―魔神アシュタロス―その名は、まだ記憶に新しい。
ＧＳ界に置いては知らぬ者はいないだろう。
絶大な力を持ちて、人界を中心に大きな大戦を引き起こした魔神である。

その大戦も過ぎ去り、世は平常に戻りつつあった。

多くの犠牲と、一人の少年の心に消える事のない痕を残して…

美神除霊事務所

事務所のソファーに座りながら、横島はぼんやりとしていた。
Ｇパンに、Ｇジャンのいつもの姿、トレードマークの頭にバンダナ。
草臥れた感を醸し出す服と今の表情が、彼の貧乏臭さを引き上げている。
所長の美神は只今、外出中だ。大戦後の事後処理という名の雑務でＧＳ協会本部へと赴いている。
横島は心ここに在らず、そんな感じだろう。
横島　忠雄。この少年こそが、大戦を勝利へと導いた存在である。
だが、今の姿を見れば、十人中十人が「嘘を吐くな」と声をそろえて言うであろう姿だ。
「どうかしたんですか？　横島さん」
その横島に声をかけるのは、氷室　絹。
ＧＳ界において珍しい、ネクロマンサーである。
二人分の紅茶を入れたお盆を片手に、横島の元へと歩いてきた。
「ん？ああ、おキヌちゃんか。いや、どうもしないよ、平和だなぁと思って」
普段の彼では絶対に吐かないであろう台詞を言う。
そんな彼に驚いたのか、おキヌは幾分訝しそうな顔をすると、
「横島さん、ほんとに大丈夫なんですか？」
そう言い心配そうな顔をして、横島の顔を覗き込む。
「大丈夫、大丈夫。俺は平気だって。ほら、最近仕事ないから」
「そうですね。でも、いいじゃないですか。平和ってとことは」
おキヌはそう言いながらも、心の中ではあまり納得していなかった。
寧ろ、横島に対してかなりの疑惑を持っている。
ここ最近の、彼の様子はおかしい。変と言っても過言ではない。
今までなら、綺麗な女性を見かければ、即ナンパをして失敗するという行動をしていたというのに、最近ではあまり女性にがっつく事が無くなった。
周りから見ればそれが普通ではあるが。
さらに、先程のように、ぼんやりすることが多くなった。
流石に仕事中にはそういう事はないが、事務所内ではもっぱら今の状態だ。
美神やおキヌは、そう感じながらも口には出せないでいた。
すべては、過の大戦が起因する。
彼が、自分に惚れてくれた女性を自らの手で犠牲にしてまで、もぎ取った現在なのだ。
横島の心の傷は如何程のものか、それを図り知ることは出来ない。
それ故に、今の彼を見守り、心配することは出来ても話せることなど何もない。
これは美神も例外ではなかった。

横島は何か決心した顔をするとソファーから立ち上がる。
「悪いおキヌちゃん、俺用事思い出したから早退するわ」
そう言って、事務所から出て行こうとする。
「え、ちょ、横島さん！？」
おキヌが何かを言う前に、横島はさっさと出て行ってしまった。
残されたおキヌは、悲しそうな顔をして立っているだけだった。

事務所から出た横島が向かう先は、オカルトＧメン事務所。
大戦後、横島は苦悩していた。
―何故、ルシオラが犠牲にならなければいけなかったのか―
―何故、助けてやることが出来なかったのか―
―何故………―
色々と思考を重ねる。
だが、全ては一つの結論へと辿り着く。
考えることなど、始めから無かった。
―己が弱かったから―
この一言で、言い表せる。
だが、自分に自身の無い横島は、それが正しいのかどうかは分からない。

Ｇメンの事務所に着くと、受け付けに向かっていく。
「すいません、美神　美智恵所長と会えますか？」
「アポイントメントはお取りですか？」
「無いですけど、横島　忠雄が来たと伝えてくれますか？」
横島が自分の名を名乗ると、受付上は少し驚く。
そして、言う通りに、美智恵に内戦を繋ぐ。
「どうぞ、最上階の署長室へお向かい下さい」
横島は言われた通りに、エレベータを使い署長室へと向かって行った。

「いらっしゃい、横島君」
署長室に入ると、紅茶で出迎えてくれた。
「ども、隊長」
横島はソファーに腰掛ける。
「それで、今日はどうしたの？」
「今日は、ちょっと隊長に相談がありまして」
横島が難しそうな表情をする。
「なに、そんな顔をして、令子のことかしら？」
美智恵はクスクスと笑いながら、横島に聞く。
「それもしたい所ですけど、今日はそうじゃなくてですね、ズバリ聞きますけど」
「なぁに、もったいぶって」
「隊長、”強さ”って何ですか？」

後書いてみる。

ども、皆様始めまして。
知っている人は知っている、（皆無だとは思いますけど）ちるちるです。
皆様のＳＳに火をつけられてつい書いてしまいました。
面白いと思ってくれたら嬉しいものです。

では、第二話で。