皆さんは、ここにある一台の車のことをご存知でしょうか?
音速にすら達する速度、それに耐えるシャーシ。
しかもソレが20cmにも満たぬ車体に押し込められているのです(しかも電池駆動)。
――しかし。
彼には重大な欠点があり――それが故、彼の造物主は仕事に失敗。そして、彼の造物主の事務所の蔵の中に彼は眠ることとなったのですが――
「おーい、シロー。そっちの整理は終わったかー」
横島君、自らの一番弟子に向けて声をかけました。
返ってくるのは、尻尾を振り駆け寄ってくるいn…もとい狼のように元気な声。
犬塚シロ(実年齢やっと10)です。
「大体終わったでござるが…」
ゴールデンウィークと言うことで横島君も学校は休み。
美神さん・おキヌちゃん・タマモ達は精霊石オークションと言うことでザンス王国に行っています。
愛子のおかげで補修も無かった横島君は、丁度いいからと言う美神さんの言葉の元、特別給と言う餌につられて蔵掃除をしていると言うわけです。
蔵の中はおキヌちゃんがちょくちょく整理しているとはいえ、大きいものや危険物なんかもあります。
例えば、吸引札貯蔵箱とか、折れたシメサバ丸の柄の方とか、何故かミイラとか、危険っぽい薬草とか…。
とりあえず一度全てを出して危険物などを処理、取っておく物をきちんと入れなおしたのです。
…そして、部屋の中央。
「これが最後でござるな」
シロちゃん、そのアクリル製の箱を手に取りました。
その中には微妙に光る何か。
「…おっ、懐かしいな」
横島君、それをシロちゃんから受け取りました。
パカ、と開いて中を見ると、そこにはミニ四駆。
以前、娑婆鬼との除霊で美神さんが使用した、ストレートだけなら間違いなく世界最速のミニ四駆です。
「…これは…どうするかな?」
横島君、少し悩みました。
危険物か、美神さんの許可を得たもの――そして何より、価値を基準として捨てていたのですが。
1台5000万円+NASA協力費で、結果コレは非常に高価。
1年前の、とはいってもNASAの最新技術。
某国にでも売ったら結構な価値になるでしょう。
「あー…とりあえず、保留だ。美神さんも居ないし…忘れないように、目立つ所に置いてくれ」
「分かったでござる」
シロちゃん、トン、と中央に机を持ってきて、アクリルケースを置きました。
その時です。
ぱーー、ぱーぱー、ぱーーぱらぱー・・・ぱーぱらぱー、ぱぱーぱーぱーぱー・・・
横島君の携帯電話がズボンの中で震え、往年の洋楽の名曲を歌います。何年か前にドラマでも流れていましたが。
ぴ、と通話ボタンをプッシュ。
耳に軽く当てます。
[あ、横島クン?]
聞こえてきた声は彼の雇い主。
美神令子の声でした。
[実は、天候が不順で暫く帰れそうに無いわ――]
「え、マジっすか?」
[嘘言ってどうするのよ。ま、こんな事もあろうかと仕事は大して入れてないけど――無茶はしないでね]
美神さんにしては極めて珍しい心配の言葉が携帯電話のスピーカーから飛び出します。
「は、はい…!」
横島君、感無量。少しだけ声が揺らぎます。
[あ、でも、シロに手を出したら――埋めるわ]
「う、埋めッ!?」
やっぱり美神さんは美神さんか、と。
横島君は、ある意味ホッとするのでした。
――そして、その夜。
ヴォン、とある部屋が淡く光りました。
美神さんたちにくっ憑いて行った人工幽霊一号なら気づいたかもしれませんが、現在ここにはシロと横島の(オマヌケ)師弟コンビしかいません。
彼等に気づけというのも酷な話。
光は徐々に収束し、魔方陣の形を取りました。
頂点にあるのは、それぞれが強力なマジックアイテム。
何の因果か、この部屋に置かれた諸々のアイテムが偶然魔方陣を描いていたのです。
その魔方陣の中央にあるのは――九十九神に一歩だけ踏み込んだミニ四駆。
そして、事件は始まるのです。
ずどぉおん、と明け方近くなった事務所に轟音が響きました。
うぉ、と何故か泊まっていた横島君、シロちゃんが眼を覚まします。
どちらも後で非常に面白いことになりそうな格好で、イヤンイヤンです。
とにかく。彼らは轟音のした所に行きました。
そこは、大きな穴の開いた、と言葉をくっつける必要のある蔵でした。
粉々に砕けた諸々の品。
とりあえず横島君、文珠でそれぞれを直します。しかし。
「…力が減ってるような…?」
それは、気のせいではなかったのです。
金色に光るボディ。
その体は約15cm。
徹底的に軽量化され、しかし安定感ある車体。
しかし速度はマッハ5。
そして、曲がらぬ曲がれぬ最速の機体――名前は無いので、仮にスーパー君と呼ぶことにしましょう。
スーパー君は魔方陣で増幅された妖力を電力に変換。
朝日に光る町を爆走します。
その速度は音速の一歩手前。
数少ないながらも歩く人々の鼓膜が破れかけるほどの轟音と衝撃波を残して走り去っていきます。
当然、捕まえられるわけもありません。
そのシャーシと速度に任せ、ビルやら何やらをぶち抜いて行きます。
――事態は深刻よ、と彼女は言いました。
オカルトGメン――その会議室に、10人ほどの男女が集まっています。
先程口を開いたのは議長の席にある美神美智恵。
ぶっちゃけ20代後半よと言ったらああそうなんだなで納得できるお人です。
「西条君、スーパー君に関する説明を」
「えー、高速駆動九十九神――スーパー君は、」
美智恵さんも西条もするっとスーパー君と言ってますが、誰も疑問に思いません。宇宙意思です。
「…美神除霊事務所での事故により発生。現在妖力を電力に変換して走っていると思われ、最高速度はマッハ5。現在の所の被害総額は51億3823万円相当、現在も増え続け、位置は東京都を抜け出したあたり――」
美知恵さん、シロ、そして自分。
この三人を除く七人ほどの視線がザクザクザクザクと横島君に突き刺さります。
…痛いいたいイタイ。
被害は彼が負担することになるでしょう。間違いなく。
実は何処かの天邪鬼さんが彼のために貯めている口座にはその3倍ほどの金額が入っているのですが――ま、そこは置いといて。
オカルトGメンによるスーパー君捕獲計画は、今始まるのです!
皆さん今日は今晩はお早う御座いますお休みなさい。
卒業して逆に暇がなくなった斧です。
前編と言ってますが、続きません。電波はここで途切れたのです。
もし書きたいという奇特な方がいらっしゃった場合はどうぞご自由に。
…暫く前に書いた小隆起様恐怖話の題名ですが、本編にも同じ題名の話が…。
最近気づきましたよ。馬鹿ですね、私。斧でした。