昔々。カオスで時代を表すのは飽きたので時代はとりあえずアシュが飛ばされた到着地点あたり、とでもしておきましょう。
東経130度近辺、北緯30度近辺。
そこに、ある家族が住んで居ました。
母子家庭でしかも子供3人と言う苦しい家庭であったので、お母さん――西条は考えました。
…何を、と言えば――とにかくも、実行に移した日の事でした――
「よし、君達。すぐ戻ってくるから、この辺で待っていてくれ」
…凄まじいまでの山奥。しかももうすぐ雨が降りそうな。ちなみに季節は一応は秋ですが前倒しなのかもう冬並みに寒いです。
西条ママは、そう言って家へと帰っていきました。
…彼女は、子捨てを行ったのです。
さて、残された三人――上から順に、ユッキー1st、ピート2nd、横島3rd。
西条ママは一刻経とうが半日が過ぎようが戻ってきません。
さすがの彼らも、西条ママのことを怪しいな、と思います。
「どう思いますか、横島3rd」
「どうもこうもなぁ…ユッキー1stはどう思うよ?」
横島3rdはユッキー1stに聞きました。
「旦那は信用できるが信頼はできねぇからなぁ…」
一致団結、彼らは歩き始めたのです。
…で。
やっぱりと言うか、なんと言うか。あっさり遭難しちゃうわけです。
横島3rdの文珠[撥]で雨は弾いているものの、やっぱり夜は寒いわけです。
そこで都合よく何かが現れるのが、昔話なんです――
「おい!灯りだ!」
「でも妖怪とかだったら危なくないですか?」
ユッキー1stの叫びに、ピート2ndが反論します。
しかし彼は、無拍子に切り替えしました。
「俺たちは何だ?」
「あ、そういえばGSでしたね」
「そう言えばって…ま、確かにそれらしくないのは否定せんが」
3人は、灯りに向かって歩いて行きます。
灯りの正体は、とにかくでかい家。
現在で言うカマボコ型の倉庫の天井を高くした感じです。
「すいませーん」
とりあえず一番人当たりのいいピートが扉を叩きます。
出てきたのは金髪で背が高めの女性…一文字魔理です。
「ちょっと栗とかを取りに来たんですが、迷ってしまいまして。泊めてくださいませんか?」
ナチュラルに嘘をつくあたりピートも変わりました。
一文字さん、かるーく、
「ああ、いいよ。入りな」
と言いました。
3人はありがたく入れさせてもらい、茣蓙の上で、火にあたったのです。
――そして深夜。
一文字さんが、3人を起こしました。
「すぐに布団ごと軒下へ!!急いで!」
その形相に、3人は急いで軒下へともぐりこみました。
――ズズン、ズズン。
足音が振動とともに響いてきます。
――ズズン、ズズン。
「なんなんだよ…!?」
横島3rd、涙目です。
――ズズン、ズズン。
「静かに…!」
ピート2ndが押し殺した声で言いました。
――ズズン、ズズ、ガタッ!
寺の門のような、巨大な扉が揺れました。
そして、そこから顔を出したのは、身長30尺など軽く超え、体の幅も大人が何人も手をつないでも回りきれるかどうか、という太さの、巨大な鬼――
――タイガー寅吉。
「「「…」」」
3人は、固まりました。
「…人間の子供の匂いがしますケンノー」
ず、ずん!と、彼は座りました。
先ほど三人が茣蓙だと思っていた物は、彼の座布団だったのです。
「ああ、惜しかったね。さっきまで家に居たんだ…今行けば追いつけるかもしれないね、その【千里の靴】なら」
「そうですケンノー…行ってくるとします」
彼はズ、ズンと立ち上がり、外へと出て行きました。
一文字姐さん、3人を軒下から呼び出しました。
「さぁ、今のうちだ。早くお帰り。西に行けば、人里に着くから」
3人は彼女に礼を言い、家から出て行ったのです。
そして、しばらくして。またも足音が聞こえてきたのです。
「ご飯を食べ忘れてたで…」
ピク、と鬼タイガーの鼻が動きました。
「子供の匂いが…西ですケン、魔理しゃん、行ってきますケンノー」
ズ、ズン、ズ、ズン。
彼の履く靴は【千里の靴】。
とても早く駆ける事ができるうえ彼も履けると言う一品です。
3人の生還は、もう絶望的でした。
――普通なら。
横島3nd、文珠[遮]を自分たちに使いました。
すぐに鬼タイガーは追いついてきたのですが、[遮]断された匂いと気配と存在で、見えても見つけることはできず。
結局、いくらか木をなぎ倒して眠ってしまったのです。
…当然ながら、横島3rdに折れた木が当たったりしましたが。
「よし、今のうちに逃げましょう!」
ピート2ndが言いました。
「そうだな、横島、逃げるぞ」
ユッキー1stも頷きます。しかし。
「いや、残りの文珠も残り2つ、とても人里までは持たない。あいつにまた追いかけられちゃかなわんから――」
横島3rd、言葉を切りました。
文珠に文字を込め、ニヤリ、と笑って。
――鬼タイガー、足が寒くて目が覚めました。
うーん、と見てみれば、靴が無い。その傍ら、今だ光る[脱]の文珠。
そして匂いにつられて風上を見てみれば、なんと異常にでかい靴をはいた3人の餓鬼。
ちなみにムカデ競争っぽく足を動かしています。
「あーっ!!」
鬼タイガー、追います、追います。
だから、横島3rdが落とした物に気付く事は無く――
[穴]
ズ、ドォオオオオ…!!!!!
そして3兄弟は、西条ママを靴で持ち去って山奥に置き、とりあえずはゆっくりと暮らし始めました――
「――ハッ!!」
タイガーは、ソファーから身を起こした。
そして、自分の家だ、と再認。
胸の上…いや、ずり下がって腿の上には長女(まだ眠っているあたり妻似かも知れない、と思う)、その横のベッドには長男が眠っている。
子供を見ているうちに眠ってしまっていたらしい。
疲れてるんですかノー、と呟き、入院中の妻を想う。
「出番が、やっと来たですケンノー…!!これも魔理しゃん神のお陰…!」
キラリ、と光るは涙、涙。彼だけの女神に礼を述べ。
やったよ父ちゃんとばかりに、上を見上げ。
夜泣きを始めた子供に追われるのでした。
タイガーと魔理の口調がなんか違うッ!!…と、斧です。今回はマイナーな昔話【千里の靴】をお送りしました。知ってる人居ますか?本当は最後には親元に戻って幸せに暮らすはずなんですが、タイガーの夢と言う事で。
人間寝ないと駄目ですねぇ。寝ても駄目人間は居りますが。