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▽レス始

「お姫様☆ふぁんたじぃ(GS)」

zokuto (2005-02-26 16:24)


 有名なやりとりがある。

 ある人が、登山家に「なんでお前は山に登るんだ」と尋ねた。

 そうしたらその登山家は、「そこに山があるからさ」と答えたのだ。


 では、俺の場合はどうだろう。

 俺は別に登山家ではなく、普通のしがない高校生。

 登山家が持つであろう荷物を超越した重量のリュックを背負い、鍛えてもいない肉体が悲鳴を上げているのを無視して、足をただたんに動かしている。

 山は険しい。

 舗装されている道を歩いていると言えど、坂道は終わりを見せず、ただつらいの一言に尽きてしまう。

 では、なんで俺は山に登るのか?

 主人は先を進み、もう後ろ姿すら見えない。

 なんでこんなに低賃金なのに、俺は頑張っているのか?

 俺は答えを知っている。

 その答えが揺らぐ事のないよう、大声で叫ぼう。

 

「そこにっ! 美女がいる(正確には温泉もある)からに決まってるんやろが、うしゃしゃしゃしゃしゃーーーーーーーッ!!!!」

 

 男、横島。

 美女のためなら命をかける、命知らずの野郎だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                お姫様☆ふぁんたじぃ

 

 

 

 

 

 

 


 諸君、私は美女が好きだ。

 何故好きなんだ、と聞かれた胸を張って答えよう。

 「俺は男の中の男だからだ」と。

 好きな美女のためならば、どんなものでも犠牲にしよう。 

 今でも若き青春の1ページを捨てて、美女に従事している。

 一杯のラーメン、1時間の睡眠よりも美女との一瞬にかけている。

 それほどまでに美女のことが好きだ。

 美女のためであれば山だって登る、川だって渡る、海だって泳ぐ、火の中にも飛び込むし、人類全てとも、島もふっとばす化け物とも戦ってみせる。

 だが、美女から受けるこの仕打ちはなんだろう?

 俺は身を粉にして、奴隷のように働いている。

 なのに、なんでセクハラをして殴られるんだろう?

 チチやシリやフトモモくらい触って、なんで怒られるんだろう?

「納得いかねぇ……」

 言葉が漏れた。

 今、俺は地面と背中の荷物との間に潰されている。

 つい先ほど、力尽きて倒れてしまったのだ。

 不覚、としか言いようがない。

 足は悲鳴をあげ、腰は痛みを訴え、肺は酸素を求めている。

 しかし俺の美女に対する情熱はそんなものでは揺るがない。

 疲れが支配する腕を奮い、重力と己を持ち上げた。

 苦しみに喘ぐ足を立たせ、苦痛に身を任せたまま再び足を前につきだす。

 全ては美女のため。

 湯煙の中で裸体を晒す、美女のため。

 そして、耳元で「ずっと好きだったの、横島君」と甘くて切ない声で呟いてくれる美女のためーっっっ!

「ま、負けてたまるか、バッキャロー」

 息も絶え絶え、克己心を沸きあがらせる俺。

 足どりも軽くなり、止まっていたときとは比較にならないくらいどんどん景色が変わっていく。

 気持ちのグラフも右肩に上がり、道々に咲く花々に心を奪われそうになる。

 山道をぐんぐんと進み、気持ちが昂ぶったときに、それは来た。


 それは、疾風怒濤の勢いで。

 それは、紫電一閃の速さで。

 それは、驚天動地の激しさで。


 俺の横からやってきた、衝撃。

 一瞬の間に行われた、寸劇。

 その技、華麗にして野蛮な、華激。


 見る者全てを圧巻させる大きさを誇る荷物と、吹けば飛ぶような貧弱な俺。

 それがまるで風に煽られた中くらいの大きさのコンビニのビニール袋のように。


 吹き飛んだ。


「えいっ」

 容疑者の掛け声はこんな感じだった。

 

 まるで10トントラックに突撃を受けたような……一度記憶があるから言えるが、まさにそれほどの衝撃だった。

 直撃を受けたときの記憶はほとんどない。

 ただ一瞬、巫女服が見えたのを覚えている。

 

 ああ、俺は美女の胸で死ぬことが出来ないのか。

 安らかでなくともいい、孤独であったとしてもいい。

 美女の胸の中で死ぬことが出来たのならば。

 胸の中とは言わず、せめて膝枕をしてもらいながら死ぬことができたのならば。

 諸行無常のこの世に、念を残さずいけたものを。


 始めの一撃と負けず劣らず凄まじい衝撃を地面から受けた俺。

 息も絶え絶え、ごろんと転げて空を仰ぎ見る。

 底無しの青さ。

 雲は白く、鳥は飛ぶ。

 そして、見たのは黄金の輝きを灯す太陽。


 こういう風に終わるのも悪くないと、目を閉じようとする俺。

 薄目になったとき、何かが俺の目の前に飛び込んできた。


「お、お、お! この世に恨みなくして逝ってもらうのは困るのじゃ。 妾の悲願がかかっておるのでおじゃる。 起きたもれ! 見知らぬ道行く人ぞ」

 先ほどの巫女の服が見えた。

 俺の頭元に立つその人は、太陽の逆光で顔が見えない。

 背が高く、黒髪が長い。

 そして、瀕死の俺に話しかけてきた。

「おお、生きておったか。 妾の悲願の下、そのまま死んでもらうわけにはいかぬのでな。 生きていたことに感謝するでおじゃる」

 生きていたことに感謝されるという、極めて珍しいことをされた。

 俺もまだ死ぬ時期を考えるには早すぎたか、と苦しみながらも生きる気力を振り絞った。

「妾の名は女華姫と申すでおじゃる。 以後よしなに」

 そしてその顔を見て、猛烈に死にたくなった。

 人魂という世にも珍しいもの(といっても俺にとってはそう珍しくはないが)を浮かばせ、半透明のホログラフのような体。

 しかし、それを霞ませる勢いの、顔。

 どんな顔に勝ることができるであろう、顔。

 その素晴らしい体もさることながら、注目すべきは、顔。

 猛烈に濃い、濃い、濃い、濃い顔。

 道端ですれ違ったら、何も言われてないのに黙って財布を差し出してしまいそうな顔。

 泣く子も黙る、顔。


「ば、化け物だぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁああああ!!!」

 一般人が羅王を見てもこんな驚くことはないだろう。

 パピヨンを初めてみたときの黒服だったらいい勝負かもしれない。

 それほどまでのインパクト(衝撃)。

 体の節々の痛みを全て吹き飛ばし、アラレちゃんばりの速さで走りぬける俺。

 そして、それについてくるノスフェラトゥ。

「ま、待ち申さぬかっ! かよわき乙女のためなのじゃぞ!」

 これが乙女と言うのならば、俺は乙女とはもう二度と目を合わせたくない。

 だから、これが乙女ではないことを切実に願う。

 ついでに、この化け物がとっとと地獄に落ちてくれる事も願う。

「ついてくんな、ボケッ! こちとら化け物と向き合う趣味なんぞないっちゅーねん!」

 恐怖心とは時には疲労に勝るものらしい。

 体力の限界を突破した体だが、今も尚信じられないスピードで山を登っている。

 しかし、隣りの化け物は、俺と同じスピード……いやそれ以上の速さで俺の隣りを走っている。

 誰かに見られたら、そのまま恐怖の都市伝説にもなりかねない、そんな恐ろしい光景。

 走行中のバイクの後ろを見てみたら老婆が座っていたなんてレベルじゃない。

「ええい、待ち申せっ! 首の骨をへし折るぞえっ!」

 待ったら待ったで首の骨をへし折られそうだったので、俺は無視して走った。

 しかし相手は有言実行というご丁寧な化け物だったのだ。

 首元をむんずとつかまれ、地面に叩きつけられる俺。

「ひぃぃぃーーっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ! 俺が悪いんやないんやーっ! 全ては、全ては国とおかんがいけないんやーっ!!」


「落ち着き申さぬかっ。 何も取って食おうとは思ってない故に、そのように我を失われるとは不愉快じゃぞ!」


「え? 取って食おうと思ってないのっ!? お、おおおおおお……神よ、ありがとう」

 今日ほどこんなに熱心に神に祈った事はなかった。

 恐らく、今自分の隣りに座っている化け物に関すること以外でそれ以上のことはないだろう。

 あまり、喜べることではないのであるが。

「な、何を言っておじゃるか。 妾は清純でまっこと乙女ちっくなぎゃるなのじゃぞえ」


「清純でまっこと漢一色の鬼だったら説得力があるんだが」


「何か言ったでおじゃるか……?」


「いえ、なんでもないデス」


「まったくわからんやつじゃのう。 ふぅ、まあよい。 わぬしに一つ、頼みごとがあるのじゃ」


「断わる」

 即決即断だった。

「うむ、その意気やよし。 頼みたいことというのはの、妾の遥か遠き昔からの願いでの」

 しかし、話は聞いてもらえそうになかった。

 これ以上ゴチャゴチャ言っていると、首を引っこ抜かれそうだったので黙っておいた。

「そうじゃの。 どのくらい前じゃったか……妾の生きている時代での。 人柱に若い女子を選ぶ儀式があったのじゃ。 そのときにの、人柱に選ばれた若い女子がおっての。 その女子はたいへん美しく……といっても妾の方が美しかったのでおじゃるが、あいや、そのようなことは言う必要もなかったかの。 そしてな……」

 なんか、ボケた老人が話をしているように話題がそれていっていた。

 でも口に出さない。

 ひょっとしたらそのまま、俺を引きとめていた理由さえも忘れてくれるかと思ったからだ。

 だが、その認識は非常に甘いものであることを次の瞬間知った。

「つまり、わぬしには死んでもらいたい、ということじゃ」


「嫌に決まってんやろが、このボケーーーっ!!」


「むむっ!? 何故じゃ! 妾のような絶世の美女に魂を投げ捨てて助けようとするのは男の使命ではないのか!?」

 恐らく、多分、こいつに命を捨てられる奴は雪男くらいだろう。

 俺は勘弁願いたい。

「嫌なんだって! 俺はもう帰るっ! 美神さんのとこに帰る!」


「ああ、待ってたも……」

 俺は、駆け出した。

 背後の悪夢を振りきれるかどうか、わからなかったが、走った。

 地上最強の生物こと勇次郎も裸足で逃げ出すような光景が一瞬、頭をよぎったがそれを忘れようと走った。

 後ろを振り返るのが恐ろしく、まったくわき目を振らずに走ったら、宿についた。

 勇気を出して後ろを見てみたら、化け物の姿はなし。

 ほっと一息をついて、ドアを叩いた。

 

 

 

 

 
 マイフェアレディな我が上司、美神さんの仕事ぶりは今日も冴えていた。

 ワンダーホーゲルの幽霊を説得し、事件を解決。

 はっきりいって、入浴シーンが一片もなかったことはものすっごく凹んだが、それでも役得は十分あったからよし。

 チチやシリやフトモモにそれとなくタッチ。

 あの柔らかくも素晴らしい感覚を得れただけで、この山を登ってきた価値はあった。

 無論、アッパーで空を垣間見させられたわけであるが。


 等々かんがえながら、楽しい仕事も幕を閉じることになった。

 来る時の悪夢は意図的に記憶から抹消しようとしたのが幸を制したのか、なんとかトラウマにならずに済み、また平和な生活への道を堅実に進んでいる。

 美神さんと他愛のない話をして、笑いながら山を降りていく、俺。


 やはり不幸は去っていなくて。

「ふしゅるるるる〜〜、待っていたでおじゃるよ……」

 ノスフェラトゥ、再臨。

「妾も少々やりすぎたと反省しているのでおじゃる。 許してたも」


「……ゴメンなさい。 もう堪忍してください」

 思わず、謝ってしまう。

 隣で美神さんが変な目で見てきた。

 お、俺のせいじゃないのに……俺のせいじゃないのに……。

「よくよく考えてみたら、別にわぬしの魂を奪う必要もなかったのじゃ。 妾がわぬしの後ろについていけばいいだけ」

 しかも、爆弾発言を投げかけてきた。

「妾の唯一の無念は、誰とも添い遂げぬまま死したこと。 光栄に思うのじゃ、妾はわぬしのことを気に入ったぞえ」

 猛烈に死にたくなった。

 そして神に祈った。

 一抹の望みをかけ、俺は聞いた。

「え、えっと。 地脈に縛りつけられたりとか、古代の大妖怪を封じ込めていて動けないー、って設定じゃないのか?」


「なにを申されるか、そんなものないでおじゃる」

 返される無情な答え。

 悲しみが俺の心に染みる。

「み、美神さん、助けて……」


「別にいーけど、私のギャラは高いわよ」


「そ、そんなぁぁ……」

 四方八方壁だらけ。

 俺の未来はお先真っ暗。

 筋肉で固い二の腕を、クルリと首に回してご満悦の化け物。

 クシシシと、全人類中全人類がこの笑い方をみたら、化け物だっ、という違いないおぞましさ。

 化け物は嬉しそう、俺は悲しそう、そして美神さんと空高く飛ぶ鳥は全くの無関係顔をしている。

 どうやら、悪夢は終わりそうにないようだ。

 

 

 

 

 

 

 で、オチはというと。

 

 厳かな雰囲気。

 煌くステンドガラス。

 鳴り響くパイプオルガン。

 拍手が暖かい、招待客のみんな。


 なんでこんなことになってしまったんだろう。

「横島うじ〜! 妾は、妾は、死津藻比女を倒して戻ってきたでおじゃる〜〜」

 俺があの化け物に悩まされ、数ヶ月。

 べたべたのべた、そしてストーカーじみた彼女が数日間姿を消して、やっと成仏してくれたのか、と一息ついて安心していた。

 が、やつは舞い戻ってきた。

 しかも肉体を持って。


 江戸時代に日本を滅ぼそうとした大妖怪と素手でガチンコ対決して勝ったらしい。

 末恐ろしいというべきか、その執念は神をも凌ぐというべきか。

 俺に更なる厄災をもたらしたことは確実だった。

 この化け物は、精神が図太く二の腕も図太く、悪霊を気合で消し飛ばしてしまうほどの人物であり、その能力があったので美神さんには気に入られていた。

 また、何を間違えたのか、神様は家事の才能も化け物に与えていたのだ。

 それゆえ、お袋が帰ってきて、俺の家に無理矢理住み込んだやつを見たときに、お袋は偉く気にいってしまった。

 しまいには「忠夫、この娘と結婚しなさい」とトチ狂ったことも言う始末。

 自分の母なれど、この発言を聞いたときには脳にウジが沸いたのかと思ってしまった。

 そしてその横ではまた、クシシシシと世にもおぞましい笑顔が。

 それを見て、「あら笑った顔もキュートねぇ、女華姫ちゃん」とお袋が言った時には流石の俺も抜刀した。

 返り討ちにあったのは言うまでもないが、今でも親に凶刃を向けた事に対して後悔はしていない。


 ふとそこまであまり思い出したくない記憶を引きずり出していたとき、大音量の鐘の音が耳に届いて我に返った。

 正装の俺、ただぽーっと突っ立っているだけで、周りのみんなが祝杯をあげてくれる。

 どれもこれもが俺に向ってお祝いの言葉を投げかけていて、夏の夜の蚊よりもはるかにわずらわしい。


 あいつと会って随分時間が経ったものだ。

 とても貴重な時間に対して「一瞬一瞬がダイアモンドの一粒に匹敵する」という例えがあるが、逆に辛くておぞましい時間に対しての例えはどんなものがあるだろうか?

 色々あったものだ。

 やつが勝手に部屋に住みこみ、やつが仕事をするようになって我が心の故郷こと美神さんが居る事務所を我が物顔でのさばり始めてどのくらいの年月があっただろうか。

 古代の狼の神となった剣豪を蹴り飛ばし、李小竜もどきの鳥男を絞め落し、中年蛇女を拳で撃退し、三人虫美少女姉妹をなぎ倒し、悪名高き、筋肉の神様ことマ神をジャイアン論法を駆使し、説得してなだめすかした。

 世界の危機を何度潜りぬけ、今、ここに生きている。

 誰かに一度くらい負ければよかったのに、と舌打ちしても始まらないだろう。


 どこで運命を間違えてしまったのだろう。

 スパイとして潜り込んだ敵の大型兵鬼の中で、虫美少女姉妹の長女に告白されたときには狂気乱舞した。

 あの化け物に自分を襲わせぬ理由を見つけたからだ。

 だが、それも儚く終わった。

 化け物が彼女に勝ってしまったのだ。

 彼女は泣きながら、「素敵な彼女ね……最初から私なんて妖怪には貴方はつりあわなかったわ、ごめんなさい、さよなら」と言って姿を消した。

 はっきり言って、あの化け物は人間ではないという独自で斬新な解釈を持っていたが、彼女にはそれは通じなかったらしい。

 もう、二度と彼女の姿を見ることはないだろう。


 また昨日。

 すなわち、今日という忌まわしい日が始まる一日前の日。

 美神さんと飲みに付き合わされた。

 美神さんはいつもより数倍のペースでお酒をあおり、酔っていた。

 そしてお酒の強い美神さんらしくないほど酔った後、美神さんはそっと俺に擦り寄ってきて、耳元でこう呟いたのだ。

 「ずっと好きだったのよ、横島君」と。


 俺の悲願は報われた。

 俺の苦労は報われた。

 俺のカルマは報われた。


 だが、何もかもが遅かった。

 運命の歯車など、狂う前に止めなければもう手遅れだったのだ。


 もし、あの仕事で俺があの山を登らなかったら。

 もし、あの山であいつに会わなかったら。


 俺の隣りでブーケを被り、ほんのり頬を赤く染め、少し下に俯いている人はきっと他の人だっただろう。

 ルシオラ、美神さん、ひょっとしたら小竜姫様かワルキューレ、大穴でメドーサ、グーラー、ベスパ、俺はロリコンじゃないけど今はまだ我慢して将来の希望を乗せられると思い、タマモかシロ、パピリオを選んだら流石に俺は外道だ。

 これらのどれかが俺の花嫁だったかもしれない。


 しかし、そんなことを考えてももう後の祭り。

 みんなに暖かく見守られながら、俺は、あの化け物を横に乗せ、車を走らせる。

 カランカランと車の後ろについた缶が軽快な音を立てる。

 マフラーから排気ガスを出し、俺達は動いた。

 大勢の仲間の声を背に……。


 空は、前に見た透き通るような青だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      終わり

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう夢をみたんですよ」

 横島忠夫が言った。

 横には美神令子、シロ、タマモ、そしておキヌちゃん。

 横島は自分が今日見た夢のことを語っていたのだ。

 まるで人生のダイジェストのような長い夢で、また悪夢でもあった。

 そして、それを和らげるために仲間に話したのだった。

「すっげぇリアルな話しだったんですよ。 もう、なんというか、今でも思い出しただけで鳥肌が立っちゃいます」

 ぞぞわと鳥肌を立った二の腕を見せて言う横島。

「まさか予知夢じゃないですよね?」


「まっさか。 そんなわけないじゃない。 大体ねー、わたしがあんたのことを好きだ、って言ったあたりで夢で気付きなさいよ。 まったくもう、夢でまで横島くんに体を弄られているのかと思ったら、私の方が鳥肌立っちゃうわよ」

 美神が言う。

 けれどまんざらではない様子で、顔を赤らめ、手に持っていた書類に顔を伏せた。

「予知夢じゃないっすか。 そりゃよかった……」


「せんせー! その後、拙者とらんでぶーするっていうえんでぃんぐがいいでござるよね! わんわん」


「バカね。 見た夢に向かってそんなことを言っても無駄に決まってるじゃないの」


「バカ犬とはなんでござる! 拙者は狼でござるっ、この女狐め!」


「あら? 私は「バカ」とは言ったけど、「バカ犬」とは一言も言ってなくてよ。 ようやく認めることにしたのね」


「ぬぬぬ……たばかったな女狐め……切り捨ててやるでござるっ!」


「まあまあ、シロちゃんもタマモちゃんも喧嘩はやめて……今日はおめでたい日なんだから」

 シロが剣を抜き、タマモが火を出しているのを納めるおキヌちゃん。

「……くっ、ここはおキヌどのの顔に免じて許してやるでござる。 ただしっ、今度は有無も言わせず切り捨てるでござるよ!」


「へっ、その台詞。 何度聞いたと思う?」


「切り捨てーるっ!!」

 再び荒れた場をとりつくろうと奮闘するおキヌ。

 横島はその見なれた風景を横目に、ふと壁にかかっている半分ほどページがなくなったカレンダーを見た。

「……おめでたい日って……」

 数々つけられたバツ印を見、今日の日付を確認した。

 そして美神の方を向き、椅子に腰を下ろした。

「そうですか。 じゃあ俺も頑張らないとな」


「頑張るって、何をよ?」


「決まってるじゃないですか。 短冊に願い事を書くことですよっ!」

 

 

 

 
 数時間後、彼は狂い死にしそうになる。

 それは何が原因か?

 賢明なる読者諸兄にはおわかりいただけただろう。

 故に、今回この話でそこまで詳しく述べぬことにしよう。

 

 

 

 
    終わり

 

 
  後書き


 どうもzokutoです。

 いやー、お姫様ってほんっといいものですよね。

 ボクは全力で遠慮したいところですがね。

 女華姫が変な口調なのは、気にしないで下さい。

 全ては横島くんの夢なのでね。


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