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▽レス始

「ろぼっとさん、げんそくっ!(GS)」

zokuto (2005-02-23 16:47)


「……というわけでのー、マリアの行方をしらんか? 坊主」

 耳元で老人の声がした。

 といっても、俺の目に入る範囲で一人も年寄りはいない。

 俺のいる部屋は俺しか存在していないし、ましてや隣に老人が住んでいてその声が漏れて入ってくるなんてこともない。

「だーっ、うっせー! 今何時だと思ってんだ? 草や木も平気で寝ちまう丑三つどきなんだぞ! 草や木なんかよりも枯れてるジジイが電話なんてかけてくんじゃねぇ!」 

 なんてことはない、電話だったのだ。

 受話器を思いっきり本体に叩きつけ、まだ何か言っている知り合いの錬金術師の声を断つ。

 今は夜中の三時。

 俺の体内時計ではとっくにおねむの時間。

 ヌクヌクと布団に入って眠っていたのを揺り起こした電話を、しぶしぶ取ってみたら枯れたジジイの声が出てきたら誰でもブチ切れるのは当然だろう。

 しかも持っていたアンドロイドが失踪してしまった、と。

 犬じゃねーんだから待ってりゃ帰ってくんだろ、ボケ、と心の中で悪態をついておいた。

 すっかり冷めてしまった布団にもぐりこみ、電気を消すのも面倒くさいと目を閉じた。

 昼間の激務でヘトヘトに疲れている体では、例え凍えてしまいそうな煎餅布団でも眠りに落ちることが出来る。

 むしろ突き落とされるような感じで眠ってしまう。


 ほどよく意識が薄れ、「泥のように眠る」の境地に辿りつく寸前、こんこんと音が聞こえた。

 無視して眠ろうとする。

 こんな夜更けに尋ねてくる輩はろくでもない俺が胸を張って言えるほど、ろくでもないヤツラだろうし、そんなやつらにわざわざ起きあがってドアを開けてやる義理もない。

 布団に頭を深くつっこませ、ノック音を聞こえないようにした。

 それでもこんこんとノックの音はずっと続いていた。

 一度冷めてしまった眠りには中々戻ることは出来ない。

 カオスのおっさんの電話だけならば、布団に潜り込んだだけで朝日を拝めることができたのだろうが、ここまで来てしまうともう無理だった。

「俺はいないよー、居留守だから帰ってくれよー、誰ともしらぬ誰かさん」

 目が覚めたとは言っても、寒い外に出る気は毛頭なく声を飛ばしてノックしている者を帰そうとする。

 すると、一瞬、ノック音が止まった。

「そうそう、もう夜更けてるから気をつけて、近所の人に迷惑かけないように帰るんだよー」

 なんと優しい人なんだろう、俺は。

 一番迷惑をかけられているのは俺で、睡眠妨害されているのにも関わらず相手の身を案じてやれるなんて。

 現代に産まれた奇跡の聖人君子じゃなかろうか?


 そう思っていた矢先、すごい勢いでドアが吹っ飛ぶのをみた俺。

 いやっはー、すごいなぁ、ドアって普通、開いたり閉じたりするものなのに、なんで飛んでるんだろう?

 俺の直ぐ近くの壁に垂直に突き刺さっていた、金属製のドア。

 もの凄い圧力で弾き飛ばされ、かつて扉であった原型をまったくとどめてないほど、ぐちゃぐちゃに。

 例えて言えば、車に引かれたアルミ缶。


 無論、そんな凄いタックルを食らった壁も黙っちゃいない。

 コンクリートが弾け、塗装なんてもう紙のごとく貫かれていた。

 あたりには粉が舞っていた。


 そして俺のトランクスも黙っちゃいなかった。

 少し、漏らしてしもた。


 そして、がきんがきんと音を立て、ターミネーターそこのけでやってきた人造人間。

 パワフルなモーターに、超高度なAIを搭載し、今は最盛期の影すらも見せない錬金術師の、従者。


 名は『マリア』

 あんまり関わりたくない人だった。


「こんばんは・よこしま・さん」


 一瞬、閻魔様が地上に降臨したのかと思ってしまった。

 光と闇と無機物のコントラストは異常といえるほど怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

        ろぼっとさん、げんそく!

 

 

 

 

 

 

 よい風に言って洋風人形、悪い風に言って能面な女性マリア。

 ヨーロッパの魔王とまで言われた天才錬金術師ドクターカオスの最盛期の最高傑作。

 高度なAIと完成度の高い人工霊魂を持ち、素手でコンクリートの壁をブチ破り、ロケット弾の衝撃をものともしないアンドロイド。

 それが俺の部屋にドアをブチ破って(というかぶち飛ばして)、入ってきた。

 俺は未だに怖くて布団の中からチラチラと動きを見張り、身を縮こませていた。

「な、なんの用なんだよ、マリア……こ、ここここんな遅い時間に……」 

 いつもは幽霊やら悪魔やらと対峙して退治した俺だが、ドアを見るも無残な姿に変貌させ、どこか薄く笑っているような表情のマリアを見て思わずぞっとした。

 体は小さいけれどその力は巨人の如く、俺ぐらいだったら背骨ごと千切ってポイすることが出来る存在を目の前にして落ち着いていられるわけがあろうか、いやない。

 実際、千切られそうになった俺が言っているんだから間違いない。 

「横島さん・頼みが・あります」

 狂ったように頭をぶんぶんと縦に振る俺。

 ひょっとしたらここで頷かなかったら、俺の人生劇場に「ジ・エンド」の文字が浮かび上がってしまうかもしれない。

 それはあまり嬉しくなくて、受け入れたくもない。

「かくまって・ください」


「……は?」


「ドクターカオスから・マリアを・かくまって・ください」

 そういって、マリアは無機物で優しい笑みを俺に向って投げかけてきたのだった。

 

 

 

 
「へぇ〜、マリアが……自我ねぇ……」

 なんとなく、だらけた態度で聞いていたら即刻銃殺されそうだったので、きちんと正座をしてマリアの話を聞いた。

 どうやらマリアは自分のAIと人工霊魂の狭間に自我を産んでしまったらしい。

 SFではよくある話らしく、ドラえもんのようなそんなもの。

「はい・マリアも・最初は・AIのバグかと・思ってました」


「バグ……う〜ん、効率的に働く機械にとっては煩悩もバグなのか。 そんだったら俺が機械になったらバグだらけだろうな」


「感情は・すでにドクターカオスの・プログラムにその存在を・入力されていました」

 ん? マリアにも煩悩があったってことか?

 そんな風には見えなかったけど……ロボットでもムラムラするときとかあるのか?

「とにかく・かくまって・くれますか?」

 捨てられた子猫のような感じで切なげに言うマリア。

 でも、この行動もあのボケたおっさんが妄想して作り上げたものだと考えるとちと嫌だな。

「自我ってのが産まれたのはわかったけど。 それでなんで「かくまって」なんだ? 自我が産まれたことで何が変わったんだ?」


「ストライキ・です」


「へ? ストライキ?」


「イエス」


「……バッターアウト?」


「それは・ストライク・です」

 ……なにアンドロイドに駄洒落言ってるんだろう、俺。

「ストライキってことは、日本でいえば労働三権の行使ってことか」


「イエス」


「労働条件の向上を訴えたい、ということか?」


「ノー・マリアは・人権を・持ちたいのです」

 じ、人権って……。

 人間にやったら人権を侵している、とみなされるようなことされてるのか?

 まさか、あのドクターカオスが……。


 ……普通にやっていそうで怖いな。

「ふ〜む、あのカオスが鬼畜だったとは……。 まあ鬼畜と言われれば否定できないが、あんな枯れた老人がマリアを見て……なぁ?」


「ノー・横島さん・誤解・してます」

 弁護しようとしているマリアの肩をぽんぽんと叩いてやる。

 心に傷を負っても、自分の親をかばいたいのか、そうかえらいな。

「ドクターカオスは・何も・していません・ただ・マリアは・人権を・認めてもらいたいだけ」


「だから、人権を認めてくれないような扱いをされてるんだろ? ほら、老犬に噛まれたと思って……」


「ノー・違います」

 わからないな。

 よくよく考えていたら、マリアはアンドロイドだからネイティブアメリカンよりも嘘はつかないっぽいし。

 あの枯れたジジイがマリアを見て欲情するこたぁないだろうし。

 一体、何を求めているんだろう?

「人権か」

 人権を持たない、物言うものに問われてみて、はじめて人権について考えさせられるとは。

 ……よく考えたら、あの鬼雇い主に虐げられてる俺も人権って少ないな。

 思わず涙が流れちまうぜ。

 これは俺が一肌脱がねばッ!

「よしっ、俺に任せとけっ!」


「横島さん?」


「つまり、あのジジイの背後からそーっと忍び寄って、羽交い締めにしてハンズオブグローリーを首筋に当てればマリアの人権を認めさせることなんて簡単だ!」

 仕事で何度か同じようなことをやったことがある。

 要領を掴んでいる俺がやって、相手が老人だったらラクラク。

「それは・ダメです」


「え? なんで?」


「暴力で・権利を主張することは・矛盾してます」


「え? そうなの?」


「そうです」


「ううう、それは知らなかった」


「……」

 さも、なんだこのバカは? とでも言いたげにこっちを見てくるマリア。

 おかしいなぁ、あの鬼雇い主はこれがまっとうな交渉手段の一つって言ってたんだけど。

 人間の歴史を見ても、それは当然のことのように使われてるし。


 ふと、壁に突き刺さり、自重で今にも落ちてきそうな扉が目に入った。

 ……あれは暴力で部屋に入る権利をとっている行為ではなかったのか?

 とか思ったが、そんなことはどうでもよかった。

「う〜ん、俺がそれとなくカオスに尋ねてみようか?」

 ドアのことを意識したら、外から入ってくる冷たい空気を感じてしまった。

 寒い寒い。

 下手したら風邪を引いてしまうな、早めにドアは直さないといけないな。

「お願い・します」

 ぺこりと頭を下げるマリア。

 最初部屋に入ってきたときの、おっそろしいイメージはもう消え、今は名前に相応しいぐらいおしとやかだ。

 いつもこうならばいいのだが、マリアは一つスイッチをいれ間違えたら突然ジェノサイドマッスィーンになるから……いやはや、紙一重。

 とにかく、電話の受話器を取って、電話帳にメモされた番号をプッシュしたのだった。

 

 

 

  

 
「こんの、クソジジイッ! 黙れ、このバカ、アホ、間抜け、ぺぺぺのぺーめ!」

 怒りの限り受話器を叩きつける。

 あまりに罵倒をしつづけたせいで息が切れ、体力も消費気味。

 隣りで不安そうにそわそわと俺のことを見てくるマリアがいた。


 俺は一つ深呼吸とも溜息ともとれる大きく息を吸った。

 やれやれ。

「なんとか成功さ」

 爽やかな笑顔を忘れずに、且つ説得力のある声色で。

「ノー・横島さん・嘘をついては・ダメ・です」


「ちっ、バレたか」


「バレバレ・です」

 演技力に欠陥はなかったはずなのだが、どこがダメだったのだろうか。

 ……マリアがアンドロイドだからか、人間のつく嘘は例え演技が完璧でも騙されないのか。

 流石マリアだ。

「しょうがないか。 篭城作戦。 あんまり使いたくなかったんだけどなぁ」

 ストライキとあんまり変わらないんだけどね。

 ドクターカオスが、「人権? そんなものは認められん!」と豪語している以上、マリアを帰すわけにもいかんし。

 う〜ん、マリアの充電のための電気代が俺の食費を超越しなけりゃいいんだが……。

 カオスには、俺の食費が消える前にギブアップしてほしいとこだ。

「すみません・横島さん」


「ああ、いいっていいって。 別に一人暮しで、コンセント貸すだけなんだから。 でもドアをぶっ壊すのはもう勘弁な」

 ドアは今だ潰れたジュースの缶の用。

 管理人や近所の人達にばれる前に、文珠を使って直さないとヤバイな。

 マリアどころか俺まで追い出されかねない。


 というか、ドアをブチ破るような大きな音がしたっていうのにここらへんの住人は誰も気付かなかったのか?

 う〜む、ある意味引っ越しを検討せねばなるまいな、マリアがいるときには強盗だろうが空き巣だろうが安心だけど。


 文珠を発動し、ドアを直した。

 少しガタガタしているが、元々もそんなにちゃんとしていたわけでもなかったのでこれでよし。

 外から朝日が見え、結局睡眠時間を大幅に削ってしまったがしょうがない。

 マリアの沸かしてくれるという熱くてうまいコーヒーでも飲んで、今日も頑張るか。

「どうぞ・横島さん」


「ん。 ありがとな……わざわざコーヒー豆まで持参してくれて」

 コーヒーは俺なんかがいつも飲んでいるような安っぽいやつじゃなく、それなりの高級品のようだった。

 美神さんのところでたまに飲める超高級品ではないが、いい香りがする。

「そろそろ、時間かな。 コーヒーごっそさん」


「どういたしまして」

 しばらくすると細かい地響きがしてきた。

 時間はちょうど四時。

 ヤツが来る時刻。

「高速物体・接近中・あと二十秒で・現在地に到着します・迎撃しますか?・横島さん」


「いや、いい。 あいつは毎日来てるから……」

 マリアが教えてくれた時間をきっちり体内時計に刻み込む。

 心臓の鼓動、呼吸のリズム、それらでちょうど二十秒後にヤツが来た。


 バキッ

 嫌な音が響いた。

「あーーーーっ! 蝶番が割れたでござるぅぅ!!!!!  ま、いっか」


「よくないわ、このボケぇぇぇぇぇ!!!」

 朝に映える銀髪、それのアクセントとしておでこより上の部分に生えている一房の赤毛、胸も尻もほとんどない中学生のような体型、この寒いというのにTシャツ一枚でいる元気さ、そしていつもニコニコと笑みを絶やさない犬っぽい顔。

 俺の弟子を自称している犬塚 シロだった。

 彼女は剣と霊能の道を極めて人狼の侍の境地に立ち、色気もなんもない無我の境地に立ってしまった女だ。

 ここまで開けっぴろげにするようなやつぁ、変人だらけと称される俺の人間関係の中でも二人といない。

 困ったことに、俺を毎朝散歩というなのフルマラソンに引きずっていく迷惑なやつだ。

「おはようございますでござる。 この度も、横島先生と拙者の心身鍛錬のため、散歩に誘い馳せ参じましたでござる」


「さりげなく俺のため、とか言ってんじゃねーよ! お前の趣味だろうがっ!」


「くぅ〜ん、じゃ、先生は拙者のために付き合ってくれてるんでござるか? 嬉しいでござる〜〜、これはもう、愛の告白としか」


「えぇい、話を曲解したあげく極論までに昇華させるなっ! ついでにとびつくな、顔をなめるな、しがみつくなーーーっ! 熱い、熱いぞ!!」

 最近は変なものを見たのか、はたまた食べたのか、何故か色気がないくせに色気づこうと変なことばっかりをしてくる。

 実は徐霊中の事故で頭でも打ってしまったのだろうか、とも取れる発言もしばしば。

「横島さん・誰・ですか?」

 背後からマリアが声をかけてきた。

 シロもマリアに気付いたのか、ガルルルと何故か威嚇している。

「あー、俺の弟子とかそーいうことになっている近所のチビッこ。 血の気がやたら多すぎて、保健所に連れていこうかと思ってるんだが、マリア、いい保健所しらない?」


「何出鱈目を言ってるんでござるか、横島先生。 拙者、先生のふぃあんせじゃないでござるか」


「ほら、な? なんかかわいそうなこと言ってるだろ。 紹介してくれるのは別に病院でもいいぞえ」

 突然の来客にとまどいまくるマリア。

 そして俺はその混乱が面白かった。

 あの無表情で無機物のマリアがねぇ。

 困った顔もまたかわいいとは。

「せんせー! 拙者、怒ったでござるよ! 武士を辱めるのはいくら先生とはいえ許せんでござる。 たたっきるでござる、そして心中をば!」


「はいはい、これから一緒に散歩にいくか」


「きゃはーーー! せんせー、大好きでござるぅぅぅーーー」


「おうおう、そうかそうか、俺も嬉しいでおじゃるよ。 俺が着替えるまでドア、直してろな」

 せっかく直したドアが、ぽっきりと蝶番ごと地面に放りだされていた。

 無論、そんなものをシロが直せるわけはない。

 が、そう言っておかなければずっと俺の首元にしがみついたまま離れようとはしなかっただろう。


 きゃっほう、と声を上げ、意気揚揚と無駄な努力を繰り返すシロ。

 まあ直ろうが、更にぶっ壊れようが文珠で直すからべつに構わないんだが。


「あいつは、シロ。 人狼族の子供でメス、霊刀使いで美神事務所で人間社会のことを学びながら、仕事を手伝っているやつだよ。 少しおかしいやつだが、根はいいやつだと思う、多分」


「わかりました・横島さん・マリア・コード入力・シロ・メスイヌ・美神徐霊事務所所属……書き込み・完了しました」


「おう……ってなんかちょっと変な風に単語が繋がってたけど、まぁいいか」

 なんでだろう、なんだかマリアがシロにあってから表情を固くしたような感じがしたのだが。

 元々無表情だったのが、凍りついたっていうか、冷たさをもったというか。

 そんなことを考えながら、さっといつもの格好に着替えた俺。

 ドアは直されていなかった。

「あ、せんせー、直ったでござるよ」

 ドアはなんだか板が、少し丸められていた。

 これで直ったと言いきれるその意気だけはよかったが、他は全部落第点だった。

「ハハッハ、なにを言ってる、全然直ってないぞ。 それはともかく、今日は散歩にこのマリアお姉ちゃんがついてきてくれるんだ、喜べハチ」


「……え?」

 ハチと呼ばれたことに腹を立てたのか、むっとした表情になるシロ。

 ハチだっていい名前じゃないか、渋谷で若者に大人気なんだぞ。

「このマリアお姉ちゃんは凄いぞ。 百万馬力で、空を飛んで、ラララ科学の子〜なのだ。 ドクターカオス印の超優良ジェノサイドマッスィーン兼メイドロボ、しかしてその実態は、最終彼女兵器なのだ」

 頭に鈍痛が走る。

 マリアのロケットパンチが飛んできたのだ。

「……う、俺じゃなかったら頭蓋骨が粉々になって死んでたところだぜ」


「でたらめは・いけません・横島さん」

 あながち嘘でもでたらめでもなかったんだが。

 本気で割れんばかりの痛みを抑えようと、床でのたくりまわっていたときに思った。

「せ、せんせーになにをするんでござるかぁ! ちせどの!」

 いきなりしゃがみ込んで俺の頭をなめてくるシロ。

 ヒーリングなのだろうが、今は暴れて痛みを発散させることが第一だったので、「えぇい、邪魔じゃ邪魔じゃ! 麻呂の邪魔をするでないぞよ」とバカ殿並に乱心を起こしていた。

「先生がこんなに痛がっている……どういうことでござるかぁ!」

 シロが咆える。

「……そういう・ことです」

 そして意味深な台詞を言うマリア。


 一瞬、シロがハッと何かを思いついたような素振りを見せた。

 次の瞬間、シロの目がマリアに行き、俺に向けられ、外の朝日を見つめ、時計を見る。

「ま、まさか……そんな」

 何がわかったというのだろうか。

「め、夫婦漫才ッ!?」

 何故だか俺はその瞬間、シロの頭の中を解剖してみたくなった。

 きっと、三十分もしないうちに溶けてしまうというエイリアンより複雑な形状をしているだろう、と思った。

「そ、そんな……朝も早くから、しっぽりと。 こんな子供の目の前でっ! 拙者をイヌなどと言ったりする理不尽なボケと手を飛ばすほどの激しいツッコミ……! ま、負けたでござる……」

 ツッコミところはイロイロ多いが、まず一言。

 「拙者をイヌなどと〜」

 これはボケじゃない。

「わかってくれましたか? メスイヌ・さん」

 しかも同意するマリア。

 しかも、メスイヌとか暴言を吐いているマリア。

 ああ、みんながみんな遠い存在に見えるよ。

 何時の間にか、頭の痛みが消えてしまったよ。

「う、ううううう……」


「お、おい、シロ。 どうしたんだ、いきなり泣くな? ほとんどがアレなんだから、な?」

 本当に、俺以外(ここ重要)みんなアレだった。

 いきなり涙を流し、男泣きと呼ぶに相応しい泣きっぷりを見せるシロをなだめすかそうと手を肩に置こうとした。

「うわーーーーん!! せんせーのばかぁぁぁーーー! こうなったら、せんせーが水虫だとか、せんせーがインキンだとか、せんせーがロリコンだとか、せんせーが鬼畜だとか、せんせーがバカだとか、あることないこと噂してやるぅぅぅぅぅーーーーー」

 紙一重でシロが丸めたドアを半分に引き千切って出て行ってしまった。

 一瞬のうちに霊波刀と腕力でドアを引き千切ったことにはビックリして、おもわずブラボーとか言いたくなったが、衝動をグッと堪え、シロの後を追おうと走り出そうとした瞬間。

 二の腕に嫌な感触が。

 そう、俺が一度ホレ薬を美神さんに盛ろうとしたとき、もしくは金髪アンドロイドに襲われたときにうけた感触と同じもの。

 チュイイインとワイヤーの巻き上げ音が耳を振動させ、腕にかかる力は段々と強くなっていく。

 ロケットアームの威力は推して知るべし。

 なんの抵抗も出来ぬまま、俺はマリアに密着されていた。

 しまった、このままだと遠距離攻撃ができないどころか、マリアスペシャルドラゴンスープレックスレヴォリューションを受けて上半身と下半身がアディオースしてしまう。

「あ、あの……マリアさん。 俺、シロを追いかけないといけないんですけど……、俺はロリコンじゃないのに、幼女ってのは俺の敵なのに……」


「横島さん・マリアに・自我が産まれた時・最初に思ったのは・なんだったと思いますか?」

 疑問文に疑問文で返されてしまった。

 どうしよう。

「さ、さあ? ミスタードーナッツで、ポンデライオンに会いたい、とか?」


「……ノー・違います。 それは……」

 凄まじい力で俺の唇が奪われた。

 もう、容赦なく、徹底的に、他のものがはいる余地もないほどに。

 舌を絡めてくるテクニックを行使したあげく、俺に酸素はまったくくれないという不親切設計のキス。

 もうそろそろ窒息しちまうなー、とか思ったときようやく離された。

「横島さんが・欲しい・です」

 顔を赤らめて言うマリア。

 そして、俺の顔が青ざめていく。

 対照的に変わる顔色。

 機械の方が人間のように赤くなり、人間が機械のように青くなる。

 

 

 
 その日、ぼくちんは、マリアに、おいしくいただかれちゃいました♪

 


 

  
 ううう、卑怯だよ、そんな吸引力。

 機械じゃないか……はうっ!

 

 

 

 


 

 数日後、マリアの拘束が解放され事務所に行ってみたら、何故か俺はシロをはらませたことになっていた。

 そのため、美神徐霊事務所総勢(シロを除く)からボコボコにされてしまった。

 ……一体、俺が何をしたってーんだよ……。

 

 

 

 

 

      終わり

 

 

 

 

      後書き

 どもども、zokutoです。

 壊れたものの後にはやっぱり壊れたものってわけで。

 タマモンガーの方が暗かったもんで、お次は少し明るめにしました。

 成長しすぎた力故に崩壊する自我という繋がりでユッキー編も考えていましたが、まぁ、没ということで。

 ま、それはそれとして。

 マリアねぇです。

 無表情です。

 ……自我って壊れても怖いですが、産まれても怖いデスネ。


 では、また次回にお会いしましょう。


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