「起きなさい!!!」
これで、5回目。少女が、ベッドで寝ている少年に叫ぶが、少年は起きようとしない。少女の目尻が上がる。それとほぼ同時だった。少女の美しい脚が舞い上がった。この時、少女の正面に居たならば、魅惑的なスカートの中が覗けたかもしれない。まぁ。それは置いとくとして、少女は少年の腹部に踵落としを喰らわした。
「ぶっげぇ」
蛙を踏み潰した時のような声がした。流石に少年は目を覚ましたが、痛みの所為で飛び起きる事は出来なかったが。
「何をするんだよ・・・蛍・・・」
「忠夫がいけないのよ!!5回も呼んだのに起きないんだもん」
蛍と呼ばれた少女が、そっぽを向いた。忠夫と呼ばれた少年は腹をさすりながら、ベッドの頭に置かれていた置時計に手を伸ばし覗いた。
「げぇ・・・こんな時間かよ・・」
何時も起きる時間よりも30分も過ぎている。遅刻とまではいかないが、自分が担当している朝食は何とかなりそうだが、弁当を作る時間はなさそうだ。やや、寝ぼけている忠夫は判断した。
「忠夫が起きてこないから、私が作ったんだからね。朝ごはん」
その発言に忠夫を一気に覚醒した。急に立ち上がり、一階にある居間に向った。そこにあるテーブルにはトースト、煎り玉子、ソーセージが並んでいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
忠夫は煎り玉子に摘み上げ、口の中に入れる・・・・・・と、口を押さえ、膝を突いた。蛍はやや甘党だが、これは甘いと言う次元を通り越し、なんとも言い難いものなっている。おそらく、第二次世界大戦で米軍が使用していた乾燥煎り玉子の方がマシであろう。
「だ・・・台所は・・」
忠夫はよろめきながら台所に向うと、そこには惨状があった。いや、混沌と言ったほうが正しいかもしれない。
「・・・・・・・・・片付けるのは俺なのに・・・はぁ・・」
忠夫は、朝っぱらから、深いため息をした。
横島 忠夫と横島 蛍は双子の兄弟である。両親はよく分からない国へ長期出張中である。その為、家事全般を二人でやらなければならない・・・が、蛍はその家事は全く出来ない。それどころか、させると、かえって仕事が増えるので、忠夫は家事全般をする事になった。
忠夫が家事を得意としているのは色々、理由があるのだが、今回は省くが・・・・。
台所の惨状を放置し、学校にヘと向う途中
「だから、誤ってるじゃない!!」
蛍がプゥと頬を膨らませながら言った。可愛らしいのだが、所詮は双子の片割れのしぐさだ。忠夫はムスッとした顔で蛍の方に振り返った。
「寝坊したのは悪いと思ってるけどな・・・・せめて、台所を汚すな・・とは言わん。せめて、朝一でも片付けられるようにしてくれよ・・・大体、煎り玉子を圧力鍋で調理する?」
「え?圧力鍋でやれば、なんでも美味しくなるんじゃないの?」
コイツは・・・・忠夫が内心、突っ込みを入れるが、自分の片割れは学力、運動ともの優駿なヤツだ。現在通っている『六道院学園(最近、共学になった)』の霊能科はGSを育てる他に能力別の、学習面も含めた総合的な能力でランク付けされている。Sを頂点にA,B,C,Dの5段階に分かれている。蛍はその中のSに属している。
「なるわけ、ないだろ・・・まったく。蛍、お前は絶対に入るなよ・・・・台所には」
「じゃ~寝坊なんてしないでよね」
蛍がそっぽを向いた。忠夫はそれに対してため息をつくばかりだった。正直、忠夫自身は普通の高校に通うはずだったが、何故か六道院学園に通っている。しかも、学力は兎も角、霊能力はお寒い限りだ。常に補講がついてまわる。
「そ~いえば、忠夫。アンタ、また補講だって?」
「うん?・・・・ああ・・・まぁ」
忠夫はいかにもめんどくさいと言った感じで答えた。
「担当は?」
「美神先生だけど?」
蛍の目尻がクイッと上がった。
「ふ~~ん、良かったわね。綺麗な先生で」
「っま・・ぺちゃパイの蛍よりか、マシだわな」
次の瞬間、忠夫は錐揉み回転をしながら、地面に倒れた。蛍が打撃技を繰り出したらしい。
「ホンマのこと言っただけやろが!!何すんねん!!」
「煩いわね!!!人が気にしている事を!!」
血まみれになった忠夫の抗議に、蛍は顔を真っ赤にしながら叫んだ。蛍の胸囲は平均値よりも低い。
「ったく、お前は毎回、毎回、なんで、俺が美神先生の補修を受ける時は不機嫌になるんだ?蛍には関係ないだろ?」
ッグ・・と、押し黙る蛍だが、すぐに押し迫る。
「アンタはセクハラ魔人なんだから、美神先生に何かするんじゃないかって、心配なだけよ!!今は、セクハラは死罪なのよ!!し・ざ・い!!」
「セクハラと失礼な!!俺は綺麗な女性が好きなだけじゃい!!!」
「それが、いけないのよ!!この節操無し!!!」
六道院学園の朝の名物を周りの生徒達は失笑混じり登校して行った。
忠夫が教室に入ると、既に教室は雑談をする生徒で賑やかな状態となっていた。
「横島さん、おはようですジャ~」
と、高校生にしては大柄な人間が手を振ってきた。大河虎吉・・・通称、ダイガー。女性恐怖症がありながら、女生徒がほとんどを、占める六道院に入学したつわものだ。
「ああ・・・おはよう・・って、男に言われても、嬉しくないな・・」
「うう・・非道ですじゃ~~」
タイガーは大げさな泣き方で答えた。
「泣くなよ・・・おい」
忠夫が席に座ると、女生徒の集団を掻き分けて、金髪の少年が近寄ってくる。ピエトロ=ド・ブラドー。ヴァンパイア・ハーフの彼は美少年と名で通り、女生徒から憧れの的だ。
「朝から、見せつけやがって・・・・ッケ」
「ひ・・酷いですよ・・・挨拶ぐらいして下さいよ・・」
半分、泣きながら近づいてくる。ピエトロ・・・ピートは、なんだか知らんが、忠雄の事を気に入っているらしい。変な意味でないが、タイガーも忠夫の事を気に入っている。二人は優秀な霊能力者なのだが。
そして、もう一人。
「遅かったな。我が永遠のライバル!!」
「煩い、熱血バトルマニアめ」
忠夫は伊達雪乃丞だ。彼は一年の頃、模擬戦で戦ったあと、忠夫の事を一方的にライバルとして決めつけ狙ってくるのだ。忠夫にとって迷惑この上ないヤツだ。
「そ~~言えば、補講でしたっけ?横島さんは?」
唐突にピートが聞いてきた。
「ああ・・・おまえ等と違って、非優秀だからな・・・それに、どちらにしろ、俺は荷物持ちだしな」
と、その時、教室のドアが開けられ担任教師が入ってきた。
「オラ、席に着け!!ジャリ共!!」
出席と朝の連絡を済ました担任教師は一旦、職員室に戻ろうとして、ドアに手をかけた時、横島の方に振り返った。
「ああ・・横島、お前は授業に出んでいいぞ」
「はぁ?何でですか?」
担任教師は半眼で横島を見ながら言った。
「何でって・・・お前、補講だろうが?授業の方は出席扱いなるから心配するな」
「うんな・・アホな」
で
「ゼ~~~~ゼ~~~~ゼ~~~ゼ~~~」
忠夫は日本人の平均身長ほどの大きさの荷物を背負いながら整備をされているか、いなのか、車が通れそうで、通れないという中途半端な道を歩いている。
「横島君、だらしないわね」
「だらしいって・・アンタな・・・・荷物を全部、俺に持たせて・・・・スタスタと」
美神が振りかえる。
「へ~~~~補修の身で・・・私に逆らう気?」
忠夫の頭を鷲摑みし、ギシギシと頭骨をきしませた。
「私がこんな辺鄙な温泉で・・・わざわざ、除霊をしなきゃいけないのよ♪分かる?」
ギシギシ
「しかも、500万ポッチで?分かる?」
「いや・・・基本的にただ・・・・」
「うん?何か言った♪」
さらにキシミを上げる頭骨。
「い・・・いえ、何でもありません・・・スイマセン」
美神は手を離すと、横島が地面に倒れ付した。
「まぁ・・私は先に行くからね♪がんばって♪」
倒れ付すのを後目に、美神はスタスタと歩き去っていった。その後ろ姿を見ながら忠夫は呟いた。
「・・・・・あの鬼め」
『すいません!!』
呟いた瞬間、可愛らしい声がして忠夫が振り向くと、可愛らしい少女がいた。巫女装束を着ているが、宙に浮いていた。だが、手には人の頭部大の岩を持っていて、今にも振り下ろしそうだった。
『えい!!』
「うぉ!!!」
と、避けた。頭部が先ほどまであった場所に、少女の手にした岩が振り下ろされた。ドスン・・と軽い地響きを立て、舗装されていない地面に喰いこむ。
『ああ・・なんで、避けるのですか?』
「避けるわい!!ボケ!!!」
忠夫が勢いよく起き上がり、少女に詰め寄った。
『え・・え~~と、あ・・そこに、鮒虫が・・・』
「ここは山の奥じゃい!!」
『じゃ~~・・・松葉虫?』
「いるかもしれんが、人間様には害はないだろうな」
無言で見詰め合う二人。
『ううう・・・・折角、死んでくれる人を見つけたのに~~~!!!』
と、言って少女が消え去った。
「・・・・ゆ・・幽霊だったのか・・・」
と、ポケットの中の携帯が震える。何時もバイブにしてあるためだ。通話ボタンを押し、スピーカーに耳を当てると、大声で美神の声が聞こえてきた。
「この、うすのろ!!何やってのよ!!こっちはもう着いてるのよ!!アンタに全部道具預けているだからね!!!」
「はい、はい、分かってますよ・・・・・」
忠夫は溜息をついて、オフにした。
「ったく、日給250円で、こき使ってくれるよ・・・はぁ」
あとがき
まずは、おキヌちゃんは、幽霊のままです・・・どなしましょうか