「ま、まーとにかく、また会えてよかったっすよ!」
平安京から帰ってきて、意識を失っていた横島が目覚め、美神に抱きついた時のことであった。
”また、会おうな……”
それは平安京での、メフィストと高島の再会の誓い。
「……? どうしたんすか?」
突然、ボーっとしだした美神に横島は声をかける。
しかし、美神は何か嫌な事を思い出しそうと言う。
そして、傍に居たヒャクメは、美神を見つめ、美神の過去が見えなかった理由をようやく理解する。
「――あの人、無意識に自分の前世を封印しちゃってるのね……本物の意地っ張りだわ。」
ヒャクメはそんな美神を微笑ましく思い、笑みを浮かべながら二人を残し、神界に帰っていく。
その後、前世の影響もあってか急に美神が泣き出し、横島が慌てる騒動もあった。
「なんか……悪い気分じゃないのよね。」
高島とメフィストの再会の誓い――
”また、会おうな……”
――それは1000年の時を超えて実現したのだ。
だが――
(何か、忘れているような気がするのね…………)
――何処かのオチャメな神族がオオボケをしてしまった事で二人は……
――過去からこんにちは――
事務所からアパートに帰っている最中の横島。
何やら、様子が少しおかしい。
「……い、胃がいてぇ……」
手に持つ封筒の中身を確かめ、横島はこれが夢である事を祈る。
ぎゅー
「――っ!?……やっぱ夢じゃないんだよな〜〜。」
頬を抓ったり、壁に向かってヘッドバッドをしてこれが夢である事を祈る。
だが無常にも、痛みを感じる。
本来、封筒の中身がその状態なのは良い事なのだ。そう、本来なら……
「なんで、なんで……」
だが、相手は美神令子、あの守銭奴が横島の――
「なんで、給料が多いんだよ!?」
――横島の給料を上げるわけがない。
横島は先月分も多かった事があり、その時は美神が数億分の一の確率で給料を間違えてしまったのだと思い込んでいた。正確にいうと思いたかった。
しかし、目の前の封筒の中身も横島の計算を上回っている。
これでは二ヶ月連続で、美神が横島の給料を間違えていることなってしまう。
……ありえない。
「何故だ!? これから何が起こるというんや!? WHY!?」
思い返せば、平安京から帰ってからは美神のシャワーシーンを喰らっても注意だけで済んでいた。
「ぐぉぉぉぉぉ!? 平安京で何があったんだよーーーー!?」
急に虐待が止み、恐怖を隠しきれない横島。
おかげで近頃はろくに眠れず、体調はかなり悪い。
このままでは、除霊中にとんでもない失敗をしでかすだろう。
「はぁ〜〜……俺、これからどうなるんだ?」
自分がこの先、美神にどうされるのか気になって仕方がない。
だが、横島には未来視や、美神のように時間移動能力を持っているわけではないので、未来の情報を知る事など不可能だ。
「……この文珠で、《未》《来》《視》ってやったら見れるのか?……っても、今の俺に出来ないし……」
横島は平安京から帰って、文珠の二文字同時制御を試みたが、見事に失敗していた。
それなのに三文字同時制御など無謀もいい所である。
「あ〜〜〜なんかいい方法がないもんか? 美神さんみたいに、時間移動……? 美神さん……みたいに……?」
ここで横島はある事を閃く。
自分に時間移動能力はない。
だが美神にはある。
そして、自分にあるのは文珠で現在四個。
除霊があっては消費していたが、最近はでかい仕事もなく栄光の手だけで十分であったため、ストックはかなりある。
「ちょっと待てよ?……確か、中世に行った時……マリアの電気……そういや、あのカオスが!?」
横島は若カオスが、美神に時間移動について語っていた事を必死に思い出そうとする。
「……イメージ次第で飛ぶ事が出来る。」
それは文珠と似ている。
「平安京に行った時に、美神さんは俺の文珠で《雷》を作って帰るつもりだったんだよな……」
美神は西条の前世、西郷の屋敷で確かに横島にそう言っていた。
「そうだよ!! これなら、いけるんじゃねえか!? 思いついたら、そく実行じゃーーー!!!」
横島はたった今、考え付いた事を実行するため、再び事務所に向かう。
「……ねぇ、ママ〜〜。あのお兄ちゃん、ずっとひとりごとしゃべってるよ〜〜?」
「しっ! みちゃいけません。」
公道であれだけ独り言を喋っていては、こうなってしまうのは当然だった。
/*/
事務所にたどり着いた横島は、そのまま事務所には入らず美神を待ち伏せる。
事務所の中で行動を起こしては、人工幽霊に気付かれてしまうからだ。
(美神さんが自宅に帰るのは、もうすぐのはずだ……)
美神の一日のスケジュールはしっかり記憶している。
でなければ、美神がいつシャワーを浴びるかが分からないからだ。
出てきた美神に見つからないように隠れながら、ひたすら待つ。
(……………………来た!!)
美神が車の置いてあるガレージに向かう。
横島は人工幽霊の監視が届かない所から、機会を窺う。
美神はオープンカーに乗り、公道に出ようとする。
(今だ!!)
文珠に念を籠め、横島はすぐにこの場から立ち去る。
美神は横島の霊波を感知して、辺りを窺うがすでに横島は逃亡している。
首を傾げた後、すぐに車を発進させ自宅に帰っていった。
「……よっしゃーーーーーー!!! では早速!!」
《模》
横島の首から下が、美神と同じようなスタイルになる。
「お? お!? おおおお!?」
少し……いや、かなりヤバイ横島。
いけないと思いつつも、自分の?胸を揉んでしまうが、
「…………………………燃えねえ……」
首から下全部が美神。
つまり男性のシンボルがない事に気付き、意気消沈してしまう。
ブルーな気分になりながらも、横島は文珠を一つ取り出して、《雷》を籠める。
「さて、目標は……」
横島がイメージ先に選んだのは、都市にある開発中のレジャー施設の完成図。
その施設は一ヶ月後に完成すると言われていたので、うまくいけば一ヶ月後に跳ぶ事になる。
「美神さんも、一回地力で成功させてるし大丈夫だろ。」
《模》を使った瞬間、美神の記憶が流れてきて、その時に美神が現代から平安京に時間移動した事を知った横島。
だが、それ以上美神の記憶を覗くのは恐ろしいと思ったのか、それ以上は覗かなかった。
「んじゃ、行くか――」
《雷》
ヴィィィィィィン!!
/*/
ヴィィィィィィン!!
「――っと!?…………ここは…………」
目の前に立っているのは、横島がイメージした建物。
周りに人間が突然現れた横島に騒いでいるので、すぐにこの場から離れる。
突然、現れたのもそうだが、格好がボディコンなのに顔が男なのだ。
よく見たら、何人かが警察に通報しようとしている。
焦りながらも、路地裏に逃げ込み《模》が解除されるまで待つ。
その後は、日付の確認をしなければならない。
横島はコンビニに立ち寄って、新聞を見る。
「え〜と……○月○日……おっしゃ!! 大体だけど、一ヶ月後に成功ーーー!!」
「お客様、お静かにお願いします。」
「あっ……」
店員に注意される横島だった。
とりあえず店を出て、アパートに向かう横島。
二ヵ月後に自分が生きている、美神に殺されていないかを確認したいらしい。
「今日は平日で……この時間ならちょう――!? んなっ!? おキヌちゃん!?」
アパートの近くで、おキヌを発見する横島。
おキヌのもとに向かおうとするが、何とか思いとどまる。
この時代の自分がもし死んでいるならば、厄介な事になってしまうからだ。
(あ、あぶねえ、あぶねえ……そうか……おキヌちゃんがここに居るって事は記憶が……)
思わず嬉し泣きしそうになる横島。
ここに居るという事は記憶が戻ったのだろうと思うと、嬉しくて仕方がない。
「ふ〜〜いいもん見れたし、それじゃアパートに……」
おキヌが見えなくなってから、横島は再び足を動かす。
アパートの所にたどり着くと、部屋に誰も居ない事を確認した後、鍵を開けて部屋に入る。
「…………こりゃ〜〜……」
部屋を見渡す横島。
この時間はバイトの時間なので、この時代の横島と会う事もない。
雑誌や、カップめんの日付などから推測するとどうやら、生きているらしい。
「ふ〜〜……よかった……これで安心して――そうだ!! 折角だしな!!」
ここで、もう一つある事を思いつく。
それは競馬や競輪、競艇といった賭け事の情報。
それを元の時代に持ち帰れば、大もうけできると考える横島。
正に気分はバック・トゥー・ザ・ヒューチャーか?
この部屋からお金を拝借して、本屋や、ネットカフェなどに行って情報をメモする。
「すげ〜〜〜!!! これなら、俺も帰ったら大金持ちに!! たまらん!!」
気分は最高!! と後は、元の時代に帰る為に美神が居る事務所に向かう。
もちろん、誰にもばれない様に辺りに注意をはらいながらだ。
「――!? やべっ!!」
前方からこちらに向かってくる存在に気付き、すぐに隠れる。
横島が見つめたのは、この時代の横島だった。
相変わらず、しけた顔をしている。
(だが、この情報さえあれば、俺の人生ばら色やーーー!!!)
横島が過ぎ去った後、再び事務所に向かう。
後は、来た時と同様に、美神が自宅に帰るときを狙えばいいだけだ。
待つこと数時間、美神がガレージに現れ、車に乗る。
(それじゃ……ほれ!)
行きと同じように美神が辺りを見渡すが、《模》した瞬間すぐにその場を離れた横島を見つけることを出来ない。
後は、適当に人が来ない所で発動させるだけだ。
「俺も生きてたし、帰ったら大金持ちだし、いや〜〜良い事ばっかりだ!!」
意気揚々と《模》を発動させる横島。
そして、悲劇は訪れる。
《雷》
横島を雷が包み込み、そして時間移動を……
バリバリバリバリバリ!!!
「うぎゃーーーーー!!?」
時間移動が発動しない。
そのため、横島は雷のエネルギーをうまく操作できず、焦げてしまう。
しかし、それでも生きているのは流石は横島といったところか。
「なっ!? なっ!? なんでやねーーーーん!!?」
時間移動できず、すぐに美神のここ二ヶ月の記憶を探る横島。
気は進まないが、この際そんな事を気にしている暇はない。
今の文珠の使用で、次の文珠は五日後ぐらいなのだ。
原因がわかってもそれまで、どうにかしてこの時代で過ごさねばならない。
そして、横島は時間移動が出来なかった理由を悟る。
それは……
「うわぁぁぁぁぁん!!! ヒャクメと小竜姫様のアホーーーー!!!」
平安京から帰ってきた時、ヒャクメは見事に美神に再封印を施す事を忘れていた。
そして、つい先日、美神はよく分からないが月に行った際に小竜姫と会って、封印しているかの確認を取っていたのだ。
その時に、小竜姫は再び美神に時間移動できない様にしてもらい、今の美神は雷を浴びても時間移動はしない。
「うわ、本当にどうすれば……」
妙神山に行けば、何とかしてもらえる可能性もあるが、その場合美神にバレてしまう。
それでは、自分が美神で《模》を使った事もバレてしまう。
「あぁぁぁぁ…………じゃぁ、何でこの時代に俺が居るんだよ!?」
それは簡単に言えば、時間移動自体が失敗したからであった。
元々、美神の時間移動能力の成功率は高くはない。
それが、行く時ならばなお更である。
現代から中世はマリアのおかげ。
現代から平安はヒャクメのおかげ。
行く時には必ず、ナビゲーターが存在していた。
美神が地力で成功された時は、すでにその時代に行った事があったからであって、でなければまず成功しなかったであろう。
では、横島が一ヵ月後に跳んだ事の何処が失敗だったのか?
それは所謂、平行世界に跳んでしまった事だ。
もし、あの時横島が時間移動をしなかったらの一ヵ月後に来てしまったのだった。
「……とりあえず、何処で寝よう……」
元の世界、元の時代に帰れなくなってしまい、そしてここにはこの世界の横島が居る。
完全に厄介者の横島。
「……生きていけるかな……?」
少なくても、時給255円より生きやすくなるだろう。
――過去からこんにちは・完――
あとがき
どうも、おひさしぶりです。hanluckyです。
やっと落ち着きSS書くかと思ったのはいいのですが、見事に書き方を忘れていました(笑)
おかげでただでさえなかった文才が、また振り出しになってしまいました……
ということで短編でも書いて、少しでも勘を取り戻してから連載を再開しようと思いました。
今回のテーマはどうやったら逆行の反対、未来行横島を作れるかでした。
それでは、これからまたご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくおねがいします。
レスについては遅れましたが、ようやく返させていただきました。皆様、ありがとうございます。