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▽レス始

「マッドネス5 『出番がないぞ ヨコツマン』(GS)」

zokuto (2005-02-14 00:31)


 この世にマッドサイエンティストという職業がある。

 それは、果て無き知識の末を見るべく命をかけるものたち。

 社会倫理などを数百光年かなたに置き去りにし、自分の限界を目指すものたち。

 お決まりの台詞は「こんなこともあろうかと」

 好きな言葉は「ワシは天才じゃぁ〜」

 趣味・特技は、勝手に変なものを作り出す事。


 それらの頂点に立つ男が二人。

 ヨーロッパの魔王こと人類最高の錬金術師『ドクターカオス』

 そしてそれに双璧をなすのが『プロフェッサーヌル』

 両者とも浅からぬ因縁を持つ者同士であり、現在では敵対している。

 それというのも、ドクターカオスの作り出したヨコシマンがプロフェッサーヌルの所属する悪の秘密結社アシュロスを壊滅させようと躍起になっているからだ。

 そして今、プロフェッサーヌルが今世紀最大の発明を行おうとしている。

 必要であれば何もかも捨て去っても発明・研究に命をかける男の結晶が、今ここに生命の息吹を吐く。

「ふはははははっはっはー! 目覚めよ、テレサ! お前はあのにっくきドクターカオスのアンドロイド『マリア』に対抗すべく作られたワシの最高傑作、超絶アンドロイド『テレサ』じゃぁあ!」

 ここ、アシュロスの地下基地では、世紀の瞬間を迎えていた。

 最新鋭のオカルト技術が結集し、とてもよい環境が整った部屋。

 白い壁にライトが反射していやに明るい。

 機材が置かれる前であればおおよそ八十坪ほどの広さの部屋は、今では空いているスペースを2割ほどしか残していない。

 そしてそのほんのわずかな残りも、真ん中に置かれた巨大な手術台のようなものが占拠していた。

 手術台と向き合っているプロフェッサーヌルは複雑な呪文を唱えている。

 その呪文に反応しているかのように、空気がパチパチと音を立てた。

 そのパチパチ音は次第に大きくなっていく。

 手術台の上には一人の女性が仰向けに寝ていた。

 正確には『女性らしきもの』ではあったが。

 流れるような金髪をポニーテールにしてまとめ、透き通るような白い肌と、目鼻が綺麗に彫り込まれた顔。

 どこをとっても絶世の美女と言っても差し支えない逸材。

 しかし、今はただの魂の無い芸術品だった。

 そのアンドロイドは、名前を『テレサ』と付けられた。

 空気の弾ける音が一層大きくなる。

 ヌルの口から紡がれる言葉は段々と呪力を増し、濃密な霊的要素が辺りを包み込む。

 そして、現れた魂の息吹。


 人形の頭部に現れた眩い光源。

 神のものとも魔のものともましてや人のものとも言えぬ不思議な音。

 微弱な振動。


 ゆっくりと、青い瞳がまぶたの裏から現れた。

 上半身が曲がり、活き活きとした動きを見せる。

 顔の横に広がった金髪を片手で戻し、ふっと微笑む。

 美しい女性、魂がこめられた人形。

「おはようございます、マスター」

 小鳥の鳴き声のような耳に優しい声。

 微笑みと、そして目が覚めるような美しさ。

 殺風景な部屋で無機質が漂わせる、華やかさ。

 すっと目を細め、たおやかな足を手術台から下ろそうと横にずらす。

 カモシカのように白い足。

 曲線美を具体例で表すのならばこれが一番最適であろう。


 そして、


「ふふふふふ。 私のことはマスターではなくプロフェッサーと呼べ、テレサ」


 ゆっくりと


「はい。 こだわりがあるのですね」


 その体を


「……わしの本名なのだよ……プロフェッサー」


 地面に叩きつけていた。


「はうぅぅ!! オートバランサーにエラー発生!?」


 顔を床にコンニチワさせ、あわてふためく新しい生命テレサ。

 顔面を真っ赤にしてよろよろと立ちあがるも、今度は壁にごっちんこ。

 ついでに辺りに置いてあった機材に足や手を突っ込んで、あっというまに全部スクラップにしてしまった。

 そんなテレサを見て、プロフェッサーは一人笑っていた。


「フゥハハー! 転ぶ美女はアンドロイドだ! 何もないところで転ぶ美女は洗練されたアンドロイドだ! ほんと、ここは地獄だぜっ!」


 すかさず手元にあった黒い携帯電話を取りだし、ぴぽぱとボタンをプッシュ。

 最近流行りの萌えアニメのオープニングテーマが流れ、電話が着信を知らせる。

「あっ? カオっちゃん? オレオレ、プロフェッサーだけど。 ついにオレ、カオっちゃんにも出来なかったことしたぜ! ドジで気が弱くて非力なアンドロイド作ったんだ! 今からそっちいかせるから……ああ、もちろん勝手に出歩いて迷子になっちゃう機能まで搭載したんだ。 あぁ、わかった、じゃあ八時に例の場所でなー」

 まくしたてるように話しを終えたプロフェッサー。

 電話を懐に仕舞いテレサに顔を合わせ、今後のスケジュールを伝えようかと振り返った。

 しかし忽然と消えているテレサ。

「……どこにいったんじゃ?」

 外でガラガラと何かが崩れる音と、人の悲鳴。

 そして「あぅぅ〜〜ごめんなさいですぅ〜〜」と大声が。

 

 

 

 

 結局、『勝手に出歩いて迷子になってしまう機能』のおかげで作ったその日にテレサはアシュロスを脱走したそうな。

 

 

 

 
    マッドネスヒーロー5 『出番がないぞ! ヨコツマン』

 

 

 

 

 雪之丞はドキドキしていた。

 このうえなくドキドキしていた。

 まさに今の瞬間、心臓が破裂してしまってもおかしくないくらいドキドキしていた。

 彼の熱い視線を受けているのは、彼の興奮して振るえる手が操る枝切りバサミの先でも、横で「おっ、今日は昨日よりも調子いいなぁ」と褒めてくれる親方でもない。

 庭でゆっくりと紅茶を飲んでいる冥子……の周りで働くメイドの弓かおり……のすぐ横で弓をナンパしている横島忠夫だった。

 極めて自分の母親に似ている(と思い込んでいる)横島に、雪之丞は恋心を抱いていたのだ。

 恋に理由なんてない。

 ただその気持ちだけが昂ぶって、恋になるだけ。

 と、本人は思い込んでいる。

 また、横島に熱い思いを滾らせている一方で、その横島にナンパされるのを頑なに拒絶している弓に、嫉妬を覚えてもいた。


 何故あんな女なんかに横島がナンパするのか、というよりむしろナンパを無視するとはどういう了見だ、横島の誘いだぞ、受けたら受けたで俺の恨みの頂点に達するが、その態度が気に食わない。


 密かに雪之丞は思った。

 あの自分の心を盗んだ男の名前は、既にしかけておいた盗聴機をもとに知った。

 あとはどのようにして接触するかが今後の目標だった。


 もう一度枝切りはさみを落すか?

 雪之丞は思った。

 見栄えがないな、もう少し技巧を凝らした出会い方を……


「やはり……食パンを齧りながら……」

「何を言っているんだ、新入り? もっと集中しろ」

「あ、すいません」

 思わず心に思っていたことを言ってしまったことに驚き、軽く溜息をつく。

「気をつけろよ。 オレはお前が十年に一度出るか出ないかの逸材だとおもっとる。 昨日みたいなつまらないことで失敗して、芽を潰したくない」

「わかりました」

 ここまで期待されていたのか、と雪之丞は嬉しくなった。

 親方に会ってまだ三日しか経っていないというのに、ここまで厚く思われているとは想像もつかなかった。

 同僚には『鬼の吾郎』とまで呼ばれている親方が、自分だけを贔屓にしてくれる。

 そのことだけでも嬉しかった。

 雪之丞は父のことを知らないが、もし、いるとしたのならば親方のような人だったのだろうと。

 親方の焼けた肌が太陽に映え、白髪交じりの髪の毛をはちまきで止めている顔をじっと見つめる。

「さて、おれは他の場所で手入れをしてくる。 お前はしっかりやっとけよ、くれぐれもミスすんじゃねぇぞ」

 雪之丞は声も出さず頷き、再び枝切りはさみの先端に意識を集中させた。

 親方は他の場所へと歩いていった。

 雪之丞の口から、横島さんと言葉が零れ落ちた。

 切られた枝がどんどんと地面に落ちていく。

 雪之丞が横島を見て興奮すればするほどそのスピードは増し、山のように積みあがっていく。

 それでも全然木の形が崩れたものになっていないというところは卓越した才能のなせるものだろうか。

 遠目で見ていた横島が、冥子と弓と一緒に屋敷の中に入っていく。

 始終、ずっと横島は弓にモーションをかけていた。

「ケッ、あの女め。 くやしくなんか……くやしくなんかないぞ……いつか俺にも幸福が訪れる事があるさ」

 雪之丞は空を仰ぎ見た。

 目から溢れる涙が零れないように……。


 そんな雪之丞からほんの少し離れたところに、人影が一つ、立っていた。

 それが覚束ない足元でゆっくりと雪之丞に近づいてきたのだが、彼はそのことに気付かなかった。

 涙を抑える事に必死で辺りの気配を警戒することが出来なかったからだ。

 着実に人影は雪之丞が乗っているはしごに近づいていった。

「はうぅぅ! 危ないですぅぅ!!」

 力の抜ける、それでいてかわいらしい声が雪之丞の耳に飛び込んだ。

 しかしそのときはもうすでに手遅れで、人影がはしごに衝突し、尻餅をついていたところだったのだ。

 激しい揺れとともに雪之丞の目の前が揺れる、揺れる。

 目の前の木が左右にぶれたかと思うと、次の瞬間にはどこまでも突きぬける青い空が見えた。

 そして襲い来る衝撃。

 背中に訪れる鈍痛。

 激しい大きさのはしごが倒れる音。

 はさみが大きく跳ねあがり、雪之丞の頭から数メートル離れた地面に落ちた。

「ごごごごごご、ごめんなさいぃ! なんでか知らないけどオートバランサーが、不都合を起こすように設定されてまして。 私が悪いんじゃないんです、プロフェッサーが悪いんです。 と、とにかくごめんなさい」

 人影が雪之丞の近くによってくる。

 次の瞬間、雪之丞は追い討ちされた。

「はぅ! またオートバランサーの重力変更が……ああっ!」

 すってーんという音より、ぐしゃという音の方が相応しい頭ダイブをかまされる。

 人の頭の重さを超越した重量が体の腰辺りを軸にして、雪之丞の腹に直撃。

 ボケキャラだったらいいものの、彼が一般人であったならばハラワタをぶちまけられていただろう。

 幸か不幸か、『げぇほげぇほ』だけですんでいた。

「なにもんだよ、おまえは!」

 その殺人級の重量を誇る頭部をどかし、慌ててふらふらしている女を問い詰める。

 この敷地では一度も見かけたことのない人間で、かつ先ほどの不明瞭な言動。

 普通の人間には見えず、かといって一見して妖怪にも見えない。

「あ、申し遅れました」

 ペコリと頭を下げる。

「わたくし、プロフェッサーヌルに開発された特殊局地専用メイドアンドロイド『テレサ』と申します。 どうぞよろしく」

 アンドロイドと聞いてなるほどと思い、聞いた事のある名前で驚愕する。

「プロフェッサーヌル! お前、アシュロスの手先か!?」

「あ、おにいさんアシュロスをご存知なんですか! よかったー、誰に聞いても知らない、わからないと答えるばかりで困っていたんですぅ。 あの、もしよろしければアシュロスまでの道を教えて頂けないでしょうか」

「……は?」

「わたし、迷子なんです。 GPSもなにもついていないし、武器も無いし出力も低いし……なんでわたしなんかが造られたのか、わたしでもわからないくらい……で」

 テレサは下を向く。

 手で目を擦り、涙を流していた。

 なるほど、と雪之丞は悟った。

 こいつは俺と同じ存在なのだ、と。

 アシュロスから無用の烙印を押され追い出されて、それに気付いていないかわいそうなやつ。

 そう勝手に解釈したのだった。

「わかったよ。 俺がお前の助けになってやる」

「ほえ? よ、よかったです。 わたし、方向音痴プログラムが発動しっぱなしで、数分毎に自動マッピングデータが消去されて、同時に方位がシャッフルされちゃって……とにかくっ、助かりました」

 再び頭を深深と下げるテレサ。

 うんうん、と頷きその手を引っ張る雪之丞。

 ほえ、と声を上げズルズルと引っ張られるテレサ。

 安心しろよー、と微笑む雪之丞。

 ちょっとまってちょっとまって、と言って転ぶテレサ。

 おいおい気をつけろよ、と潰された手を振って痛みを忘れようとする雪之丞。

「って! 何するんですか、あなたっ!」

「お前がここで働かせてもらうように口聞かせてやんだよ。 アシュロスから離れたから、仕事してかなきゃ生きていけないだろ」

「あ、そーですねぇ。 でも、わたし、アンドロイドですけど?」

 そしてその勘違いに巻き込まれ、流されるテレサ。

 思考回路が非常に簡略的にされていて、人間風に言うとドジというか寧ろバカなので思わず納得してしまう。

 よい風にいえば生まれて間も無い子供のような純粋で無垢、悪い風に言えばただのバカ。

「大丈夫バレないようにすればいいし、バレても案外とここの人達は柔軟性あると思うから」

 にこにこと笑う雪之丞。

 その優しそうな雪之丞を見ていると、テレサも「あ〜、なんかもうど〜でもいいや〜」という気持ちになってきた。

 シュークリームほどの思考回路しか持たされなかったテレサ、不幸でなければたいてい幸せなのである。

 彼女の先に待つものは一体なんなのか。

 

 
 かくしてプロフェッサーヌルの最高傑作『テレサ』は運命の悪戯か、アシュロス、反アシュロス勢力とはまた別の第三勢力に組み込まれていったのだ。

 

 

「はっ、はっ、はーっくちょん」

 可愛いくしゃみ。

 アンドロイドのくせに唾と鼻水を吐き出し、それを雪之丞にぶちまける。

「うぇ、きったねぇなぁ。 ……ほれ、ティッシュだ、ちゃんと拭いとけよ」

 心優しい雪之丞。

 下心無い行動で接する。

 もっとも、下心を浮かばせようがないだけなのではあるが。

「あ、ありがどうございまぶ……うっくし。 噂でもされてるんですかねぇ」

「アンドロイドは噂されたらくしゃみをするのか? まったく、面白いやつだな、お前」

「え? えへへ、プロフェッサーの趣味なんですけどね。 これって、全世界のコンピューターをハックして、誰かが噂してたらくしゃみするようにプログラミングされてるんです」

「……無駄に高性能だな、お前」

「えへへ。 そーでもないですけど」

 ぺろっと下を出すテレサ。

 そのかわいらしい仕草に際立った反応をせず、再び歩いていく。

 逞しいといえば逞しく見える背中が、ゆっくりと小さくなっていく。

 そんな彼を見て、テレサが小さく呟いた。

「雪之丞さんって、優しいんですね」

 テレサは純粋で、まだものを知らない。

 それはプログラミングされた通りに出された言葉だったのか、それとも……。


 ただ一つだけ言えることがある。

 それは勘違いがもう一つ新たに生まれたということ。

 

 

 

 一方そのころ、アシュロスの基地では。

「おおーい、テレサーっ、かえってこーい!」

 プロフェッサーが嘆いていた。

「まだメイド服も、ネコ耳も、バニーガールも、子悪魔衣装も、キャラモノコスチュームも着てないだろぉ〜〜、帰ってきておくれ、テレサーーっ」

 とりあえず、変態だった。

 

 

 
    続く


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