窓からのぞく 月
遠くできらめく 星
やわらかいひかりが 入ってくる
心はつめたく
体は火照り
そしてしずかな空気に身を任せている
むきだしで しろいコンクリートのうえのソファー
そこにだらしなく手足を投げだし
ゆったりとくつろぎ 時間を潰す
ときどき ここからはるか遠くに浮かんでいる雲が
黄色くて丸い光源を遮って部屋を暗くする
そっと凍った心から
忘れかけていた動きをとりだす
大事な袋をあけるように
そーっとそーっととりだす
それでもやっぱり
一部がぐずぐずと音を立てて崩れてしまった
てのひらに残ったものだけを
ゆっくりとなめた
固いソファーの 古くなったスプリングが
音をたててちぢむ
怠惰がむくままに だれるわたし
伸び伸びた金色の髪が 月の光に映えていた
ぽーっと 暗闇にうかんでいるように
ふと
あのときのこころを思い出してみた
目の前の黒にほだされ
憎悪に身をそめたあのとき
愉悦と快楽にそまったあたし
苦しみがなくなったあたし
生まれるまえの
死ぬまえの
記憶
人を騙して
獣だった
記憶
全てを欺き
歴史も欺き
生まれ変わるであろう
あたしのために
反乱をあおり
ごく自然に
不可解に
死んだ
本能が人を憎めと言う
そして私の本心が同じことを言う
あたしは
あたしの正体は
狐じゃない
ただの闇だった
闇が狐に化けただけだった
殺せ 殺せ と耳に呟きかける
いやだったけど
いまではそうではない
自分の意思で
闇になった
苦しかったけど
いまではそうではない
自分の意思で
苦しくした
未練はあった
ありすぎるほどあった
後ろを振り返れば
それがあった
たとえば
赤いメッシュとバンダナ
たとえば
あぶらあげ
たとえば
心
失ったものは多かったけど
得たものもあった
取り戻せないものは多かったけど
残ったものもあった
手放したものは多かったけど
取り替えられるものもあった
黄色い優しい光
雲が晴れ
月が見える
心地よい 憤怒
落ち着かされる 憎悪
目を閉じると
世界に溶ける あたし
何者にも脅かされない意思の光に怯え
人の暗部に逃げ込む あたし
まるで宇宙のような
そんな世界
人の心と心を渡り歩き
苦悶し
または歓喜する
ここには月がない
暗闇と暗闇が支配している
星のように
人間の意志が煌く
でも月はない
太陽もない
希望はある
絶望もある
救いはない
目を開くと
月が浮かんでいた
暖かい光
すれきった心を癒してくれる光
魔でも
冷たくて苦しい世界は
目を開くと掻き消える
人の心
その闇
あたしはそれだった
忌み
憎悪
嫉妬
傲慢
色欲
破滅
人間の心に潜むそれら
それらの化身 あたし
また目を閉じて
親殺しを思い出す
生まれ故郷の
親の元へ歩み寄る
全ての人間の
全ての心が
故郷で
親
わたしはソファーから立ちあがった
まあるくてまっきっきなお月さまをみあげた
なんだかお月さまはわたしに向ってニコニコしているようだった
だからわたしもお月さまにまけないようにニコニコしてあげた
わたしがニコニコしていたら
ドアがぎいいっておとをたててあいた
バンダナのお兄ちゃんと
犬っぽいお姉ちゃんがかなしそうにそこにたってた
わたしは「ひさしぶりね」と言った
会えてうれしかったから笑った
あっはっはって笑った
でもお姉ちゃんたちはかなしそうにしてた
しょうがないからもっと笑った
もっともっともっともっと笑った
笑って笑って笑って
最後には全部壊したくなった
ソファーを
ゆかを
てんじょうを
ドアを
まどを
全部全部壊した。
お月様も壊したかった。
もっと壊したかったのは、
お姉ちゃんとお兄ちゃん。
そして一番壊したかったのは、
私。
後書き
ども、zokutoです。 こんばんは。
本性（オリジナル）を現した玉藻前でした。
原作で玉藻前のことを擁護していた美智恵さんを見て
「昔のことなんだから本当かどーかわかんないじゃん」て思ったので書いてみました。
まぁ、分岐みたいなものとゆーことで。
イロモノなのは勘弁してくだちい。
タイトルとかその他もろもろは、zokutoの趣味ですから。