問題!!
それは、ダイオキシン発生の危険性が指摘されるまで、日本全国で使用されていた。
掃除のゴミ捨て、見られたくないテストや証拠隠滅。
何でも消せる、魔法の鉄の箱ってな~~んだ?
答えは、焼却炉・・・・・
レポート・1 開かずの焼却炉
その日もよく晴れていた。夏休みが終わった最初の授業中、俺は先生がいるのにも関わらず惰眠をむさぼっていた。
「おい・・おい!!ヨコッち。起きぃ!!先生がこっちくんぞ!!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉ・・・・・」
銀ちゃんに後で聞いたところ、俺は、先生お得意の白墨乱舞を喰らっても起きなかったらしい。というか、驚いたことに一瞬跳ね起きて白墨を指で挟んで受け、先生の額にヒットさせたらしい。我ながら器用なものである。
その器用さが元で、今、罰掃除をしているのだが・・・・・
おやつが・・・・ガリガリ君が・・・
ミニ四ファイターの改造講座が・・・・・
タミヤRCカーグランプリが・・・・
あっ!!仮面ライダーBLACKの最終回やないかい!!
この頃の俺にとって、将来よりも大切な宝物が次々と頭の片隅に浮かんだ。それを考えると、罰掃除なんて反則ではないか!!職権乱用だ!!鬼!!悪魔!!
と、先生を一頻り罵っていたとき、『彼』は現れたんだ・・・・
『おい!!お前、先生に怒られたんだろ?』
「けっ!!ハゲ爺がうるさいねん。貴重な睡眠を俺から奪い追ってからに!!」
彼は同情するとばかりに俺の肩をたたいて言った。
『俺もさっき先生に罰掃除言われたんやけど、あほらしいからサボろう思てん。お前はどないする?』
「サボりたいのは山々やけど、うちのハゲ爺は監視がきついねん。はよ、定年退職せーよ!!」
『ははははは!!さよか。ほな、俺は帰る!!サバラ!!サバラ!!』
「それを言うなら、サラバやろ!!間違えんな!!」
彼は楽しそうな笑い声をあげて廊下を走っていった。
俺はあきらめて、掃除を再開した。
と、箒の先に何かが当たった。見ると、それは青い体育着ぶくろだった。名前を確かめようと裏を見ると、
『高山雄一・5年3組・15番』
と、縫いつけてあった。俺はさっきの彼が忘れていったのだと思い、明日朝一番に届けることにして、掃除を終えると家に帰った。
当然ながら、俺が見たかった番組はすべて終わっていた。
翌日、俺はさっそく5年生の教室へ出かけた。
3組の教室へ行くと、俺は近くの先輩に声をかけた。
「すんません。ここに、高山雄一っていう先輩は来てますか?」
「はぁ?高山なんてやつ聞いたことあらへんけど・・・おい、こいつが高山ってやつをさがしてんねやけど、誰か知らへんか?」
「いいや。そんなやつ名前も聞いたことあらへん」
「さぁ・・・うちもきいたことあらへん。あっ?!ちびタダくん。後で図書室に来てくれへん?ちょっと確かめたいことがあんねん」
「へ~~い。ありがとうございます」
俺はあきらめて教室を出た。
授業中もずっと『高山雄一』のことを考えていた。彼の服に付けてあった名札は、確かにうちの学校のものだった。それに、体育着ぶくろの中身もうちのだったし。どういうことなんだ?
「横島!!教科書P45、音読せんかい。横島!!」
「へ?あっ!!え~~と、“鉛筆のむこうには、たくさんの世界が広がっている。のぞいてみよう・・・・”」
授業が終わった後、俺は先生を職員室に訪ねた。この先生は林先生と言って、うちの学年長を勤めている年かさの先生だ。55歳のお爺さん先生で、この学校のことを何でも知っている。俺は、先生にあの袋のことを尋ねた。
「先生、これなんですけど・・・」
「ん・・・・な、なに!!横島、これいったいどないしたんや?!どこで拾ったんや?!」
「は?!あ、あの、ちょい先生落ち着きぃ!!」
先生ははっとして落ち着きを取り戻すと、俺を生徒相談室に連れてきた。古びた皮のソファーに腰掛けて、先生はタバコを吸った。
「あの・・・先生・・・?」
「ん?ああ・・・すまんかったな、さっきは取り乱してしもて」
「いや、いいんです。あの、何か知ってるんですか?」
先生は一呼吸おくかのようにタバコを灰皿に押しつけると、俺の目を見てゆっくりと話し出した。
「横島・・・その、生徒はな・・・5年前に亡くなったんや」
「はぁ?!」
「信じられへんか・・・無理もない。高山は、お前そっくりの元気なやつやった。サッカーが好きで、放課後の掃除をさぼってまで校庭に飛び出していくほどな。わしの受け持ちやったからよく覚えてんねん。
あの日もそうやった・・・・
高山は、わしの一瞬の隙をついて教室を飛び出したんや。しゃあないからすぐに追いかけていって、捕まえようとしたんやけどな。あいつ、どこかに隠れてしまったのか見つからへんかったんや。
まあ、後でひょっこり出てくると思ってそのままにしてたんやけどな。夜になっても家に帰ってきーへんから、学校の先生や警察のみんなでさがしたんや」
「で?見つかったんですか」
「ああ・・・ほら、学校の裏に扉を針金でぐるぐる巻きにした焼却炉があるやろ?高山はあそこで見つかったんや・・・真っ黒こげになってな・・・・」
「・・・・・・」
「ポリエステルの袋も一緒に燃やしたんやろな。本人とは思えないほど、ぼろぼろに崩れておったわ・・・・どんなに苦しかったか・・・」
俺は先生の話を聞いて全てを悟った。高山は自分が死んだことを知らないんだ。だから、学校に残って今もサッカーをしているに違いない。
俺は意を決して先生を連れだした。俺の考えが正しければ、高山はまだ焼却炉の近くにいるはずだ!!
「先生!!はよう!!」
「よ、横島!!どないしたんや?!」
「高山を、高山を極楽に送るんです!!先生も手伝ってください!!」
いた!!思った通り、高山は焼却炉の側にぽつんと立っていた。
俺は驚いた表情の先生を引いて高山を呼んだ。
「おい!!高山、なにしとんねん?!」
『ん?さぁ・・・何でかな?家に帰ったんやけど、誰もおらへんのや。お母ちゃんもお父ちゃんも・・・でな、何でか知らんけどここに来てしまったんや』
俺は高山をまっすぐに見つめて言った。
「高山・・・お前の両親は・・・引っ越したんや。お前が死んでしもうたからや」
『は?何言うとんねん?!』
「高山。お前、サッカーが好きでたまらなくて掃除サボったんや。先生が追いかけてきたから、ちょっと隠れようと思ってそこの焼却炉に隠れたんや」
高山は、何かを思い出そうとするかのように俺の話に聞き入っていた。
「でも、お前・・・・すぐに出てこいよ!!熱かったやろ・・苦しかったやろ?!なぁ!!」
高山は全て思い出したようだった。力無く泣き崩れ、拳で地面をたたく姿に俺は溢れ出す涙を止められなかった。
林先生も泣いていた。先生は涙を拭いて、高山に声をかけた。
「高山!!こんなとこにおったんか!!・・・掃除せぇよ・・・な?」
『先生・・・?は・・はは・・・何や、ハゲ爺になってしもうたんか?』
「あほう!!これでもまだ・・・まだ・・・」
先生は高山を強く抱きしめた。高山は大きな声でわんわん泣いていた。思いっきり泣いた後、二人はいろんなことを話していた。死んでしまった高山には知らないことばかりで、何度も驚いた顔をしていた。
やがて、太陽が西に沈もうとしているのが見えた。
俺はポケットから数珠を取り出した。
「高山・・・ほな、そろそろ逝こか」
『ああ・・・横島、ありがとうな。先生も・・・ほんまにありがとう』
「おう。天国に行ったら、勉強教えたるからな。それまで、きちんと予習しとくんやで?」
『ええ!!かなわんなぁ~~~』
俺は数珠を振りかざし、心を込めてお経を唱えた。数珠を振り回すたびに美しい光が渦になって俺たちを包み、心が安らいだ。
やがて、高山の体は金色の玉になって空へ飛んでいってしまった。
「極楽で・・・幸せにな・・・・・」
帰り道、先生が何気なく尋ねてきた。
「横島・・・お前何者やねん?」
「別に?ただの小学生ですわっ!!ほな、また明日!!」
俺は笑って先生と別れた。
でも、これが先生を見た最後だった。先生は翌日の朝、布団で冷たくなっているのを奥さんに発見された。突然死とされたその表情は、とても安らかだったという。
高山が使っていたふくろはご両親の元へ届けられ、大事に供養されたと言うことだ。
続く・・・・
しばらくぶりです。ネタ探しと文章構成に時間がかかったばかりか、パスワードを忘れるというポカをやってしまいました(土下座)
感想、ご意見ともにお待ちしています!!