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▽レス始

「リレーSS「お花見をしようっ」(第一話)(GS)」

翔 (2005-03-27 17:01/2005-03-28 00:56)

「せんせぇ〜、お酒呑んでるでござるかぁ〜?」
 一升瓶を抱えて、ケラケラ笑っているシロをいなし、
「こらっ、横島っ、わひゃしのおしゃけが呑めないっていうのっ?」
 ワインボトルを片手にしな垂れかかってきた美神をあしらいつつ、
「……うぅ〜ん、ぽちぃ〜……」
 自分の膝の上で寝息を立てるパピリオの頭を撫でる。横島は、ため息をついた。

 頭上には煌々と闇夜を照らす半月。
 周りには桜が乱立し、風がなびけばわずかに花弁が舞い踊る。
 春の訪れと共に去り逝く、冬の残滓を夜の寒さに感じながらも酒精で火照った体には心地よい。
 そんな風流な場所であるはずなのに。

 三メートルほど離れた所では、おキヌと小鳩に小竜姫が膝を付き合わせ密談を交わしていた。
 風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる内容が、「横……ん、あまりにも……すぎますっ」だとか「な…のため…隣で……」だとか「パピ……ずるいで…」である。何やら自分にとって聞かない方が精神衛生上良い気がするので、聞かないように心がけている。しかし、放っておいてもいずれそのツケが回ってきそうで怖い。けれども、今の自分になにが出来るだろうかとも、思う。
 両隣には酔っ払い。膝の上には妹分。背中には桜の木と身動きが取れない。肉体的にも、精神的にも。


 そんな横島を尻目に宴会場の真っ只中では、乱痴気騒ぎが繰り広げられていた。
「ほれ、猿っ、なんか芸でもしろっ、それ、反省!」
 と、雪乃丞が無礼講だとばかりに師匠格に詰め寄る。
「こ、こらっ、雪乃丞! 猿神様に、アンタなんて事言ってるのっ!?」
 それを隣で見ていた弓が慌てて止め、無礼をわびようと振り返れば、
「ほう、芸とな。では、分身してみせようかの」
 既に、待ってましたとばかりに準備万端の老師がいらっしゃったり。
「えっ!?」
 それに、目をまくるしてうろたえてたり。
 等という、実に“愉快な”やり取りがあったり。

「ほら、タイガー。これ……一応…私が作ってみたんだ。食べてみて」
 頬を染め、わずかに俯きながらおずおずと、周りの料理に比べて“幾分か”形の悪い料理を差し出せば、
「ま、魔理しゃんの手料理……い、いただきまーーーーっす!」
 涙を流しながら、「美味い美味い」と食べるその姿を見て「……ばか」などと、お互いが相手以外見えていなかったり。
 と、二人だけの空間を作り出しているカップルがいたり。

「あら、神父。最近実に戦略的撤退が進んでません?」
 ほろよく酔いが回ったような目で、自分の師匠に詰め寄る人妻。
「うっ。美智恵君、君も言うようになったね……」
 最近、実は気にして、少ないお金をやりくりして育毛剤を買っていた人物は、目実見えて落ち込む。
「そうですよ隊長! 先生は戦略的撤退をしているんじゃありません! 物資が枯渇したために、戦線の縮小を行っただけです! ……って、アレ?」
 それを見た一番新しい弟子が、「いくらなんでもそれは言いすぎですよ」とばかりにフォローするも失敗したり。
「…………ピート君、君まで……」
 どうやら、バンパイヤ・ハーフも酒に酔うらしい。
 と、哀が溢れていたり。

「あのねぇ〜。聞いてよ〜エミちゃん〜。最近ね〜令子ちゃんが、遊んでくれないのぉ〜」
 かまってかまって、というオーラを出しつつ、大の親友に話しかける、問答無用の財力を持つお嬢様。
「……なんで私が、この娘の相手をしてるワケ?」
 ピートが来るから、という理由で参加したハズだったのに、とブツブツ小言を言っている。それでも根がイイヒトな彼女は、なんやかんや言いながらも、キチンと相手をしてあげていた。
「でぇ〜。だからぁ〜、皆も寂しくって〜。だからエミちゃん〜、今日は皆と遊んであげてぇ〜」
 それに気を良くしたのか、それとも箍が外れたのか。式神が突然、エミと“遊び”始めた。
「ゲッ! な、なんで……ギャーーーッ!!」
 よく見れば、お嬢様の足元に転がっていた缶は、何時の間にかお酒の空き缶に変わっていた。
 等という“楽しそうな”声が聞こえてきたり。

「あ、そう言えばですけど、西条センパイひとつ聞いてもいいですか?」
 近所のおばさんどうしがまるで、世間話をするかのように話しかける料理人。
「ん? 何かな、魔鈴クン」
 女性の話は何でも聞きますとばかりに、耳を傾ける英国仕込みの紳士。
「この間の、お昼の出前やってたときのことなんですけど、駅前を女の人と歩いてましたよね? 彼女さんですか? 美神さんに言っちゃってもいいです?」
 以前のお店での光景を思い出しながら、いいこと知っちゃいましたとばかりに、笑う。それを聞いて、ただ飯をかっ食っていた爺が話しに割り込んできた。
「あ、それならわしらも見たぞ。な、マリア?」
 丁度、土木作業の日雇いバイトをしていたのだ。
「イエス・ドクター・カオス。その時の・記録映像を・再生・しますか?」
 何かを思い出したのか、紳士としてどうか? と思う叫びを上げながら自沈していく戦艦があった。
「ギャーーーッス」
 まさに、身から出た錆で錆び付いた人もいたり。


 横島個人的には、最後の組はどうでもいいのだが、この目の前で起きてる光景には目を疑ってしまう。……いや、そうでないかもしれない。この――横島の視界に入っていない人もいるが――メンバーでお花見をするのだ。何が起こっても、不思議ではない。
 ただ、ここは格式の高い妙神山。その修行場の一角が光景でいいのか? という疑問は圧殺した。それはもう、圧縮化してゴミ箱に投げ捨てた。精神衛生上の理由で。


 その中で、横島の一番の不思議は、自分の隣にあった。


「ほらぁ〜。お酒呑んでんのぉ〜? 私がついだおしゃけなんだから、きちっと呑みなさいよねぇ〜?」
 と、酔っ払った笑顔で微笑みかけてくる上司。これまでの何回か上司とお酒を飲む機会は会った。おキヌちゃんの復帰祝いや、自身のNYへの出発前の――結果としては流れてしまったが――祝賀会などがソレにあたる。
 西条からも聞いたことがある。曰く『令子ちゃんは酒豪だ』との事。その上司が、酔っ払っている。
 しかも、自身にしなだれかかっているのだ。

 左手を抱え込むようにして、肩に頭を乗せている。左手が――二の腕の辺りが――豊かな双丘に挟まれ、なんとも言えない。首筋に酒精を含んだ吐息が当たり、上司自慢の髪からはシャンプーの匂い。早鐘の如く鼓動する心音が、聞こえてしまわないか心配になる。もし、もしもだが、ここ体勢で「あ〜ん」なんてされてしまったら、堕ちてしまいそうだ。


 右手は右手で、また大変だった。
 鼻歌を歌うかのようにのどを鳴らしながら、「撫でて撫でて」とシロがせがんでいる。先ほどから千切れんばかりに振られている尻尾がわき腹を擽り、こそばゆいとゆうか、なんというか。不思議な感触なのだ。上司からお酒を受けるために、右手で杯を出せば自然と撫でる手がなくなってしまう。すると、「もう、終わりなの?」と仔犬ちっくな瞳で見上げられるのだから、溜まったものではない。罪悪感がこみ上げてしまう。――自分がワルイコトをしたのだろうか? とも思うのだが。


 そして、この状況から逃げられない原因があった。――原因がなくても逃げ
なかったかもしれないが。
 それは、横島の膝を枕にして眠る、妹分。彼が愛した女性の妹。そして、今となっては自身にとっても妹と言える存在。
 パピリオが膝を枕にして気持ち良さそうに眠っているのだ。どうして、動くことが出来ようか。あどけない顔で眠る妹を、見守る眼差しは麗らかな春の見ざしのようであった。
 妹を見ていて、思い出した。今回のこの騒動の発端を――。


 事の発端は一週間前。お昼ごはんを食べ終わった後、食後のお茶を飲んでいる時だった。

「ん〜。おキヌちゃん。お茶もう一杯もらえる?」
「あ、はい」
 と、横島がお茶を貰おうとしていた時の事。
 突然、人工幽霊の声が響いた。
「オーナー! 高速で飛来する霊体反応アリ! 高速すぎて、識別が出来ません! 衝撃、きます!」

 結界ごと窓を突き破り、ソレは突入してきた。
 部屋中に粉塵が舞い上がり、視界を確保できない。

「みんなっ!? 無事なの!? それと、円陣を組んで警戒っ!?」
 上司の声に、女性陣は素早く反応し、体に緊張をみなぎらせた。
 そして、粉塵が晴れたとき見たものは、気絶した横島の体に馬のりしている、きょとんとした表情のパピリオだった。


「まったく、来るなら来るで、きちんと玄関から入ってきなさいよね。んったく、この修繕費は小竜姫に請求しておくからね」
 別室に移った女性陣は、新たに淹れなおされたお茶を飲みながら、パピリオと相対していた。
「それで、今日は何のようなの?」
 お小言を、小一時間ばかり喋った後、美神は訊いた。流石に、やり過ぎたと思ったのか、神妙に聞いていたパピリオの限界が近いからだ。また暴れられたり、泣かれたりしたら困る。そんな計算を知ってか知らずか、パピリオに元気が戻った。

「えっとでちゅね。小竜姫が、『そろそろ桜の咲く季節ですし、皆さんをお誘いして妙神山でお花見をしましょう』って。だから、誘いに来たんでちゅ」
 えへんとない胸を張って、お使いに来た理由を説明するパピリオ。
 小竜姫の誘い。誘うメンバーがまだ不明。後々、どっちが有利に働くか。などと算段を立てたいた美神の隣で、おキヌが目を輝かせた。
「うわぁ。お花見ですか〜。皆さんをお誘いして、お花見できたら楽しいでしょうねぇ。ねぇ、美神さん、行きましょう」
 と、楽しそうに目を輝かせるおキヌや、「お花見とはなんでござるか?」「みんなで桜の下で食事したりすることよ」「それは美味しそうでござるな」「これだから、バカ犬は」「狼でござるっ!」と、その後ろでそわそわしているシロタマを見えた。

 それを見た美神は一息もらして、うなずいた。
「まぁ、たまにはいいか。うん、パピリオ。いいわよ。私たちも参加するって小竜姫に言っておいて。それで、メンバーと日時は?」

 参加するとの声が嬉しかったのか、パピリオは笑顔で答えた。
「一週間後でちゅよ。場所は妙神山でちゅ。参加者は今から誘いに、ヨコチマと一緒に行ってくるでちゅ!」
 とのみ、言い残して部屋を飛び出した。


 なにやら、廊下の方からやっと意識を取り戻したのか――居間にあの後、破壊されつくした放置されていた――横島の声が聞こえた。
「ぐえっ! ってパピお前…」「ほら、ヨコチマ行くでちゅよっ!」「行くってどこへだよ!」「皆のところでちゅ!」「だから皆って誰だよっ?」「あぁ、もうっ! いいから行くでちゅよ!」「あっ! こら! 襟を持つな! く、首がしま、ぐえっ!」などというやり取りが、徐々に小さくなりつつも聞こえてきた。


「行っちゃいましたね、美神さん」
 最後の方は付いて行けなかった様子のおキヌが、呟いた。
「ま、いいんじゃないの? たまには、ね」
 そう言って、おキヌに微笑んだ美神をみてだろうか。
「め、珍しい事を美神殿がされておる……」
 と、呆けたシロタマを美神は凶眼で睨みつけた。


「か、勘弁でござる! すまなかったでござるっ」と言う声を背にしつつ、おキヌは窓の外に目をやった。
 日差しは暖かくなり、風が柔らかくなった。梅の花も咲いていたし、早いところでは、桜も咲いたと聞いた。確実に訪れる春の足音聞く時間を、皆で共有できることの素晴らしさ。それに感謝しつつ、花見を思うと心が弾んだ。

「はやく、来週にならないかな?」
 微笑んだその表情は、楽しみで彩られていた。


「あ、おキヌちゃん。横島君のタイムカード。今日はもう退室にしておいてね」
 上司はあくまでも、仕事にはシビアだった。


 あとがき

 このSSはリレーSSです。宜しくお願いいたします。

 メンバー:1話目 翔  2話目 zokuto  3話目 巫女兎  4話目 裏のF  5話目 MAGIふぁ  6話目 わがち〜  7話目 infarm  8話目 皇月  9話目 仙台人 10話目 豪

 というわけで、一話目(プロローグ?)担当の翔でした。次のzokutoさん、ヨロシクw


   この企画は管理人である、米田 鷹雄様のご許可を頂いた上で実行されています。


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