それはなんでもない昼下がりのこと。
美神は脱税のデータを隠匿するのに必死だし、シロはサンポで横島の自転車を壊してしまい『2週間サンポ禁止令』が出されて落ち込んでるし、おキヌは晩ご飯のメニューを見つけるために料理雑誌とにらめっこしているし、タマモはテレビで昨日の晩にやっていた『日本全国食い倒れ 麺・麺・麺!』という番組の録画を見ながら近くのうどん屋の地図をメモっているし・・・
「ちわ~す!」
「あら横島くん、今日はバイトなかったはずだけど?」
「いや、飯食わせてもらおうと思って」
「まったく、いつもいつもたかりに来て・・・」
「それなら時給あげて・・・」
「・・・何か言った」
「・・・いえなんでもありません(汗)」
どうやら鉄拳が飛ばないのは、データ処理がうまくいって機嫌がいいからのようだ。
「おキヌちゃん、お茶入れてもらえる?」
「分かりました。ついでですからちょっと早いけど、三時のおやつにしましょうか」
「そうね」
パソコンの電源を落としながら、そう言う美神。
事務所のメンバー全員で囲むお茶。
ふと美神が思いついたように言い出す。
「そういえば横島くん?前々から思ってたんだけど・・・」
「えっ、愛の告白っすか!それならいつでも24時間365日受け付けて・・・」
鈍音。
「なぐるわよ」
「殴ってからいわんでください・・・」
顔面から血を流す横島。しかしそんなことになれているメンバーは、スプラッタになったお茶の時間にも動揺したりはしない。
「それでアンタの霊波刀だけど・・・栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)って名前つけたのよね?」
「そうっす!これぞヒーローになるための証!栄光をつかむ手!その名もハンズ・オブ・グロー・・・」
「うっさい」
美神の一にらみで立ち上がっていた椅子からすごすごと降りる。
「はんず~おぶぅ~ぐろぉりぃ~・・・でござるか?」
「栄光の手って言う意味よ、バカ犬。英語でそのくらいやったでしょ」
「なっ、拙者は狼でござる!!」
「まあまあシロちゃん。それでそれがどうしたんですか、美神さん?」
「そうっすよ。おかしな名前じゃないと思うんすけど」
一同の目が美神に集まる。
「はあ~、おキヌちゃんたちはともかく、アンタ一応プロなんだからそのくらい勉強しなさいよね。と言っても私も最近思い出したんだけど・・・『栄光の手(ハンズ・オブ。グローリー)』って元々そういうオカルトアイテムがあるのよ」
「な、なに~!?」
『パクリか!俺はパクリをやってしまったんか!関西人とあろうものが、人のネタをパクってしまうなんて・・・』などと言いながら不必要に落ち込む横島を一発殴りつけ正気に戻す。
「それで、その本家の『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)』ってどんなのなの?」
我関せずでお茶請けのせんべいをかじっていたタマモが聞く。
「ん~罪人の左手を切り落としてね、それを塩漬けにしてからロウで固めて作った燭台よ。栄光の象徴として昔からあるオカルトアイテムよ」
美神の言葉に固まる一同。
「ざ、罪人の左手・・・ですか(汗)」
「切り落として・・・塩漬け・・・でござるか(汗)」
「で、ロウで固める・・・ってわけね(汗)」
「ま、まじっすか・・・(汗)」
おキヌ、シロ、タマモの視線が横島の手に集まる。横島も自分の手を見つめる。
除霊の時によく見る横島の手が、まるでロウで固められた罪人の手のように見えて・・・
「あは・・・はは・・・あはははははは・・・」
横島の乾いた笑い声が部屋に響く。
今日はそんな、なんでもない日・・・。
(前書き)
どうも、流れの物書きセラニアンと申します。明日からSSを連載しようと思うに当たって、初めて使わせていただくこの板の試験もかねて、前々から思っていた『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)』についての短編を投稿させていただきました。
それでは明日から連載させていただこうと思っております連作エピソード集『宝珠師横島 ~The Jewelry days~』 第一話『横島帰還・お披露目』をお楽しみに。