「・・美神さん」
「んー?」
「チョコ下さいっ!!」
「・・ストレートねー・・」
ぽりぽりぽりぽり
「って何一人でポッキーなんか食ってんですかー!!」
むきー!!な感じで暴れているのは横島。
今日はパレンタインデーなのだ。
しかも、二人が正式に恋人となって、初めての。
そして、只今、部屋の中には二人っきり。
これで期待しない筈も無く。
「あーはいはい、解ったわよ。はい♪」
しかし、目の前の女は、ごく軽く、手に持っていたそれを、ひょいっ、と差し出すのみで。
「・・何ですか、コレは」
「ん?ポッキー♪」
「残り物じゃないですかぁ~っ!!やだやだやだーーーっ!!折角のバレンタインなのにーーーっ!!恋人同士の甘い一時がセオリーと違うんですか!!こんなん詐欺やーーーっ!!!」
「あーもー、暴れんじゃないのっ!!」
「・・あぅ」
ダダッ子状態の横島の頭をぺしっ、と軽く叩きつつ。
「じゃあ、私自ら食べさせてあげるから、機嫌直しなさいな。ほら、あーん♪」
「ぶぅぅ・・」
まだ多少不満気ながらも、大人しく口を開ける横島。
ぽりぽりぽり・・
「・・何か雛に餌あげてるみたいよねー」
「・・うぅっ、愛が欲しい・・」
けらけら笑う美神と、涙を流す横島。
それでも空気は穏やかだ。
因みに美神、ポッキーなどではない本命チョコはきっちり作っていたりする。
ただ、横島が事務所の三人や周りにいる女性達に少なくはないチョコ達を貰ってにやけていたので、少しばかり意地悪をしていただけである。
(うーん・・渡すタイミングが掴めないわー・・)
今日中に渡さないと基本的に意味ないしねー、とか思いながら。
「・・あ、横島クン、ちょっと目ェ閉じてなさいな♪」
「はぁ?何でですか?」
ぽりぽりと、只今三本目。
「いーじゃない。その方がチョコの味を堪能出来るわよ?」
「いや、たんのーって・・。美神さんの顔間近で見れる今の方が良いんですけど」
さらりと言われたその言葉に、一瞬動きが止まる。
そして、かーっと朱に染まっていく顔。
「・・顔、赤いですよ?」
にっ、と面白そうに笑って言ってくる横島に、ぐっ、と詰まって。
「と、とにかく目ェ閉じなさいよーーーっ!!」
ぽかぽかぽかぽか!!
「ああっ美神さんの愛が痛いっ!!」
「ばかーーーっ!!」
絶対に痛くはないだろう擬音と、笑いながらやられたー、とか言ってる横島、顔を真っ赤にじたばたと美神。
じゃれあっているバカップルにしか見えない。
・・実際その通りなのだが。
取り敢えず仕切り直して。
「・・めっ、目ェ閉じたわねっ!?」
「はーい♪」
「ったくもう・・」
言われた通りに目はちゃんと閉じつつも、先程の気分が抜けないのか、何やら楽しそうにしている横島にぶちぶち言いつつごそごそと。
「・・ちゃんと閉じてるわねっ!?」
「閉じてますよー。・・何やってんスか?」
「いーから待ってなさい!!」
そして、少しの間の後に。
「・・はい、口開けてー」
「はーい」
ぽりぽりぽり ぱきっ
「んむっ!?」
「・・あ、途中で折れちゃったわねー」
ぽりぽり
「・・何で折れんですか・・」
「いーからいーから。さて、次、次~♪」
「?」
ぽりぽりぽり・・・・・・ちゅ
「むぅっ!?」
いきなりの柔らかい感触に、思わず目を開ける。
「あ、閉じてなさいって言ったのに~」
物凄い至近距離に美神の顔。
「ほあぁっ!?」
「・・気付くの遅いわねー」
「こっ・・これは・・伝説のポッキーゲーム!!」
「伝説って・・」
大袈裟な横島の反応と言動に苦笑する美神。
「愛ですねっ!?これは愛っ!!美っ神さーーーん!!」
「甘い!!」
「ぷぎゃっ!?」
お約束の如く飛び掛かってきた横島を、あっさり躱す美神。
横島、哀れ地へと墜落。
「うぅっ・・やっぱり愛が痛い・・」
鼻を抑えながらしくしく泣く横島に一つ溜め息を吐き。
「もー・・。まだ終わってないんだから、さっさと目ェ閉じるっ!!」
「えぇっ!?まだっスかぁ!?殺生やぁ~~~!!」
「いーから早くっ!!」
「・・ぶーぶー」
口を尖らせて抗議しながらも、座り直して目を閉じる素直な横島。
躾は完璧の様だ。
(くぅっ・・生殺しやぁ~~~!!)
・・心の中では涙を流している様だが。しかも血涙。
「・・じゃ、はい」
唇に指先が触れたと認識する間も無く、ついっ、と口の中に入れられたのは、滑らかな曲線を持つ、一粒のチョコレート。
明らかにポッキーとは別物だ。
「・・みゅ?」
むぐむぐ食いつつ、唐突に形を変えたそれに首を傾げる横島に、くすくすと笑いつつ。
「どうよ?ハート型よ、ハート型~。感謝しなさいよー?」
続けてもう一個投入。
「むぐ・・。本命チョコってやつですか?・・それにしては小粒やなー・・」
「あら、義理にしてほしい?」
「いいえっ!!美神さんの愛が詰まってますからねっ!!じゅーぶんですよ!!じゅーぶんっ!!・・つーか、俺・・」
悪戯っぽく尋いた美神の言葉に慌て、焦った様に声を上げた横島だが、
「・・すっげ、嬉しいですv」
目は閉じたまま、しかし本当に嬉しそうな、見惚れる様な笑顔を返した。
「うぅ・・」
その不意討ちに、思わず照れる美神。
「美神さーん、次のまだですか~?」
にこにこと笑顔で次を待つ体勢の横島に。
「・・全くも~・・」
ぼやきながらも近付いて。
「次はね~・・口開けて、舌出してみて」
「?はい」
「ん、いーこいーこv」
その様子に満足しつつ、ぱく、と自分の口の中に。
少しもごもごと口の中で動かして、溶け出してきたそれを、横島の舌の上へ。
「・・んっ?」
それと一緒に──
ちゅ、くちゅ、ぴちゃ・・
「ん、ふ・・」
「んんっ・・」
それを口腔へと押し込む様に、舌を奥へと進め、舌を絡めて・・。
「んっ・・」
「ふっ・・」
ちゅ・・くちゃ・・
いつの間にやら身体は重なり、隙間無く。
互いの口の中のチョコが溶け切るまで、絡んだ舌が解ける事は無かった。
「・・えへ。おいしかった?」
「・・すっげぇ、うまかったですv」
抱き合いながら、見詰め合いながら、そんなやり取りを交わす。
もう目を閉じる時間は終わった様だ。
甘いチョコレートの香りにつられたか、漂う雰囲気も甘くなり。
「・・じゃ、次はもっとうまいの食っていいですか?」
ぺろっ、と美神の唇を舐めて、おねだり。・・と言うより、疑問形ではあるものの、それは確認の言葉で。
その顔には楽しそうな笑みが広がっている。
「・・ダメ、って言っても食べるんでしょ?」
それは美神も同じ様で。
「そりゃあ勿論♪じゃ、いっただっきまーすっv」
「きゃああんっ♪」
そうして、チョコレートより甘く蕩けた美神の身体を、心行くまで堪能する横島だった。
・・因みに、翌朝までその"食事"は続いたらしい(笑)
オマケ?
「ホワイトデーは三倍返し、お願いね♪」
「え゛」
「期待してるわよ~♪」
ムチャな事を言ってくる美神に、汗ジトで固まる横島。
苦悩。
「・・よっしゃあ!!じゃあその時は、三日連チャンで愛すとゆーコトでっ!!不肖横島、頑張らせて頂きます!!」
「アホかっ!?」
「ぐはぁっ!!」
顔を赤らめ、反射的に横島を殴り飛ばしつつ、
(・・ちょっとそれもいーかも・・)
とか思ってたりする美神だった。
・・物の見事にイチャついてるだけのバカップルネタでした。
因みにホワイトデー話は書けません。そんな濃いえっちはとてもとても・・(目を逸らしつつ)
では!!(逃)