち、バスの乗るデミアン。

何故か任務地点までは、バスに乗らなければならないらしい。

さっさと飛んでいけばいいものを。

……やはり嫌がらせなのか、とデミアンは思った。


そんなデミアンがバスの座席の一つに座ると、

周囲の視線が一斉に、彼のほうに向けられた。

しかも、視線だけではなく、色々と台詞付きだったりした。

ご年配の方には『元気そうな子じゃのう』と言われ、

女子高生には『何あれ? 可愛い〜』などと言われ……。


彼の気分は、最悪だった。


都心のバス。

今時そこに、虫取り装備の小学生など、いないのだ。

いや、いるにはいるだろう。

しかし、ここまであからさまに絵に描いた者は、まずいない。


その珍しさからか、デミアンは注目の的だった。

近くに座る小学生が、携帯電話でゲームを楽しむ中、

デミアンは一人、虫網の整備をする。

買ったばかりの虫網に、少しばかりほつれたところを見つけたからだ。


すると、近くに座っていた小学生の目が、デミアンに向けられた。


「うわ、何? ださ……」


さくっ! デミアンの心に、ナイフがクリティカル。

容赦のない、子供だからこその一言であった。

デミアンは名も知らぬ小学生により、完全に石化させられる。


(す、好きでこんな格好をしているわけが、ないだろうが!)


この私が。魔界の裏の仕事をこなす私が。

たかが人間の、10年も生きていない奴に、ダサいと言われ……。


う、うううう……。

もう……いっそ殺して……。


デミアンは、正直マジで泣きそうになった。

自分は、こんなところで、こんな格好をして、何をしているのだろう?

自問してみるが、答えは見つからなかった。


《ミッション3:素体を回収せよ》


目的地は、都心からずいぶんと離れた、自然の残る河川敷だった。

デミアンは虫網片手に、その河川敷を爆走する。

そう、素体はいたのだ。

ボスの魔力の欠片を匂わす、一匹の蝶が。


だがその蝶は移動速度が異様に速く、また頭がよかった。

デミアンの網攻撃をことごとくかいくぐり、むしろ遊んでいるようでさえあった。


何なんだ、この蝶は!

デミアンが必死になって追いかけていると、後ろからハエが飛来する。


(頑張れ、デミアン。素体は無傷で回収せねばならない、そのスタイルが有効なのだ)


ハエの言うことは、まぁ、もっともと言えばもっともだった。

もしデミアンが戦闘モードに入り、

擬態を解いたなら、こんな蝶など、消し飛んでしまうだろう。

調整と成長を終えた後ならばどうなるか分からないが、今はただの素体なのだから。

やはり、無傷で回収するには、普通に網で捕まえるのが一番だろう。


(それはいいが、何なんだ、あの蝶は! 何故、こちらの動きを……)

(素体とは言え、すでに知能はあるらしい。これは面倒だな)

(貴様も手伝え! そこまで分かっているなら!)

(俺は今、お前の監視という任務中だ)

(ええぃ、もう頼まん!)


デミアンは念話を打ち切り、虫網をぎゅっと握り締める。

そう、本気。本気になったのだ。

もう手加減は無用だ。

少年の体での、限界まで力を引き出し、必ず捕獲してやる!


「この! この! このぉ!」


そんなんじゃ、あたらないでちゅよ〜。

へたっぴぃ〜。どこ見てるんでちゅか〜。


不意に、デミアンは蝶から声がしたような気がした。

お、おちょくられている?

この私が! この私がたかが1匹の蝶に!?


私はデミアン! 蝶ごときに遅れを取ってなるものか!

うおぉおおおぉおおおお!


……………………………。

…………。

………………!

……………。

…………………………………!?


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

荒い呼吸が、河川敷に染み渡っていく。

少年と蝶のデットヒートは、夕焼けとともにようやく終わりを見た。

蝶をようやく捕らえ、かごへと移したのだ。


「ご苦労だったな、デミアン」

「はぁ、はぁ、はぁ。ああ、ようやくだ」

「後2匹だ。頑張れよ」

「な、なにぃ!?」


「もうすぐ夜だ。ホタルの素体は見つけやすいだろう。ちょうどいいな。

 だが、スズメバチの素体も残っている。

 妖蜂だから、刺されないよう注意したほうがいい」


ハエの忠告に驚き、デミアンは任務書を見やった。

夕焼けに染まり、白い紙は血で染まったかのようだった。

そこには、こう書かれていた。


長女:ホタル 

次女:ハチ

三女:チョウ


自分が捕まえたのは、一番格下の、三女。

まだこれより強い虫が、2匹も知るのだ。


か、勘弁してくれ……。


……………で。

何だかんだと言いつつ、デミアンはこの任務をきっちりと完遂した。

だが、彼の頬はハチに刺されたことにより、ぷっくりと膨らんでいた。

また、チョウのリンプンを吸ったことで、

翌日はこれ以上なく、気分が悪かった。


普通、擬態である少年の体は、好きに変化させることが出来る。

だが、デミアンよりの高位の存在の魔力の欠片を持つ素体。

その素体の攻撃は、デミアンに確実にダメージを与えていた。


ちくちくちくちく。小さく、せこいダメージを。

それ故、無茶苦茶腹が立った。


唯一大人しかったホタルには、正直最大級の感謝の念を伝えたい気分だった。


「この前の任務、どうだったんだい?」

「…………厄介だったよ」


後日、何も知らず問いかけてくるメドーサに、デミアンは不機嫌そうに答えた。


「そっちはどうだ? 順調か?」

「ああ。情報漏れもないはず。GS試験はうまく行くよ」

「そうか」


漏らしてやろうか。

情報を、神族に駄々漏れにしてやろうか。


順風満帆に任務を仕上げそうなメドーサを見て、デミアンは嫉妬交じりにそう考えた。


こんちくしょぅ。頬が痛い……。

二度と虫取りなんぞ、するものか。


あとがき。

お久しぶりです。
もしくは、はじめまして。
あるいは、こんにちわ……そして、こんばんわ。

どうも、モルです。

ちょっとしたギャグが書いてみたくて……。

魔界の殺し屋の狼、デミアン君に幸アレ。
まぁでも、魔族は横のつながりが薄いみたいなので、
いい同僚に恵まれなくても、仕方ない気もしたりします。

でわでわ〜。


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