ヨコシマンの正体。
さり気無く前回の後半に名前が出たが、学生『横島 忠夫』である。
かの有名な、世界の転覆を目指した魔神『アシュタロス』を倒して横島 忠夫、とはちと違う。
いや、元は同じ存在だった。
一度、時間跳躍能力者『美神 令子』が中世の欧州に一度行った事がある。
ドクターカオスの最高傑作『マリア』の漏電が原因で過去へ飛び、その際に横島忠夫を巻き込んでしまった。
そしてそこでのプロフェッサーヌルとの戦い。
美神令子はそこで横島忠夫が死ぬのを見た。
当の本人はプロフェッサーヌルの電撃攻撃を利用し、再び時間跳躍を行って助かったものの、取り残された横島の死体はプロフェッサーヌルを撃退したドクターカオスの元で保管されることになった。
ヨコシマン誕生秘話はここから始まる……。
マッドネス ヒーロー 『働け! ヨコシマン』
「ただいま~」
普通の学生服を着たヨコシマン。
帰ってきたのは彼の住んでいるボロアパートで、本部でもある。
「おう、遅かったの。 忠夫や」
「横島さん・お帰り・なさい」
中に居たのはよぼよぼの老人と、少しイントネーションがおかしい女性。
老人の名はドクターカオス。
そばに居るアンドロイド『マリア』を作りだした人である。
そして、横島忠夫を正義の超人ヨコシマンに改造したのも彼。
この世に新たなる変態を次々と生み出すマッドサイエンティスト……といっても、今ではもうただのボケ老人なだけであるのではあるが。
「聞いてくれよ、親父! 俺のところにも遂に……悪の秘密結社が出てきたんだ! 毎日毎日肩身の狭い思いをしてきたけど、やっと俺にも春が訪れたんだよ!」
まるで子供のようにはしゃぐヨコシマン、勿論言っていることも子供っぽい。
待ち望んでいたおもちゃを自慢するかのように話している。
そしてカオスはそのヨコシマンを孫息子を見るような目で見て。
「で、バイト代は?」
全く人の話を聞いてなかった。
「え? あ、いや。 それがさ。 アシュロスとか言う秘密結社で、それはもう強力な怪人と一戦を交えて……」
「バイト代は?」
少しずつ、顔が変わっていくカオス。
「確か、トラトラトラのトラウマンとか言ったかな。 えーと……」
陰念です。
「バイト代は?」
「……すんません。 今日、バイト行ってません。 だから……」
「なにを寝ぼけたこと言っておるんじゃバカモーン」
ばちこーん、と軽快な音を鳴らし、カオスの細腕の先にある骨と皮ばっかりの手でヨコシマンの横顔を張り倒す。
かと言え腐ってる改造人間……あいやいや、腐っても改造人間であるヨコシマンの反撃回路が作動し、直ぐにカウンターパンチ。
「こ、このッ……創造主にたてつくつもりきゃー!? 小僧、バラバラになるのを覚悟じゃろうな?」
「お、親父が殴ったからだろ!? 反撃システムをこんなに軽い攻撃でも作動するように設定しやがって、これのせいで何回バイトをクビになったかわかってんのか、このボケじじいーッ!!」
「ボケじじいとは何様のつもりじゃ!? 256分割は決定じゃぞ!!」
着ていた黒いローブから、何本もメスを取り出すカオス。
どこぞの無免許医師のように鋭い刃を見せびらかしている。
それを見たヨコシマンも、流石に臆し、1歩下がる。
が、次の瞬間ニンマリとして。
「お前如きに、俺が負けるかーッ! ヨコシマン・ファイナ……」
「ロケット・パンチ」
マリアの鉄の拳が必殺技の詠唱の途中だったヨコシマンの腹に突き刺さる。
コンクリの壁をぶち破れる衝撃をモロに食らったヨコシマンも流石にダメージが大きいようだ。
「なにをやっちょるかー!! マリアが止めんかったら、ヨコシマン・ファイナルが発動するところじゃったじゃないか!!」
胃の中のものが喉らへんまでせりあがってきているヨコシマンの襟首を掴んで持ち上げるカオス。
ヨコシマン・ファイナルとは、究極最強の必殺技。
即ち、自爆。
体内の煩悩炉を臨界点まで(以下略)
「……ふむ。 まぁよい。 どうせ今日限りであのバイトは辞めさせるつもりじゃったしのう」
再び、優しい父の顔に戻るカオス。
腐ってる……あ、いやいや腐っても創造主というべきか、マリアとは打って変わって感情のあるヨコシマンにはやはり愛着があるようで。
「ってことは、正式に俺は対アシュロス専用ヒーローに?」
「バカもん。 ただ飯食らいには出てってもらうぞ。 他のバイトを紹介するというんじゃ!」
「……んだよ。 俺も今イギリスあたりで流行りのニートになりてぇ」
「死ね! オホン、バイトは単純。 ただのGSじゃ」
GS。
ゴースト スウィーパーの略。
その名の通り、幽霊の掃除屋。
不浄なるもの、実は不浄ではないもの、とりあえず人間と動物と植物以外の何か魂を持つものを一色たに祓う仕事だと言う。
勿論、無害な幽霊や妖怪を保護する良心的なものも多いが、基本的に依頼量は天井知らずで、平気で億の単位をふっかけるものも多い。
その癖、バイトの待遇は非常に悪いんだとか。
「……いや、親父の『命令』っつったら引きうけるんだけどよ。 俺の……なんだ……死んだっつーか、生まれてくる前に死んだときのさらに前の記憶が『GSの仕事は辛いばっかでわりに合わない』って俺に警告すんだけど」
「ふむ。 まぁ、割には合わんかもしれんが、恩は売れるしのぅ。 式神使いの名家である六道家の現当主が一人娘に助手が欲しいとぼやいておってのぅ。 それでお前にやらそうかと」
ヨコシマンの目が怪しく光る。
『一人娘』という言葉に大きく反応して、思わずヨコシマンイアーを作動させていた。
「…………」
「わしも彼女に一度会ったことがあるがのぅ、美少女じゃったなぁ。 本人はおしとやかで、大人しくて、少し泣き虫じゃったか。 たしか、今年で二十歳に……」
誤解の無いように注釈を入れておこう。
『本人は』おしとやかであり、『本人は』大人しくて、『本人は』泣き虫なのである。
彼女の周りに広がる悲惨を極める被害は、『本人』の意思ではない。
だから、カオスは嘘を言っていないわけである。
「それに、GSの仕事をしておれば、何かしらアシュロスの情報が入ったり……」
「やろうじゃないか親父! 全てはヨコシマンの使命のため! 本当は全く持ってやりたくないが、小生意気な小学生のように! 薬でショタ化してしまった高校生のように! 幼馴染の家に転がり込んでも滅多に大人になれるための証拠がつかめない彼のように、やってやろうじゃないか! 別に、美少女のためじゃないぞ。 うん、本当だ」
彼はオーニュだった。
「そうかそうか、やってくれるか。 なら明日の昼に既にアポとっとるからのぅ」
そんな彼を気遣ったのか、もはや言葉を交わす気力もないのか、にこやかな笑顔で言うカオス。
半ば呆れ気味に、バイトへ赴くマリアを送り出していった。
苦難の道を歩むことを今だ知らないヨコシマン!
更なる危機は、美少女の式神にある!
だがしかし、君はきっと諦めないだろう。
そう、にっくきアシュロスを滅ぼすまで!
頑張れ、ヨコシマン。 挫けるな、ヨコシマン!
地球の未来は、君の肩にかかっている!
『待て、次か……』
「おいねぇちゃん。 おめぇ、この陰念様と付き合いな!」
「あ? 何言ってんだよ、このタコ」
たまたま通りかかった路地で、陰念は一人のロンスカの女をナンパしていた。
髪は金髪に染め、タバコを吸い、化粧をし、あからさまに不良な女性。
彼女が中学生であるところに、彼の趣味が見え隠れしているところだ。
「俺はなぁ、おめぇみたいなツッパリが好きなんだよ。 ほれ、今頷いたら俺様の一番の妾にしてやっからよ」
「さっさと失せな、このスカポンタンが」
取りつく島もない返事。
だが、陰念は諦めない。
何故なら、彼は永遠のチャレンジャーだからだ。
つまり、永久にチャンピオンになれないってこと。
「なぁ、そう言うなよ。 な? おめぇがどんなに喧嘩に自信があってもよ、俺は秘密結社アシュロスのいちかいじ……」
「失せろっていってんだよ、このボケッ」
女不良の蹴りが炸裂!
それは見事男の急所というべき箇所に突き刺さり、陰念に想像を絶する苦痛を与えることに成功したのだ。
ここでアシュロス怪人の秘密を公開しよう。
アシュロス怪人……三大幹部、幹部、プロフェッサーも含めてだが、全ての者に機密保持のための自爆装置が密かに組み込まれている。
その自爆装置が作動する条件は三つあり、一つは総統であるアシュタロスの持つ操作盤で操作したとき作動。
もう一つは、自爆装置を組み込まれているものに生命を奪いかねないダメージが送られると作動する。
さらにもう一つは、捕虜にされたときなどの自決スイッチを押すとき。
ちなみに自決スイッチというものは……。
「うう……し、死にてぇ……男に生まれてきてごめん、と誰かに……」
……。
推して知るべし。
「ケッ、その程度でよくアタシをナンパしたね。 顔洗って出なおしてきな!」
角を曲がり陰念の前から姿を消す女不良。
次の瞬間、夜空に一つの星が現れたそうな。
だが、大丈夫。
アシュロス悲願達成のときには、復活できる!
本家のコスモプロセッサーのときは勘九朗しか出てこなかったけど、きっとこの世界では蘇られる!
頑張れ、陰念! 負けるな、陰念!
君の犠牲で、アシュロスは1歩前進をした!
と、思いたい!
安らかに眠れ、陰念よ!
悲しみを残したまま、『待て、次回』