インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「新世界極楽大作戦!!(GS+エヴァ+α)」

おびわん (2005-01-10 18:03)


「・・・だからもう泣くな。碇シンジ・・・。」

 


トクンッ


己を抱く、力強く暖かな温もりに、シンジのココロが薄っすらと目を覚ます。
懐かしい人々の声。自分を、『碇シンジ』を呼ぶ沢山の声。

その声に誘われた『碇シンジ』の自我は、甘き闇の深遠より実に数億年ぶりに浮上した。

シンジを抱き締める横島の背に、おずおずと、まるで見知らぬ者から餌を与えられた捨て猫のように、少年の白く細い手がまわされる。 横島の胸に顔を埋めたまま、シンジの唇が小さく声を紡いだ。

「・・・ボクは、ボクが嫌いです。」

今なお大罪の意識に囚われる、彼の魂の告白。

「・・・ずるくて、臆病で・・・。大事な事から何時も逃げ出して・・・。そのせいでトウジやカヲル君・・・、アスカまで死なせて・・・、さ、さ、最後は、・・・み、皆、皆ぁっ!!」

再び赤い光に包まれようとするシンジの体を、横島は新ためて抱き直した。

「いいっ! もういいっ!! シンジッ、誰もおまえを恨んじゃいねぇっ。憎んでもいねぇよっ!!」

「でもっ、でもぉっ!!」

ここで初めて、シンジは横島へその顔を向けた。

紫銀の髪。少女の様な顔立ち。そして綾波レイの物よりも鮮やかな、
赤い・・・瞳。

だがその美しい瞳も、今は溢れ出る涙で揺れていた。

「・・・誰かから想われる資格なんて、・・・ボクにはありません。」

「人に想われるのに、資格なんぞいらねぇよ。」

シンジの肩越しに横島は囁いた。

「俺や小竜姫様は何の打算や考えもなく、ただ単におまえを助けたかったからここまで来たんだぜ?」

「・・・・・。」

それによ。と、横島はシンジを離し、後ろを振り向いた。

そこには心配顔の小竜姫と、流れる涙を止めようともせずにシンジを見つめる・・・綾波レイ。

「・・・い、碇君。」

「綾・・・波。」

交わる視線。数億年ぶりの再会に、二人は何を思うのだろうか。

「・・・よかった。・・・よかった。碇君が・・・、起きた・・・。」

初めて見た、彼女の泣き顔。
それは涙と鼻水でグチャグチャだったが、シンジにはとても綺麗に感じられた。

横島から離れたシンジは、綾波レイの傍に歩み寄った。
そのまま先程迄の自分がされていた様に彼女を抱き締める。

「・・・ヒッ、ヒック。・・・碇君。」

「・・・・・ごめん。」

過去に口にした空っぽのそれではなく、彼女への万感の想いを込めた「ごめん」。

「綾波・・・。ずっと、ずっとここで待っていてくれていたの?」

「・・・ええ。アスカが消えて、碇君の心は壊れそうになって、・・・私達はそれを防ぐために碇君の中に入ったの。」

「傍に、居てくれてたんだ・・・。」

「・・・私は碇君を守る。そう決めたから。私も、アスカも、フィフスも。」

「そんな・・・。」

シンジを守る。その意思の元に彼女達は数億年の間、自分の傍らに居てくれたのか。

その想いは、シンジの中の何かを変えた。

「・・・ねえ、綾波。ボクは・・・、まだ生きていてもいいのかな・・・。幸せになっても・・・いいのかな。」

シンジの小さな呟きは、この場にいる全ての者の耳に届いた。

「・・・碇君がそう願うのなら。」

「当たり前です! 人には、幸せになる権利と幸せにならなければいけない義務がありますっ!!」

綾波レイと小竜姫が答える。

「・・・ボクはまだ、誰かに想われてもいいのかな・・・。」

「当然だよ、シンジ君。僕のキミへの想いは不変、エターナルってことさ。」

「ったりめーだ。レイちゃん達の事、信じられねーのか?」

渚カヲルと横島が答える。

シンジは無言のまま綾波レイから惣流・アスカ・ラングレーへと向き直った。
初めて空母の上で出会ったあの時の姿で、彼女はシンジを見つめていた。

久方ぶりの再会に、シンジの胸に去就する複雑な思い。
彼女に対する言葉に出来ない無数の感情。

「・・・アスカ。ボ・・・ボクは、ボクは。」

「ストーップ、何も言わなくていいわよシンジ。」

シンジの言葉を手で制し、遮るアスカ。

「・・・あのさ、アタシ達アンタの中にいたのよ。アンタが寝てる数億年間ずっとね。それでアンタのアタシ達への想いを知ったわけ。肉体の無い魂だけのアタシ達には、アンタの想いがダイレクトに伝わるのよ。」

それこそ言葉よりもずっとね。と、アスカは仄かに顔を赤らめる。
彼女はシンジへ近づくと、そっと彼を抱きしめた。

その彼女の向こうでは、どこから出したのだろうか、えびちゅビールを飲みながらニヤニヤする葛城ミサトと、童顔の女性とメガネの少年の二人を助手に従えて、カメラのシャッターを切りまくる赤木リツコがいた。

「だから、さ。もういいのよシンジ。もう後悔なんてしなくていい。泣き続けなくていい。」

「・・・アスカ。」

シンジを見つめたまま、アスカは太陽の様な笑顔を見せた。

「・・・ね。笑いなさいよ、バカシンジ。アタシの好きな、あの笑顔でさ。」

彼女の言葉のままにシンジは微笑もうとするが、零れそうになる涙を堪えて顔を歪めてしまった。

そのまま顔を俯かせ彼は右手を握ったり開いたりしていたが、やがて何かを掴めたかの様にグッと拳を握ると顔を上げた。

「・・・ボクは、ボクが嫌い・・・でした。でも、・・・好きに・・・なれるかもしれない。」

ピシッ!

シンジの負の心、赤い世界に小さく歪が出来る。

「・・・自分を、・・・皆を、・・・・・好きになってもいいのかもしれない。」

ピシリッ!

「誰かに、好きになってもらっても良いのかもしれない・・・。」

ビシッ ビシビシビシッ!

歪はヒビとなり、この赤い世界に広がってゆく。

「・・・また何かを裏切り、誰かを傷付けてしまうかもしれない。」

「・・・でも、もう後ろを向くのはいやだから。」 

「・・・また皆に、アスカや綾波、カヲル君たちに会いたいから・・・。」 

「・・・その気持ちは、本当だと思うから。」

「・・・だから。」

無数のヒビに覆われた赤い世界は、既にその形を失いつつあった。

「だからボクは・・・、ボクのままで生きていきたいっ!」

パリンッ パリパリンッ!!

「ボクはここで生きていいんだっ!!」

ッパリィィィィーーーーーンッ!!!

自己の肯定。少年の傷は少女達の言葉に癒され、赤い世界はガラスの様に砕け散って消滅した。
その向こうには雲ひとつ無い美しく澄んだ青空。そこにシンジ達はまるで天空に浮かんでいるかのように立っている。


ルウウゥオォオォオォォォォォォォォーーーーンンンッ!!!


響き渡る喜びの歌。
主の復活を祝福するように、紫の悪魔が天へ向けて咆哮した。


              新世界極楽大作戦!!

                  第四話

                                        


「おめでとシンちゃん。」

「おめでとうシンジ君。」

「おめでとう、そして・・・おかえり。」

シンジへ祝福の言葉を送り、姉やその親友、兄やクラスメート達は消えていく。
自分は彼らと一緒には行けない。おぼろげながらもシンジはそう感じた。

しかし、これは永遠の別離ではないとシンジは思いたかった。
いつかどこかでまた会えると、そう思いたかった。

「シンジ、・・・幸せになってね。」

「母さん。」

暖かい母の抱擁。
憶えている筈もないのに、どこか懐かしい感触がした。

母の肩越しに見える父はやっぱり偉そうに突っ立っていて、老人に怒られている。

暫しの抱擁の後、甘い匂いと温もりを残して母は離れた。 
シンジを頼みます。と母は横島達に頭を下げ、問題ないと口を歪める父の髭を引っ掴んで消えていく。

最後までシンジと父の間に会話は無かったが、二人の顔には確かに同じ笑みが浮かんでいた。

「ではシンジ君、僕も一足先に行くとするよ。名残惜しいけどね。未練ってことさ。」

「カヲル君、一緒には居られないんだね。・・・寂しいよ。」

シンジは目に涙を浮かべ、カヲルの手を取った。

「・・・シンジ君、寂しがる事なんてないさ。これは再会のための別れなんだよ。
いつか僕は、シ者カヲルではなくリリン・カヲルとしてシンジ君と会いたいからね。」

「でも、ボクはカヲル君に迷惑ばかり掛けて・・・、カヲル君には何もして上げられなかった。」

細い眉をハの字に歪め俯いてしまうシンジ。カヲルはクスリと笑うと彼を抱き寄せ、その耳元へ唇を寄せ囁いた。

「(フフ、やっぱり君は口為に値するよ。)なら僕の事を忘れないよう・・・キスをしてくれないかい?」

「えっ・・・ええっ!?」

カヲルのいきなりのお願いに、シンジは顔を赤く染めて驚いてしまう。


驚いてしまう・・・が。


「え、と。・・・キス、して欲しいの?」

別段嫌では無いようだ。

モジモジと上目遣いで恥ずかしそうに呟くシンジに脳をやられたのか、カヲルは物凄い勢いで首を振って肯定した。

「ウンウンウンッ! シテ欲しいさシンジ君っ、その真珠の様な愛らしい唇で僕にベェゼをプリィズッ!!」

「う、うん。・・・じゃ、恥ずかしいから目、閉じて?」

パトスとリビドーと、その他諸々を迸らせるカヲルのタコの様に伸ばした唇へと、瞳を閉じたシンジはゆっくりと顔を寄せていく。

(なんか、自分を見てる様やなぁ〜。)

体の傷を文珠で癒しながら横島は苦笑する。もっともあのカヲルという少年程、自分は整った顔をしてはいないが。

アレぐらい顔が良ければ、自分もモテたのだろうか?

しかしどうやらあの渚という少年。シンジにしか興味は無い様で、横島はその点では安心は出来た。
○モなら俺の敵じゃない。ホ○ならな。(残念。彼はバイである。)

そんな事を考える横島の隣に、不意に強大な殺気が二つ現れた。

驚いてそちらに眼を向ける横島。

美少年同士の妖しい雰囲気に赤面し、あわてて顔を両手で覆ったものの、
やはり気になるのか指の隙間から確りと両目で覗いている小竜姫の向こうに、


赤鬼と青鬼がいた。


(ふひゃぁぁぁぁっ!?)

圧倒的としかいい様の無いその圧力。巨大! まさに巨大!
斉天大聖の弟子であり、単純な戦闘力だけならば二年前とは比べ物にならない程に成長した横島だが、
この二人の凄まじい殺気の前ではただ震えるしかなかった。

「黙って見てりゃあのナルシスホモォ、いい気になってぇ!!」

「・・・目標を確認。・・・殲滅します。」

ガタガタと雨に濡れる子犬の様に震える横島を置いて、二匹の鬼は風を撒いて敵に向かっていった。
アスカは両手に巨大な戦斧を持ち、綾波レイは攻性ATフィールドを展開している。

「おおりゃぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・貴方は死ぬわ。私が殺すもの。」

ドカバキグチャメキャグシャボコボコボコボコボコボコボコボコボコッ!!!

「ぶべらっ! はべらっ! たわばっ!」

「や、やめてよ、やめてよっ! アスカっ、綾波っ! ・・・あああ、カヲルくぅ〜ん!!」

眼前で繰り広げられる凄惨な光景に、横島は少女二人に対して先程から感じていた不思議な概視感の正体に思い至った。

(ああ、あの二人美神さんに似とるんやぁ〜。特にアスカちゃんっ!)

返り血に塗れ、阿修羅の様に笑う上司を思い浮かべて青い顔で納得する横島。
血の宴は続く。

「お、お止めなさいっ! 四人ともっ!!」

予想もしなかった展開に着いていけずにオロオロしていた小竜姫だったが、
いい加減頭にきたのかとうとう神剣を抜いて怒鳴り声を上げた。

「これ以上続けるのなら、この私が相手ですっ!!」

小竜姫の雷鳴の様な声に、ぴたり、と騒乱が治まった。

半泣きのシンジと、無表情だがどこかたじろいだ感のするレイ。アスカですら少し青い顔をしている。
三人は即座にごめんなさい。と声を揃えて頭を下げた。ちなみにカヲルはいまだに血の海に沈んだままだ。

使徒であった彼も、流石に即復活出来る様な軽いダメージでは無かったらしい。

「と・・・とにかくアタシもレイも、癪だけどついでにコレも、別にアンタと会えなくなるワケじゃないんだしさ、寂しがる事なんて全然ないわよバカシンジ。」

自分達以上に恐ろしい、小竜姫の殺気を誤魔化すようにアスカが言った。
彼女に会わせる様にレイも急いでコクコクと頷く。

「でも、今度いつ会えるか・・・解からないじゃないか。」

そう言って顔を曇らせるシンジへアスカは歩み寄り、両手で彼の頬を挟み込んでそのままコツン、と額を合わせた。
数センチ先にアスカの美しい青い瞳。思いがけない彼女の行動に、シンジは目を白黒とさせる。

「ア、アスカ?」

「大丈夫よバカシンジ・・・。すぐにアタシから会いに来たげるわよ。」

彼女が喋るたびにシンジに掛かる吐息。
アスカの青い瞳を通して変わり果てた自分の姿が見える。しかしそんな物はどうでも良かった。
今大切なのは額に感じる彼女の温度。

仄かな甘い匂い。

「え? アスカ、それってどういう・・・。」

「・・・あのサードインパクトの時、アタシは一度LCLに溶けたの。」

忌まわしい記憶。自分が自分で無くなり、他人が心に侵入してくる。

他人の心で自分の隙間を補う魂の補完。共有される心。記憶も思い出も、そしてシンジへの淡い想いさえも。

それはアスカにとって最も忌み嫌うべき事だった。

「アタシがアタシとして生きていけなくなるのなら、補完なんていらない。だから拒絶したの、全部。」

アスカならそうするだろう。シンジはそう思う。
いくら他人と魂のレベルで分かり合えたとしても、あんな形でなんて間違っている。

インパクト後の、自分しかいないあの世界。あれでは死んでいるのと大差無いではないか。

絶対の孤独。二度と経験したくは無かった。

「それでね、アンタや微かに残ってたママの力を借りて、無理矢理ATフィールドを張る事でアタシの存在は再構成されたんだけど、やっぱり人の身でインパクトの力に対抗するのには無理があったみたい。すぐにまたLCLに溶けちゃった。」

気持ち悪い。そう言い残して溶けたアスカ。あの時既に体の崩壊が始まっていたようだ。

「で、またあの海に呑み込まれそうになったアタシを、そこのレイが助けてくれたのよ。」

「・・・・・ええ。貴方は碇君が選んだイヴだから。」

羨ましげな視線でアスカを見つめながら肯定する綾波レイ。

「イヴ?」

聞き覚えの無い単語に疑問の声を上げるシンジ。傍で見ている横島も、ナンデスカソレハと眼で訴えている。

「イヴ・・・。聖書世界における、最初の『妻』ですね。」

気を利かせた小竜姫が代わりに問うた。

「そう・・・、でもアスカの場合は碇君のパートナー、半身としてのイブ。
アダムとリリスに祝福されし、ヒトの神化の最終形態。・・・女神イブ。それが今のアスカ。」

「その力なら世界を越えてシンジに会いに来れるのよ。でもまぁ、まだ成り立てで力は碌に操れないんだけどね。」

神様だろうが人間だろうが、どっちにしろアタシはアタシ、天才・惣流アスカラングレー様よっ。そう言ってアスカは笑う。
太陽の輝き。シンジはまた彼女の笑顔を見ることが出来てとても嬉しかった。

「・・・だから今は少しだけお別れ。」

スッと額の接点が消失する。

「アスカ・・・。」

「だからそんな顔しないのっ。・・・ちょっと横島っ!」

シンジに対する物とは打って変わった態度で横島を指差すアスカ。
横島は一瞬ビクッと体を震わせたが、殴られるわけではないと悟り安心する。

どうも美神タイプの人間には弱いらしい。悪い意味で。

「お、俺ッスか?」

「そうアンタ。アンタに頼むわ。」

これ以上無いほど偉そうなアスカだが、横島はそれを指摘する蛮勇などは欠片も持合わせてはいなかった。
ここで不幸なまま人生を終えるつもりなど無いからだ。

「な、何スか?」

「・・・・・シンジを、頼むわね。」

高圧的な態度から一転、しおらしい声で横島に頼むアスカ。 
そのギャップに少々戸惑った横島だが、ここまで関わっておいて断るつもりもない。
素直に引き受ける。

「わかった。シンジの事は任せろ。」

「私も竜神の血とこの神剣に賭けて、彼を護ります。」

彼に続いて小竜姫も誓いを立てた。

横島達の答えに満足したのか、アスカはニッコリと少女らしい笑みで微笑んだ。
これが彼女本来の表情なんだろうな。横島にはそう思えた。

「じゃ、行くわね。」

「・・・うん。またね、アスカ。」

「またね、シンジ。」 

微笑んでウインク一つ、颯爽と身を翻すアスカ。
今だ復活しないままのカヲルの首根っこを引っ掴んで消えようとするが、急にその手を離してシンジへ駆け戻って来た。

「ア、アスカ・・・うぐぅっ!?」

驚くシンジを無視し、アスカはそのまま彼の唇に自分のそれを重ねる。

「んまっ!?」

「・・・・・(ムカッ)。」

「憎しみで人が殺せたら・・・。」

アスカの突然の行動に、三者三様に驚く横島達。因みに上から小竜姫、綾波レイ、横島である。

石と化している彼らの目の前で、アスカの口撃は続いている。

「うむぅっ! ・・・ア、アスぅ、ふぅんっ・・・ンッ!」

くちゅっ・・・ぴちゃっ

「・・・んふっ。駄〜目シンジ、もっと舌出して。」

るろろろっ チュバッ!

重なり合った二人の口の間に、ピンク色をした二枚の肉が絡み合っているのが見える。
一方的に、アスカの舌がシンジの口内を蹂躪しているようだが。

暫くの間、二人は辺りにクチャクチャと水音を響かせていたが、漸く満足したのかゆっくりとアスカが離れる。
二人の唇に架かる唾液の橋が、キラリと光りながら崩れていった。

「ご馳走様、シンジ。じゃ今度こそ行くわね。」

アスカがそう声を掛けるが、シンジは耳まで真っ赤にした顔で目の焦点すら合ってなく、彼女の声にも気付かない様だ。

揺らり揺らりと頼りなげに立つシンジを残し、アスカはカヲルの首を掴んで消えていった。

その寸前の彼女は、『負けないわよ、レイ。』と挑戦的な視線を綾波レイに向けて放っていた。

「・・・私こそ、アスカ。」

静かな口調で瞳に冷たい決意の炎を燃やす綾波レイ。
その視線はシンジの唇に注がれていた。

「強烈な女の子やったなぁ〜。なぁシンジ。・・・おいシンジ?」   

漸く心の暗黒面から精神を帰還させた横島がシンジへ話し掛けるが、彼はまだディープキスの余韻に浸っていた。
いくら永遠に近い時間を生きている彼だとしても、その心はまだ中学生レベルなのだ。仕方はないだろう。

しかしシンジのディープキス経験は、一回目も二回目も不意打ちで襲われる様にされたのには何か意味が在るのだろうか?

「シンジ。・・・シンジッ!!」

「・・・・・ポッヘェ〜。」

呼べど叫べどシンジに反応は無い。横島は頭を振った。


 「・・・駄目だこりゃ。」 


 


「じゃあ俺達が飛ばされたのは単純に過去の世界じゃなく、全く新しい別の世界って事か?」

暫くして漸くシンジが現世回帰してきた後、一人残った綾波レイが横島達に状況の説明をしていた。
彼女が言うには、これは自分も想像していなかった完全なイレギュラーだという。

「・・・ええ。元々私達は貴方達が居た世界に少しだけ綻びをかけ、・・・そこから横島さんを私達の元へ召喚して、事が終わればそこから再び帰ってもらうつもりだった。」

元々話す事は苦手なのだろう。綾波レイはポツリポツリと呟くように話す。

(・・・アスカ。これが面倒だから先に行ったのね。・・・ずるい。)

「しかしそうはいかなかった訳ですね。」

その小竜姫の言葉に、綾波レイは下唇を尖らせた。

「・・・貴方のせい。」

「わ、私のせいですかっ!?」

まさか自分がその原因だとは思わなかった小竜姫が驚く。

「なんで小竜姫様なんだ?」

「・・・私達は横島さんだけを呼ぶつもりだった。・・・それに合わせた大きさの綻びだった。
でもそこにいきなり飛び込んできた小竜姫さんの運動エネルギーと、横島さんを想う気持ちが変じた精神エネルギー。」

想定外だったわ。と言う綾波レイの言葉に、顔を青くしたり赤くしたりと忙しい小竜姫。

「ではそのせいで私達は平行世界に飛ばされたという事ですか・・・。」

「・・・元の世界の俺達は消えたか、最初から居なかった事になってんのか?」

横島がふと思いついた疑問を放つ。
だが綾波レイはそれを否定した。

「・・・いいえ。あの時点で可能性未来はいくつも分かれたわ。貴方の居た世界は、『召喚されなかった未来』と融合し、続いている。」

「ならここにいる俺達は・・・?」

「・・・『この世界の』貴方達。そういう事になるわ。」

元の世界から飛ばされ縁が切れてしまった以上、この世界に生きるしかないらしい。

場を包む重い沈黙。

「・・・すみません、ボクのせいでこんな事に・・・。」

そう言って項垂れるシンジ。
だがその頭にポンと置かれた、暖かく大きな手。顔を上げたシンジに、横島は笑い掛けた。

「ンな事ぐれぇで謝んなよシンジ。人間、生きて行こうと思えば、どこだって天国になるさ。」

「横島さん・・・。」

やっぱり涙ぐんでしまうシンジ。横島は苦笑と共にその髪を撫ぜ回した。

「・・・でも横島さん、気を付けて・・・。今の世界は貴方達が居た所とは、似ている様で全く違うわ・・・。」

「単純な過去の繰り返しではない、という事ですね。」

「・・・小竜姫さんの言う通りよ。貴方達の経験は、あまり役に立たない。・・・その事を忘れないで。
・・・そして碇君。今の貴方は、貴方自身が掛けた封印のせいで、神たる力は殆ど使えない。」

「封印?」

その様な覚えの無いシンジには、全く意味がわからない。

「そう・・・。世界を渡る前、この世界が消滅しない様に無意識に掛けた複数の封印。」

「複数って、数が多いのか?」

横島の問いに頷く綾波レイ。

「その数666。」

「「多っ!!」」

余りの数の多さに眩暈を起こす横島達。

「そ、そんなの多すぎるよ。・・・それ全部解かなきゃいけないの?」

「全部はダメ。世界が消し飛んでしまう。・・・一つ解く毎に力が上がっていくから、何処まで解くかは碇君が決めて。」

不安そうにするシンジ。あなたの体内に爆弾が在りますと告白された気分だ。

「大丈夫・・・。貴方は一人じゃないわ。・・・そうでしょう?」

そう言われたシンジが横島達に視線を向ける。

それに頷きを持って返す横島と小竜姫。

「そう、だね。そうだよね。」

「ええ・・・。だから自信を持って生きて。碇君。」

そう述べた綾波レイの体が、ゆっくりとぼやけ始める。
彼女のその姿に、シンジは別れの時が来た事を悟った。

「やっぱり綾波も・・・行っちゃうんだね。」

「・・・ええ。そろそろ私も行くわ。でも碇君、私の心は、いつも貴方の傍に居るから。」

ますます薄くなっていく綾波レイの体。
彼女はシンジの手を取ると、その胸に抱いた。それが彼女の精一杯なのだろう。

「・・・憶えておいて。碇君が望めば、私は世界も、時も越え、何時でも何処に居ても、貴方の元へ飛んでくるわ。」

「また、会えるよね。」

シンジの言葉に、綾波レイは薄っすらと、しかし確かな微笑を浮かべた。
愛しい少年にのみ向ける、彼だけへの笑顔。

「・・・会いに来るわ。・・・永遠と刹那が交わる場所、あらゆる時空間の交差点、究極の中心『クロスホエン』から・・・。」

最後に、綾波レイは横島達に向き直ると、シンジの今後を託し頭を下げた。

「レイちゃんも元気でな。また会おうぜっ。」

「何時でも歓迎します、綾波さん。」

綾波レイは嬉しそうに頷くと、ゆっくりと中空へ浮かび上がった。

「またね。綾波。」

「・・・またね。碇君。」

そう微笑を残し、綾波レイは消えた。

「んじゃそろそろ、俺らも戻りますかねっ」

静寂感を振り払うように、おどけた調子で横島が言う。

「そうですね。」

「はい。」

同意するシンジと小竜姫。

霞がかった様に薄らいでゆく横島達三人。
後に残ったのはエヴァンゲリオン初号機のみだった。

と、彼(彼女?)の前に不意に現れた白い光。
それは暫くの間、何かを探しているかのように辺りを飛び回っていたが、やがて諦めたのか初号機の前に帰ってくると、
そのまま初号機と融合し始めた。

グルゥゥ

少しだけ声をあげる初号機。

変化はそれだけだった。


少年はゆっくりと目を開く。

写るのはどこかの和風の一室。

身を上げる前に確認する。久方振りに行使する五感。

目に映る和室の風景。朝。光。

耳に聞こえる、微かな音。朝餉の支度。

舌に感じる味。空気。

鼻腔に香る。畳の匂い。

「・・・還って、来たんだな。」

少年、碇シンジの第一声は、万感の想いが込められた、極普通の言葉だった。

立ち上がり縁側へと続く障子を開く。
そこに、彼が立っていた。

朝の光を浴び、庭を見つめる彼。

痩せぎすだが、みっしりとした存在感を放つその背中。
そして長い指をそろえた大きな手。

それが自分を救ってくれたのだ。

「・・・もう、いいんだな。」

振り向かないままに発せられた、彼の静かな問い。

「はい・・・。ボクはもう、ボクを否定しません。」

やはり静かに、だが揺ぎ無い想いを込めて、シンジは返す。

ボクを愛してくれた沢山の人達の為に。・・・そして何よりもこれからのボクのために。

シンジの答えに満足したのか、満面の笑みで彼、横島忠夫は振り向いた。

「・・・おかえり。シンジ。」

その笑みに、シンジも実に美しい笑顔で答えた。

現世に帰還した、十四歳の心を持つ異界神。
彼との出会いは、横島にどのような運命をもたらすのだろうか。


「・・・ただいまっ!」


  


あとがき

どうも皆様、おびわんです。

・・・なぜこんなにも長くなってしまったのだろう?
第一話の倍の容量がありますよ。この第四話。

ついにシンジの世界編が終了しました。
次回からは本編に入ります。


レス返しです。


>命 光一様

私もアスカ派です。
が、エヴァのヒロインはミサトさんだとも思っています。

>柳野雫様

今回の横島はどうでしたでしょうか?
彼の兄貴っぷりも書けて行ければいいなと思っています。

>極楽鳥様

毎度のレス、有難うございます。
GS世界においてのシンジ君の立場って、書くの苦労しそうですよねぇ。
大変だ。

>九尾様

あの記憶見せの部分は結構苦労しました。
臨場感が出ていれば幸いです。

ゲンちゃんは私も大好きです。

>MAGIふぁ様

キースはですねぇ。居たり居なかったり、居た筈なのに「あ、やっぱ無しで。」
と居なかったことになってたり・・・。

もしかすると本編登場も・・・?

>Dan様

ホントですねぇ。
目つきの悪い、黒ずくめの男は何を思うのでしょうか?

ではまた次回も宜しくお願いしますね。


△記事頭

▲記事頭

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル