眼前に、数多の数の敵が迫る。
あらゆる世界の神、魔王、最高指導者、世界の王、黒幕、宇宙意思や超越意思や原始創造者や超次元存在の集まり。
その数、百那由他ほど。
「フッ…雑魚どもが。最後の悪あがきか」
そう履き捨てると俺は二十対の翼をはためかせて上空に飛翔し、必殺技の構えを取った。
「屑め…。永遠にその身を消し去るがいい。この技をもってなぁっ!」
全ての霊力、魔力、神通力、あるいは妖力、精霊力、気、竜気、その他が、俺の周囲の百を超える究極珠によって一つにまとまる。
究極珠は使っても消えないし何文字でも絵でも込められるし発動するごとに威力が上がるし各自の意思でも動くという優れものだ。
「究極超絶永続消滅ギガンティックマイクロディメンションブラスターキャノンオーバードライブ・裏・改・零式!」
チュドーーーーン!!!
その霊圧はもはや数値では計れない。あらゆる防御を無視してエネルギーが炸裂し、敵の全軍を跡形も無く粉砕した。
「この俺、超最高唯一存在・ランクΩΩΩであるTADAOに逆らうとはな。悲しい奴らだ」
これでまた、俺の肩書きが増えてしまうな。魔神殺しに始まって、神王殺し、冥界の覇者、護りし王、罪人にして審判者、咎無き者、無色たる旅人…列挙に暇がない。
滅した存在に最後の手向けとして微笑むと、俺は地上に降り立った。着地時に誰か赤い人を踏んだような気がするが気にしない。
とたんに多数の影が俺を出迎えるべく宮殿から飛び出してくる。その数は先ほどの敵の数より多いかもしれない。
俺に従う存在には全て愛を授け、従わない者も俺が気に入った者は洗脳、あるいは転生させて愛を与えた。
異性、同性はおろか、性別のない存在だろうと、そもそも無機物だったり形がなかろうと、俺の愛は無限である。
最終的には未来過去現在、ありとあらゆる世界の存在という存在に俺の愛を授けた。
この俺はもはや至高の存在なので、性病とか血縁とか修正力とか矛盾とかそんなものを気にするいわれはないのである。
「ふっ。慌てるな…。今日という日は俺が…最も尊き存在と化した記念すべき日だぞ」
言ってみても誰も止まらない。それはそうだ。こんな日に俺に抱かれるということは、これ以上ない至福だろうからな。
「だが、悪いな…。今日は俺の体は予約済みなんだ。…さ、いこうか。幸運な者よ」
俺に押し寄せる群れから一人の女性を抱えあげる。彼女は驚きに目をぱちくりさせていたが、やがて俺に無垢なる満面の笑みを返した。
赤い髪の彼女を伴って寝室に瞬間移動する。この金ぴかの宮殿は下手な惑星より広く、瞬間移動でないと迷子になるのだ。
「ふっ…。では、黄金色の夢に踊るとしようか?」
彼女をベッドに横たえ、その衣服をそっと落とす。現れたのはまだ何者にも手のつけられていない、純白の積雪のような白い肌。
その中にひとひらの華のように息づく可憐な突起を撫でながら、俺の手は彼女の下着を脱がしにかかった。
「さあ、俺の金剛如意棒を受け取りたまえ」
そう言うと共に彼女のおむつを脱がし終えた俺は、その生後一年も経っていない神聖なるクレヴァスに俺のはちきれそうな衝動を
「うっぎゃああああああぁあぁあぁあぁーーーーーーーー…!!!」
美神除霊事務所の応接間のソファー。
俺は上半身を跳ね上げて飛び起きた。夢の余韻がまだ残っていて、喉からは叫び声が出続けている。
「ああああああああ! (ドカッ!) うぐ!? ぐ、がう、が、…! …!」
混乱の覚めやらぬ俺は飛び起きた勢いのまま走り出してしまい、机に腰を角に強烈に打ち付けてしまった。
めっちゃいってええええええ!
ごろごろごろ…
「おお!? どうしたアルね?」
あまりの痛みにアスファルト上のミミズのごとく床の上をのた打ち回る俺を、驚いた顔で厄珍が眺めている。
俺は瞬時に立ち上がりその胸倉を掴むと、まだかすれている声を無理やり出して問い詰めた。
「ぜーぜー。…おい厄珍! なんだありゃ!?」
「な、何があるね!?」
「徹頭徹尾脈絡と現実味がなかったぞ!? お前、あの枕は吹き込んだとおりの夢が見られると言ってたじゃねーか!」
俺が指差すのはさっきまで俺が使っていた枕だ。
魔方陣を象ったフリル、模様代わりの霊符や神木の破片。ぱっと見ただけで霊感の無い人間にも怪しさが伝わる代物である。
枕にはタグがついており、商品名が書いてある。“ファンタズマゴリア”
厄珍が持ち込んだこれは、コードレスマイク型の送信機を介して吹き込んだとおりの夢が見られるという品だ。
名前は変幻自在の光景という意味を持つらしい。
俺はその人体実験を引き受けたのだ。自分で『ハーレムの夢』と吹き込んで…なのに!
「ワタシのせいじゃないアル! 他のみんなが面白がって余計なこと吹き込んだせいアルよ!」
「みん…な?」
機械的に首を回すと、そこには見知った顔が一様にばつの悪そうな表情を浮かべて並んでいた。
「夢の中で格好よくあってほしいと、有名小説の主人公の性格を説明してみたんですけど…」
「えーと、ハーレムというのはよろしくないと思い、万人に愛を授けるように言いましたが…」
「え〜とね〜。冥子も〜、みんなとなかよくしてあげて欲しかったの〜」
『すいません。私もつい便乗して、生物以外にも愛を、と』
「先生は万能でござるから、夢の中でも何でもできるという設定を吹き込んだでござる!」
「何でもできるのは文珠のおかげでしょ? だからアタシは注釈つけといてやったわよ」
「どうせだから肩書きが沢山つく位に偉くなるように吹き込んでみましたジャー」
「令子がちっとは痛い目見るような夢を見させてあげたワケ」
「あ、あの…小鳩は夢の中でだけでも立派なおうちがいいなと思って」
「ヨコシマも一緒に空を飛べるといいと思ったでちゅ!」
「夢で位は、僕のように素晴らしいモノだったらと思ったんだが、要らぬお世話だったかな?」
「マリア・ドクター・カオスの・落書きを・読み上げて・みました。どうでしたか?」
こ、こいつら俺が寝始めた時はいなかったのにいつの間に…。
「てめーら、人の妄想に余計な設定くっつけるんじゃねええ!」
叫ぶ俺の肩を、ぽんと叩くやつがいる。…雪之丞?
「いいじゃねえか。お前のためを思っての行動だ。ちなみに俺は最強になって強い敵と戦う話を混ぜたが」
「てめえのが一番いらんわ! ちくしょー、俺は例え夢でも自分の理想を追求できんのかーっ!?」
血涙を流しながら睨むも、みんな「まあ横島だし」と笑うだけで反省の色も見えやがらねえ。くそ。ぐれちゃろうか。
最強だの同性相手だの性格改造だの、俺の意思がほとんど消されとるやないかい! 矛盾しまくりなのはカオスの落書きのせいかよ!
「…ん?」
…こいつらが言った要素を全部混ぜても、最後のオチは納得いかんぞ?
「おい厄珍。他に何かこう、メインヒロインについて言った奴はいないのか?」
「…さ、さあ?」
「…やーくーちーんー?」
厄珍はサングラスの向こうで必死に視線を逸らしていたが、俺の迫力に押されてしゃべりだした。
「そ、その、ワタシの年齢だと若い娘は15〜20は年下アルから…」
「から?」
「つい『主演は15〜20位年下の娘がいい』と言ってしまったアル」
「アホかああ! 俺の年齢から15〜20引かれて、危うくひのめちゃんをヤっちまうところだったわああ!」
がたがたん!
いきなりの物音に俺がそちらを向くと、ひのめちゃんを抱えた隊長が今来たばかりらしくドアにもたれて…俺を青ざめた目で見ている。
「よ、横島君…ごめんね、託児所じゃないんだし、ひのめを預けるのは止めておくわ!」
言うなり身を翻して、逃げるようにこの場を去った隊長。
俺はくるり振り返ると、逃げようとする厄珍の襟首を掴んだ。
「…コラ厄珍。てめえのせいで言われなき十字架を背負わされちまったじゃねーか!」
「い、いやはや、不幸な事故アルね」
ぐあ、あくまで責任はないと言い張るか!
「この野郎、あれのせいで赤ん坊がトラウマになったらどうしてくれる!」
「本当、どうしてくれようかしらね…!」
「え…?」
さっき隊長が帰ったドアから、低く、圧力のある声が俺に投げつけられる。
恐る恐る振り返ると…赤い髪の夜叉が居た。
「み、美神さん…? お帰りなさい…何を一体そんなに怒って…」
「普段『ロリコンじゃない』って叫んでると思ったら、幼児どころか乳児愛好者だったわけね」
一歩一歩俺の元へ近づきながら、神通棍を構え、発動させ、さらにそれを鞭上に変形させる。
「ち、違…誤解…」
「普段飛びついてきたのはカモフラージュ? 舐められたもんね、私も…。それとも乳臭いガキと言いたかったのかしら」
踏みしめる一歩に瘴気がまとわりついている。背中にはオーラが立ち上り、髪の毛が逆立ってゆらゆらと揺れている…。
助けを求めて周りを見回すと、いつの間にか全員いなくなってやがる。人工幽霊も黙して語らない。
厄珍は!? げ、上着残して逃げやがった!
「ちょ、ま、話を…厄珍のせいで…」
「人の気も知らないで…この犯罪者! 地獄に落ちろぉーーーっ!」
のおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ………!!!
「ふう、助かったアル。一応悪かったとは思うアルが、まあオチを担当するのは坊主の宿命ね」
厄珍堂に逃げ帰った厄珍は、扉を閉めると奥に引っ込んだ。
「ファンタズマゴリアは、走馬灯という意味もあるアルからな。折檻オチに丁度ぴったりアル」
私室につくと、テレビのスイッチを入れてビデオを引っ張り出す。
「枕を回収できなかったのは痛かったアルが、記録は取っておいたからこれでも見て楽しむとするアルか」
そしてレコーダーのようなものをポケットから取り出す厄珍。どうやらあの枕で見た夢を記録しておけるらしい。
と、レコーダーを出す時に、ポケットから一緒にこぼれたものがあったのに気づいた。
「ん? 何アルか…」
何気なくそれを拾う。…文珠? 何かのドサクサにポケットに入ったのか?
いぶかしみつつもレコーダーをビデオにセットし、その前に座り込む。
その瞬間。文珠は横島の意思により遠隔発動した。
「…え!?」
発動する文字は…
“痔”
…んぎゃああああああぁぁぁぁぁ………!!!
おわる