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▽レス始

「級友(GS)」

さみい (2005-02-03 00:56)

「知里さん、受付から8番に電話です」

品川地検特捜部。汚職などの政治犯罪や大規模な経済犯罪はここ特捜部が担当する。もともと東京都内の地検は東京だけだったが、大規模犯罪の増加で品川・新宿の2箇所に移転している。
見た目40前後の男が書類を掻き分けるようにして事務官から廻された電話を取った。

「はい、知里です」

「1F受付の佐藤です。知里検事に会いたいという女子高生がみえています。アポなしのようですが、愛子と言えば判るっておっしゃっています。どうしますか?」

(愛子ぉ? 愛子、アイコ、あいこ..。内偵捜査中の案件でも心当たりないし、スナック古狸の愛子(自称27推定39)かなぁ。でもなぜ「女子高生」なんだ?)

「なぜ女子高生なんですか?」

「だって制服着てますもの。で、知里さん、どうされます?まさか援交相手じゃないでしょうね。品川地検の検事が援交で逮捕、なんて洒落にもなりませんよ」
1F受付の佐藤さんは地検随一の情報通だ。下手に勘ぐられては堪らない。

「な、と、とりあえず行くから、応接に通しておいて」

「はい、では第5応接室を17時までお取りします。では失礼します」
ガチャン。
電話を切ると同時にため息をつく知里。結局苗字も判らずじまいだ。

「ツケため過ぎたかな。でもスナック古狸の愛子はおれより年上だろう。あいつのセーラー服姿なんて気持ち悪いな...」

(とりあえず下行くか)
椅子から上着を拾い上げ駆け出すのだった


第5応接室のドアの前に髪が薄くなりかけた男が一人。深呼吸してから
  トントン
とドアをノックする。

「品川地検の知里です」

ドアを開けながら応接セットに座る『女子高生』を観察する。茶髪でもガンクロでもない、ストレートにした奇麗な髪と色白の肌。制服は・・・俺の高校のと一緒だ。後輩かぁ。OB会名簿を見て尋ねてきたのかな。

(よかった、『古狸』の愛子のセーラー服なんて見たくもない)

安堵した知里はふと彼女が座っているソファの横に違和感を感じる。

(何でこんな古い学校の机がここにあるんだ?)

「品川地検特捜部の知里です。初めまして。ご用件は?」

「お久しぶり、知里クン。20年前のままのクラスメートに会うのも青春ね」

(20年前・ウチの高校の制服・古い机・クラスメート・青春...愛子!)


「あ、愛子なのか?本当にあの愛子なのか?!」


20年前、高2だった俺は古文の授業中に爆睡していて学校の机に吸い込まれた。机の中の異空間にあった「学校」は先生が誰も居なかったこともあり、毎日HRや自習・クラス討論と自由闊達に過ごした。この学校では年も取らず、外界の競争とも無縁。校舎の外には出れないものの、図書室や教室で自由に過ごすことができた。
限りない無限ループの中、俺達はいつまでもこの居心地のよい学校が続くと思っていた。横島くんと美神先生が吸い込まれてくるまでは。

美神先生が来たことで、ついに授業が始まったが、残念なことにそれは一瞬で終わった。美神先生や横島くんが、この世界の創造主である愛子に与せず、逆に愛子にクラスを解散させたからだ。俺達はそれぞれ元いた時間に帰された。


俺は古文の田子浦先生から投げられたチョークで目が覚めた。

「愛子は? 美神先生は? 今何年何月?」

教室に笑いの渦が広がる。

「このクラスに愛子という女生徒はおらんよ。この学校には美神という先生もおらん。ちなみに今は1984年11月だ。判ったら教科書284ページから音読したまえ!」
田子浦のダミ声が聞こえる

(そうか、元のクラスに戻ったのか。随分長い夢だったな)

そう思いながら20年経った。俺は大学に進学し、その後司法試験合格、司法修習所で検察官に進路を決めた。あの『机の中の学校』でクラスメートたちと(今から思えば)恥ずかしいくらい青臭い討論を繰り返していたことが、やはり一番の動機だろう。
公害問題、空港問題、安全保障、差別問題、・・・。人生で一番社会に敏感なあの年頃に社会正義の実現を心に誓った。その意味では愛子が俺を検察官にしたようなものだ。
奉職して10年ほど経ったとき、たまたま大規模な汚職事件を担当し、無我夢中で働いた。司法修習生時代の同期が皆あこがれる品川地検特捜部に居るのもその時の功績だ。

だが、いつも思い出されるのはあの学校での青春時代だった。ありあまる時間の中クラスメートと議論を繰り返した。俺達、あのクラスの仲間は今でも愛子を恨んではいない。むしろ感謝している。その愛子が今も変わらぬ姿で目の前に居る。

「愛子...」
「知里くんもお変わりなく、青春してるようね」
「そうだな、アタマこそ薄くなったけど、中身は変わっていないよ」
「良かった!知里くんが変わってしまったら、この相談どうしようかと思っていたの...」
「なんだい?同級生の相談にのるのも青春だよ。気兼ねなく言ってごらん」

愛子は話始めた


愛子が持ち込んだ相談は俺の抱えている案件とも一部ラップしていた。

「知里くんは横島くんのこと知ってるよね。美神除霊事務所でGSのバイトをしてて、私と今同じクラスなんだけど。あと、おキヌちゃんって巫女さんの幽霊も知ってるわよね?今は生き返って六道女学院に通ってるんだけど。」

「横島くんか、面白い奴だったよな。彼とはたった1日だったけどよく覚えているよ。おキヌさんってのは髪の長い巫女さんだよね。何となくわかるよ。」

「その横島くんが大変なの!とても危ない目に遭っているの。おキヌちゃんも!
それはね...」


「ん〜っ、まずは横島くんと会いたいな」

俺はこの事件がかねて自分が内偵中の事件と重なることをは言わないで、まずは感想を言う。
さっきから愛子の話を聞いていて符合することがあまりに多く内心興奮していた。だが、横島くんやおキヌさんが心配でしようがない愛子をこれ以上心配させるわけにはいかない。

「おキヌさんの身辺警護は知り合いの信頼できる警察官に頼むことにするよ。横島くんに
も警護をつける。だが普通の警察官で霊的能力は皆無だから、除霊中は無理だな」

「ありがとう。除霊中はいいわ。美神さんを疑ったら横島くんたちの護衛は絶対無理ですもん。特A級の依頼を『C級』と偽って横島くんだけを行かせるとか、横島くんと2人で除霊に行って横島くんが戦っているときに後ろから刺す、とか。ぜんぶ『除霊中の事故で殉職』になっちゃう。でも平気、ぜったい美神さんは裏切らないわ。」

(だって美神さんは横島くんのこと好きなんだから...)

「そうか。わずかの間とは言え、俺達の先生だったんだから、俺もそう思いたいよ。詳しくは横島くんから聞いてからだ。ところで今日は都合どうだ?これから呑みに行かないか。クラスメートの愚痴を聞くのも「青春」だろ?」

「誰に向かって言ってるのよ。いいかげんアタマの薄くなった同級生とセーラー服の私が一緒に呑んでいたら間違いなく職質食らうわよ」

「そんときは任せとけ!品川地検の検事正がついているんだ。パトロールの警官くらい屁でもないさ」

「職権乱用じゃないの〜。ま、オジサンになった同級生の愚痴を聞くのも、一風変わってるけど青春よね」

一旦執務場所に戻りカバンとコートを持ってきた知里は親子ほど年が離れて見える同級生をエスコートして(注)、夜の町へと消えて行った
[注:愛子の本体である机は知里が背負って行った]


翌朝の平和な登校風景。愛子のクラスも徐々に登校してきた。みんな昨日の深夜番組のことなど思い思いに級友と話している。

いつもと同じバンダナ姿の横島も遅刻せず登校してきたようだ。友人の女の子の席のそばで立ち話していた愛子に横島が近付く。

「おはよう、愛子」

「おはよう、横島く...」
愛子のあいさつは途中で途切れてしまった。ふわっとめくれるスカート。白いパンティが見える。横島が愛子にスカートめくりをしたのだ。
愛子は真っ赤になって立ちすくんでいる。教室の面々も呆然とした顔をしている。愛子と話をしていた女子が静まり返った教室の空気を変える

「なにガキみたいなことしているのよ!アホ横島!!」

「したかなかったんや〜」

愛子が肩を震わせながら宣言する

「横島くんのアホ! 今日一日机の中で反省してなさい!」

愛子の本体である机に吸い込まれる横島。

その時、教室の前のドアがガラッと開き1限目の数学の教師(兼クラス担任)が登場した。みんなあわてて席に着く。担任が出欠を取る。

「横島は今日は休みか?」

「今朝あろうことか愛子さんのスカートめくりをしたので、愛子さんの机の中に収監されています」ピートが答える

「そうか、じゃあ横島は欠席だな」
さすが担任だけあって慌てた様子もない教師。

「それでは横島サン登校した意義がないノ〜。留年したらオカンに殺されると言っていたし。愛子さん、横島サンが授業聞けるようにできんかいノ〜。先生、それで出席扱いにしてはもらえんかいノ〜」タイガーがとりなす。

「愛子くん、そうしてもらえないかな。じゃあ横島は出席ね」担任も了解した。


〜横島side〜

「おはよう、愛子」
登校して愛子に挨拶したら、いきなり霊波で指示された。

[横島くん、黙って私の指示に従って! まず私にスカートめくりして!]
[へ?なっ、ナンデデセウカ]
[いいから、早く!]

「おはよう、横島く...」
訳が分からぬまま昔取った杵柄でビシッとスカートめくりをする
小学校低学年の頃の腕は錆びていなかった。だが周りの女の子の眼がキビシイ。

[そしたら私が横島くんを飲み込むから、素直に中に入って、中で待っている知里クンっていう検事さんに事件のこと話して]
[えっ]

愛子と話していた女子が叫ぶ
「なにガキみたいなことしているのよ!アホ横島!!」
「したかなかったんや〜」と反射的に弁明する俺。

愛子が肩を震わせながら宣言する
「横島くんのアホ! 横島くん、今日一日机の中で反省してなさい!」

俺は愛子の机に吸い込まれた。


愛子の机の中。ここは異空間に繋がっていて、その中は学校になっている。
教室には愛子が言うところの「知里クン」がいた。見た感じ40前後の、アタマが薄くなりかけている温和そうな顔のオッサンだ。眼光はオヤジと負けず劣らず鋭いけど。

「初めまして、横島くん。この机の中の学校で一緒に勉強したから本当は2度目だけどね。君とは20年ほど上のOBになるかな。」

「すみません、検事さん、え〜っと、知里さんのこと、覚えてないっす」

「仕方がないよ。一日だけだったし、次に会ったのは20年後だし。こっちからすれば君の姿は変わっていないし、最後の転入生だったから覚えているだけさ。俺は現在検察官をしている。君とおキヌさんが除霊中に体験した話を聞かせてくれないか。君を監視している者からは絶対ばれないから安心してくれ」

俺は知里さんを信じて話を始めた。


「今回の話は椎名不動産から美神さんへの1件の除霊依頼で始まりました。

『椎名不動産が所有しているマンションのひとつ、ヴェルサイユ城南で無理心中があった。悪霊と化した居住者と入り込んだ霊団を除霊してもらいたい』
との依頼です。料金はマンションの除霊としては破格の3億円でした。

美神除霊事務所では万一のことを考えて2人以上で除霊にあたります。今回は霊団があるので、ネクロマンサーのおキヌちゃんがメイン・護衛と親玉退治が俺になりました。

事務所の他のメンバー、美神さん・シロ・タマモは横浜の保税倉庫にあらわれた外国の妖怪退治に行きました。


 俺もおキヌちゃんも車運転出来ないんで、事務所から電車とバスを乗り継いで現地に向かいました。マンションの管理室で管理会社の人と城南警察署の刑事さん・鑑識さんたちと話したあと、おキヌちゃんと二人で現場に乗り込んだんです。

 おキヌちゃんがネクロの笛で霊団の動きを止めながら、俺達は悪霊のいる部屋に向かいました。」


ここで知里が不思議そうな顔をした。

「素人考えだけど、君たちは霊を除霊するんじゃないのかい?霊団をつぶさないの?」

「それはGSにもよりますね。誰だって死にたくありません。現世に未練があります。霊団を作っている死霊も大半はそんな霊です。だから、余程悪質化していないかぎり、俺たちはすぐに除霊しません。彼らが気持ちを整理できるように、きちんと成仏できるように、ゆっくりと除霊します。でないと輪廻の輪が断ち切れてしまいますから。」

「輪廻の輪が切れると、やはり生まれ変われないの?」

「はい、いつかどこかで大事な家族や恋人と再び会えるかもしれないのに、その可能性がゼロになるなんて可哀想ですから。」

「君たちはとても優しいんだね」
知里さんが微笑む。嫌みが全く無い、とてもいい笑顔だ。

「妙神山の小竜姫さまという神さまの言い付けを守っているだけっすよ・・・。
それで俺達はリビングに入りました。そこには四谷とその妻子の霊がありました。」


《横島の回想》

俺はおキヌちゃんを護りながらドアの前に固まっている霊団をハンズ・オブ・グローリー
でかき分けるように進んだ。最後のドアのノブが鈍く皮下って見えた。
ドアを開けて眼には入ったのは一面の血。散乱する書類。

何か柔らかいものを踏んた横島はさすがに驚いて後ずさる。

くまの縫いぐるみだった。

ほっとする間もなく、部屋の中央・ダイニングテーブルのそばで折り重なるように倒れて入る子供と男女の姿が眼に入った。そのすぐ側には子供を抱いた女の霊。

暗闇に眼が慣れ、次第に奥の様子も見えてきた。応接セットがあり、誰か座っているようだ。

おキヌちゃんの手を引いて俺達は部屋の中へと足を踏み入れた。

「だれだ!」

奥にいる霊が叫ぶ。女の霊がビクッと肩を震わせる。

「わたしたちはGSです。みなさんが成仏するお手伝いをしにきました。」
おキヌちゃんは女の霊を安心させるために、ゆっくりと、そして諭すように話す

「そう。お入りなさい、かわいい巫女さん。そっちの男の子も。」
幼子を抱いた女の霊が言う。

奥のソファから男の霊が出てきて横島たちに言った
「あんたたちGSに聞いてもらいたいことがある」と。


応接ソファに横島・おキヌが座っている。対面にはやせた男の霊と、幼子を抱いたふっくらした女の霊がいる。一応座っているように見える。

「俺は四谷馨。大塚代議士の第一秘書だった。俺達は大塚代議士の息のかかった暴力団員に殺されたんだ。無理心中を偽装されてね」

「奥さん本当ですか?」
とおキヌに質問された奥さん(の霊:以下略)は娘(の霊:以下略)を抱きながら話し出した。

「馨が帰宅して3人で食事を取り、デザートを娘に食べさせていたときに来客がありました。馨は代議士の秘書ですから、夜間に突然の来客も珍しくないので私がドアを開けたら、突然スーツ姿の男たちが踏み込できて...」

言ったっきり奥さんは泣き初めてしまった。抱かれた幼児が手を母の頬に延ばし、泣いている母をなぐさめるようにさする。


「それから妻と娘が殺されたんだ。」四谷が話を続ける。

「目の前で妻子が殺されるのを見るのは地獄だった。大男4人がかりで私の手足を押さえ付け、もう一人の男が、娘を護ろうと必死の妻を殺し、次に娘を...。最後に遺書を書かせられ、妻子を殺したナイフが私の腹にささり、私も殺された。」

おキヌは泣いていた。16歳の女の子にはあまりにショッキングな内容である。
横島も目に涙を浮かべている。横島はあのアシュタロス戦でルシオラを見殺しにせざるを得なかった自分と、手足を押さえ付けられ目の前で妻子を殺された男がタブって思えて仕方がなかった。

どちらも大事な人を助けられなかった。自分が「弱かった」ばかりに...。


「四谷さんはなんで自分が殺されたと思いますか?」
横島は問う。

「先週南武百貨店から大塚代議士への贈賄が週刊誌にすっぱぬかれたんで大塚代議士に切られたんだと思う。こういう業界にいると、自分が突然”自殺”することはあるかなぁと前から思っていたが、よもや見せしめに家族まで巻き込まれるとは全く想像していなかったなぁ。」

四谷は続ける。

「南武百貨店からの賄賂は南武グループの南武商事が日本からナルニアへのODA、つまり政府開発援助を受注するためのものさ。ナルニアは村枝商事に横島というやり手支社長が赴任してからというもの、ことごとく村枝商事の独占で、新興の南武商事としては汚い手を使わずには落とせないからな。南武商事から直接大塚に渡るとミエミエなんで、大塚の趣味の絵画収集を応用して百貨店から金が渡るよう偽装したのさ。百貨店の株主は南武家と南武商事だけだから全く問題ないし、完璧だと思ったんだが」

横島は意外なところで親父の名前が出て驚いたが、質問を続けた。

「ではなんで成仏せずに居座って騒ぎを起こすんです?」。

「妻子を殺した大塚に復讐するためさ。自分の仕事は突然”自殺”してもおかしくないものだが、大事な妻や、結婚して15年もたってようやく授かった娘まで殺される程の仕事じゃない。だから復讐したいんだが、この部屋に結び付けられてしまったようで大塚のところにバケて出れない。そうこうしているうちにあちこちから他の霊が家にやってきて住みついちまった。みんな俺たちのうけた仕打ちに憤慨してくれるいい悪霊や浮遊霊ばかりさ。」
四谷はそう言いながら妻子の方を振り向いた。

奥さんも
「小悪党の馨に復讐なんて大それたことはできないので3人で成仏しようと何度も言っているんですけど、怨念が強すぎるのか成仏できないんですよ。まあ浮遊霊さんたちも娘を可愛がって下さるし、生前は多忙で滅多に家に居なかったパパが居ると娘も喜んでいるんですが...。」
と言う。夫婦揃って浮世離れした感覚の持ち主のようだ。

「ではどうしたら成仏してくれるッスか?」と横島。

「3人揃って成仏したいな。家族バラバラにはなりたくない。あと、大塚代議士に仕返ししたい。大塚代議士や首相が失脚すればいいさ。本当は大塚は何度殺しても足りないくらいだが、娘のあどけない顔を見ているうちに大塚を殺したい気持ちは失せてきた。」と四谷。

奥さんも「私も同感ですねぇ。成仏するならぜったい娘と一緒じゃなきゃいやだし、主人と一緒の方が冥土でも楽しそうですし。」と返す。

横島は「でもどうすれば大塚は失脚するんですか?」と四谷に聞いた。

「表に出ちゃまずい記録をインターネットディスクに一切合切仕舞ってある。大塚の指示や電話の応答、書類のやり取り、大塚事務所の裏金の取引記録などすべてだ。万一の時の保険と思って妻には教えてあったんだが、これをお前に教えるから、然るべきところに出すんだ。ただし大塚は警察の一部も抱き込んでいる上にマスコミも国民新聞社など大手は押さえているから、相手は十分吟味してから出してくれ」


横島は暫く考えた上で答えた。

「わかりました。大塚を失脚させますから、3人で成仏してくれませんか」

横島は掌に「皆」「成」「仏」の3個の文殊を生成した。
横島は床にこれらの文殊を置き、四谷に呼びかけた。
「3人でこの文殊の上に来てくれませんか」。
四谷とその妻は娘を挟む形で抱き合って文殊の上に移った。

そして文殊が強い光を放ち、徐々に消えていった。

四谷は横島に「頼むよ」と、
奥さんはおキヌに「ありがとう。あなたたち幸せになってね」と言いながら。
娘さんは奥さんに抱かれながら、「に〜に、ね〜ね、ば〜い」と言って手を振った。


文殊の光が消えた時、部屋には横島とおキヌしか居なかった。
横島にとって意外なことに廻りの霊団も含め除霊は成功である。

おキヌは横島に「お疲れさまです。いい悪霊さんでしたね」と言う。

「とんでもない宿題貰っちゃったけどな。データ誰に渡したらいいかな。美神さんだと大塚代議士を脅迫して金を脅し取りかねないし、そしたら大塚代議士は失脚しないしなぁ」

「とりあえず除霊が終わったのを警察に連絡しなきゃ。刑事さんと鑑識さんが管理人室で除霊が終わるのをずっと待って居ますよ」

おキヌが言いながら電話を掛ける。

「除霊が完了しました。....はい、もう霊能者以外でもお部屋に入れますよ。はい、この電話機以外は家具などには一切触れていません」

簡単に話を終わらせ、続いて美神事務所に電話する。留守番の人口幽霊1号が電話に出たようだ。

「除霊がおわりました。ちょっと寄り道しますが夕食準備に間に合う時間に帰ります」とだけ一方的に話した。

「じゃ、喫茶店でも行きましょう。この前、魔理さんからかわいい喫茶店教えてもらったんですよ。この近所なんですよ」
と元気に言うおキヌだった。
先程の悲しい出来事を一時でも忘れるために。


「...というわけッス。これが四谷のインターネットディスクにあった大塚事務所の裏取引記録のプリントアウトです。他にも大塚の指示を密かに録音したwaveファイルや電話を録音したwaveファイル、手書きのメモ類をスキャンしたPDFやらありました。ぜんぶで300MBで、このCDーRにコピーしました。お預けします。」

「四谷さんはちょっとした悪党ですが、殺されていい人ではありません。まして奥さんや2つになる娘さんは...」

横島とおキヌは美神にすべてを話した。
美神除霊事務所での夕食後、普段なら事務所に住んでいる美神・おキヌ・シロ・タマモ+夕食をたかっている横島の5人で食後のお茶となるが、今日はシロ・タマモには席を外して貰っている。2人とも横島とおキヌから強くお願いされたので駄々を捏ねるわけにもいかず、しぶしぶ退席して自分たちの部屋に戻った。
美神も2人を外すからには余程の話ということで大変緊張して聞いている。

「わかったけど、この件は私に預からせてくれる? これだけの疑獄事件、いくらなんでも高校生の二人が抱えるには荷が重すぎるわ。」

意外なことに美神から年相応の分別のある答えを貰って鳩が豆鉄砲をくらったような顔の2人だったが、2人して「すみません(ッス)」と美神に感謝すると、いつもの笑顔に戻った。


「シロちゃんやタマモちゃんも呼んでもう一回お茶しましょう。チョコレートケーキを今日帰りに買ってきてるんです。西洋のお菓子だから紅茶にしましょうね」
とおキヌは台所に立った。横島も屋根裏部屋にシロタマを呼びに行った。

2人が部屋を出て行くのを見ながら美神は
「どーしようかしら。見栄を張って引き受けちゃったけど、私も名案ないし。」
と呟くのであった。


警視庁公安部の通称「蛇の銀蔵」は目的の為なら盗聴・不法侵入など違法行為も厭わない刑事だ。最近こそ過激派事件の減少で警察内部での地位が揺らいでいる公安部だが、国家体制護持の要としてなお重要とされる。

この中にあって、特定の保守政治家の犬となる警察官もいて、蛇の銀蔵は大塚代議士に繋がっている。8年前銀蔵が革新政党の代議士の自宅を盗聴したのが露見した際に大塚が庇ったのが縁で、以来大塚に心服している。

先日週刊誌に大塚の収賄事件が載り気になっていたところに、大塚から無理心中した秘書の四谷の家を監視するよう依頼されていた。今日になって、マンションのオーナーが依頼していたGSが四谷の部屋を訪れ除霊に成功した。所轄署から入手したGSの名前から、てっきり中年男性と老婆が来ると誤解し、GSが部屋に入ったのを理解したのは横島たちが出てきて所轄の刑事・鑑識と話をしている最中だった。

「四谷の霊はなにか言っていたか?」

所轄署の若い刑事は解明の為に当然この質問をするつもりだったが、横から割り込んだ本庁公安部の刑事が自分の台詞を奪ったことに少々腹をたてた。

横島・おキヌともに俯いている。

「四谷の霊とは会話していないッス」横島は下を向いたまま答えた。

「二人とも若いのにあんなに沢山の霊を除霊するなんて凄いね。疲れただろう。もう帰っていいよ。あとは僕たちの仕事だから」

若い刑事はそう言って横島たちを労い、鑑識と一緒に現場へと向かった。

銀蔵は横島が「会話」と言ったことに着目し、なにか隠していると見抜いた。普通なら「なにか言っていたか?」と聞かれれば「〜言っていない」とか答える筈で、質問者が喋っていない「会話」という単語は出てこないのが普通だ。所轄署の刑事が2人を帰してしまったので、銀蔵は2人を尾行・監視することにした。

2人を尾行した銀蔵は、その後可愛いらしい装飾の喫茶店でショートケーキを食べながら幸せそうに横島と話すおキヌを見て「なんや、デートかいな。アホクサ」と言いながら車で監視を続けていた。

2人は商店街で夕食の材料を買ってから美神除霊事務所に帰った。事務所の近くに止めた車の中で銀蔵は公安部の部下に調べさせた美神除霊事務所のレポートを読んでいた。

「代表はICPOの美神美智恵か。で、所長は娘の令子。まだ21か。所員は横島忠夫
(18)と氷室おキヌ(17)。この二人は高校生だが、あと「犬塚シロ」と「タマモ」という女の子が居る事になって居るが、年齢や戸籍は不明で学校にも行って居ない。美神たち3人はアシュタロス戦やザンス国王暗殺未遂・首相監禁事件でも活躍している。あっ、こんときは指名手配されながら本庁に堂々乗り込んだのか。度胸あるな〜」。

さらにページをめくる。

「横島の両親は現在ナルニアにいて、彼はアパートに一人住まい。なに!氷室はもともと300年前の人柱で、それが生き返ったのか。おまけに彼らの霊能力などの詳細データは国家機密扱で俺らじゃ調査不可か。大塚先生のお力をお借りしなきゃな。」
レポートは続く。
「彼らが事務所兼住宅として居る建物は人工幽霊で一種のAI。侵入は絶対不可能か。となると電話盗聴がせいぜいだな」。

車の窓に見える変哲のないレンガの建物が幽霊(?)。あまりに非常識な連中が、あまりに非常識な生活をしている。銀蔵はなぜか無性に腹がたってきた。
無線で盗聴班を呼び、美神事務所の電話に繋がる中継器のヒューズを同形の盗聴器と交換させた。これなら人口幽霊とやらも分らないだろう。


「ママ、ひさしぶり。ひのめは寝た?こんな時間なんだけどちょっと相談いいかな?」
スピーカーから美神令子の声が聞こえる。

「どうしたってのよ。相談なんて珍しいわね。横島クンとのことかしら。ひのめはもうぐっすり寝てるから恋の相談なら何時間でもいいわよ。公彦さんをゲットした大先輩が聴いてアゲル♪」
美神美智恵の声だ。

「そんなんじゃないわょ。横島クンのことと言えばそうなんだけど。今日、アイツとおキヌちゃんを無理心中した政治家秘書の悪霊を除霊しに行かせたんだけど...」

令子は今日2人から聞いた話をそのまま美智恵に相談した。美智恵は幾つか令子に確認した後で言った。

「まだ誰にも言ってないでしょうね。取扱をちょっとでも間違えたら大火傷を負うわ。大塚といったら保守党で大派閥を率いるボスなんだから。私が全部負うからアナタたち忘れなさい。特に横島クンには一人で悩まないように言いなさい」。

令子に今日はもう寝るように言って、美智恵は電話を切った。


ツー ・・・

覆面パトカーの車内に沈黙が戻る。銀蔵は大塚に注進するために大慌てで背広の内ポケットから携帯電話を取り出した。


大塚代議士は銀蔵からの電話を切ると、「ふーっ」とため息をついた。

おかしな世の中になったものだ。

他の秘書への見せしめも兼ねて一家心中を偽装され殺された人間が、GSという人間にすべての事情を話した。そればかりか保身用の隠しファイルの場所まで教えたというのだ。大塚の回りでは今まで数多くの不審死があったが、すべて大塚にまで捜査が及んだことはない。今までは...。

現行法では仮に死者が証言しても、それ自体は裁判での証拠能力はない。だが、隠しファイルの場所や隠し口座のパスワード、犯罪の手口などが死者の口からGSに漏れることは避けられまい。証拠能力が無くとも、捜査には活用できる。少なくとも、従来しらみつぶしに探していた犯人にいきなり目星をつけることはできる。裁判では犯人を特定するに至った別の理由が必要だが...。

大塚はGSにも死んで貰うことを決めた。南武グループの総帥に電話を掛けて、横島忠夫・氷室おキヌへの『処置』を依頼した。
また、大塚は警察庁の高官にICPO付の美神美智恵の更迭を依頼した。
ICPOの人事権はパリの本部が握っており警察庁でも直接口出しできないが、日本の分担金削減を言い出せば如何様にでもできるだろう。この警察庁高官は柄にも無く政治家になりたがっている。比例代表リストにでも入れてやろう。


今回の一連の贈収賄疑惑はたかが週刊誌の記事で随分と高いコストを払うことになった。大塚はまたため息をついた。


「その後事故が頻発した、というわけだね」

知里さんが確認する。ここは愛子の机の中。異空間の学校のある教室で、スーツ姿の元同級生の知里さんという検察官に説明をする。

「はい、確認しただけで6件。おキヌちゃんが通学途中に暴走車に轢かれそうになったり、覚醒剤中毒の男に出刃包丁で刺されそうになったり、俺が駅のホームで電車を待っていたら、入ってきた電車の前に突き落とされ轢かれたり、学校を出たところを狙撃されたり、などです。それにいつも誰かに監視されています。20〜30分おきに尾行者が交代するんで、なかなか気が付かなかったんですが。」

「横島くん、フツー、狙撃されたり電車に轢かれたら生きていないんじゃ」

「まあ俺は俺っすから。でも狙撃された時は愛子から「忘れ物よ!」って声かけられなかったら死んでました。」

「そりゃそうだろう!」


「あの美神先生が丁稚の君を売るとは思えないけど、美神先生が敵でないことを確認するまで、しばらく仕事は控えたほうがいいと思うよ」
美神さんのことを「先生」と言ってしまう知里さん。知里さんにとってはやはり先生なのかな。


知里さんの言っていることは尤だ。一昨日、この話を昼休みにピート・タイガー・愛子に話した時に皆から同じことを言われたっけ。

「でも美神さんに何と言えばいいか...。俺とおキヌちゃんが居ないと仕事減らすことになって美神さんの怒りが〜」

「う〜ん、下手すると君がしばき殺されかねないし...。そうだ、こうしよう」
知里さんが話した作戦は横島にとっては驚くべき内容だった。


翌朝5:30、美神除霊事務所裏。牛乳配達のおじちゃんが牛乳瓶を3本置いていった。
6:00勝手口からおキヌが出てくる。同時に玄関ではシロが朝飯前のサンポに飛び出さんとしていた。

ここまではいつもの光景だったが、この直後から一変する。


玄関・勝手口からスーツ姿の男達(女性も何名かいる)が事務所に飛び込んだ。

「国税庁査察部です」

玄関から入った男は玄関を閉めようとするシロに告げる。

「税吏など美神事務所には入らせないでござる」

以前、美神から「税務署を中に入れたら肉抜きよ」と言われたのを守っているようだ。人狼の腕力にドアに挟んだ安全靴も徐々に潰されている。青くなる査察部員。安全靴の鉄板が曲がり足の指が冷たくなってきた。

(殉職するかも?!)

美神所霊事務所玄関では汗だくになりながら懸命に足を抜こうとする男とひたすらドアをしめようとする人狼の少女が居た。


一方、勝手口は簡単だった。

「国税庁査察部です。おはようございます。査察に伺いました」

勝手口から入った女はおキヌに話しかける。

「ご苦労さまです、お役人さま。どうぞお上がり下さい」

そう言えばおキヌの生まれた時代は『お役人さま』の天下だった。
結局、安全靴を挟まれた男を玄関に残し、他のマルサは勝手口から続々と事務所内に入っていった。


寝込みを襲われた美神令子、裏帳簿を隠す時間もなく自室でマルサの女性査察部員のボディーチェックを受ける。その時不意に部屋のドアが開いた。

「ママ!何とかして!」

母親でオカルトGメン隊長の美神美智恵だ。助けにきてくれたのだろうか。
だが隣に知らないオバサンがいる。

「令子、こちらは査察部の神崎部長。人工幽霊はGメンで差し押さえたわ。『申告漏れ』を修正申告しなさい。人工幽霊の録画データを再生させたらそんなんじゃ済まないわよ」

「初めまして、令子さん。こちらの美神隊長の仰るようにしてくれると助かるわ」

その間にも女性査察部員が令子の化粧台に隠された貸金庫の鍵・風呂場の排水溝にぶら下げられた印鑑・応接室の液晶TVの内部に隠された通帳を発見する。


かくして美神除霊事務所は1週間の開店休業を余儀なくされた。『申告漏れ』は15億・追徴課税額は5億を超えた。それでも公園地下のシェルターが発見されなかっただけでも良かったと思う令子だった。なぜ化粧台に隠した鍵まで容易に発見されたかは疑問だったけど。


横島は学校に通っていた。通学途中は初老の刑事さんがいつもつかず離れず尾行している。力だけだったらひょっとしなくても自分の方が強いかも知れない。でもこの前みたいに狙撃された場合、駅でホームに入ってくる電車の前に突き落とされた場合、この人が目撃してくれる。緊急手配もしてくれる。
ましておキヌちゃんにとっては安心だ。女性刑事がいつも付き添ってくれている。
たまたま刑事に六道女学院OGがいて、『家庭教師』という触れ込みで開店休業中の美神事務所に入った。この人は美神さんの調査も担当している。結局、美神さんは美智恵さんには事件の事を喋ったと判ったが、それ以外は口外していないことが明白になるまで疑いは残っている。現在美智恵さんは知里さんと贈収賄事件の調査をしている。
一体どこから秘密が漏れたのだろう。


「横島くん、おはよう!」

愛子が声をかけた。教室の中に入ると、それだけで安心感が広がる。仲間がいるという安心感が。

(これで授業がなきゃいいんだけど。まあ授業がなければ学校ではないよな。あ、でも知里さん、愛子の『机の中の学校』って言ってたな。してみると学校って何だろう?)

珍しくそんなことを考える横島。窓の外、グランド越しに見える三階建てのビルの屋上で何かが一瞬チラと光って見えた。

「みんな危ない!」

横島が叫んだ次の瞬間、目の前に居たメガネ(あだ名)が倒れていた。腹を撃たれ床の上で苦しそうに唸っている。横島は次の狙撃からメガネや愛子たちを守るべく文珠を使ったが、次の狙撃は無かった。


救急車に乗せられ病院に搬送されたメガネは幸い一命を取り留めたものの、全治3ヶ月とのことだった。教室が現場検証で使用できないため、緊急ホームルームが物理実験室で急遽行われた。他のクラスは授業を中止、全員下校している。校長はマスコミの対応、教頭は教育委員会等への説明、クラス担任はメガネに付き添って病院へ行っている。最後列には初老の刑事さんがいる。

「なんでメガネくんが狙撃されなきゃいけないの?!」
委員長をしているお下げの娘が泣きながら言う。

(そうだよな〜、メガネは狙撃されるような人生歩んでないもんな〜。)

横島は俯きながら席を立って黒板の前に立った。
「すまん、俺のせいだ」
そう言って土下座した横島を級友達は驚いた目で見る。

確かに美神事務所のGSだから、暴利を貪られた霊障被害者から狙われることもあるかも知れない。級友たちの間に横島への不信感が増大する。

一方、横島は土下座したまま考えていた。
(俺のせいでメガネが撃たれたんやったら、クラスの連中からボコボコにされてもかまわへん!)
しかし何時になっても級友の拳は鳴らなかった。


(この横島はスケベでアホで、おまけに一時期は魔族の手下で、狙撃されても不思議じゃない奴だ。でも、でも殺されていい奴じゃない。問題はこいつを狙う奴だ)
(横島くんを狙う弾にメガネくんが当たったのかも知れないけど、横島くんのせいじゃないわ)


「なんで横島くんのせいなの?」
愛子が静かに喋り始める。

「横島くんが狙われたから?貴方のせいじゃないわ。貴方も被害者なのよ。そんなに自分を責めないで...」

「でも俺が学校に来なければ」

「そんな事言わないで。学生なんだから学校に来なきゃ。ねぇ、みんな」

「横島留年させたら寝付きが悪いからな」

「でも何で何に狙われたのかだけは教えてくれ。でないと納得できん!」


「それは私から説明します」
愛子が前に出て級友たちに説明をする。
「刑事さん、いいですよね」
愛子が有無を言わせぬ勢いで最後列にすわる刑事さんに告げる。刑事さんは
「俺は知里さんでも呼んでくらぁ」
と言って外に出て行った。


「・・・というわけなんです」
愛子が四谷秘書の除霊から順序立てて説明する。
級友たちはマスコミで『無理心中』とされていた一家3人死亡事件が実は贈収賄絡みの殺人事件だったことに大変驚いている。しかも横島やおキヌちゃんまで殺そうとし、あげくに何の関係もないメガネを殺しかけたのが(状況からは)南武グループと大塚代議士だということに怒りを露わにしている。

「でも贈収賄の証拠はインターネットディスクにあったファイルだけ。四谷秘書が個人でスキャンした書類や録音された通話は裁判で証拠になるか微妙だし、しかも殺人未遂の証拠は今のところ全くありません。」
愛子が拳を握りしめ悔しそうに呟く。しかし気を取り直して宣言する。

「でも、きっと知里くんが立件してくれるわ」

「知里くんって何処の子?」お下げの委員長が愛子に尋ねる。


その時教室の後ろのドアが開いて40前後の髪の薄くなりかけたオジサンが入ってきた。さっきの刑事さんも一緒だ。

(もう少し格好よく颯爽と入ってくればドラマのヒーローっぽいのに・・・)
愛子の溜息を飛ばすような大声でオジサンが話を始める

「品川地検特捜部の知里です。みんなとは20年程上のOBになるかな。愛子くんの机の中では横島くんとは同級だ。
私は愛子くんから横島くんが体験した四谷秘書の事件を聞いて内偵していたんだ。この事件は大規模な疑獄事件に結びついている。慎重に対応した。
メガネくんを撃った奴は先程捕まえたよ。情報が漏れた原因も突き止めた。実に嘆かわしいことだが、警察内部に大塚代議士に通じる者が居たんだ。こっちも同時に捕まえたよ」

「じゃあ大塚代議士も逮捕できるの?」
委員長が尋ねる。

「それはちょっと工夫が要るね。内閣総理大臣は『指揮権』というものを持っていてね。その名の通り検察を指揮する権限を持っている。大塚代議士は与党の大ボス。しかも四谷秘書のファイルによると一部の金は首相にも流れている。そうなったら普通は指揮権を発動するよね。そうなったら大塚代議士も首相も南武グループも安泰だからね」

「それじゃ四谷秘書や奥さん・娘さんが可哀想・・・」
女生徒のひとりが呟いた。

「そうならないように今『仕込み』をしている。詳しくは教えるわけにはいかないが、可愛い後輩たちにヒントだけあげよう。ここ数日、タイガーくんが居ないだろ?。
ところでみんな、今日この教室で見聞きしたことは絶対口外しないでくれたまえ。メガネくんはもう関係者だからいいけどね。」

そう言って知里さんは刑事さんと教室を出て行った。


知里さんの『仕込み』の答えは数日後に判った。


まず海外の大手マスコミ・BNNテレビで『蛇の銀蔵』が行った盗聴事件と南武グループが依頼した殺人未遂(メガネの事件だ)のことが大々的に報道された。これに火を点けられた国内週刊誌が次々南武グループと大塚代議士の癒着を報道し始めた。当然首相は関与を否定、あわや指揮権発動となったところで大事件(後の『御乱心事件』)が起きた。


たまたま国賓として来日中のザンス国王を迎え衆議院本会議場で演説があった際、あろうことか首相がザンス国王と満場の代議士を前に南武グループからの収賄事件の全貌を話し始めた。勿論悪いのは大塚代議士と南武グループで、自分は”出来心”との主張を忘れなかったが・・・。
そして「地獄だけは行きたくない〜!」と叫び、そのまま失神してしまった。

同時に何者かからマスコミ各社に四谷秘書のファイルが送られ、事件の全貌が明らかになった。御乱心事件直後に首相は『業務多忙で取り乱しただけ』との見解を出したが、あまりに四谷秘書のファイルと符合する点が多く、国会は騒然となった。結局は内閣総辞職となり、大塚代議士は勿論、元首相となった首相も収賄容疑で検挙されるに至った。

大塚代議士・南武グループを擁護していた国民新聞社はこの時点で寝返り、大塚代議士の旧悪を事細かに暴露し始めた。南武グループの政治力に頼った急成長も、消費者・経済界からの反発で陰りが見え始めた。南武グループ総帥が贈賄と殺人教唆などで立件された後、求心力を失った南武グループは急激に崩壊を始めた。


横島はメガネの病室に居る。タイガーや愛子も一緒だ。

「わしゃ首相の意識を操作してザンス国王が閻魔大王に、議員たちが鬼に見えるようにしたんじゃ〜」

タイガーが級友たちに『御乱心事件』の全貌を話す。

「でも美神さんのお母さんがタイガーを取り調べたときはビックリしたわ」

愛子が言う。『御乱心事件』直後、オカルトGメンは精神感応力者であるタイガーを一時拘束したのだ。このときは全員が、味方の筈の美智恵を疑った。
だが本会議場の霊波計を見れば何らかの精神操作が首相にされたことは明白。当然、首相は操作されて虚偽の発言をしたと主張しかねない。だったら「国王を閻魔大王に見せかける」以外の操作をしていないことを立証すれば知里たちへの側面支援になるのではないか。
そう考えた美智恵は直ちにタイガーを補導、取り調べたのであった。取調内容は随時パリのICPO本部にも送られ国際的にも証明された。

タイガーはイタズラが過ぎるとのことでオカルトGメン隊長からの戒告のみで釈放された。『戒告』と言っても公務員でも無いタイガーには説教にすぎないし、ひのめちゃんをあやしながら言ったのでは説教にもならないが。


「愛子しゃんに検事さんの知り合いがいるとは知らんかったの〜」

「昔のクラスメートよ」

「愛子さん、ということは愛子さんはこう見えても40歳?」
メガネが余計なツッコミを入れて愛子に机で殴られてしまった。これでまた入院が延びたような気がする。

「つくも神だから年をとらないのよ!」

愛子は脹れながらも、うっかり横島のつもりで机で殴ってしまった級友を介抱する。

「怪我したクラスメートを介抱するなんて青春よね」

「メガネしゃんの怪我は腹だけだったのに愛子しゃんが増やしたんじゃ〜」

「五月蠅いわね。喋っている暇あったら介抱手伝いないさい!」


そんな級友たちを見ながら(いい友達ばかりで良かった)と思う横島だった。狙われていたのを横島が黙っていたことには怒るが、決して横島を責めないメガネ。横島のためにいろいろ動いてくれた愛子。級友の為に首相を精神攻撃してくれたタイガー。そしてすべてを自分たちに任せて成仏してくれた四谷秘書の一家。

(今回は散々な目に遭ったけど、友達の有り難みがつくづく判ったなぁ。それにしても知里さんって、俺とおキヌちゃんを除霊に行かせないために美神さんとこに国税向かわせるわ、タイガー使って首相に精神攻撃するわ、何でもアリやな。温和そうな顔しててもうちのオヤジと同類だ。とんでもない検察官と『同級生』だったんだな〜)

メガネの病室にある差し入れを食べまくりながら今回の事件を思い起こす横島だった。


(完結)
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初めてオリキャラの登場する話を作ってみましたが、
上手く出来たでしょうか。

読んで頂いた方 ありがとうございました


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