*この作品は特に期待されるような性描写がある訳ではないのですが、内容が内容なので一応15禁にしてあります。また、ルシオラの事は完全に無視していますので、ルシオラが横島の子供として転生しなくちゃ嫌だという方はご注意ください。
美神令子除霊事務所に所属する、見習GS横島忠夫。彼は最近”金毛白面九尾の狐”タマモと一緒に仕事をすることが多い。何故かというと―
横島は超薄給ではあったが、戦闘能力に限定して言えば師匠の美神を超える実力を持っている。そのため最近は、美神とは別働隊で除霊をする事が増えてきた。
美神は彼自身の修行のためと言ってはいるが、同時に二つの依頼が受けられるため、収入がアップするというのが最大の理由であろう。
さてメンバー分けだが。犬塚シロは、横島に変わる荷物持ちなどの力仕事や、囮要員である。美神は基本的に、力仕事など絶対にやりたがらないので必要不可欠なのだ。
だが氷室キヌに関しては、いささか種類の違った理由が存在するようだ。その理由とは
『横島とおキヌちゃんを二人っきりにしたくない』
というものである。これはGS美神令子ではなく一人の恋する女性としての気持ちなのだが、本人は絶対認めないだろう。
このような諸々の理由があり、消去法にによって残ったのがタマモである。腕力や戦闘力が低く、頭脳派の後方支援タイプであるから、仕事上の横島との組み合わせもベストであるし、なにより横島をめぐる争いにおいても、タマモは美神の中では”安全パイ”であったのだ。
なにせこのクールガールは基本的に他人に干渉しないし、興味を示さない性格なのだ。横島とも仕事仲間以外の態度で接する事もなかった。
しかしコギャルのような容姿によって忘れがちであるが、彼女は金毛白面九尾の狐。かつて傾国の妖怪として名を残した、伝説の大妖怪である。美神は自分の思慮の浅さを悔やむ事になろうとは、夢にも思っていなかった……。
そういう訳で、今日も横島とタマモはコンビを組むことになった。
本日の仕事は廃屋に住み着いた悪霊が解体作業を邪魔するので、何とか除霊して欲しいという不動産会社からのものである。まあ良くある内容のものだった。
二人は、美神から「絶対赤字を出すな!」という厳命を受けつつ目的地に向かった。
依頼された廃屋は結構大きな洋館で、敷地面積と立地条件を考えれば、不動産屋にとってもかなりの優良物件である事が見て取れた。
もっともそうでなければ、依頼料の高い美神令子の所に頼んだりはしない。美神は金にはがめついが、仕事はスピーディーで正確・確実である。多少の出費でも早く解体工事に入りたいという事なのだろう。
情報によれば、今回の悪霊は元はこの洋館の持ち主であったという。
借金でこの館を差し押さえられてしまい、絶望のあまり書斎で首をつって自殺してしまったのだ。以来死んでからもこの館から離れられずに地縛霊となってしまったらしい。
「あ〜めんどくさい。死んだならとっとと成仏すればいいのに…」
「まあまあ。そんな簡単なら俺達の仕事がなくなっちゃうだろ?」
いつも何かと文句の多いタマモをなだめながら、横島は館の一階部分を一つ一つ調査していく。建物の中は思っていたよりきれいで、補修をすれば今でも住めそうだった。
(まさか悪霊が掃除をしているわけではあるまいし…。いや、おキヌちゃんなんか、えらく家庭的な幽霊だったからなぁ)
横島はアホな事を考えてしまった気づき、首を横にふり、仕事へと戻った。
一階は異常なし。自殺した現場は二階の書斎だったからメインイベントは二階ということだろうか。
横島とタマモはギシギシと音のする階段を慎重に登り、二階へと足を踏み入れた。
一階と同様に趣味の良い調度品がそろっており、主人だった人間(今は悪霊だが)のこの館に対する愛着が感じられた。
一つ一つ部屋を調査していくが、まだ異常は見られない。
(やっぱり居場所は自殺現場の書斎かな……)
ポルターガイストなどの霊障もまったく見られず、少し表示抜けした横島達であったが、やはり当初の読み通り、一番奥の部屋にある書斎が対決の場所になるだろうと気を引き締めた。
ギイィーー
少し立て付けの悪くなったドアを、ゆっくりと開ける……。反応なし。
それではと二人は書斎に足を踏み入れると……
「出て行けー!ワシの館に近づくものはゆるさ―ん!!」
突然二人の真上から耳障りな絶叫を発しながら、巨大な悪霊が天井から襲い掛かってきた。
その姿は老人の風体であったが、明らかに人間の大きさではなく、顔は醜く歪み悪霊の憎悪のあらわれの様だった。
「出て行け」などと注意しているが、明らかに”押しつぶして殺してやる” という気マンマンの襲撃である。
二人を同時に押し殺すのに十分な大きさを持っている上に、完全に不意をついたと確信した悪霊は、この失礼な侵入者達の死にゆく者の悲鳴を聞けると、笑みさえ浮かべた。
だが―
横島とタマモは、はかったように左右に飛びのき、闘牛士のようにヒラリと悪霊の攻撃をかわしてしまった。
悪霊は「グハァ!」と情けない声をあげ、部屋がしばらく地震の様に振動するほどの勢いで、床に突っ込んでしまった。まさに盛大な自爆である。
「ベタな不意討ちしやがって。そんなもんバレバレだっつうの!」
いくつもの修羅場をくぐってきた横島も、相手の気配や匂いを察知する能力の高いタマモも、悪霊には不意討ちと思われた攻撃を、最初から察知していたのだった。察知していて知らぬフリをする。役者が違うといえばそれまでであるが、この二人中々良いコンビである。
敵の攻撃をかわしたままでいるほど、横島も甘くはない。右手に持った文珠に『浄』の文字を発生させると、ホイっと床に這いつくばっている悪霊に投げつけ、一瞬にしてその姿をを消し去った。
悪霊は消え際に「おのれ〜覚えておれ!!」などと恨み言を言っていたが、そんなものは負け惜しみである。おキヌちゃんであれば、「可哀相に、成仏してくださいね…」などと優しい言葉の一つもかけてくれるかもしれないが、あいにくここにいるのは横島とタマモだけであった。
「さーてこれで終わりだな。思ったより簡単に除霊できたな」
「あんな暑っ苦しい奴の相手してたら、汗かいちゃった。早く帰ってシャワー浴びたい…」
「よし! さっさと帰るとするか」
一件落着! と帰り支度を始めた二人だったが、ここで突然事件が起こった。
ミシッ・・・ミシミシッ・・・
「ん? なんだ?」
「何? この音?」
奇妙な音に二人とも首を傾げた。その時ー
「うわぁああ!」
「きゃぁあぁああ!」
ただでさえ古くなっていた書斎の床下は、先ほどの悪霊の自爆攻撃によって最後の命運(耐久力ともいう)を使い果たしたという事だろうか。突如轟音とともに、横島とタマモの立っていた床が崩れ、二人の悲鳴もろとも階下に急速落下していった。
この突然の非常事態にも関わらず、横島はとっさにタマモの体を抱きしめ、彼女が少しでも怪我をしないよう、自分が下になる格好に体勢を入れ替えた。女性に優しい彼らしい見上げた根性である。
横島は自分の体に相当の衝撃と痛みがくる事を覚悟し、目をつぶってその時に備えた。
「……………」
だがいつまでたっても、その両者とも横島を襲う事はなかった。なんと二階の書斎の真下は来客用の寝室となっており、二人の体は古いながらもクッション性を失っていない、ベットの上に落ちたのである。なんたる幸運。
だがしかし―
横島はその時、当初予想していた床下への落下とは違う衝撃をその身に受けていた。しかもそれとは違った、ある意味それ以上の衝撃である。
横島はタマモを守るためその体を強く抱きしめており、そのままの体勢で勢い良く柔らかいベットに落下し大きくバウンドした。その予想外のバウンドにより横島の唇と、タマモの唇が密着してしまったのだ!
……10秒経過
………20秒経過
…………30秒経過
「「……………ブハァ!!!」」
自分達の状況が良く分からず、目を見開いてそのままの姿勢でいた横島とタマモは、30秒以上経過してようやく自分達が”キス”をしているという事に気がつき、同時に飛びのいた。
「な、なにするのよ! この私に…。キ、キスしたわね!!?」
「ま、まて! 誤解だ! こ、これは不可抗力だぁ!!」
先ほどのまでの静寂が嘘のように、タマモは猛然と横島へ抗議を始めた。それを受ける横島は、ただひたすらおろおろして弁解にあたる。だが二人とも顔を真っ赤にしており、はた目から見ると、痴話喧嘩に見えない事もない。
ほんの少し前までは、悪霊の巣くう危険な場所であったこの洋館は、今はさながら喜劇を上演する舞台とかしていた。
その二人の喜劇役者は、しばらくわぁわぁ、ぎゃあぎゃあと言い争っていたのだが、不意にその会話が途切れてしまった。
役者の片方であるタマモが押し黙ったと思ったら、急に頭を抱えてうずくまったのである。
突然の事に、最初は自分とキスしたことに失望して頭を抱えていると思い、「もしかしてファーストキスか!?」とか「そんなに俺とのキスが嫌だったのか!?」などと間抜けなことを言っていた横島であったが、タマモが苦しそうなうめき声をあげ始めて、ようやく彼女の体に異変が起きていることに気づいた。
「おい! タマモ、大丈夫か!?」
心配になり慌てて声をかける横島だったが、タマモは「ううぁ…ぁぁあ」とますます苦しげな声をあげてベットの上でのたうちまわる。
以前タマモは突如高熱を発し、意識不明の昏睡状態になったことがあった。その時は単なる毛の生え変わりであったのだが、横島は彼女達妖怪には人間とはまったく違った体調の変化があるという事を身をもって知ったのだった(天狗との苦い思いでもあった)。
前回は事無きを得たが、今回もそうだとは限らない。横島は尋常ではないタマモの苦しみ方に不吉な考えを頭に浮かべ、背中に冷たいものを感じた。
「うわぁ! どうすれば良いんだ? 美神さんに電話するか? そうだ、文珠を使えば……。だめだ! どんな文字を入れれば良いかわからん!」
のたうちまわり、横島に背を向ける形でうずくまってしまったタマモの姿に、横島は完全にパニックとなってしまった。今にもタマモ同様、頭を抱えてしまいそうである。
「タマモ…。一体どうしちまったんだよ……」
横島は心配でなかば泣きそうな顔をして、タマモの肩に手を触れた。
手を触れたその瞬間―
横島の心配が功をそうしたのか、タマモのうめき声が不意にピタリと止んだ……。
「うおぉ!?」
無言になったタマモの様子に、いぶかしげな表情をしていた横島は、驚愕の声をあげ思わず手を引っ込めてしまった。何故か?
うめき声を止めた代わりに、タマモの体からとてつもなく大きな妖気が、噴き出すように溢れ出してきたのである。
横島はその様子に思わず息を呑んだ。タマモの周囲の妖気は、時折彼女が得意な狐火のように形作り、さながら太陽のフレアのようであった。
声が出ない。
横島は手を引っ込めて宙に浮いた状態のまま、ただただ呆然としていた。
やがてタマモはうつ伏せになっていた体を起こし、横島の方へ振り向いた。
「タ、タマモ……?」
「…………」
タマモは横島の言葉に返答しなかったが、横島はそれ以上喋れなくなってしまった。
彼女の目に射抜かれた瞬間、身動きが出来なくなってしまったのだ。
元々タマモはかなりの美少女であったが、今目の前の姿は神々しいまでに威厳と美しさに満ちている。女神像のような完成された美しさではあるが、紫水晶のようなその瞳が、あふれんばかりの生命の輝きを主張していた。
何十秒、あるいは何十分たったのか、硬直する横島には分からなかったが、タマモは妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。
「横島……。ありがとう…」
「へ? …な、何が?」
やっと発した言葉が、お礼の言葉だったので横島はまた困惑してしまう。
「あなたのおかげで、私前世からの記憶と力を取り戻したの……」
「!?」
記憶障害の場合、何らかのキイワードやショックを与える事で突然記憶を取り戻す事がある。前世での記憶の場合それが該当するかは分からないが、とにかく先ほどの横島とのキスが原因で、タマモの記憶と強力な妖力を取り戻したらしい。
なるほど、伝説の大妖怪”金毛白面九尾の狐”ならばこれぐらいの妖気を出せるかもしれない。
「力を取り戻した……。それがどういう事か分かる?」
「な、何が??」
「うふふ…ふっふっふ……。それは何の障害もなく、あなたをモノにする事ができるって事よ!」
「…………はぁ!?」
横島は既に話の展開についていけていなかった。どっからどういう道筋をたどれば、そんな結論に達するというのか? 横島でなくとも意味不明であった。
「私達妖狐、特に金毛白面九尾は時の権力者などの、強い男に庇護を求める性質があるのは知ってるわよね? 横島こそ、私が求めていた存在よ!」
「お、俺が!?」
「あなたは若くして霊力は文句ない高さを持っている。自分では気づいてないだろうけど、潜在能力は底が知れない。今は単なる貧乏学生の見習いGSだけど……いずれ大化けするわ! 特に私がそばに居ればね?」
「それに……。あなたなら今までの権力者のように、私の妖気と美しさで自分を見失う事もないだろうしね……。あなたは何よりも強くて優しい心を持っている……」
最後に小声で付け加えられた言葉は、今までの自信に満ちたものではなく、どこか寂しげであった。
金毛白面九尾の狐とは本来、富と子孫繁栄(子宝も)を授けてくれる神獣である。かつて美智恵が言っていたように傾国の妖怪というのは、政変など別の要素が原因であり、彼女自身には国を滅ぼす意思などなかった。
しかし彼女から発せられるフェロモンのような妖気と、その知性と美しさに飲み込まれて、権力者が持っていた本来知勇を備えた支配者として人格を歪めてしまい、周囲から寵愛されるタマモへの嫉妬とともに非難されるという事は度々あった。
もし権力者が自分を保ち、タマモをそばに置くことができれば、その王朝は富みと繁栄を約束されていたのだ。タマモは常に自分の力の強さと、人間達の脆さに心を痛めていたのである。
確かに人・神・魔・妖怪を問わず、ありのままの姿を受け入れる事ができる横島なら、タマモの望みをかなえられるかも知れない……。
「あなたの性格じゃそれを望まないと思うけど。私ならあなたを”世界の支配者”にする事も不可能ではないわよ?」
現代社会において、何を持って”世界の支配者”と言うのかは謎であるが、タマモの自信が根拠のないものだとは思えなかった。
「と、いう訳で……。覚悟はできた? 横島♪」
タマモは妖艶な笑みに舌なめずりをしながら、相変わらず硬直している横島にジリジリとにじり寄っていく。
横島とてかつては魔王アシュタロスとも合間見えた、屈強な霊能力者である。たとえ金毛白面九尾の狐の妖力を持ってしても、その動きを止めることなど出来ないはずである。
だが…横島は非常に”ヤバイ目”をした女性が迫ってくる事に恐怖して、腰が抜けていた。蛇に睨まれたカエルの様に、ヘタレになっていたのである!
「うふふ…うふふ…」と不気味に笑いながら迫り来るタマモ。
ヘタレな横島にはなすすべがなかった……。
「それじゃ。いただきま〜す♪」←タマモ
「いやぁー! やさしくして〜!!」←横島
横島は美味しくいただかれてしまった………………。
その後―
横島を慕う女性陣に向けて、タマモは宣戦布告、というより完全勝利宣言を高らかに行った。
美神をはじめ女性達には、今までそんなそぶりさえも見せていなかったタマモの急変はまさに寝耳に水であった。当然反対、非難の嵐であったが、タマモは堂々とそれを受け止め、返り討ちにした。
最終的に彼女達を諦めさせるに至ったのは、タマモの体内に横島の子供が宿っている事が発覚したためであった。
タマモは子孫繁栄(子宝)の神獣であり、媚術の秘儀に精通している。
まあ要するに…その辺の所は百発百中でHITできるのである!
横島忠夫という男。ここに至ってまで逃げ惑うような奴ではない。
ほどなく二人は正式に結ばれる事になった。
二人の結婚式はピートや雪之丞達のあたたかい祝福と、女性達の涙と怨みが程よくミックスされた凄まじいものだったという。式をひき受けた唐巣神父の胃痛と抜け毛の進行が深刻なものになったのは言うまでもない……。
横島はその後、タマモの予言通り世界的なGSとなり、世界の霊能・宗教界で確固たる地位を築く事となった。神・魔界ならびに妖怪の世界まで幅広く人脈を持つ横島は、国連や各国政府さえも無視できない存在になったのである。
タマモはといえば。この時の子供を含め横島との間に九人もの子供をもうけた。子供達は全員が女子であり、皆タマモの美貌と知性。横島の寛容と優しさをあわせ持ったスーパーレディーとなった。
加○姉妹、ヒル○ン姉妹を遥かに凌ぐ”横島シスターズ”は、世界中のVIP達をとりこ・骨抜きにしてしまい、両親の仕事の大きな手助けをした。ある意味、タマモが言っていた”世界の支配”と言えなくもないかもしれない……?
世の中には。
キスで始まる恋もある。
キスで始まる約束もある。
そして………
多少、いやかなり強引で無理やりぽいが、キスで人生が他人に決められてしまうこともある!
人生とは…このように予測不能な難しいものなのである。
<お ま け>
妖狐タマモによって無理やりに人生を歩んでしまったように見える横島忠夫であったが、絶世の美女を妻に持ち、可愛くて、二十歳過ぎても父親と一緒にお風呂に入りたがるような”超ファザコン”の娘を九人も持った彼は、幸福な人生を歩んだ事を明記しておく。