「さーーー!! レースは残す所、後一周!! 優秀争いは予選からデッドヒートを繰り広げてきた、一人は我らがチャンピオン、浪速のペガサス!!」
頼むで!! お前なら絶対負けへん!!
「そして、対する挑戦者は今大会、台風の目となったダテ・ザ・キラー!!」
俺は対戦相手である、ダテ・ザ・キラーを見る。
向こうも俺が見ている事に気付いたようで、睨み返してきた。
「さぁ二台のマシンは最後のコーナーに差し掛かった!! このタマヤカップ、勝つのはどっちだ!!」
行け、行け、行け!!
俺のマシンは相手のマシンと最後のストレートまで争う。
くそ!! ここまで、俺を本気にさせたヤツは、ほんまに初めてや!!
「最後の直線、両者ゆ、ず、ら……いや?……違うぞ、そうだ!! やはり最後は―――」
――浪速のペガサス と ダテ・ザ・キラー――
「ふ〜〜〜、インタビューって楽しいけど疲れるわ。」
俺は見事、タマヤカップで強敵ダテ・ザ・キラーを破り優勝することが出来た。
まぁ、浪速のペガサスってのは伊達やないで。
それよりスケベ親父を、探さなあかんわ。
大体、何で大会はきまって東京ばかりやねん!?
おかげで毎回アホ親父に、頭下げて連れてってもらわなあかんやんけ。
「お〜〜い、忠夫そこにいたか!!」
「ん? 親父そこ、に……」
ほら、見てみ。やっぱりこのアホ親父は、
「なんで、こんなところまで来てナンパしとんねん!!」
予想した通り、息子が晴れ舞台で頑張っているのに、ナンパしとる。
……でも綺麗やな〜〜……あかん、あかん。それより今はこの親父の魔の手から、この綺麗な人を助けてあげな。
俺がどうにか、この親父からこの綺麗な人を助けようかと考えていると、右の方から俺と同じぐらいの背のヤツが走ってきた。
「ママ!! 探したぜ……ってお前は浪速のペガサス!?」
「アレ? お前はダテ・ザ・キラー!?」
うぉ!? もしかしてこの綺麗な人、こいつのおかん!?
……全然似てへんやん。父親似ってやつやな。
「あら、雪之丞。ちょうどこの方と今のレースについてお話していたのよ。」
「あ、……ごめん。俺勝てなかった。ママのために絶対勝ちたかったのに……」
「いいのよ、雪之丞。頑張るって事が何より大事なんだから。」
雪之丞ってヤツがそのお母さんに頭撫でられとる。
俺もあんな綺麗な人に……あかん、そんな考え、よりによって親父と似とるやんけ!!
「ほ〜、やっぱりお前は俺の息子だな。うん、うん。」
くっ!! 不覚や。いつの間にか、顔に出てたんか。
俺はすぐに被ってる帽子をさらに深く被る。
「それでママ。誰なんだ、このおっさん?」
「お、おっさん!?」
その通りやんけ。図星なのにスケベ親父が微妙に肩を震わしとる。
こりゃ、このお母さんがいいひんかったら、一発殴っとるな。
このお母さんの話によると、お母さんが雪之丞を応援していると、スケベ親父が対戦相手は自分の息子と言って、迫ったらしい。
……アホか!? なんで自分の息子を餌にしとんねん!!
くそ、大阪帰ったらおかんに言いつけたる。
「忠夫〜。何かよからぬ事を考えてないだろうな?」
くそ親父。なんでこんなに勘が鋭いねん。
「所で伊達さん。ここで知り合ったのも何かの縁でしょう。どうでしょう、昼食をご一緒にでも?」
「まぁ、いいですわね。雪之丞、昼食はこちらの横島さん達と一緒に食べましょ。」
「……お、おう。(くそ、なんで俺とママの一時を邪魔するんだよ。)」
こうして、俺たちは近くのファミレスに移動する事になった。
多分、親父は俺たちがいなかったら、もっと高級レストランとか行くつもりだったんやろな。
「おい、浪速のペガサス!!」
「横島忠夫や、お前は?」
「伊達雪之丞だ。今日は確かにお前が勝ったが、次は負けねえからな。それだけだ!!」
負けん気の強いヤツやな。
まぁ、俺は強敵のいいひんレースしたって楽しくないしな。
「だったら来年の全国大会、楽しみにしてるからな。」
「おう、俺は決めたぞ!! 今日から、お前は俺のライバルだ!!」
何かライバル宣言されたな。
まぁ、変なこともあったけど、ファミレスに入ろうとしたら、爆発音が聞こえた。
ドォォォォォン
「何だ?」
「さぁ、交通事故でしょうか?」
「おい、横島。見に行ってみようぜ!!」
「気をつけるのよ〜。」
「お、おい。待てよ!!」
雪之丞のアホが野次馬根性で、爆発がした方に突っ走っていきやがった。
雪之丞のお母さんは、いつもの事なのか特に止めようとしていないし。
「ほら、忠夫。お前も行って来い。」
親父の顔を見ると……このスケベ親父!! 二人っきりになれるチャンスと考えてやがる。
こうなったら絶対行かへんからなと思っていたら、
「忠夫ちゃん。雪之丞の事、よろしくね。」
……仕方ないな。なんか断りづらいねんもん。
俺はすぐに雪之丞の後を追っていくがしばらく走ったら、逆に多くの人がこっちに返ってきた。
「なんや、なんや?」
とりあえず、雪之丞を探さな。
俺はまるで、逃げ帰ってきてる人達の中から雪之丞を見つけようとするけど、そんな簡単にいかない。
グォォォォォ
ビクッ!?
今の声はなんや!? あんな声、人間の出せるもんなんか!?
「な、なんやねん!?」
多くの人達が俺とすれ違っていく。
皆の表情を見れば、よくわかる。
”恐怖”
あかん、いつの間にか足が前に進まへん。だからといって後ろにも戻れへん。
周りも何かから逃げ惑うのに必死で、一人のガキにかまってられへんわな。
「横島!! ちょうどよかったぜ!!」
「―――!? ゆ、ゆゆ、雪之丞!?」
金縛りが解けて、俺の体が俺のモノになってくれた。
声の方を見ると、雪之丞が一人の可愛い女の子に肩を貸して、遠くからゆっくりと迫ってくる何かから、必死に逃げていた。
「横島、担ぐの手伝え!!」
「お、おう。」
「ごっ、ごほっ! ごほっ! ごめんなさい。」
どうやら、この子は体が弱いらしい。
俺はすぐに雪之丞に近寄り、二人で協力して逃げる。
グォォォォォォォ
ビクッ!?
し、心臓に悪い叫び声や。
俺はその声の方に振り向き―――
「あれ……なんやねん?」
―――後悔した。
「ちっ、距離が詰まってやがる。」
「どどどうするんだ!?」
「ご、ごめんさない。私の事は……」
「タンマッ。」
私の事はほっといてってか?
そんな事出来るなら、とっくにしてるって。
「ねえ、名前は? 俺、横島忠夫。」
「ユリ子です。本当に、ごほ! 本当にごめんなさい。昔から体が弱くて……」
ピキッ
ユリ子、おかんと同じ名前かい。
少し固まってしまったが、今はそれどころじゃないわ。
「がんばろな、ユリ子ちゃん。俺が必ず助けてやるから。」
「……俺を忘れんじゃねえ。」
ユリ子ちゃんは何も言わず、涙を少し流して、コクリと頷いてくれた。
うん、この子のためなら少しは頑張れるかも。
俺は深呼吸をして、
「……雪之丞!! このままじゃ逃げられへん。それはわかってんな?」
「だからどうしたってんだよ!! 何か他に方法があんのか!?」
「俺たちが囮になって、あの化けもん引き付ける!!」
大丈夫、伊達にクラスメイトから、Mr.スカートめくりと呼ばれてへん。
あんなノロマなヤツなんかに絶対つかまらへんわ。
「……おもしれえじゃねえか!! 行くぜ、横島!!」
「あ、あの、そんな危険な。」
ユリ子ちゃんの声は最後まで聞こえなかった。
何故なら、それをかき消す怪奇音が鳴り響いているのだから。
グォォォォ
心臓がバクバクする。
でも、やっぱり可愛い女の子の前ではカッコつけたいわけで。
「へん、このノロマ!! 俺たちを捕まえてみ!!」
俺と雪之丞は化け物の前で、左右に分かれて、化け物の後ろに回りこむ。
見事、化け物はこっちを狙い定めてきたようだ。
「雪之丞、後はユリ子ちゃんと出来るだけ離すぞ!!」
「レースは負けたが、かけっこでは負けねえぜ!! 浪速のペガサス!!」
上等。
こちとら、King of スカートめくりと言われてんねん。
俺と雪之丞は何も考えず、全力で突っ走る。
グォォォォォ
化けもんも俺たちにちゃんとついて来ている。
これだけ、離れれば、ユリ子ちゃんも大丈夫……
「行き止まり?」
多分、ここが爆発したところだと思う。
道路がメチャクチャになっていて、至る所で陥没してとても前に進めるところなんてない。
グォォォォォ
やば、化けもんが迫ってきた。
雪之丞の方を見ても、何かいい案が浮かんでいるとは思えない。
えっと……やばいよな?
思わず後退しようとするが、したら落っこちるわけでどうしようもなく。
「どどうしよう!?」
「ししるるか!?」
俺も雪之丞も涙声で相談するが、化けもんが迫って来るのを待つしかなかった。
「ママ……」
「おかん……」
もう、数メートル先に人の顔をした化けもんがいた。
化けもんはすぐに俺たちをどうにかせず、眺めている。
「ゲッゲッゲ、ナマイキダガウマソウナガキだ。」
うわ!? この化けもんじゃべりやがった。
夢に出てきそうだ。今日は寝る前はしっかりトイレに行こう。もちろん生きてたらだけど。
俺たちはどうしようもなくただ、呆然としているしかなかった。
もう、何も考えられなかったんだと思う。
だけど、
化けもんが徐々に迫ってきた時、
ヒーローが現れたかと思った。
「サアテドチラカラニスルカ」
いつも、おかんにへーコラしてて、
「イヤドウセナライッキニタベルカ」
ナンパばかりしているスケベ親父だけど、
「ソレジャイタダキ―――」
「山より高い父の強さを見とけ、忠夫!!」
この時だけは、カッコよかったから。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「よくやったぞ。お前らは一人の少女を救ったんだからな。」
どうやら中々戻ってこない俺たちや、逃げ惑う人々を見た親父が急いで駆けつけてきたらしい。
途中でユリ子ちゃんに会って、俺たちが行った方を聞いてここまで辿り着いたようだ。
そして、あの化けもんは悪霊と呼ばれていて、何か知らんけど、何処かのGSというヤツが除霊に失敗して、逃亡していたらしい。
まぁそんな事どうだっていいや。
ユリ子ちゃんも後で両親に会えたらしく、さっきお礼をいって帰って行った。
「……じゃあな、横島。」
「おう、また次の大会でな。」
俺たちは駅前で、再会の約束をした。
「それじゃ伊達さん、お元気で。おい、行くぞ忠夫。」
「わかってるよ。」
俺と親父は駅の中に入っていく。
これでアイツと会えるのも、来年なんやろうな。
結局、次の大会で雪之丞と会うことはなかったが、
――フ……秘密の特訓でもしてきたか?――
数年後GSとして、再開した。
――ま、そんなとこだ。――
もちろん、お互い忘れてだが。
――浪速のペガサス と ダテ・ザ・キラー・完――
あとがき
ちょっと、一人称の練習をしてみました。