「……よし、行くか」
あらためて決意を固めて、目の前のドアをノックする。
「美神さん、いますか?」
「横島クン?いいわよ、入って」
ドアを開けて中に入ってまっすぐに美神さんの前に、我が雇い主にして無理めで高めの女で、憧れの女性に向かう。
「ど、どうしたの?」
「ええ…」
こちらがいつに無く真剣だと表情でわかってくれたのか、美神さんは少し戸惑っているようだ。
そんな彼女に話を切り出すのに、俺も少しばかりためらう…
いや、ダメだ。もう決めたんだ。
ならば、ためらいなど許されない。そうだろう?横島忠夫。
「美神さん。お願いがあります!」
まっすぐに、決意を込めてそう言い切った。
美神さんはそれに何を思ったのか、意外なことを言い出す。
「…そう。解ったわ。明日から、あなたを美神除霊事務所の正式なスタッフとして認めます。給料は完全歩合制、社保・有給については相談しましょう。それとGS免許も正式な…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!何の話ですか!?」
「え!?ち、違うの?この流れだと、てっきり給料を上げてくれって話で、それを断ったらあんたが独立するって…」
横島独立騒動記
「それは別の話で、現在完結に向けてコツコツ執筆中じゃぁ〜!!」
用意してあったらしい書類をわたわたと片付けつつ、メタな発言をする美神さんに、こっちもメタな発言で切り返す。
いや、ホント進み遅いけど書いてますんで…
「じゃあ、何よっ!!とっとと吐きなさい横島ぁっ!!」
「だから頼みがあるって言ったでしょう!!話を聞いてください!!」
自分で早とちりしたくせに、逆切れする美神さんに殴られつつ、何とか最初の意気込みを思い出して、改めて話を切り出す。
「…しばらく、休みが欲しいんスよ」
「しばらく〜?どのくらいよ?」
うさんくさそうにそう聞く美神さんに、苦笑しながら……多分、これ聞いたら怒るんだろうなぁ……と思いつつ答える。
「さぁ…2年かかるか3年か…」
「な!?」
驚く美神さんが暴力行為に出る前に、話を進める。
「夢を、叶えようと思いまして」
「…夢?」
「ええ。夢です。昔からの。だから…お願いします」
そう言って、頭を下げた。
しばらく沈黙が続いて、美神さんが次に言った言葉は。
「………………解ったわ。好きにしなさい」
「…マジっスか!?」
嬉しさよりも、驚いた。美神さんがすんなり許可してくれるとは思ってもみなかった。
「…男の子に、そんな顔されて夢なんて言われちゃったら、好きにさせてあげるしかないでしょ?」
よっぽど俺がマヌケな顔をしていたのか、こっちの考えてることを察した美神さんが解説してくれた。
「あ、ありがとうございます、美神さん!!」
「礼なんていいわよ。それより何だか知らないけど、キッチリ叶えなさいよ。その夢ってヤツ」
「ええ!!当たり前です!絶対かなえて見せますよ!!」
照れたようにそっぽを向いてそう言った美神さんに、俺は力強く宣言した。
そうだ。俺は絶対に。絶対に叶えてみせる。
あの夢を――――
「絶対に死ぬ前に一度全裸美女で満員の日本武道館でもみくちゃにされながら『ジョニー・B・グッド』を歌って――」
「アホかアンタわぁぁぁ!!!!」
吹き飛ばされた俺が、そのまま事務所をクビになった事は言うまでも無い。
<完>