まーきんぐ
すーすー
規則正しい寝息、ゆるやかに上下する胸。
「…せーんせ？寝てるのでござるか？」
耳元でそっと呟いてみる。
でも無反応。
つんつん…頬っぺたを突っついてみても…
むにぅ〜〜っ…と左右に引っ張ってみても・・・
なぁんの反応もしめさない。
間違いない…間違いなくせんせぇは眠っている。
気持ちよさそーにすかすかねている。
たまに有るこんなお休みの日。
がっこも仕事もお休みで、でも『何となく』って、事務所に顔をだすせんせぇ。
お昼ごはんをご馳走になって、お腹休めにソファーでお昼ね。
…そっと寝顔を覗き込む…
口を開けて、涎をたらして…なんてしまりのない顔。
お世辞にも“カッコイイ”とは思えない。
でも…
「…んふ…ふふふふ♪」
にやける頬をおさえられない。
とっても愛しく思えてしまう。
大好きなせんせぇの寝顔を、何にもしないでただ傍で、じぃっと見つめ続けてる。
ただそれだけ、それだけなのに…
あぁ…なんて心地良いんだろう。
じんわりと胸に染みるよう。
サンポの時とはまた違う、ほんわかとした雰囲気の、なんともいえない幸せなキモチ。
「…よこしま…せんせぇ…♪」
思わず声が出てしまう。
あぁ…今日はずっとこのままサンポもやすんで、せんせぇのコト眺めていようか？
そう考えたまさに時…
「…あ…」
ぱっとアタマに浮んだ閃き。
…これは…まさか、ひょっとして…
“ちゃんす”なのではないだろうか？
だって、眠ってるせんせーはよっぽどの事が置き無い限り、カンタンに目を醒ましたりしないのだ。
つまり…今のうちならば…何をやっても気付かれない？
「え…えへへ…♪」
うん大丈夫、きっとうまくいく。そう自分を納得させる。
即断即決即行動、それがあたしのいい所。
これからあたしがやる事は、せんせぇへの“まーきんぐ”。
つまり…それはキスマーク！
場所は勿論首筋に。
『このヒトはあたしのモノなんだ』って…それをあらわす為の物。
『先生はシロのものなんだ』って…それを示す大事な印。
でもやっぱりちょっと緊張。胸がとくとく高鳴って。
大胆なことしてるのかも？
すーはーすーはー
深呼吸して、気を落ち着ける。
よし…準備完了！いざ往かん！！
「……せんせ…いくでござるよ…」
首筋にそおっと顔を近づける度、せんせぇの匂いが強くなる。
…当たり前の事だけど。
でも…あれ？何だかおかしいな。
いつもかいでる匂いなのに…よぉく知ってる匂いなのに…
今日は何だか違う感じ。
あたまがぼぉっとする様な、くらくらとする不思議な匂い。
でも全然嫌じゃない…なんだかとってもドキドキして…
「ん……シロ…」
「！！？」
………ッッ！？
「…せ……せん…せ…？」
「……すー…すー…」
「………」
…………不意打ち。
どっくどっくどっくどっく…
…心臓が咽から飛び出すんじゃ無いかって…そう思うくらい鼓動が跳ねて。
煩いくらいに、胸が鳴ってる。
それは、どうやら単なる寝言…
…ホントにホントに吃驚した…
あぁ…でもせんせぇ…
『シロ』だなんて…それはあたしの事だよね？
あたしの夢を見ているの？
それは一体どんな夢？
もやもやアタマが混乱する。
もぉ…タダ寝ているだけなのに、ココまでドキドキさせるなんて。
…ほんのちょっとせんせぇがニクい。
でもそれ以上にますます愛しい。
「…んふふ♪」
気を取り直し、再び顔を近づけていく。
寝ているせんせぇの首筋に、ゆるゆる近づくあたしの唇…
どんな感触がするのかな？
吸わなきゃ跡つかないんだっけ？
どんな味がするのかな？
舐める時とはちがうのかな？
アタマのもやもやは治まらない。
胸の高鳴りは益々はやく。
でも…なんだかそれすら心地が良くて。
せんせぇの肌のぬくもりを感じる。穏やかな息遣いが聞こえてくる…
…せんせぇの首筋とあたしの唇、間の距離は殆どゼロで…
「せんせぇ……」
がぷっ♪
「いだーーーーッ！？」
「ひゃふッ！？」
飛び上がり、ソファから転げ落ちるせんせぇ。
当然せんせぇにくっ付いていた、あたしも一緒にごろごろと。
大失敗…
「………シロ………」
「は…はい…」
怖い顔して睨むせんせぇ…
その首筋に、これでもかって言うくらいクッキリとついたあたしの“歯形”…
…それはキスマークには程遠い…色気も何もまるでない…
あぁ…やっちゃった。
キンチョーして、加減できずに…
…思いっきり噛んじゃった！
「これは一体何のマネだぁッ！？」
「きゃ、きゃうぅ〜ん！ご、ごめんなさい！！」
ものすごーく叱られた、明日のサンポも禁止だって…
くぅ〜ん…せんせぇ…ごめんなさい…
でも…
最後はちゃんと許してくれた。
うん…やっぱりせんせぇは優しいね♪
ねぇ…せんせぇ…大好きだよ。
あたしはまだまだ幼くて、何にも知らないコドモだけれど。
でもそれでも、せんせぇのコトを“愛してる”。
何時かとなりに立ちたいって、
一緒に歩いて行きたいって、
いつまでも一緒に居たいって、
マジメに、真剣に…ココロの底からそう思ってる。
だから…これはそのための印…
せんせぇは、あたしのものなんだって、それを証明する証。
…まぁ今日は、巧くはいかなくて結局“歯形”になっちゃったけれど。
でも…ふふ…それもいいよね？
せんせぇに“そんな印”をつけられるのは、あたしのほかには居ないもんね。
ねぇ、せんせぇ…いつか、せんせぇもあたしにつけてね？
『あたしは貴方のもの』なんだって…
『シロは横島せんせぇのもの』なんだって…
それを示す為の印を。
あたしの首筋にキスマークを…
終り
後書き…というよりは言訳。
一人称が『拙者』でなくて、『あたし（又は私）』なシロってどうでしょうか？
ココロの中では“ござる口調“じゃないシロってどうでしょうか？
自分は“有り“だと思うのですが…
…と、いうわけで挑戦してみました。
書き終えてから、やっぱり『あたし』のトコは『拙者』の方が…とも考えたんですが、一人称だけそれで、ござる口調じゃないなんて何かおかしいので結局このままで…
シロの独白に見えますでしょうか？
…後はそう、何故かこう…胸焼けしそうなくらい甘々な横シロ物が書いてみたくって…その割に色気の無いオチとなりましたが。
こんなんでも、ご意見、ツッコミ等頂けると幸いです。