美神たち三人が平安から戻ってきて二週間がたった頃、事務所に一人の客が現われた。
美神の目の前に転移してきた彼女は妙神山の管理人小竜姫だった。
「お久しぶりです、美神さん」
「小竜姫? どうしたの」
美神は意外なお客に驚くと共にまた厄介ごとが来たのではないかと勘ぐり、眉をしかめた。
彼女の持ってくる仕事は金にもなるがとてつもなく大変な物ばかりだからだ。
特に仕事でなかった故にお金にもならなかった、この前のような事はこりごりだ。
「はい、実は妙神山に来て欲しいんです。美神さんと横島さんに」
「妙神山に? また事件でもあったの?」
「いえ、実は上からの要請でして。何でもヒャクメと美神さん達の三人に会議に出席してもらう為らしいんです」
小竜姫は何とも言い辛そうな表情を浮かべながら言う。
「それってこの間のメンバーじゃない」
「はい。ヒャクメの報告を受けての会議だと思います」
「ふぅ、私のことだしわかったわ。でも横島君まだ学校行ってるから来ないわよ」
美神は椅子に深く腰掛けながら言った。
「いえ、老師の話では今回の会議にはかなり上の方たちが出席するらしいですから連れて行きます」
「……問答無用って訳ね。じゃ、行きましょう」
小竜姫は途中横島の学校に行き横島を半ば拉致する形でつれ妙神山へと転移した。
そこにはジークとハヌマンがいた。
「美神さん横島さん、お久しぶりです」
「おっジークじゃねぇか。ワルキューレは来てないのか?」
横島はきょろきょろと辺りに目をやる。
「姉上は現在リハビリを兼ねて簡単な任務に着いているから」
「は〜、ずいぶんと酷い怪我してたのに流石だな」
横島の脳裏に紫の血を吐き出すシーンが浮かび上がる。
「そんな事よりヒャクメはどうしたのよ」
「ヒャクメは会議に出席するのを嫌がってるんです。ちょっと待っててください、直ぐ連れて来ますから」
小竜姫はそう言って奥の方へと入っていった。
「何で嫌がってんだ?」
横島はヒャクメを連れにずんずん歩いていった小竜姫の背中を見ながらハヌマンに聞いた。
「うむ、緊張し過ぎておるんじゃ。例えば……うむ、なんといったら良いかの…」
「あのね、横島クン。貴方がアシモト首相と一緒にいろんな国の首脳、偉い人に混じったらどんな気分?」
「げっ!? …そんなん嫌に決まってますよ」
自分がとてつもない場違いなところに居るのはとてつもなく居心地は悪いだろう。
「要はヒャクメはその嫌さ(?)の何百倍を感じとるわけじゃ」
「はは、ご愁傷さまです。僕も絶対嫌ですね」
ジークの同情の瞳の先に、小竜姫に首根っこ掴まれたヒャクメが映った。
「な、なんかそんなん聞くと帰りたく……」
「ダメよ、あんただってあのアシュタロスって奴に命狙われてるのよ。
その対策のための会議でしょうから、あんた行かないで死ぬ方が良いの?」
今更ながら実感が沸いてきた横島を美神は切り捨てる。
「大体ヒャクメも一応神様なのよ、それのちょっとグレードアップしたもんだと思っときなさい」
目の前の、小竜姫に代わって欲しいのね〜と泣いてすがっているヒャクメを見る。
「そ、そうっスね。そう思ったら気楽なもんですね」
ハヌマンもゲーム猿ですしと付け足すが、ハヌマン本人もそれを自覚しているのか文句一つも言われなかった。
もっともヒャクメと同類にされるのはいささか気に入らない事ではあっただろうが。
美神達三人はヒャクメの転移により明るく広い部屋に居た。
そしてそこには二人のとてつもない力を発している神魔が、二十人ほどが着けそうな円状の机についていた。
美神達から見てほぼ正面に二人は座っており、何かを話していた。
「お? 来たな、こっちや!」
正面に居る二人の内左に座っている魔族が美神達三人を手招きする。
(どこがヒャクメのグレードアップっスか!? なんか目から自然に涙が出そうっスよ!!)
(うるさいわね!私だってここまで格の高い神魔なんかと会ったこと無いんだから知らないわよ!)
二人を見た美神達は聞こえ無いよう小声で罵りあう。
「そこに掛けてください。あと五名ほど魔族側から出席者がいるのでもう暫く待っていてください」
小竜姫等とは比べ物にならない程格が高い神族の一人にそう言われ流石の美神もおずおずと席に着く。
ヒャクメに至っては腰を抜かしそうになりながら横島に手伝ってもらい席に着いた。
席に着いて暫くすると、美神達の左前方の空間に光を放つ扉が出現し、そこからつい二週間前に見たばかりの魔神が現われた。
「ふむ、少し遅くなったね」
美神達を一瞥しそう言った奴はアシュタロスであり、さらに彼の後ろから見たことの無い女性三人とメドーサが出てきた。
「なっ!!」
予想もしていなかったその人物に、美神達三人はとっさに立ち上がる。
「やぁヒャクメ、五百年ぶりだね」
アシュタロスはそんな様子を気にも留めず、久しぶりに会った愛しい人ににこやかに挨拶をした。
「な、な、な……!?」
「アシュタロス! それにメドーサまで!?」
美神はとっさに神通棍を取り出そうと体が動いたが、持ってきていなかった事に舌打ちをした。
「どうしてあんた達がこんなところに居るのかしら?」
「ふむ、メフィストも久しいな。何故此処にいるか…という事についてはこの会議を開くよう頼んだのが私だからだ」
「!? じゃあ、メドーサは? あいつは魔族のお尋ね者だったはずでしょう。 本来なら公の場には出られないはずよ」
美神はメドーサのほうをちらりと見て言う。
しかしそれに応えたのはアシュタロスではなかった。
「少し落ち着いてください。その事も全てこれから分かりますから」
キーやんにそう言われ美神も引き下がる。
「それじゃあまず最初に自己紹介しとこうか、まずワイはサッちゃんや。
一応魔族の最高指導者っちゅーヤツやな」
「私のことはキーやんと呼んでください、神族の最高指導者です」
二人の紹介に一番驚いたのが美神だった。かなり上の者が出てくるとは言っていたが、まさか両方のトップとは思ってもいなかった。
ヒャクメはどうだったのかというと、アシュタロスの、この部屋へと入ってきてから一度も反らされていない熱い視線の方に参っていた。
「ではこちらから行こうか、私はアシュタロスだ。そしてこっちが私の娘の…」
アシュタロスは三人の、美神達の見たことの無い魔族へと振り、
「長女のルシオラよ」
「次女のベスパだ」
「三女のパピリオでちゅ」
彼女達は次々に名乗った。
「む、娘!? 似てねぇ!!」
そしてそれに横島が誰より速く反応していた。
彼女達の事はここに入ってきたときから目で追っていた為、あの美人のねーちゃんたちがアレの娘とは信じられなかった。
いや、ただ見ただけならアシュタロスの容姿は整っている為そう思えたかもしれないが、
横島には今の落ち着いているアシュタロスでも、二週間前の嫉妬に狂った怪物が頭に浮かぶからだ。
「彼女達は私の霊片を混ぜて誕生させたのだからな、まあ娘には違いない。
さて最期に私の部下のメドーサだ。まぁ面識はあるからそれ以上必要ないか?」
そして次に美神達が自己紹介をした。
「私はGSの美神令子よ」
「助手の横島忠夫っス」
「神族調査官のヒャクメなのね〜」
美神達のほうはそれで終わった。
指導者とアシュタロスの両者ともあらかじめ知っていたため特に驚くところも何も無い、確認だ。
ただ、アシュタロスの方に居るちびっ子が、横島の方をきらきらした目で見ていたことが不思議だったくらいか。
「それじゃあ始めよか」
サッちゃんがまずそう切り出した。
「え、あの…これだけっスか? 会議って聞いてたからもっと多いのかと」
「ええ、ちょっと聞かれては拙い事も話しますから。
あらかじめ言っておきますが、この会議での事は一応極秘扱いですので」
その言葉に横島は自然に喉を鳴らした。
「そんな緊張せんでええ、まぁ極力誰にも言わんかったらええだけや」
サッちゃんの気休めのような言葉だが、横島には実際そうなったらしいく落ち着いていく。
そして会議が始まった。
「実はな、アシュからワイにある話が持ちかけられたんや」
サッちゃんはアシュタロスの方を向き話し始める。
「自分は宇宙改竄を計画しててそれの準備もほとんど済んどるってな」
「宇宙の改竄?」
横島は彼らの人柄?に慣れてきたのか普通に問い返した。
「そうや、簡単に言うとやな人を殺すのも生き返らせるのも自由自在。
正に何でも出来る力ってやつやな」
「え?でも上級の神族とか同じ事できるんじゃ…」
「いいえ、私達にも出来る事と出来ない事があります。
その際たる物が私達ほどの力を持つと死ぬ事が出来ません」
キーやんの言葉に横島は首を傾げる。
死ねない事…誰もそんな事で悩む事は無いし、横島もそんなこと考えた事も無かったためだ。
「例えばですね、貴方の両親が死に、恋人が死に、息子が死にたった一人になった。しかし貴方は生きている。
そして後を追うことも出来ない」
横島はそれを聞いて眉をしかめる。
「実際はもっと残酷な事だって起こります。けれど死ぬ事が出来ない」
「そう、だから私はそんな全てを手に入れるか、あるいは死ぬ事を望んでいたのだ」
「え、でも死ねないんじゃ」
横島は急にさっきと違う事に戸惑った。
「そう、半端なのでは死ねないのだ。宇宙意思にこの存在は危険だと判断されるまで行かなければいけなかった」
「まぁそれでやな、アシュが何でそんな話をしたかっちゅーと宇宙改竄とか死ぬよりしたいことが出来たそうなんや」
サッちゃんの話にヒャクメが嫌な汗をかく。
「そっちのじょーちゃんもなんとなく見当がついとるように、アシュは神族のヒャクメが欲しい言うてきたんや」
予想道理の言葉に涙を流す。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなのこいつがやろうとしていることを止めれば良いだけじゃない」
「そう簡単にはいかないんですよ。
さっきも言ったように私達はデタントのため死ぬ事が出来ません。
逆に言えばたとえ彼を殺したとしてもそれは一時的なもので、いつか必ず復活するという事です」
「そうじゃなくて、今のこいつの施設とか部下とかを倒したりすれば……」
「いえ、最期まで聞いてください。復活した彼は以前の記憶は当然持ったままなんです」
「仮に今回防ぐ事が出来ても次こそは成功してしまうかもしれん。
部下なら集めよう思えば集まるしな。そんな博打打つくらいならってことや」
つまりは彼らには無限の時間があるため別に今回成功せずともいずれは成してしまうかもしれないという事だった。
「でもそれはヒャクメを生贄にするってことじゃない!」
「しょうがないんや、さっきも言ったようにワイらも全能ゆうわけやあらへん。
宇宙意思すら改竄できる道具を作り出したアシュ、そしてそのアシュがヒャクメに一目惚れし全てを中止しようとしている事。
これはもう偶然じゃ片付けられん、これも宇宙意思っちゅうことやな」
サッちゃんはヒャクメが宇宙意思の逆風として選ばれてしまった、そう言った。
つまりそれはアシュタロスの思いの全てが押し付けられたものかもしれないという事だった。
「確かに私の心がそう仕向けられたものかもしれん!しかし、例えこの愛が作られたものだとしてもヒャクメを手放す事が出来ようか!」
アシュタロスの熱弁に三人娘が手を叩いている。
「あんたねぇ、だからって権力使って女を手に入れようなんて情け無いとは思わないの!?」
「それは人間の理論だな。魔族は欲しいものは力を使って手に入れる。
そして手に入れた後惚れさせれば良い。
私はヒャクメを惚れさせる自信もある!」
アシュタロスはふっと前髪をたなびかす。
「うわぁ、なんかダサッ!」
「何っ! こういうのが流行では無いのか?」
「そんなの二枚目気取りの三枚目役者よ!」
「と、ともかく私にはヒャクメを惚れさせる準備も用意も五百年かけてしてきた。ヒャクメは必ず惚れる!!」
今度はヒャクメに流し目を送っている、ちょっと気持ち悪いかもしれない。
「で、でも私は横島さんと……」
ヒャクメを手に入れようと燃えているアシュタロスを、ヒャクメはこの嘘を貫く事で回避しようとしていた。
しかし、
「その事の対策も既に出来ている。」
そうアシュタロスは胸を張って言った。
「メフィストと横島、私は最初は二人を殺すつもりだったのだ、しかし三百年前あることに気付いたのだ。
もし横島君を殺してしまったら私は嫌われてしまうのではないか!?と」
誰だって恋人、実際は違うが、を殺されれば殺した相手を憎むのは当然といえる。
それに気付くのに二百年も掛かるとは、よほど色ボケをしていたのか。
「ならばどうすればいいかを必死に考え、思いついたのだ!
横島君に女をあてがえば、ヒャクメは私の物だと!!」
アシュタロスはヒートアップしばんっと机を叩く。
「そういうわけでここに居る私の娘三人とおまけにメドーサをつけて君に嫁がせよう。
きみがヒャクメと別れてくれるのなら」
アシュタロスがそういった途端ルシオラたち三人は立ち上がりすっとお辞儀をした。
メドーサは普通にしていたが。
そしてルシオラたちは何故かあまり嫌がっているように見えなかった。
「なっ、なにーーー!!!!!俺にも春が!?…って四人と結婚なんてできねぇ!
くぅーっ、期待させて落とすって罠か!?」
アシュタロスの超魅力的な提示に横島は唇を噛み血の涙を流す。
誰か一人を選ぶという選択は無いのか、それとも単に思いつかないだけか。
「その点は心配要りません。アシュタロスを抑えるためという事で私達が許可します。
人界へも通達を出せば問題は無いでしょう」
そんな横島をキーやんがきちんとフォローをする。
しかし、
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
それまで静観していた美神も流石にこれには声を大にして異議を唱えた。
「メフィストか、何だね?」
「いくらその四人が娘だから部下だからって本人の意思に関係なくなに考えてるのよっ!!」
美神の言葉どうり魔族だからといって恋もすれば愛を育むこともある。
横島がいかに煩悩の塊といえど本人の意思無く送りつけられた彼女達に手を出す事など出来ない。
最も先ほどからルシオラ達三人は何故か嫌がっている様子は見受けられないのだが。
「うう、美人のあんなねーちゃん達が妻……。けど無理やりは……」
それに全く気付いておらず、美神の言葉にこれまでに無いほど苦悩する横島を余所に、アシュタロスは余裕の表情を保ったまま言った。
「ふっ、それなら何の問題も無い。
ルシオラ、お前の日課を話してやれ」
「はい、まず朝起きて横島様の写真におはようのキスをします」
「「は?」」
美神と横島は何を言っているのか把握できず口が開いたまま一瞬呆け、そんな二人に構わずルシオラは話を続けた。
「そして壁一面に横島様の写真が張ってある私達姉妹専用の浴場でシャワーを浴びます。
朝食は常時懐に忍ばせている横島様の写真に感謝の祈りを捧げた後にとり、お昼まで花嫁修業をします。
午後はやはり横島様を守るための格闘訓練や軍事訓練を行います。
朝昼と同じく夕食をとりお風呂に入ったら寝る前に横島様のビデオを見て就寝します」
横島様抱き枕と一緒に寝るんでちゅよとパピリオが付け足す。
「いやいやいやいや、俺の写真なんて何で持ってるんだ!? つーかビデオってなんだよ!!」
横島はいろいろ突っ込みたい中でとりあえず身に覚えの無いものに行った。
「そんなもの私の記憶から取り出しただけの話だ。
そんなにたくさんあったわけではないがね」
アシュタロスの説明に納得しつつもルシオラが言った事については頭が付いていかない横島だが、
そのおかっぱの美女が顔を真っ赤にしこっちをちらちら見ていたり、
隣の先ほどまできりっとしていた気の強そうな美女が、今は自分を見てよだれを垂らしそうな程に、にへら〜と笑っているのを見るとつい飛び掛りたくなってしまう。
「彼女達は既に三百年それを毎日繰り返してきている。正に横島君、君のためだけの彼女達というわけだ」
「い!? 三百年毎日…?」
その途方も無い年月をルシオラの言葉を信じるなら、そんなことしてきた事など横島には想像もつかない。
そして一つの疑問も出てきた。
「えっと、そこのパピリオって女の子もそんなに生きてるのか?」
そうであればもはやパピリオには成長が見込めない、つまりはずっと自分の守備範囲外という事である。
「うむ、この三人は皆同じ日に生まれている」
成長したら美人になりそうなのに勿体ねー!などと思っていたのがアシュタロスにも通じたのかさらに続け、
「実は君の好みの女性というものがわからなかったのでね、パピリオには成長抑制の術がかけてあるのだよ。
もしかすると君にそっち方面の趣味があるかもしれないからな」
などと時事ネタとしてシャレにならない事を口走った。
「そんな趣味ないわーー!!俺はムチムチプリンとしたねーちゃんが好きじゃあぁああ!!」
「それなら術を解除すればあっという間に成長するから問題は無いな」
横島の疑問はあっという間に解決してしまい、四人の妻を迎えることに何の問題も無いよう感じてきていた。
ただヒャクメをそんなに嫌がるところへ渡すのが少し心に引っかかったが、
投げキッスにアシュタロスのと違い艶のある流し目をしてくる彼女達にあっという間に傾いていった。
そんな中、美神が再び噛み付いた。
「待ちなさい! そんな簡単に騙されないわよ。
だってよく考えてみなさい、アシュタロスの記憶にある横島クンはヒャクメのことで問い詰められて怯えてたのよ!
そんな情け無い男を見てどうやって惚れるのよ!」
確かに平安で会った時には横島はアシュタロスに殺気を当てられちびりそうになっていた。
そんなヤツにほれるなんてありえないとばかりに捲くし立てるが、やはりアシュタロスの余裕の笑みは絶えることが無い。
それに嫌な予感を覚えながらもアシュタロスの返答を待つ。
「ベスパ、あのビデオを見てどう思っていた?」
「泣きそうな顔がかわいくって、私の胸の中でなでてあげたかった……ってもう!何言わせるんですか!!」
いやんいやんとアシュタロスをばしばし叩くベスパ。
「なっ!?」
ベスパの予想外の回答に流石の美神もあいた口が塞がらない。
「私はあの映像をもって母性本能を刺激させたのだよ」
アシュタロスは簡単に言うが、なかなか出来るものでは無いだろう。
そもそも会ったことの無い写真だけの人物に傾倒させるなど並大抵の事ではない、というか普通の手段では不可能だ。
美神はこのままじゃダメだと起死回生を願ってメドーサのほうへ向いた。
「じゃ、じゃあメドーサはどうなのよ!」
「私かい? まぁ確かに私はボウヤを好きだってわけじゃないが、今のままじゃあ逮捕されて処刑されるのがおちだからね。
その男の妻をやってみるのも悪くは無いだろうさ」
メドーサの言い分だと確かに彼女は横島を好きなわけではない。
だからといってそれが何なのだろうか。
世の中にはお金のために偽装結婚をする人間だって居る。
メドーサは今回の事の条件として、今後一切の悪事を働かない事を約束すれば、過去の記録の全てを抹消してもらえる事になっている。
横島の妻になれば死を免れるというのであればそれをとめることなど出来ない。
それは神族と交わすされた正当な取引なのだから。
さすがの美神もメドーサにそんなことせずに死んでしまえ!とは言えずがっくりと肩を落とす。
そしてそれは嫉妬によるものか、それともヒャクメに対するものなのか。
「それでどうするのかね?」
アシュタロスの言葉に横島はルシオラ達四人とヒャクメを交互に見る。
巨乳からスレンダー、果てはちびっ子(?)まで居る彼女達と、目に涙を浮かべ三割り増しでかわいさを増しているヒャクメ。
前者には若干変なのが居るが横島に選択の余地は無かった。
「これからよろしくお願いします、お義父様!!」
横島はアシュタロスに深々と頭を下げた。
「うむ、これから娘を頼むぞ。息子よ」
横島撃沈。
次にアシュタロスはあごに手を置き美神を見る。
「な、何よ…!」
「さっきも言ったようにお前は本当なら殺すつもりだった。しかしメドーサの報告を聞いて違った方針をとることにした」
そう言うとアシュタロスは指をぱちんと弾く。
するとアシュタロスが入ってきたときの様に扉が現われそこからハニワがどやどやと入ってきた。
それらはアシュタロスのそばを通り過ぎ美神の前に止まると大きな箱を下ろしそのまま元来た道を戻っていった。
「開けてみたまえ」
美神は警戒しながらそれを開けるとそこにはとてつもない財宝類が所狭しと詰まっていた。
特に魔界でしか採れないような物までありその価値は想像を絶するものだろう。
「こ…、これは!」
「欲しかったらやるぞ、私はあまり興味が無いのでな」
事実アシュタロスはそういったものに全く興味を示さなかった。
そんなものを集める暇があるなら研究のひとつでもしていた方が良かったからだ。
しかし、アシュタロスは魔族でも屈指の力を持っている。
そんな彼には望むことなくともこういった財宝などが自然と集まってくるのだ。
「わ、私はGSよ。こ…こんな取引には応じないわ……!!」
美神は毅然とした態度でそう言うが目は財宝を捉えて放さない。
「よく考えろメフィスト、この話はある意味神族からの依頼ととれる」
「え?」
「私とヒャクメをくっつける事、それはひいてはハルマゲドンを回避するという事につながるのだ」
GSとして人界を守る為に尽力をつくすことが大事では無いのか?というアシュタロスの言う事はある意味正論でもある。
ヒャクメを差し出してしまおうという事に既に神族は認めているのだから。
つまりこれらの財宝はアシュタロスからの賄賂ではなく、神族からの正当な報酬として受け取れるのだ。
そして美神の出した結論もやはり
「ヒャクメ、結婚おめでとう」
こういうものだった。
美神撃沈。
既に自分の味方が誰一人居なくなったこの状況でも何とかしようと異議を申し立てようとした。
しかし、時既に遅く
「ちょ「よっしゃ、それじゃあよこっちとアシュの婚約に乾杯でもしよか」」
サッちゃんがそう言うと机の上にお酒の入ったグラスが現われた。
ルシオラたち四人はそれを取ると横島の隣につついと近寄り、アシュタロスもいつの間にかヒャクメの隣に立っていた。
「だから「それでは彼らの前途を祝して乾杯!」」
「「「「「「「「乾〜杯〜〜〜〜!!!!」」」」」」」」
「納得いかないのね〜〜〜〜!!!!!」
ヒャクメの声は誰の耳にも入る事は無かった。
めでたしめでたし♪
あとがき
愛はロジックじゃ無いですよね、千手必勝です。
めったに無いカップリングを探していてたどり着いたのがアシュとヒャクメでした。
まぁヒャクメが玉の輿乗った、めでたしめでたし?といったものが書きたかっただけです。
ヒャクメは不幸が良く似合うこと、似合う事。まぁ宇宙意思を恨んでくださいって感じです。
そして何気にというかどう見ても横島が一番ラッキーな感じですか。
アシュによる洗脳…もとい教育のおかげで横島至上主義な三姉妹はずっとこのままでしょう。
もしかしたらこの後
アシュ「メフィスト、お前も私の娘として横島君の下へ行くのだ」
美神 「何を馬鹿なこと言ってんのよ! で、でも私はプロのGSとしてデタントを守らないといけないのよ!
もし私が行かなかったらマズイし…、しょ、しょうがないわね(真っ赤)。
私はあんたが馬鹿なことをしないように仕方ないのよ!!!」
アシュ「うむ、お前は自らを犠牲にし人質となる事で(魂の)父親である私を押さえつけ平和を守るのだ………という事でいいのだな」
美神 「//////」
という事があるかも知れないです。
そうなると四姉妹丼か。
あ、そういえば一つ気になった事があるんですが、「サッちゃん」って単語コミックに出てきてますかね?
ところどころ持って無い巻があるんでそのどこかにあるのかなと思ってたんです。
「キーやん」「ぶっちゃん」「アッちゃん」等は出てきてましたが「サッちゃん」は見かけたかったもので。
ちょっと気になったんで教えてもらえるとありがたいです。
さて、次の話は…プロットは出来てたんですが、一部分某所に投稿された小説とネタがかぶった為練り直しをしないといけないんで結構掛かるかも知れません。
いや、今回長すぎて疲れたんでもっと伸びるかも……。
それでは〜。