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▽レス始

「Fight!! 前編(GS)」

新羅 (2005-04-23 17:39)

 ――七月
 「ねえ」
 「うん?」
 「住所(アドレス)教えてよ。…手紙書くからさ」
 「…手紙?」
 「多分…父さんのほうに付いて行く事になるんだけど」
 「………」
 「そしたら、ちょっと遠くに引っ越さなくちゃいけないから」
 「…そっ、か。じゃあ、簡単には会えなくなっちゃうね」
 「うん…でも」
 「?」
 「会いに行くよ、絶対」
 「…うん♪」
 夜空に咲く色とりどりの華に横顔を照らされながらそう言って微笑んだ少女から目を逸らし、少年は俯いた。自らの頬が熱を帯びているのを感じながら。


 ――九月
 身動きのたびに軋む年季の入った木製のベッド。その上に寝転んで、少年は手に持った用箋に目を通していた。その目だけは真剣だったが、どうにもだらしなく緩んだその表情と合わせて見ると、何となく気持ち悪い。ついでに言えば、もうこれで二時間も…そして、同じ手紙を既に三桁は繰り返し読んではニヤついている。
 ゴロン、と一つ寝返りをうって仰向けになった彼は、照明に透かすように掲げた手紙に顔を近づけ…ふと、それから覚えのある香りを感じた。それは確か、あの日に少しの間寄添った時に感じた、彼女の…。
 ややあって、突然彼は手紙を胸に抱えると、真っ赤な顔で――自分のした事と、考えた事で、今更ながらに恥ずかしくなったらしい――ゴロゴロと転げて…当然の如くにベッドから転落して、後頭部をしたたか地面に打ち付けた。


 ――十一月
 秋の夜長に、少年は自室で一人机に向かっていた。一心にノートと睨みあっていた彼は、やがて一つ大きく息をつくとペンを置き、伸びをしたり、首を回したりしていたが、その内少し開いた引出しを見つけ、少しだけ迷うように固まった後、それを開けた。
 そこに入っていたのは、この数ヶ月で溜まった彼女との交信の記録。その中から彼は、一番上にあった一通を取り上げると、広げ、読み始める。可愛らしい便箋に踊るその字は、しかしあまり年頃の女の子らしくないというか…言えば、かなり「きっちりとした」字体だった。しかしながらそれは、内容と相まってか同時にどこか柔らかな雰囲気を…親愛の情をも感じさせる。――或いは、彼の欲目かもしれなかったが。
 だが、それにじっと目を落とす彼は、少し思い詰めたような顔でいた。
 「…タマモちゃん」
 ポツリ、と彼女の名を呟いて、真友康則は目を閉じる。彼女の面影を瞼の裏に探すように。
 彼の部屋の明かりは、日付が変っても消える様子は無かった。


 Fight!! 前編


 ――三月
 使い古された空気が、新しい季節のものへと塗り変えられて行くような…その日は、そんな日だった。天気は、晴れ。日差しは強すぎず、気温も、湿度も実に全くこれ以上は無く程好い。歩けば、新緑の匂いを運ぶ爽やかな風が行き交う。授業を免れる暫しの休みにはしゃぐ子供達の笑い声がそこかしこに溢れ、大人たちも、どこかのんびりと、季節の変わり目に思いを馳せているように見えた。
 いや、実に全く…
 「良い日だなあ…」
 一人ごちて、横島忠夫はぼんやりと空を見上げた。ぽっかりと浮かんだ薄雲が幾つか、悠然と流れてゆく。
 「今日ぐらいは、アイツの散歩に付き合ってやっても良かったかも知れんな…」
 言いながら、撒いてきた己が弟子の少女の事を思い出して、彼はそっとポケットを探ると、二つの緑色の珠を取り出した。ぼう、と光るそれには、各々「消」と「臭」という文字が浮かび上がっている。人の億倍もの嗅覚を持つ人狼の鼻を誤魔化す為に使用した文珠。今はまたどこか海外にマジックアイテムの買い付けに行っている雇い主に知られれば、「勿体無い」と叱られるであろう使い方ながら、春休みに入ってからは毎日のように自分を文字通り“引き摺り回しに”やってくる少女に、そろそろ睡眠時間等に関して危機感を覚えつつあった彼にとってはまさに窮余の一策であったのだ。そしてそれが功を奏して、こうして自由の身になってみれば
 「暇だ…」
 実際、学校も休みで仕事も無しとなれば、元々自宅で勉学に励む、などと言った生活パターンにはとんと縁の無い彼のことだから、さてどうした物かとはたと困ってしまった。
 いくらか生活に余裕が出来てきたとは言え、無駄に使えるほどでは無く、さりとて自宅や事務所で過ごそうにも「弟子」に見つかる可能性がある。あまり積極的に遊びに誘いたい友達もいないし…と、そこまで考えて、何となく実は身の置き場が見当たらない自分に気付いて悲しくなってきたので、とりあえず歩く事に専念する事にした。ちょっと目の端に浮かんだ涙を風に乗せつつ、自分とすれ違って行く小学生らしき子供達を目の端に捉え…。
 ふと、その中に見慣れた金色の髪があったような気がして、彼は振り返った。そこには、固まって騒ぎながら走っていく4〜5人の男の子の姿と、それとは別方向へ、真っ直ぐ前だけを向いて駆ける少女の姿があった。
 「タマモ…?」
 そう、それは彼が所属するその事務所に居候している狐の少女の見慣れた後姿の筈だった。だが、確かにその頭の後ろで、彼女の走るのに合わせて揺れる九つに分けて縛られた独特の髪型も、その日を透かして映える細い金色の髪質も、間違いなく彼女の物であったのに、その身体は、何故だかいつもより一回りばかり小さく見える。いや、確かに彼女がその姿を己の好きなように変化させる事が出来るのは知っていたが、あのような姿になっている訳というのはさっぱり予想がつかない。
 元々その見た目の年齢から比べてもいささか大人びた所のある彼女である。今更子供に混じって遊びたいなどと思ったわけでもあるまいに…。そんなことを思っている間にも、タマモは尚も全力で走り続け、その小さな背中は遠ざかって行く。尤も、流石に子供の足なので「あっという間」と言う訳にはいかなかったが。
 ともあれ、事情は分からないが、いくら「消」「臭」で匂いを消していたとは言え、すれ違ったこちらにも気付かないというのは余程急いでいた証拠だろう。彼女があぶらげに関すること以外でそんなに必死になるのを見たことが無かった横島は、違和感を覚えたが…
 グキュルルル
 食べ物のことなど考えたせいか、今朝からずっと空のままだった腹が鳴き、溜め息をついた彼は、とりあえず疑問は疑問のままにしておく事に決めて、まだ昼飯時にはやや早い日の下、セットが安くなるキャンペーン中のファーストフード店を目指して、歩き始めた。


 「真友く――ん!!」
 今まで腕時計に落としていた目線を声のほうに向けると、雑踏の中でも目立つ明るい金髪の少女の姿が見えた。彼女は手を振りつつ、こちらに向かって走ってくる。それを向かえるようにこちらも歩き出そうとして、ふと彼女の姿に気付いた。
 「あれ、タマモちゃん、その格好…」
 「ああ、これ?」
 行き交う人々の間をすいすいとすり抜けるようにして目の前までやってきた、自分と同年代な見た目の彼女に疑問を投げかけると、クスリと悪戯っぽく笑う。
 「やっぱり、真友君と一緒なら、この姿が良いかな、って思って。どう、この服似合う?」
 ひらり、とその場で一回転して見せた彼女のスカートが翻り、危うくその中が見えそうになって、彼は赤面した。
 「う、うん、とっても似合ってるよ」
 「ふふっ、そぉ?」
 ちょっと得意げに小さな胸を張るタマモに苦笑して、彼は駅の方へと足を向けた。並んで歩きながら、彼女が話し掛けてくる。
 「ねえ、真友君、何だか背が伸びたんじゃない?」
 「んっ…そうかな?自分じゃ良く分かんないけど…」
 「うん、あの時より、絶対伸びてるよ」
 何故か嬉しそうに語る彼女に、笑顔で返す。
 「何か楽しそうだね、タマモちゃん」
 「真友君は、楽しくないの?」
 「いっ…いや、そんな事は無いんだけど」
 少し非難の色を目に浮かべて問い掛けるタマモに、どきりとしつつも、慌てて否定する。じっとりとした目でこちらを伺うように睨め付けた後、しかし彼女は、笑顔に戻って、ツン、と彼の頬を突付く。
 「やーね、もう。冗談よ」
 クスクス、と笑った後、続ける。
 「今日、家を出るときに良い事があってさ、なんか今日は良い日になりそうだな、って思ったから」
 「ふうん」
 要するに浮かれているという事なのだろう。
 「何があったの?」
 「家を出て、道路渡ろうとしたら目の前を黒猫が通りがかってね」
 「いや、それは不吉なんじゃないの?」
 思わずツッコむが、彼女は気分を害したようだった。
 「もう、まだ話の途中じゃない。ちゃんと最後まで聞いてよ」
 「ゴ、ゴメン…」
 「もう…ま、良いわ。でね、思わずその黒猫と目が合ったら、そいつがいきなり向うから来た車に跳ね飛ばされたのよ」
 「ねえ、聞けば聞くほど不吉な気がするんだけど」
 諦めずにツッコむ。
 「何言ってるのよ、黒猫が前を通り過ぎると不吉って言うでしょ。それが通り過ぎる前にあたしの前から去ったって言う事は、アレよ、今日はどんな不幸もあたし達の前に立ち塞がる事は出来ないって言う…何かそんな感じなのよ!」
 「はあ」
 何となく、妖怪と人間との間にしょーもない壁を感じたような気分になって、生返事で返す。が、
 「だって、朝っぱらからあんな物見ちゃったら、そうとでも思わないとやってられないじゃない!」
 (ああ…何だ、そう言うことか)
 何だか悔し涙など流しつつそう叫ぶ彼女に、少し胸を撫で下ろした。
 「それに…」
 「え?」
 不意に、少しトーンを変えて続けられた台詞に、彼は思わず立ち止まって彼女に視線を合わせた。じっと真っ直ぐにこちらを見つめる彼女の瞳に真摯な光を見て取って、胸のどこかが痛むのを感じる。
 「本当に嬉しかったのはね、久しぶりに、真友君に会えたから…真友君が、ちゃんと約束どおり、会いに来てくれたのが嬉しかったのよ」
 そう言って、あの夜の遊園地で花火に照らされて見た時と変らぬ微笑を向けられて、やっぱり黙って俯いてしまった自分は、彼女にどう思われているのか、と頭の中を掻き回す嵐を感じて、彼はやはり何も言うべき言葉を見つけられなかった。


 <続く>


 あとがき

「旅路」第3話が間に合いませんでした、ゴメンなさい。
という訳でですね、あっちが終わってないのに、またもう一個別のまでやってしまえという…実に無謀なというか…まあこちらはもう大体書きあがってるので、明後日ぐらいには出せると思うのですが、短いんですけどとりあえず今週はこれで勘弁してください。
適当ですいません…ではまた。

あっそうだ、レス返しを…


>柳野雫さん
カオッさんは何しろ既に云百歳ですから。百年やそこらで変ったりはしません。特に経済状態とか。

>犬雀さん
意表を突けたなら幸いです。色々複線は考えてるんですが、それらを盛り込もうとする余りに、色んな所の整合性が取れなくなってきてるのが悩みなんですけど、それで少しでも読者の肝を抜くような展開を見せられたら、書いてる側としてはこれほど嬉しい事はありません。


△記事頭

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