「お、おおおおおおおう・・・」
「大丈夫、横島?」
木々が鬱蒼とする森の中で一箇所開いた原っぱの真中にて、横島が大の字になって倒れ、その顔をやや心配そうにタマモが覗きこんでいた。
森の中を強引に突き進んできたらしく、横島の服は所々破れ、葉っぱのついた枝が何本かくっ付いている。
「あ、あんだけ激しく地面にダイブして大丈夫なヤツが居ると思うか?」
「ん~~~、あんたなら大丈夫そうだけど。」
「・・・・・お前、ホントに心配してくれとんのか?」
静かな森の狭間にて・・・
事の起こりはその日の朝、いつも通りのシロの散歩にタマモが珍しく着いて来たことから始まった。
途中まではいつも通りだったのだ、そう・・・
「はははははははははーーーーでござるーーーーー!!」
「バカやろーーーー!! もちっとスピードを落とせーーーーー!!」
シロが暴走してランナーズ・ハイになる所まではいつも通りであったのだ。
だが、ここでいつもなら居ない筈のタマモに横島が話を振った所為で、全てが変化したのである。
「た、タマモーーー! お前もこいつを止めるのを手伝ってくれーーー!!」
キツネの姿で肩にしがみ付き揺られているタマモに、横島はそう懇願した。
だが、彼のその判断は全くの間違いだったのである。
実は、タマモはこの状況を楽しんでいたのだ。
タマモが今回着いてきたのは、近頃絶叫マシーンというものにはまっていたのだがお金が掛かるからそうちょくちょくは行けない、そこで横島が猛スピードでシロに引っ張られる姿を見て代用にならないかと考えたからだった。
故に、次の瞬間に彼女が言う言葉は一つ。
「シローーー。 スピードアップお願いー。」
「りょーーーかいでござるよーーーーーーーーー!」
「テメ、タマモ! なんつう事を!! っつーか、シロ! 何でそう言う事だけは素直に聞くんじゃーーーーーー!!!」
こうして、いつも以上のシロの暴走が始まり。
それに耐えきれなかった自転車がぶっ壊れて地面に叩き付けられ、今に至ると言う事である。
* * * * * *
「でも、本当に大丈夫? かなり強く頭を打ったみたいだけど。」
「ん~、わかんねえけど、とりあえず当分動けそうに無いわ。」
立とうとすると、全身に痛みが走る上に、平衡感覚が狂ってるらしくふらふらする。
吐き気を感じる等は無い、がとりあえず今は動かずに安静にしてた方が良いだろう、と横島は判断してその場に静かに倒れこんだ。
「・・・・・・・・・ごめん。」
その横島の様子にタマモは申し訳無さげにして、小さくそう呟いた。
「何だよ、いきなりしおらしくなって。 らしくねえぞ。」
「だって、私がシロをあおった所為でこうなったんだし。 ・・・それに、私をかばわなかったら、あんな風に地面に叩きつけられる事がなかったろうし。」
タマモが言った通り、先程の自転車の崩壊の瞬間に横島はタマモをかばい、そのせいで受身が碌に取れなかったのである。
何も無い平原でのことだったら横島もタマモの身体能力を知っているのでそんな行動は取らなかったかもしれないが、ここは森の中であり、木が所狭しと生い茂る場所だった。
タマモの吹き飛ぶ先には一本の木があり、それに叩きつけられそうになったのを横島がとっさに引き寄せ、そのまま抱え込むようにして庇いながら全身を叩きつけたのである。
「まあ、俺の吹き飛ぶ先には運良く木が無かったからな、受身も取りやすいだろうと思ったんだけどな。」
失敗しちまったわ、と笑う横島を見て、タマモは今度はバカと小さく呟く。
あんな風に自分を両手で庇うようにしてたら、受身なんか取れる筈が無いだろう、と思いながら。
「まあ悪いと思うなら、膝枕の一つでもして眠らせてくれれば良いぜ♪」
そのタマモの様子を見て、少々重くなった空気を軽くする為にと、横島は軽い調子でそう言う。
後はこれを聞いたタマモに 「馬鹿言ってんじゃないわよ」 と言われながら燃やされれば万事解決であるはずだった。
だが、
「良いわよ。 ・・・はい。」
それを聞いたタマモが素直に膝を差し出すから困ったもんだ。
横島は想定外のタマモの行動に、目を見開いて驚く。
「・・・・・・何よ、早く頭を乗せたらどうなの。」
「え、・・・あ、ああ。」
一瞬呆けたようになってしまったが、タマモがせっかくしてくれるんだからと、横島はタマモが差し出してくれた膝の上に頭を乗せた。
しかも、うつ伏せで・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ねえ。」
「・・・・・・・・・何だ。」
「言っとくけど、突っ込まないわよ。」
タマモは自分が横島にとって射程外であることはいつも聞かされてたりしてたし、実際今までそんな行動を取られたことはなかったので、今回の横島の行動はいつもと違う反応をした自分にいつも通りの行動を取らせようとしているのだろう、と判断して突っ込み(狐火)をしなかった。
いつもの日常の中でならともかく、今現在のこの状況ではそれは無しだ。
それをすればその瞬間にこの膝枕は終わりで、自分は今回の借りを返す事が出来なくなってしまうだろうから、と。
まあ実際そうだったのだが、突っ込み自体が目的では無いとは言え、関西人たる横島にとって、自分のボケが殺されたのはショックだったりする。
「・・・・・・・あんた鬼や・・・・・」
「残念、妖狐よ。」
そう言いながらふふんという感じの笑みを浮かべこちらを見下ろすタマモの顔を見て、横島は何やら自分も可笑しくなり笑みを漏らす。
「よっこいせっと。」
ボケが無駄になったとなると、この体制は寝難さしか感じなかったので、横島は体制をあお向けに変えた。
その横島の顔を、タマモは余裕たっぷりの笑顔で見下ろす。
「あれ、体制を変えるの?」
「蒸し返すな! 外したボケを突っつかれるのは辛いんだぞ!!」
タマモは自分の言葉に喚き返す横島を笑顔で見続けながら、その手を横島の頭に持って行き、髪を梳くように動かす。
その動きに何か言おうとした横島もだったが、どうやら気持ち良かったらしく、黙って目を閉じた。
「あんたの髪って固いわね。 ちゃんと手入れしてんの?」
「あの給料で、髪の手入れとかの道具を買う余裕があると思うか?」
「女好きを自認するなら、女に好かれるように努力するもんでしょ。」
「別に良ーよ、男の魅力は髪じゃねーからな。 その分腹に溜まるもん買って、ナンパ用の体力を付けた方がマシ。」
横島はそう言うと、閉じた目を開けて青空をじっと見つめる。
「・・・・・・・ま、そんなヤツでも良いって言う物好きも、どっかに居るもんさ。」
そう呟き、横島は再び目を閉じる。
「ほいじゃあ、ちょっとばかし眠らせてもらうわ。」
横島は異常な寝つきの良さを見せ、数秒後には静かな寝息を立て始める。
タマモはその横島の寝顔を、静かにじっと見つめ続ける。
「・・・・・・・・・・・まったく。 物好きが居るとわかってるなら、それが誰なのかもわかりなさいよ。」
タマモはその呟きと共に、横島の頭にやっていた手を頬の方に持って行く。
そのまま両手で顔を挟むようにした後、起こさないように静かに動かして、そこに自分の顔を近づけていく。
さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
静かな森の中、周りから葉を揺らす風の音が聞こえる。
「目の前にも一人、物好きがいるんだから。」
* * * * * *
さて、その頃・・・・・
「せんせ~~~~~~~~~、タマモ~~~~~~~~~! どこでこざるか~~~~~~!!」
二人が居る森からかなり離れた山の中で、ようやく二人が居ない事に気付いたシロが走り回っていた。
半べそになっている事から、すいぶん二人を心配している事が感じられる。
「う~~~~、二人を振り落として見失ったなんて言ったら、美神殿とおキヌちゃんに肉抜きにされてしまうでござるよ~~~~。」
訂正、“二人の”ではなかった。
「二人とも~~~~~、出てくるでござるよ~~~~~~!!」
ちなみに結局二人を見つける事は出来ずに帰り、しかも二人は一足先に帰っていたので言い分けのしようもなかったりする。
罰として、1週間の肉と散歩の禁止が出されたそうだ。
「せんせ~~~~~~~~~、タマモ~~~~~~~~~!!!!」
後書き
ども、自信があったのに追試が出てしまい、枕を涙で濡らしたほんだら参世です。
追試なんか嫌いだーーーーーーーー!
遊びタイガーーーーーーーーーー!!
DMC3がやりてーーーーーーーーー!!!
・・・・失礼。
というわけで、さんざん遅れたリクエストの作品3つめです。
らでぃさん、お待たせしました。
これでラブい感じになってんのか、とお思いかもしれませんが、自分にはこれが精一杯でござんす(土下座)
最後のタマモがどういった行為をしたかは描写しませんでしたが、おでこか頬か、それとも口かってのは各自で脳内補完してくだせえな♪
偽バルタンさんと朧霞さんはもうちょい待ってくださいね、只今鋭意執筆中なんで。
ではまた後ほどに。